同じ時代に生きているのがうれしくなるような人に
出会うことがあります。
そんな人たちの世界のおおもとは、
いったい何でできているのでしょうか。
幼少期から現在に至る足取りをうかがう
連載シリーズの第3弾にご登場くださるのは
演出家で作家の鴻上尚史さんです。
鴻上さんは「自分で考える力をつける」ことの重要性を
著作でくりかえしおっしゃっています。
インタビューは、ほぼ日の菅野がつとめます。
めんどくさい小学生。
- ──
- 鴻上さんにお話をうかがいたいと
思いはじめたきっかけは、
著作である『不死身の特攻兵』です。
最後の章に自分が知りたかったことが
ごそっと書いてあって、
大きい網ですくわれたような気持ちになりました。
いったいどんなことがあって
鴻上さんの考えが築かれたのかを知りたくなりました。
鴻上さんは幼い頃から、
「何ごとにも疑問を持ち、自ら考えようとする」
お子さんだったのでしょうか。
- 鴻上
- ぼくは、両親がともに小学校の教師でした。
教師のいる家庭に育った子どもには
ありがちなんですよ、
親が「正義を語る」ような環境で育つと、
わりと、こうなる。
- ──
- そうなんですか。
正義を語るご両親のもとで。
- 鴻上
- ぼくは、四国の愛媛県、新居浜という、
人口10万人ぐらいの町で育ちました。
その町では、朝6時になると、
公民館の放送で、音楽が大音量で流れます。
夕方の5時か6時にも、
やっぱり音楽が大音響で流れます。
- ──
- 東京でも夕方に
「夕焼け小焼け」が流れたりしますね。
どこかの町へ出張へ行ったりすると、
早朝に音楽が放送されて驚くこともあります。
でもあの「音の放送」について、
そんなに考えたことはありません。
- 鴻上
- そうでしょ?
でもね、ぼくが子どもだった時代でさえ、
大人たちの生活は多様になっていました。
ですから、ぼくの父は
「朝の6時に大音響で音を流すことを
迷惑に思う人がいるんじゃないか」
というようなことを家でよく語りました。
- ──
- たしかに。
- 鴻上
- ぼくは子どもながらに、
「そのとおりだな」と思っていました。
新居浜ではいまだに、その放送はつづいています。
つまり、その放送は、
「個人より共同体を重く見ていますよ」
ということをあらわしているんです。
- ──
- ご両親が語られる「正義」というのは、つまり‥‥。
- 鴻上
- そうです、みんながいま言うような
「正義」とはちょっとちがいますね。
- ──
- はい。
- 鴻上
- 教師ですし、その時代はとくに
戦争の反動がありました。
「誰かから命令される」のではなく、
「みんなで話し合ってものごとを決めていく」
民主主義のすばらしさを、
両親は言いたがっていたのです。
親の言っていることはもっともだと思う。
けれども、早朝に流れる大音量の音楽ひとつとっても、
ずっと変わっていない。
なぜなんだろうな。
- ──
- 小学生くらいから、そんなふうに疑問を?
- 鴻上
- そう。
えーっと、たとえば
小学4年生のときのことです、
いつもの先生が産休に入りました。
代わりの先生がやってきたんだけど、
その人がものすごく
「えこひいき」する先生だったわけ。
ぼくは怒って「あなたは公平ではない」と
文句を言いました。
それはよく憶えています。
だからまぁ、小学生のときからそんなタイプです。
- ──
- 鴻上さんが
「自分で考える」子どもだった理由は、
ご両親の影響ですね。
とても明確です。
- 鴻上
- 両親が田舎にいて
「長いものに巻かれないでやってた」
ということが、
自分の原点にあると思います。
- ──
- 当時の新居浜の小学生としては、
かなり尖った感じだったのではないでしょうか。
- 鴻上
- そうでしょうね、
尖ってましたし、
先生もめんどくさいと思ってたでしょう。
- ──
- 小学生のとき、印象深かった先生は
いらっしゃいましたか。
- 鴻上
- よくしてくれた先生はいました。
校長先生です。
なぜか、もとNHKのアナウンサーという
不思議な経歴の方でね。
校内放送で流れる校長先生の声が、
じつにきれいだったんです。
それが、ぼくが演劇的なものに目覚める
最初の経験だったかもしれません。
- ──
- 校長先生のきれいな声が、
鴻上さんを演劇の道に。
- 鴻上
- かもしれないです。
小学校はやさしくしてくれた先生が多かったですよ。
ところが、中学で演劇部に入ってね。
- ──
- 中学でさっそく演劇部なんですね。
- 鴻上
- やりたい戯曲があったんだけど、
顧問の先生から
「それは中学生らしくない」と言われました。
中学生らしくないといったって、
中学生向けに書かれた台本なんですよ。
「学校が進学組と就職組に分かれて荒れる」
みたいな話だったわけ。
ただ、先生がビビリで
「それはどうかと思うわ」と言い出した。
顧問の先生ひとりなら論破できると思ったんだけど、
担任の先生が来て、教頭先生が来て、
3人で取り囲まれて、ねじふせられました。
「もっと中学生らしいものを演りなさい」
「中学生らしいってなんだ?」
という話になり、結局は
シェイクスピアの『ベニスの商人』を演りました。
あとになって、別の中学校が
その戯曲を上演していたことがわかりました。
「なんだよ」と思った。
過剰防衛。先生たちの、ただの気遣い。
これにはそうとうがっかりしました。
- ──
- 「過剰防衛」は、
いま私たちがふだんの生活でも
無意識でやってしまうことです。
- 鴻上
- そうですね、
これは連綿と現在につながりますね。
ぼくはTwitterでいまだに
ブラック校則について熱くなって書いてしまいます。
高校の校則で、
髪型の「ツーブロック」が禁止なんですって。
理由は「高校生らしくない」から。
そうしたら別の人が、
「ホテル業界では、
ツーブロックは清潔さのシンボルですよ」
とツイートしていました。
なんだよそれ、となる。
これもまたTwitterで知ったんだけど、
筆算の線を定規で引かなかったために、
160問ぐらいの問題を
「やり直せ」と言われた生徒がいた。
- ──
- 同じパターンですね。
- 鴻上
- 同じ。こういうことはずっとあります。
- ──
- 過剰防衛は「マナー」となって、
多くの人びとが「こうすべき」と
思い合うことになりますね。
- 鴻上
- でも、理由がないものが多いんですよ。
- ──
- 「ここではいいのに、ここでは不可」
それはいったいどうやって決まるのでしょうか。
- 鴻上
- いわゆる「忖度」ですね。
その問題はもう、ずっと存在するけれども、
とくにいまぼくらが住んでる日本に、
根強くあるんです。
(明日につづきます)
2019-10-29-TUE
KOKAMI@network vol.17
「地球防衛隊 苦情処理係」
鴻上尚史さん作・演出の、
サードステージの新作舞台。
出演は、中山優馬/
原嘉孝(宇宙Six/ジャニーズJr.)/駒井蓮/
矢柴俊博/大高洋夫(敬称略)ほか。
ストーリーは、近未来。
地球は異星人や怪獣の襲撃を受けています。
人類を守るために創設された地球防衛軍は、
戦うエリート、人類の希望の星。
しかし、怪獣と戦うたびに副次的な被害が出てきます。
そして「苦情処理係」は、毎日、
住民のクレーム処理に追われることに。
ある日のこと「ハイパーマン」があらわれて‥‥。
「正義の正解」を追いもとめる、
現代の社会感情をユニークに反映した舞台です。
東京公演は2019年11月2日~24日、
大阪公演は11月29日~12月1日。
くわしくは
公式サイトへ。
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN