同じ時代に生きているのがうれしくなるような人に
出会うことがあります。
そんな人たちの世界のおおもとは、
いったいどんなものでできているのでしょうか。
子ども時代から現在に至る足取りをうかがう
連載シリーズ第2弾にご登場くださるのは
グラフィックデザイナーの祖父江慎さんです。
祖父江さんは、どのような子ども時代をすごして、
すごいデザイン作品をうみつづける大人に
なったのでしょうか。
インタビューはほぼ日の菅野がつとめます。
普通にしなさい。
- ──
- 祖父江さんの子ども時代のことを
うかがいたいと思います。
- 祖父江
- 子ども時代かぁ、
もう100年も昔のことだからなぁ。
(コーヒーを飲む)ごぶっ。
- ──
- だいじょうぶですか。
- 祖父江
- おぼれたよね。
いま、コーヒーでおぼれました。
- ──
- はい、おぼれられました。
- 祖父江
- はぁぁ、ここが空気の場所だということを
忘れていました。
水中かと思っていた、危なかった。
- ──
- ‥‥‥‥。
- 祖父江
- で、えっと、なんでしたっけ?
- ──
- 祖父江さんに、
子どもの頃の話をうかがっても
しかたがない気がしてきました。
- 祖父江
- なぜ?
- ──
- 祖父江さんはきっと、ずっと、
変わっていらっしゃらないですよね。
子どもの頃からそのままで。
- 祖父江
- いや、それが
(手をブンブン振る)
ぜんぜん、変わったの!
- ──
- え!
- 祖父江
- えーー!!
- ──
- (驚いてるのはこっちです)
えー!!
- 祖父江
- ぼくはいまたぶん、人から見れば
多動みたいな感じでしょ?
いつもじっとしていられないですもんね。
だ・け・ども、
子どもの頃は、動きもしなかった。
ちょうどいまと逆です!
- ──
- うわ、そうなんですか。
- 祖父江
- あのとき動いてなかったから、
いま多動になったのかな?
- ──
- 何がきっかけで変わったんですか?
- 祖父江
- 2年生のときぐらいだったかなぁ、
小学校の先生から
「しんちゃんはいつもじーっとして、
ひとりでいるし、あんまりしゃべらないから、
口がちっちゃくなって
ほっぺが大きくなっちゃってるでしょう?
もう少しお友達と遊びましょう」
と言われて、
「あ、そうなんだ!」
と気づきました。
- ──
- とてもしずかな
子どもだったのでしょうか。
- 祖父江
- 赤ちゃんのときから
どこに連れてってもぐずることがなかったそうです。
紙と鉛筆さえあれば、
もう、一生、ほっとける。
- ──
- 子ども時代から、一生‥‥。
- 祖父江
- ぼくは正座が好きだったので、
部屋の隅っこで、
床に紙を置いて、正座して、鉛筆で、
どうでもいい絵を一所懸命描いていました。
そのことに没頭し続けていたせいで、
友達と遊ぶのは苦手でした。
まずぼくは、男子の遊びが嫌いだったんです。
- ──
- チャンバラとか、そういう遊びですか?
- 祖父江
- ちゃうの。
あのね、男の子の遊びって、
メンドくさいんですよ。
「ンもう、くっだらな~い、男子!」
といつも思ってました。
男子の遊びって、まず
ルールを決めるんだよね。
ルールに飽きるとそのときどきでチェンジして、
「じゃあ次、こういうことにしようぜぃ!」って、
それにのっとって遊ぶ。
子どものときのぼくは、いつも心で
「それ、ばからしくない~???」って思ってた。
作ったルールのなかで勝つかどうかって、
どうでもいい感じ。
そもそもルールを覚える気になんないっしょ?
- ──
- かといって女子の遊びも
ちょっとずつ意味不明になっていくところが
ないですか?
- 祖父江
- そうねぇ、
女子はわりとルールなしで遊びますし、
ぼくは「ごっこ遊び」が好きで、
よろこんでやってました。
でもね、女の子も、
強い子がいてね、叩くのがとにかくめんどくさかった。
あと、女の子は、
遊びと現実がわかってなくて、ウソつくでしょ?
- ──
- お姫さまごっこをやっているうちに、
だんだんほんとうにお姫さま気分になったり。
- 祖父江
- ぼくが遊んでた女の子は、
とつぜんものを盗ってったりしたんですよ。
あれ、なんでだろう?
びっくりすることが多かった。
そんなこんなで、ぼくは結局、
ひとりで遊ぶのが好きでした。
- ──
- 先生に、おしゃべりしないと言われて、
どう思いましたか?
- 祖父江
- 自分のことってわかんないから
「へー、そうなんだ」と気づきました。そして、
「じゃあしゃべるようにしなきゃ!」
と思った。
だけど、急にしゃべりだすと
まわりが「どうしたの?」って心配するじゃん?
かといって、徐々にグラデで変えていくのもつらい。
だから転校したときに、
「よかった! ここは知らない子ばっかだ!」
という状況になって、そこで
「しゃべる子になろう」としました。
おしゃべりな子に、そこからなった。
- ──
- 転校があってよかった。便利でしたね。
- 祖父江
- うん。
子どもだったから、すぐ変われました。
大人はそんなふうに変われませんよね。
なにか宗教に入るとかそういうことでもないと、
急に性格を変えられません。
まわりを巻き込んでややっこしくなりますから、
大人はたいへんです。
- ──
- しかし‥‥、祖父江さんは、
転校したとはいえ、
とつぜんしゃべるような性格に、よくなれましたね。
- 祖父江
- でも、度合いが分からなくて、
こんどはしゃべりすぎた。
結局は「ほどほど」が苦手な子でした。
- ──
- なるほど、なるほど。
- 祖父江
- 「しゃべる子」「しゃべらない子」
という区分けじゃなくて、
子ども時代のぼくは、つまり
「ほどよさ」が苦手だったんです。
社会に出てからもしばらくはそうでした。
最初の就職先の上司から
「これ、小さいんじゃないか」
と言われて、作り直したら
「大きすぎだろ。
なんでちょうどいいところがわからない?」
とよく言われてました。
- ──
- でも、誰だって
生きるのははじめてですし、慣れないし、
なんでも「ちょうどいいところ」って、
わからないですよね。
- 祖父江
- しかもぼくらは、
知ってる世界がそんなに広くないんですよ。
せいぜい100人ぐらいの中で生きてるし、
友達ってだいたいひとりくらいでしょ?
そしたら「通常」を知るチャンスはないんです。
「普通にしなさい」というのは
ほんとうはものすごく難しいんですよ。
「よりどうしてほしいか」を
言ってくれればいいんだけど、だいたいの場合、
「普通にしなさい」って言われるから。
(明日につづきます)
2019-03-15-FRI
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN