同じ時代に生きているのがうれしくなるような人に
出会うことがあります。
そんな人たちの世界のおおもとは、
いったい何でできているのでしょうか。
幼少期から現在に至る足取りをうかがう
連載シリーズの第3弾にご登場くださるのは
演出家で作家の鴻上尚史さんです。
鴻上さんは「自分で考える力をつける」ことの重要性を
著作でくりかえしおっしゃっています。
インタビューは、ほぼ日の菅野がつとめます。
お前の人生、いつもそうか?
- 鴻上
- 高校生になって、
ぼくは生徒会長になりました。
高校には無意味な校則がたくさんありました。
校則に関しては、
1校だけで何かを言っても意味がないので、
まとめてみようと思いました。
当時、愛媛県の公立高校は
54校ぐらいあったんだけど、
みんなでまとまってものを言えば、
どうにかなるんじゃないかと思って。
ぼくは新居浜西高という高校の生徒会長でした。
新居浜東高の友達がいたので、
「生徒会に立候補しない?」とすすめ、
隣町の人とも知り合いになって、
みんなで立候補しました。
そして、週末を使って、
愛媛じゅうの生徒会の人に会いにいきました。
そんなふうに活動して、県内で
高校生徒会連合をつくりました。
- ──
- でも愛媛って、けっこう広いですよね。
高校生には大変だったんじゃないでしょうか。
- 鴻上
- 愛媛は細長い県です。
松山にも行ったし、
八幡浜という遠いところには、
新居浜から電車で6時間くらいかけて行きました。
愛媛は「東予」「中予」「南予」という
3つの地域に大きく分かれます。
ぼくの学校は「東予」にあったので、
「東予」の担当でした。
「東予」の20校ほどで集まって、
各高校の校則を調査した本をつくりました。
いまのミニコミ誌のような、
それなりに分厚い冊子です。
「A高校は女子のストッキングの色は黒。
肌色は高校生らしくないから不可」
ところが
「B高校のストッキングは肌色指定」
黒はなぜダメなのか訊いたら、
「生徒指導の先生が娼婦っぽいと言った」
という報告でした。
- ──
- A高校が「高校生らしい」とする黒に、
B高校の先生がちがうイメージを抱いていた‥‥。
- 鴻上
- そうやって見ていくと、
校則に根拠がないことがわかります。
- ──
- その冊子、何部ぐらい刷ったんですか。
- 鴻上
- 300部ぐらい刷ったけど、
おおっぴらには配れないんです。
つまり、配ったりしたら先生に
生徒会連合東予支部の存在が
バレてしまうので。
- ──
- それ、内緒の組織だったんですか。
- 鴻上
- もちろん。
内緒で集まって、内緒で本をつくった。
校則に根拠がこんなにもないことを
かたちにするからみんなに役立ててほしい、
ということが目的でした。
- ──
- 生徒会の横の連携が、
先生にバレちゃいけないのか‥‥。
- 鴻上
- 高校卒業のとき、生徒指導の先生に
「鴻上ちょっと来い」と言われました。
生徒指導の、とても厳しい先生でした。
「愛媛県の生徒会連合って知ってるか?」
と問われて、
「何の話ですかね」
とぼくはとぼけました。
「◯◯高校の新しい生徒会長が、
生徒会連合の会議に参加していいでしょうか、と、
先生に許可を求めたらしい」
と。
- ──
- まずい。
- 鴻上
- まずいよ。
「生徒会連合って、俺は初耳なんだけど、
おまえ、何か噛んでいるのか」
- ──
- ひぃええ。
- 鴻上
- 「いえ、何の話でしょうね、
ぜんぜんわかんないですけど」
とぼくは応えました。
当時、ちょうど
ロッキード事件というのがあったんですよ。
- ──
- 元首相が逮捕、起訴された事件ですね。
- 鴻上
- 「最近は政治家も、汚職があったのに、
ないって嘘をつくんだよなぁ」
と先生に言われてヒヤヒヤしました。
その、正直でやさしい、
新しい生徒会長の発言が発端となり、
芋づる式にズルズルとばれていって、
結局ぼくたちが卒業した次の年に、
生徒会連合はつぶされました。
- ──
- いまから考えると、
よろこばしい活動だと思いますが。
- 鴻上
- いやぁ、いまもダメでしょう。
- ──
- 生徒の自主性をのばす、と
どの学校も言っていますよ。
- 鴻上
- いやぁ、ダメです。
そんなことをしたら先生は焦って、
いまでもえらいことになるでしょう。
高校生まではたいていそんな扱いを受けます。
そのぶん大学に入ったらもう、
ぼくはのびのびと自分の演劇をやりました。
- ──
- 未成年だから、ということなのかなぁ。
鴻上さんは、中学高校大学と、
ずっと演劇をなさったんですね。
- 鴻上
- うん。結局、
演劇ばっかりやってるね。
- ──
- いまもこれからも、ずっとですよね。
- 鴻上
- ずっとやってんですよ。
- ──
- 「ほぼ日」のスタッフにも
演劇をやっていた者がいます。
鴻上さんが早稲田大学で活動していた頃、
すごい注目が集まり、みんながまぶしく見ていたと、
そのスタッフは言っておりました。
鴻上さんの演劇は、それまでとまったく違った、
新しいものだった、と。
たしかに私にも、「演劇」というアートには、
難解で湿気の高いイメージがありました。
鴻上さんは、カラッとした新しい演劇を
どんなふうにして開拓されたのでしょうか。
- 鴻上
- それはもう、単純なことです。
自分の観たいものをつくっただけなんですよ。
その当時、演劇界に
コメディはたくさんありました。
コメディを観にいくと、たのしいですよね。
でもなんだか、もの足りないです。
もう少しひっかかりがあって、
ガツッと訴えかけてくるものが
含まれているといいのにな、と思っていました。
一方、新劇を観にいくと、
ガツッとはくるけど、ものすごく深刻です。
おまえたちはずっと思い悩んでいなけりゃならない、
とでも言うようにね。
ぼくは思いました。
「お前の人生、いつもそうか?」
「たのしいばっかりか? 悲しいばっかりか?」
「たのしいときも、悲しいときも、あんだろうよ」
そこがスタートでした。
(明日につづきます)
2019-11-01-FRI
KOKAMI@network vol.17
「地球防衛隊 苦情処理係」
鴻上尚史さん作・演出の、
サードステージの新作舞台。
出演は、中山優馬/
原嘉孝(宇宙Six/ジャニーズJr.)/駒井蓮/
矢柴俊博/大高洋夫(敬称略)ほか。
ストーリーは、近未来。
地球は異星人や怪獣の襲撃を受けています。
人類を守るために創設された地球防衛軍は、
戦うエリート、人類の希望の星。
しかし、怪獣と戦うたびに副次的な被害が出てきます。
そして「苦情処理係」は、毎日、
住民のクレーム処理に追われることに。
ある日のこと「ハイパーマン」があらわれて‥‥。
「正義の正解」を追いもとめる、
現代の社会感情をユニークに反映した舞台です。
東京公演は2019年11月2日~24日、
大阪公演は11月29日~12月1日。
くわしくは
公式サイトへ。
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN