シノダ
ひとつうかがっていいでしょうか。
今日、はじめのほうで三瓶社長が、
「うちの会社は『自ら』を大事にしています」と
おっしゃられたのですが、
入ったばかりの新人の方が
「自ら」で動けるようになっていくのって、
簡単なことではないと思うんです。

フットマークさんで脈々と
自分で行動できる社員の方が育っていくのって、
どうやって成り立っているのでしょうか。
三瓶 ああ、どうなんでしょうね。
いや‥‥できているのかな。
そういった、みんなが成長できる機会をつくるのが
自分の仕事とは思っているんですけど。
磯辺 三瓶社長はそれをさかんに言っていますね。
彼はみんなに、ちいさなことでもいいから、
「自分のちからで成功した」という体験を
たくさん味わってほしいと考えています。
三瓶 さっきうちの会社が
「自ら」を大事にしてると言いましたし、
ほんとは100%そういう人ばかりがいいんですけど。
なかなか「自ら」って、
みんなが思えるわけじゃないんですよね。
「そういう機会をもっとつくらなきゃ」という思いは、
いつでも頭にあるんです。

ただ、そうした話の中で、
最近ひとつうれしかった話があるんです。

一年ちょっと前に、うちの会社が
カンボジアに工場をつくると決めたんですね。
ただ、そのためには誰かがひとり行って、
一からいろいろやらなきゃならない。
考えただけで、もう、ものすごく大変なんですね。

それで、誰か手を挙げてくれたらなあ、と思っていたら、
ある社員が「行きたい」ということで
手を挙げてくれたんです。

ただ、最終的には任せたんですけど、
彼は生産の仕事の経験が、まったくなかったんです。
当時、39歳だったかな、
ずっと営業をやってきていて、海外経験もほとんどなくて、
カンボジアは本人も行ったことがない国。
ですが「担当させてほしい」って2回も言ってきて(笑)。

シノダ
20代の若い社員の方などではなく、
40歳間近の社員の方が。
三瓶 そうなんです。
それで私「大丈夫かな」と思っていたんですが、
結果的には、まったく大丈夫でした。
このあいだ1年ぶりに帰って来たんですが、
彼が「楽しいです」って言ってくれたんです。
それは、ものすごくうれしかったです。

ひとりで、知らない、言葉も全然通じないとこでやるって、
ほんとうに大変なんですよ。
だけど彼はそれを「楽しい」と表現してくれた。
しかもそのプロジェクト、成功しないとマズイので。
糸井 まさかその方が手を挙げるとは、
という感じだったんですか。
三瓶 そうなんです。
そして、いざ任せてみたら、
それだけのことができる人になってた。

だから私そのとき、自分が社員みんなのことを
ちゃんと見れてなかったと思って反省したんです。
「手を挙げたいと思ってる雰囲気」を
感じとれていなかったなあ、と。
糸井 ああ‥‥でもそこは三瓶社長が
「親っぽすぎる」んじゃないですかね。

ぼく、自分でもときどき思うんですが、
親って子供のことを大事に思うあまりに、
「遠くの場所にやるの、大丈夫かな」
とか思うじゃないですか。
ぼくら、社員のことをちょっとそんなふうに、
心配して見すぎる傾向はあるんだと思うんです。
三瓶 ああ、たしかにそうかもしれません。
糸井 ひとつ似た話があるんです。
先日ぼくは大分にある
立命館アジア太平洋大学(APU)」という
ところに出かけてきたんですが、
ここは、約10年前にできたばかりの新しい大学なんですね。

それで、創立当初からのその大学のコンセプトというのが
「海外のいろんな国からの学生と、
 日本の学生を半分ずつ入れて、
 世界中からきた学生たちが交流できる大学にしよう」
というものなんです。

今は見学に行くと、まさにもう
そのコンセプトが体現されている場所になっていて、
キャンパス内にさまざまな国の学生たちがいて、
いろんな言語がとびかってる。
非常におもしろい、独自の雰囲気を持った大学です。

ただ、その大学というのは、
ほとんど何もなかった山の上にいきなりつくった大学で、
職員の方々が最初、まったく何もないところから
世界中の学生たちを集めてこないといけなかったそうです。

とにかく「いろんな国から1期生たちを集めるぞ」とだけ
決まっていて、時間もない。
建物も完成してなくて、完成予想図だけがある。
でも学生たちを呼んでこられなければ、
大学のコンセプト自体が崩れてしまうわけですから、
とにかく動くしかなかったそうです。

それで、もう、それこそ「無茶ぶり」といいますか、
職員の方々ひとりひとりに
その国に行ったことがあるかどうかも関係なく、
「じゃあ、あなたはこの10ヶ国を担当ね」とか決めて、
みんなで手分けして世界中を駆け回った。
そして、初年度の学生たちをちゃんと集めたそうなんです。
三瓶 ‥‥すごいですね。
糸井 そうなんですよ。
おそらく「もう一回同じことをやれ」と言われても
たぶんできないくらいなんじゃないでしょうか。
そういうことを、その大学の職員の人たちは、
決意と行動力でやり遂げちゃったんです。

ただ、その話を聞いて
ぼくも「ほんとうにすごいな」と思ったのですが、
「もしうちの会社で同じことをやるなら」と考えたとき、
社員みんなに、
「よし、じゃあおまえはこの国行ってこい!」
と言う勇気は、自分にはないなと思いました。
三宅 それは‥‥そうですよね、
今お話を聞いただけでも、あまりに大変そうです。
糸井 だけど、ちょっと興味があって、
会社のほとんど全員が参加したミーティングで
この話をして、
「もしそういう仕事があるとしたら、行きたい人いる?」
と聞いてみたんです。

そしたら‥‥
まったくぼくの予想外に、
ものすごい数の手が挙がったんです。
三宅 はぁー。
糸井 あまりにびっくりして
「ほんとかよ?」って聞いたんです。
そしたら、みんな「行く」って言うんですよ。
ほとんど全員が手を挙げたんです。
子供のいるお母さんすらも、大丈夫なんだって。
あれはけっこう、うれしいやら、ショックやらで、
「ああ、自分はダメだったな」と思ったんです。

つまり、社員に対しても、親が子に思う
「あまり苦労させたくない」みたいな気持ちが
どこかにあるんだと思いました。
社員が求めてることを勘違いしてた。

「どこでもいいの?」と聞いたら
「いい」って言ったんですよ、みんなそれぞれ。
そんなこと言われたら、
「早く、そういう仕事つくらなきゃ!」みたいな。

だからたぶんここのお話でも、社員の方は
もっと違うことを考えてるんじゃないでしょうか。
おそらくみんな、へっちゃらですよ。
三瓶 そうですね、そうだと思います。
そうか、さきに慮(おもんぱか)っちゃうんだな。
私にはそういう癖がすごくあります。
糸井 ぼくはこのごろ、
「みんなが育ちたがってるときに配慮しすぎると 
 『おじいさんと孫の会社』みたいになっちゃうな」
と思うようになったんです。

つまり、おじいさんが孫を育てるときには、
寒いときには
「これ着なさい」と上着を着せますし、
「これを着て元気にしてるから、ちょうどいいな」
なんて思ってたりします。
でも、ほんとうは孫にしてみれば
その服自体いらなかったかもしれない、みたいな。

今、ぼくはそういう自分の
「おじいさん」のような感覚を、
知性でコントロールできないといけないな、
と思うようになってきています。

シノダ
だけど、実際フットマークの社員の方々は
立派に育ってらっしゃるから、
うまい具合にときどき脱がしたりとか
されてるのかもしれない。
糸井 そうだよね。
磯辺 ああ、みんな自分から、 
ときどき脱いだりしてるのかもしれないなあ。
一同 (笑)
糸井 おじいさんが「苦労」と思うようなことって、
若い人たちにとっては
「自信をつける機会」みたいなところもありますよね。
「ハードトレーニングだけど、
 1年我慢したらこれだけ力がつくよ」
という場所があったら、けっこう行きたい気がするんです。

もちろんそこには「自ら」がないと、
ちゃんと身にもならないでしょうけれども。
三瓶 そうですね。
三宅 ‥‥あの、終わりの時間が迫ってきましたが、
最後に「これだけは」という
ご質問などがありましたら、ぜひ。

シノダ
これは質問ではないのですが、
先日、今日の打ち合わせのためにうかがったときに
磯部会長がおっしゃった
「素材を見るとワーッと商品のイメージが湧くんです」
という一言がとても印象的だったんです。
磯辺 ぼくはやっぱり
「新しい素材をどうやって商品化するか」に、
いちばん興味があるんですね。
ぼくは新しがりやだし、頭の中ではいつも
「新しいものを出したい。つくりたい」
と思っていますから。

新しい素材を見たときには、いつも、
「これを形にするのはうちなんじゃないか」
という思いがあります(笑)。
だからぼくは、材料屋さんと話す時間が、
いちばん楽しくって。
糸井 そういった新しい素材に出会ったときって
磯部会長はまず、どんなことを聞きますか?
磯辺 「その素材自体の特性」と
「どんな加工ができるか」を聞きますね。
それぞれの素材に、限度があるわけですよね。
熱に強いとか、直射日光に弱いとか、
いろんなのがあると思うんですけど、
まずはそういった特徴を知らせてもらいます。

そして、自分がもともと持っていた
「日々のいろんな問題意識」みたいなものがあって、
そことうまく組み合わさったときには
新しいものが生まれます。
出会った瞬間「あ、これは!」ということもあります。
そのときは、それを形にするといいますか。
糸井 最初に素材を見たときはわからなかったけれど、
何年も経ってから
「あれが使えるな」というのもありますか?
磯辺 あります、あります。
そのときは、手元に引き寄せられるといいますか。
「前は見方が悪かった」と思うんです。
糸井 それ、すごくわかります。
磯辺 3、4年経って「あ、あのときの!」と思って
あらためて持ってきていただいたり。

‥‥とはいえ、だいたい私はこっちから出かけていきます。
来ていただくというの、好きじゃないんです。
今日も糸井社長に来ていただくの、
ほんとは、お邪魔したかった。

ぼくはなんでも、自分で現場に行かないと、
気が済まないほうなんですね。
出かけると何か、そこの場にあるわけです。
出かけていく目的もあるんですが
同時に、周辺にいろいろ転がってるわけですね。
そっちについつい目がいっちゃって、おもしろいんで。
糸井 そこから新しい商品のヒントを見つけたりとか?
磯辺 ありますね、よくあります。
三宅 はい‥‥実は、お時間がきてしまいました。
最後にみなさんで、写真をとらせていただけますか?
机をよけて、壁のあたりに集まっていただいて。
 
糸井 たのしかったです。ありがとうございました。
磯辺 こちらこそ、ありがとうございました。

女性
では、撮りますね。
三宅 はーい!
(パシャッ)
今日はどうも、ありがとうございました。
一同 ありがとうございました。


(終わります。)

2014-02-11-TUE