同じ時代に生きているのがうれしくなるような人に
出会うことがあります。
そんな人たちの世界のおおもとは、
いったい何でできているのでしょうか。
幼少期から現在に至る足取りをうかがう
連載シリーズの第3弾にご登場くださるのは
演出家で作家の鴻上尚史さんです。
鴻上さんは「自分で考える力をつける」ことの重要性を
著作でくりかえしおっしゃっています。
インタビューは、ほぼ日の菅野がつとめます。
最後は正義しかない。
- ──
- 日常で、ちょっと何か言われただけで
腹が立ったりするんですが、
鴻上さんはそういうことはありませんか。
- 鴻上
- うーん、あんまりないですね。
SNSとかで?
- ──
- はい、SNSでもあります。
- 鴻上
- ふつうに難癖つけてくる人はいますよ。
それは多いです。
難癖つけて、
とにかく全部に文句を言いたいんだなこの人は、
という状態をよく見ます。
それは、あんまり問題じゃないよ。
- ──
- 難癖についてはあまり考えなくていい、と。
- 鴻上
- うん。
ロクでもない場所から弾が飛んできても
べつに何でもありません。
それは相手にしなくていい。
悲しいのはね、
同じ方向を向いていると思ってる人から
攻撃されることです。
それはちょっとこたえるよ。
- ──
- 仲間だと思っている人から
攻められること‥‥。
- 鴻上
- でも、そうであっても、です。
思ってる以上に、人間はたくましい。
なんだかどこかに、
逃げ道がある展開を
見つけるんじゃないでしょうか。
その力、みなさんにありますよ。
SNSまわりはいま、
あきらかに息が詰まってきていませんか?
このままいくと息苦しくなるのは
けっこう目に見えてる。
- ──
- 乗り越えなくてはならないときなんでしょうか。
- 鴻上
- 11月のぼくらの新しい舞台も、
そういったことがテーマになってるんですよ。
それこそいま、SNSの発達で、
いろんなことが巻き起こってるでしょう?
アメリカではsocial justice warrior
っていうんだけど。
- ──
- ソーシャル・ジャスティス・ウォリアー。
- 鴻上
- つまり社会正義戦士です。
社会正義にもとづいて、
いろんなことを指摘してくる人たちです。
「未成年なのに
酒飲んでる画像をアップしてるやつがいる」
「ストリートミュージシャンは道交法違反です、
今日またひとり見つけました」
なんてことを報告する。あるいは、
ブレーキのタイミングが取れなくて
横断歩道上で信号待ちしてしまう車の画像を貼って
「あきらかな法律違反、ゲス車」なんて書く。
- ──
- それがソーシャル・ジャスティス・ウォリアー。
- 鴻上
- 日本でもアメリカでも、
同じようなことが起こってます。
なぜそんなことが起こるのかというと。
- ──
- ええ、なぜでしょう。
- 鴻上
- SNSで知ったかぶりしてウンチクを語った場合、
上には上が絶対います。
知識について発言すれば必ず
「おまえは間違ってるよ」
「おまえの知識ではそうかもしれないけどじつはこう」
とか言われます。
- ──
- 事実がいろんなところで真実になりますから、
言い合ってもきりがないですね。
- 鴻上
- でしょ?
この前笑ったのは、
道で戦車が走ってる写真に
「戦車が通ってて驚いた」というコメントが
つけてあったんです。そこに、
「これは戦車ではありません、
これは△△型の◯×です」
というリプライが。
対する発言主の返信は
「うるさいよ」という一行でね。
- ──
- すごい(笑)。
- 鴻上
- 知識を競いはじめると、そうなります。
SNSは、結局は、
自己肯定の道具なんです。
「私を見て」という自己の発信です。
だから極限まで行くと、
「誰からも否定されないもの」を
求めてしまいます。
これ、当たり前の流れなんです。
誰からも否定されないものは何でしょうか。
それは、正義の言葉なんです。
未成年が酒を飲んではいけない、
横断歩道に侵入して信号待ちしてはいけない。
どこからも突っ込まれない、法律の遵守の話です。
もし誰かが「そんなこと許してやれよ」と
発言しようものなら「しめしめ」でしょう。
法律を守る正義は、堂々と言える唯一のことだから。
- ──
- そうですね。
法律を破ることを攻められても文句は言えません。
- 鴻上
- そう。法を守ることは誰からの指摘も受けません。
だから堂々と言えます。
ぼくらの新しい芝居は、
苦情処理係がテーマなんですが‥‥。
- ──
- 「地球防衛軍 苦情処理係」
というタイトルですね。
- 鴻上
- 地球防衛軍で、ヒーローなのに、
苦情処理係なんです。
これね、ものすごく「いま」的なんですよ。
- ──
- ストーリーの中で、
地球を守るための法律があるんですか?
- 鴻上
- 災害対策基本法というのがあって、
怪獣の攻撃は天災と同じとされています。
でも、地球防衛軍が放ったミサイルで被害があったら、
それは人災か否か?
- ──
- 正義のポイントがいろいろ出てきて
わけがわからなくなりそうですね。
- 鴻上
- どこで納得するのかという話ですね。
ヒーローの部署にいながら
ゴミ箱部分の役目をしている人たち、
それが主役です。
- ──
- 正義の味方なのに、
正義の「もの言い」と戦うんですね。
法律もからんだ二重構造。
- 鴻上
- いまみなさんが抱えている問題と
かなり重なると思います。
- ──
- 正義がどうしても強くなることは、
もう、しかたがないのでしょうか。
- 鴻上
- いや、あきらめることはありません。
みんなが正義を語りつづけて、
すごくうっとうしい、
息がつまる社会になってきていることは、
すでにたくさんの人が気づいていると思います。
みんながそれをはっきりとわかれば、
「もう正義を語るのはやめませんか」
と言う人が出てくるんじゃないかな。
こんなにわかりやすい、あきらかな表現じゃ
ないかもしれないけれども、
何らかのものが生まれるだろうと思う。
そしてぼくは、生まれることをめざして、
創作活動をしているという気持ちがあります。
- ──
- 「地球防衛軍 苦情処理係」も、
私たちのなかで行動のフックになるかも
しれないですね。
- 鴻上
- あきめたらそこで終わりです。
あきらめたら試合終了。
いま、打ち上げの席に18歳の人が
まじっていたりすると、
それだけで参加しない大人もいるらしいです。
18歳が何かの間違いで酒を飲んだら、
その席にいたことが問題になるからね。
本人がいくら「ジュースを飲みます」と言っても、
信用できない。
いつビールを飲んじゃうかわかんない。
未成年の飲酒の場にいた大人ということで、
大問題になる。
こんなふうに行き着くところまで
行きかけているいまだから、
この息苦しさに気づいて、
おそらく何らかの動きが出てきます。
ぼくはそう思います。
(明日につづきます)
2019-11-03-SUN
KOKAMI@network vol.17
「地球防衛隊 苦情処理係」
鴻上尚史さん作・演出の、
サードステージの新作舞台。
出演は、中山優馬/
原嘉孝(宇宙Six/ジャニーズJr.)/駒井蓮/
矢柴俊博/大高洋夫(敬称略)ほか。
ストーリーは、近未来。
地球は異星人や怪獣の襲撃を受けています。
人類を守るために創設された地球防衛軍は、
戦うエリート、人類の希望の星。
しかし、怪獣と戦うたびに副次的な被害が出てきます。
そして「苦情処理係」は、毎日、
住民のクレーム処理に追われることに。
ある日のこと「ハイパーマン」があらわれて‥‥。
「正義の正解」を追いもとめる、
現代の社会感情をユニークに反映した舞台です。
東京公演は2019年11月2日~24日、
大阪公演は11月29日~12月1日。
くわしくは
公式サイトへ。
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN