世界をつくってくれたもの。鴻上尚史さんの巻 世界をつくってくれたもの。鴻上尚史さんの巻
同じ時代に生きているのがうれしくなるような人に
出会うことがあります。
そんな人たちの世界のおおもとは、
いったい何でできているのでしょうか。
幼少期から現在に至る足取りをうかがう
連載シリーズの第3弾にご登場くださるのは
演出家で作家の鴻上尚史さんです。
鴻上さんは「自分で考える力をつける」ことの重要性を
著作でくりかえしおっしゃっています。
インタビューは、ほぼ日の菅野がつとめます。
鴻上尚史さんのプロフィール
第2回
親友の名を書きなさい。
──
ちいさいときの鴻上さんは、
まわりのクラスメイトより、よくものを考えて、
いろんなことを感じていたお子さんだったと思います。
すみません、変な質問をしますが、
そんな鴻上さんが、お友達に対して
イライラしたりすることはなかったのでしょうか。
鴻上
‥‥じつは、中学のとき、
クラス委員になったんですけれどもね。
──
はい。
鴻上
担任がちょっと不思議な先生だったんですよ。
ある日、ホームルームでプリントが配られました。
そこには
「あなたのいちばん親しい友達の
名前を書いてください」
とありました。
写真
──
ちょっと戸惑う質問ですね。
鴻上
そうね。
ぼくも、ハタと困りました。
「クラスに親しい友達はいないな」と思った。
書けなくて、しょうがないから、
そのとき文通していた
東京にいる女の子の名前を書きました。
当時はペンパルっていって、
文通が流行ってたんですよ。



しばらくしたら先生に呼び出されました。
先生は、そのアンケートをもとに
クラスのグループ図を作ってたんです。
──
相関関係図、ひぃええ。
鴻上
いまから思えば、
あれは何だったんだと思うんだけどね(笑)。
でも、先生としては、クラス委員のぼくに
「このクラスをうまく導くための参考になればいい」
という気持ちで見せてくれたんだと思います。



誰と誰がどういうふうに思い合ってて、
この人は一方通行で、
いくつかのグループに分かれてて‥‥
でね。
──
はい。
鴻上
そこに、真ん中にポツンと、
誰からの矢印も受けず、
誰にも矢印を出してない、
ぼくの名前がありました。
「すごいなこれ」と思いました。
写真
──
そうか‥‥、しかも、
クラス委員だから複雑ですね。
鴻上
そう。
それこそクラス委員じゃなかったら
「ちぇっ、寂しいな」
「友達つくったほうがいいのかな」
てなことになると思うんだけど、
投票で選ばれたにもかかわらず友達はいない、
という状態を
どう思ったらいいのかわからない。
プラスにもマイナスにも評価できませんでした。



実際には、一抹の寂しさは感じたと思います。
けれどもまぁ、気持ちの半分くらいのところで、
これでいい、と思ってました。
「人をまとめるという役は、こういうことなんだ」
というわけのわからん納得が4割8分ぐらい、
あとの5割2分ぐらいが
「ちょっと寂しくないかおまえ」でした。
──
もしかしたら、田舎から都会に飛び出た人には、
そのタイプが多いかもしれないですね。
鴻上さんは、その寂しさとたたかうことは
なかったのでしょうか。
鴻上
それがそうでもないんです。
それはなぜかというと──、
親がふたりとも教師で、ぼくが生まれてすぐ、
とつぜん遠くに飛ばされたんですよ。
住んでたところから
電車で2時間+バスで1時間+徒歩1時間という
四国山脈の奥でした。



複式学級の学校で、
1年2年、3年4年がいっしょに勉強してました。
全校生徒も2~30人しかいない。
ぼくは幼かったので、
おばあちゃんの家に預けられることになりました。



5歳くらいになってようやく、
両親のもとへ送られました。
でも、昼間はとうぜん、
ふたりとも学校で授業をしていましたから、
ぼくはひとりぼっち。
寂しいに決まってるわけ。
最初は図書室に送り込まれました。
写真
──
ええ? 
鴻上
休み時間以外にね。
最初はふつうにそこらへんにいたんだけど、
母ちゃんに会いたいから、
5歳のぼくが、1~2年生の授業に
顔出したりしちゃうわけ。
これはダメだということになり、
図書室に入れられて、鍵かけられた。
本を読むのは好きだったけど、
母ちゃんの声は聞こえてくるし、寂しいし。



両親はぼくを家に戻して
紐でしばっておくこともできず、で、
もういちどおばあちゃんちに
戻されることになりました。



こういうこともあって、
ぼくはかなり幼い時期から、
自分で寂しさを処理することができていたと思います。
こうやって形成された性質は結局、
現在の「演出家」という仕事に
すごく向いてたんじゃないかな、と思う。
──
どういうふうにでしょうか。
鴻上
芝居の稽古が終わると、まぁ、
役者達はみんな連れだって
お酒を飲みにいくわけです。
たいていは、
「なんだよあの演出は! ふざけんじゃねぇよ」
「まぁまぁまぁ」
とか、そういう話をしにいくわけですよ(笑)。
それは必要なコミュニケーションです。



もしそこに演出家がいると、
みんな自由なことが言えなくなります。
ベテランの役者が若いやつの話を聞くときには、
不満を吸収して導いてくれることだってあるんです。
むしろ任せておけばいい。



けれどもそこで、寂しさに耐えられない
演出家はどうするか? 
──
寂しくて行っちゃう‥‥と。
鴻上
俺をそこへ寄せろ、ということになる。
そうなると話は揉めます。
説教もはじまっちゃう。
けれどもぼくは、
幼少期から寂しさを処理することに慣れているので、
その集まりに入らなくてもぜんぜん平気です。
──
クラス勢力図のポツンと真ん中にいる感じのままで、
演出ができるんですね。
鴻上
ホントに向いてたんだと思います。
演出家なのに寂しさに振り回されてしまう人、
たくさん見てきました。
そういう人は向いてないと思います。
写真
──
自分の寂しさって、
たいていの人は受けとめられなくて、
少しは悩むと思います。
鴻上
うーん、そうね。
自分の寂しさを
受けとめることができるようになったのは、
ラッキーだと思ってる。
それはこうして40年、演出家をつづけられる
いちばんの理由のような気がします。
(明日につづきます)
2019-10-30-WED
KOKAMI@network vol.17
「地球防衛隊 苦情処理係」
写真
鴻上尚史さん作・演出の、
サードステージの新作舞台。
出演は、中山優馬/
原嘉孝(宇宙Six/ジャニーズJr.)/駒井蓮/
矢柴俊博/大高洋夫(敬称略)ほか。



ストーリーは、近未来。
地球は異星人や怪獣の襲撃を受けています。
人類を守るために創設された地球防衛軍は、
戦うエリート、人類の希望の星。
しかし、怪獣と戦うたびに副次的な被害が出てきます。
そして「苦情処理係」は、毎日、
住民のクレーム処理に追われることに。
ある日のこと「ハイパーマン」があらわれて‥‥。
「正義の正解」を追いもとめる、
現代の社会感情をユニークに反映した舞台です。



東京公演は2019年11月2日~24日、
大阪公演は11月29日~12月1日。
くわしくは公式サイトへ