同じ時代に生きているのがうれしくなるような人に
出会うことがあります。
そんな人たちの世界のおおもとは、
いったい何でできているのでしょうか。
幼少期から現在に至る足取りをうかがう
連載シリーズの第3弾にご登場くださるのは
演出家で作家の鴻上尚史さんです。
鴻上さんは「自分で考える力をつける」ことの重要性を
著作でくりかえしおっしゃっています。
インタビューは、ほぼ日の菅野がつとめます。
悲劇と喜劇はいっしょにいる。
- ──
- 人の暮らしは、
笑ってばかりでもないけど、
泣いてばかりでもない、と。
- 鴻上
- そう。
ひとりひとりの人生は、重くて軽い。
表面的だけど深い。
それがあたりまえじゃないだろうか。
そういう演劇を、ぼく自身が観たかったんです。
人生には、
悲劇と喜劇が同時に存在していると
ぼくは思っています。
演出家のなかには「悲劇」が好きな人もいる。
古典も悲劇が多かったりする。
でも現実には
「純粋な悲劇」も「純粋な喜劇」も、たぶんない。
ひとつのできごとは、
ある視点から見れば悲劇ですが、
別の視点から見れば喜劇です。
「おもろうて やがて 悲しき鵜舟哉」というのは、
最初はたのしい喜劇なんだけど、
最後はせつない悲劇の様相をおびてくる、ということ。
でも、ほんとうはそういう感じでもなくて、
その両方の状況や感情が
「同時に」存在しているのが人間だし、
作品なんじゃないだろうかと、
ある時期からぼくは思っていました。
たいへんな事件のなかにも、
ものすごく馬鹿げたことが
まじりこんでいたりします。
人生に絶望して身を投げようとしている瞬間に、
「もしいま自分が死んだら、
あのパソコンのハードディスクに入っている
エッチな画像はどうなるんだろう。
みんなで見るんだろうか」
と考えて思いとどまる。
人生は悲劇だし、喜劇。
そのことはいつでも思っています。
- ──
- いつもは忘れたふりをしていますが、
人はみんな、どんなに笑っていても
最後は亡くなります。
- 鴻上
- そうそう。
- ──
- 特攻の飛行兵だった佐々木さんは、
ものすごい悲劇のなかにいらっしゃいました。
けれども、飛行機が好きだったこと、
尊敬する上官がいたことなど、
悲劇とは言い切れない豊かな感情が
戦地にあったのかもしれないです。
- 鴻上
- おそらくたのしいことがあったでしょうね。
しかし、ぼくが佐々木さんに興味をもったのは、
そこからもうちょっとだけ
先のところにあると思います。
あの戦争の悲劇が、
あまりにも悲劇だったからです。
「悲劇でありながら喜劇」という状況には、
ほんとうは、強靱な精神がないと
向かいつづけられないと思います。
「俺の人生、もうダメなんだよ」
と、悲劇におちいることは、じつは簡単です。
「とにかくたのしいことを追求しよう」
と、いろんなことに目を背けて
喜劇にすることも、わりに簡単。
悲劇と喜劇を同時に受けとめるのは、
ほんとうは強靭な精神がないとむずかしい。
- ──
- うーん、そうかもしれません。
- 鴻上
- あるできごとが起こったときに、
喜劇的な側面と悲劇的な側面、
つねに両方を見つめようとするのは、
しんどいわけです。
- ──
- けれども、生きていくために、
きっとその力が必要で‥‥。
- 鴻上
- そう。
だからぼくは佐々木さんのことを
知りたかったんだと思います。
佐々木さんは強靭な精神をもって、
悲劇だけを見つめたり、
喜劇だけを見つめることをしなかった。
戦時下に死ねと言われたのに、
9回帰って来たのは、
その強靭さにもとづいていたんだと思います。
- ──
- 本の中で佐々木さんはやっぱり、
空を飛ぶのがたのしかった、と
おっしゃっていましたね。
- 鴻上
- そう。ぼくもそれが結論です。
佐々木さんは、
ご先祖様のお考えだとか、寿命だとか、
いろいろおっしゃっていましたが、
最終的には、
「空を飛ぶのがほんとうに好きだ」という、
その一点。それが、
悲劇的な状況を突破する
理由だったんじゃないかと思います。
- ──
- 私は、日常でヘコむことがあったりすると、
強靱な精神を保てなくなるときがあります。
- 鴻上
- 誰だってなかなか保てないですよ。
だからこそ、佐々木さんのような人を
「こういう人がいたんだ」と知ると
がんばれるんじゃないでしょうか。
- ──
- そうですね。
- 鴻上
- 「好きなことやる」って、大きいです。
すごく大きい。
佐々木さんの場合は空を飛ぶことだったけど、
たとえば「好きなものを食べる」
それだけでも違います。
厄介なミーティングであればあるほど、
おいしいものを食べながらやるといいですよ。
- ──
- わははは。
- 鴻上
- いや、ホントに。
「やばいな」「どうしようこれ」なんていうときに、
空きっ腹でいたら暗い方向へ行きますよ。
悲しいことが起こりそうになったら、
とにかくフンパツして、
おいしいレストランでごはんを食べましょう。
ものすごくおいしいものを食べながら、
ものすごくヤバい話をすればいいんです。
- ──
- 健康や人間関係、金銭のこと、
人にはいろんな壁があります。
不安になったり落ち込んだりします。
でもそういうときに、
いつも「暗く明るく」の両方を
見ていられる人でありたいです。
あのとき飛行機に乗った佐々木さんのように。
- 鴻上
- 思います。
すごく思います。
(明日につづきます)
2019-11-02-SAT
KOKAMI@network vol.17
「地球防衛隊 苦情処理係」
鴻上尚史さん作・演出の、
サードステージの新作舞台。
出演は、中山優馬/
原嘉孝(宇宙Six/ジャニーズJr.)/駒井蓮/
矢柴俊博/大高洋夫(敬称略)ほか。
ストーリーは、近未来。
地球は異星人や怪獣の襲撃を受けています。
人類を守るために創設された地球防衛軍は、
戦うエリート、人類の希望の星。
しかし、怪獣と戦うたびに副次的な被害が出てきます。
そして「苦情処理係」は、毎日、
住民のクレーム処理に追われることに。
ある日のこと「ハイパーマン」があらわれて‥‥。
「正義の正解」を追いもとめる、
現代の社会感情をユニークに反映した舞台です。
東京公演は2019年11月2日~24日、
大阪公演は11月29日~12月1日。
くわしくは
公式サイトへ。
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN