サノ
そちらに座っているヤシマは
うちのフットマークの商品の
直販店の店長をしているのですが、
非常に敏腕で、お客さまの声をもとにして
新しい商品をつくったりしています。
三宅 それは、ぜひぜひお話を。

ヤシマ
うちの直営店はことし13年目なのですが、
私は立ち上げのときに入社しました。
もともとサービス業はまったくの素人だったのですが、
最初の面接のときに磯部会長から
「自信はあるの?」と聞かれたときに、
つい「はい」と答えまして‥‥
一同 (笑)

ヤシマ
それで、会長から
「自信があるというのはいいことだから」
と言ってもらって、はじめました。
三宅 ヤシマさんも、磯部会長が「任せた」方なんですね。

ヤシマ
「ぼくはわからないから、ぜんぶお任せするので」
「失敗しても大丈夫だから」
そんなふうに言っていただきながら、はじめました。

私はいろいろ時間がかかるほうで、
お店がきちんとまわせるようになるまで
かなり時間がかかってしまったんですが、
信頼されているという気持ちは、
いつも、とてもありがたかったです。

うちのお店は会社の「唯一の直販店」で、
エンドユーザーの方々に特に接しやすい場所なので、
「お客さまの声を聞き取って、会社に届けること」を、
意識的におこなうようにしています。
また最近は、商品開発のほうに
関わらせてもらうこともあります。
三宅 なにか、実際にお客さまの声で
商品のここが変わった、という事例はありますか?

ヤシマ
あ、どうでしょうか、
じつはお客さまの声が、そのままきれいに
商品になるということは珍しいので‥‥。
色や形の売れ行きのデータは、
開発のほうでけっこう参考にしているようなのですが。

サノ
最近、iPhone用のポーチってありませんでしたっけ?

ヤシマ
あ、そうですね。ありました。
これは仕入れですけど、
「プールで携帯電話を濡らさずに持てる
 防水の小さなポーチがほしい」
というお客さまが多かったので、
情報をパッと会社に伝えて、
その年の夏に販売したということがありました。
三宅 そういうのはお客さまが直接
「iPhoneが入る防水のポーチがほしいんだけど」
とか、聞きにいらっしゃるのでしょうか。

ヤシマ
じつはそういった「携帯用の防水ポーチ」については
お店ができたばかりのころから声があったんです。
ただ、その声を商品化できるかどうかは「別の問題」で、
ロット数とか、いかに小さくつくるかとか、
クリアしなきゃならない問題がいくつかありました。
小さくないと、意味がないですから。
そうした目処がたちまして、
ようやく販売できたのが最近です。
糸井 ああ、ぼくは今のヤシマさんのお話を聞いていて、
自分も同じスタンスで
お客さんの声を聞いているような気がしました。

お客さんの声は、聞いてるようで聞いてない。
また、聞いてないようで聞いている、といいますか。
そこを元に「やるときはやるぞ」というか。

ヤシマ
あ、わかります。
お客さんの声って、聞こうとしないと
けっこうBGMになったりするんです。

だけど、こちらも本気で聞こうと思っているときは、
こっそり背中で近寄ってでも聞くんです。
「あ、大事な話をされてるな」というときには
私、お客さんの負担にならない程度に、
すりよって聞いています。
糸井 今のiPhoneのポーチにしても、
お客さんの声は、はじめからあったんですよね。
その情報は、大量の声のなかから
「選り分けられれば」役に立つ情報になる。
また、その上で、
「ちいさくするのは大変だけど、やろう」
ということまで成し遂げられれば、
お客さんたちによろこばれる製品になる。

おそらく今の時代、いろんな声を聞くのは
ものすごく簡単なんだと思うんです。
だから大切なのは、そのいろんな声がある状況に対して、
「どんな姿勢をとるか」なんだと思うんです。

お客さんの声のなかに、
新しい商品の元になるようなアイデアはある。
ただ、それを手間をかけて選り分ける「覚悟」や、
絶対に商品にするぞという「決意」があるかどうか。

それってなんだか「砂金とり」みたいなもので、
「とるのは大変だけど、それでもとる必要がある」
と決めて、
川の中に一日中こうしてるかどうかっていう、
「受け止める側の行動」がすべてだと思うんです。
三宅 その、
「声を拾うことより、そのあとの姿勢が大事」
というのは、糸井さんとしては、
「もうマーケティングは卒業したほうがいいよ」
ということですか?
糸井 うーん‥‥それは言い方が難しいんですが、
「マーケティング」的なものにも、
もちろん役立つ部分はあります。
ただ「役立つ状況」と「そうでない状況」とが
両方あると思うんです。

たとえばぼくらは「ほぼ日手帳」という
1日1ページの手帳をつくってますけど、
たとえば「どの色が売れるか」は
すごく過去のデータを参考にさせてもらっています。
毎年売れる色、といった傾向ってありますから。

また「マス目のサイズはどうか」といった
実際に使ってみての感想は、
ものすごく使ってくれている人の声を
頼りにさせてもらってます。
‥‥だよね?

マツモト
はい。私は初期の手帳の製作に携わっていたのですが、
できて数年の間はとくに、
実際に使ってくださった方々の声で
ものすごく大事な改良をたくさんさせてもらいました。
「時間軸は30分刻みがいい」とか、
「この部分、ちょっと幅が広いほうがうれしい」とか、
「マス目がもう1つ余分にほしい」とか。

手帳って毎日の習慣性の高いものなので、
使ってくださる方の声が、ものすごく頼りになるんです。
そうしたユーザーの方々の何千とか何万という声には、
今でも、どれだけ感謝してもしきれないくらいです。
糸井 ただ逆に、お客さんが自分の意見として言う
「しゃべり」の部分は、
ちょっと注意をしながら聞いています。
三宅 それはつまり、お客さまのほうでは
新しい商品を見たときに
「私はもうちょっと、こういう色やサイズがいい」
と言うけれど‥‥
糸井 その段階では、まだ参考にしちゃダメなんです。
人って、自分もそうですけど、
「ピンクがあればいいのに」と言っていても
ピンクを買うわけじゃないですよ。

もともと「ピンクがあればいいのに」と言っていて、
その人がほんとにお金を出して買ったものが
ピンクだった場合には、実際にピンクが売れます。
でも「これが出たら絶対買う」と言っていたものを
実際に買わないということ、誰だってよくあります。
磯辺 それ、非常によくわかります。
お客さんって「自分の好みはこう」とか言うんだけど、
「ほんとは自分のことをわかってないんじゃないか」
というのが、ぼくの考え。

ぼくはその
「ピンクがほしい」みたいなことを言ったお客さんに
「‥‥ほんとにそうなの?」と聞いてみたら、
「うん、そうなんだけど、
 私が買うのは別のものなの」
みたいに言われたことが、しばしばあります。
糸井 自分自身だって
「こういうのがあれば買うのにな」とか言いながら、
買わないってこと、よくやりますよね。
磯辺 ええ。私自身もそうです。
買ったあとの「もっとこうだったらいいのにな」は
当事者的に言うんだけど、
買う前はみんな評論家面したくなっちゃう。
ありますね。

だからやっぱりこちらとしては、
「あなたがほしいものって、こういうものでしょう!」
と決めてかかって、出します。

そしてお客さんが
実際にそれを選んでくれたときには、
「ああ、やっぱりこっちだったか」と思うし、
違ったときは「ああ、違ったか」と次に活かす。
お客さんの声と違うものを出したけれど
買ってくださったときには、
「やった!」という気持ちにもなります。
‥‥お客さんって、おもしろいんですよ。
ものをつくる仕事の醍醐味のひとつだと思いますね。

(つづきます。)
2014-02-06-THU