新しい商品をつくると お客さまからいろんな感想が届くと思います。 そのとき「どの意見を参考にするか」って、 「ほぼ日」さんならではの判断基準ってありますか? |
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そうですね‥‥昔からいろんな商品を担当している マツモトはどう思いますか? |
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ジャッジのとき、ときどき糸井から 「この意見はいくつかきてるけど、 本気じゃないから聞かなくていいよ」と 言われることがあるんです。 逆に1通だけの意見でも 「これはわかる。聞いといたほうがいいね」 ということがあります。 そういった、それぞれの声が 「実感のこもった意見かどうか」。 そこは、けっこう重要視してると思います。 |
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糸井さんの、その 「この声はほんとっぽい、これは嘘っぽい」というのは、 長年の経験からくるものですか? |
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いえ、たとえば映画を見たときに 「おもしろかった」とか「つまらなかった」という 自分のすなおな感想がありますよね。 ほかの人の意見や状況に関係なく、 自分の心が、どう感じたか。 そういう、自分の「実感」の部分で 「これはわかる」というものを拾うんです。 |
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自分の「実感」で「わかる」ものを拾う。 |
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たとえば、自分にとってその映画が ほんとうにおもしろかったのなら、 同じように「おもしろかった」と言っている人の声は 「あ、わかる!」ですよね。 |
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そうですね。 |
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あと、たとえば、 「作品としてはつまんないと思ってるけど、 泣きたいから見た」 という場合もありますよね。 これも「泣きたかったから見にいきました」とあれば 「たしかに、そうかもしれないな」となります。 頼りにしているのは、自分のそういった すなおな「実感」の感覚です。 自分の感覚と共鳴するところがあれば、 その意見は拾えるんです。 これは自分の「平凡な感覚」を頼りにしてる、 ということでもあります。 でも「平凡」だからって、 「これは誰でも思うだろう」という感覚は バカにできません。 それは「みんなが思うこと」ですから。 |
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‥‥なるほど。 |
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さきほど手帳の話がありましたけれども、 そもそも「ほぼ日」さんで 「ほぼ日手帳」を作りはじめたきっかけというのは どういったものなのでしょうか。 |
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これはほんとに偶然みたいなもので、 前にいた事務所の近くに印刷会社がありました。 そして会社のみんなで近所の蕎麦屋に行ったとき、 そこの人たちも偶然来ていて、 ぼくの顔がわかったんでしょうね、 「糸井さん、なにか仕事させてくださいよ」なんて、 声をかけられたんです。 その後も何度か会いまして、 営業の人でしたから、そのたびにノリ良く 「また会いましたね!」なんて言われたりしていたんです。 それで、印刷会社の人がこんなに気軽に 「なにかやりましょうよ」と言うということは、 本って簡単に出せるんだなと思ったんですよ。 それで「本をつくろうと言ったら出るんだ?」 と聞いたら「はい」。 そして「本ができるなら手帳もできる?」って聞いたら 「できますよ」と。 それが最初のきっかけです。 だから「人と出会った」というのが大きいですね。 |
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それで、最初の手帳を担当してくれた 印刷所のおじさんがほんとうにいろいろ教えてくれて、 今も続いている「ほぼ日手帳」の 基本仕様ができていったんです。 「書くときに、いちいち手でおさえなくても パタンと開いたままにできる製本があるよ」とか、 「うすくて軽い、良い紙があるよ」とか。 いろいろ教えてくれたのは、たぶん 窓口の私が学生で非常に頼りなかったから、 言わずにいられなかったのもあると思うんですけど。 |
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相手にキャリアがあると 「ここまで言うと失礼じゃないか」とか 言わないようにする場合もありますが、 その逆だったんですね。 |
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たぶんそうなんです。 |
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うちはどの商品についても 基本的にスタートは「しろうと」で、 「自分たちがほしいものをつくりたい」という 動機ではじめるんです。 それで、あまりにも「しろうと」なものだから、 どの商品でもプロの方に平気な顔で 「知らないので教えてください」と聞けるんです。 そこには、けっこう助けられてますね。 |
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ただ、うちの会社に入ったときの私は ほんとうに未熟で、何もわかっていなかったんですね。 だから最初の数年、糸井から私は 「自分の実感の掘り起こしをしろ」ということを 徹底的に言われつづけました。 つまり、何にでもすぐ「可愛い!」とか言うなと(笑)。 「どこが可愛いと思うのか」 「なにが、どうおもしろいのか」 何か見たときに自分が「ほしい!」と言うのも、 「ほんとに心からほしいかどうか」を ちゃんと確かめろ、とは、非常によく言われました。 そういう「実感の掘り起こし」が、なにより大事。 当時の自分はわかってなかったですけど、 働きはじめて数年間は 常にそこを問われつづけていた気がします。 |
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ぼく、大学で学生たちと話しながらよく思うんですが、 みんな「自分に嘘をつく癖」が ずいぶんあるような気がするんです。 自分の頭で考えずに 「とりあえずそれっぽいこと」を言ったり、 そのへんに転がってる意見を 適当に借りて会話したりする癖がついちゃってる。 「実感の掘り起こし」って、 そこから抜けだすようなことですよね。 |
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そうです、そうです。 では、となりにいるのがうちのオクノですが、 ずっと「嘘をつく練習」をしてきたのが、 どう落ちたかという話を。 |
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一同 | (笑、拍手) |
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ぼくは大学を出て出版社に入りまして、 雑誌をつくる部署に配属されました。 そこでは常に企画を出さなきゃいけなかったんですが、 雑誌というのはいろいろと「都合」があるんです。 「このページを埋めなきゃならない」とか、 クライアントとの関係とか、いろいろ。 一般的に言って、 そういった「都合」に合わせたものを出すと、 企画が通りやすいじゃないですか。 だからぼくは「企画を考える」というと、 そんなふうに「都合」の側から考えることが 癖のようになっていました。 |
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「都合から考える」のが、癖になる。 |
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はい。だけど、そうすると 「自分がおもしろいと思う気持ち」が 置いてけぼりになるんです。 そして、当然ですけど 自分自身がおもしろいと思ってないと、 そもそもおもしろい企画にならなくて、 ほかの人にも伝わらないんです。 だから、ぼくは「ほぼ日」に入社して2年くらい、 出す企画がまったく通りませんでした。 たぶん当時のぼくは、 みんなから見ると「都合でものを言ってる」し、 ぼく自身がその企画を 「心からはおもしろいと思ってない」。 「君がおもしろいと思ってないんだったら、 おもしろくなるわけないよね」 となりますよね。 |
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はい、はい。そうですね。 |
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そういう、ついつい「都合から考える」癖を、 ぼくは「ほぼ日」に入って まわりの人のやりかたを見たりしながら、 数年かけて落とさせてもらった気がします。 |
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では、今は企画のほうをどんどんと。 |
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今は、自分がすなおに「おもしろい!」と感じることを しようと思っているので、 徐々に企画が通るようになってきています。 企画があるていど形になったときに、 「自分がほんとうにおもしろがっているか」を 振り返ってみて、 ちゃんと確信が持てるようなときには、 なにかの形にはなる気がしています。 でも、やはり、ここ数年という感じですね。 |
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そうした「都合」で考える癖を落とすのは、 やっぱり、何年かかかるものでしょうか。 |
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ぼくは自分の実感だと、3年くらいとか。 |
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男の子のほうが、時間がかかるものかな。 |
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私は女ですけど、かなり長かったです。 |
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だけど、ずいぶん時間がかかったとしても。 「自分に嘘をつく癖」があるなら それをぬぐうことからはじめたほうが、 いろんなことがうまくいきそうな気もしますね。 就職活動中の学生たちのなかにも 「嘘がうまくなることが内定への道だ」 と信じきってる子がいるんです。 それはおかしいし、結局そこじゃないんだけど、 一部そういう方法で内定を得る学生もいるから、 ますます混乱して。 アピール下手な子が、 「友達みんな、就職活動は、 自分を盛ってなんぼだって言うし」 みたいに勘違いして、 下手な嘘を積み重ねて、面接で落ちる。 だけどその子は周りから見ると、 「ちがうよ、おまえはほんとは 素の自分を出したほうが、 周りから愛されて、信頼されて、頼りになるのに」 とわかっていたりします。 なのに、本人は浅い盛りかたをする。 そういうのはほんとうに もったいないなと思いますね。 今は「すなおでいることの価値」が ずいぶん低く見積もられている時代、 という気がします。 |
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(つづきます。) |
2014-02-07-FRI |