11メートルという距離は、
十数歩で歩けるでしょうから、
散歩好きにはとるに足りないでしょうが、
アズーリにとっては
2年ごしの因縁の距離になりました。
2006年7月、アズーリは
PK戦を制してW杯に優勝しました。
そしてそれから2年後の今年、2008年6月、
EURO2008準々決勝戦がまたもやPK戦にもつれこみ、
しかし今回は、ゴールを外したアズーリが負けました。
もうお分かりでしょうか、11メートルというのは、
ペナルティ・スポットからゴールラインまでの長さです。
2年前はフランスのトレセゲがPKを外し、
イタリアが優勝しましたが、
先月は、イタリアのディ・ナターレがPKを外した後、
スペインのファブレガスが入れて勝負がつきました。
結果だけを見れば、マルチェッロ・リッピ監督は
対戦相手の1本のPKミスで世界一になり、
ドナドーニ監督は対戦相手がミスをしなかったために、
負けの責任をとらされて退任しました。
しかし、PK戦までの試合の本質は、
W杯ドイツ大会もEURO2008も変りません。
アズーリは2試合とも
全く同じようにプレイしていました。
異なるのはPKのミス、たった1本です。
そんなリッピ監督が、
EURO2008から敗退したアズーリを、
ふたたび監督することになりました。
リッピ監督が返り咲くことになったのは、
まさに運命のいたずらとしか思えません。
リッピにとっては吉と出た11メートル、
というところでしょうか。
W杯の歴史の中で、2回の優勝をおさめた監督は、
ひとりしかいません。
しかもそれはイタリア人のヴィットーリオ・ポッツォで、
1934年と1938年にイタリアを優勝させました。
さて70年前にポッツォが成した快挙を、
リッピは繰り返せるでしょうか、期待されるところです。
そしてたぶん、リッピが戻ったとなれば、
2006年にアズーリを去った二人の世界チャンピオン、
トッティやネスタも戻って来る可能性があります。
ふたりがアズーリを去った時にも
いくつもの論争が巻き起こりましたが、
彼らがリッピの希望を受け入れて戻る場合、
もっと激しい議論が展開されることが予想されます。
実際のところ、リッピと再契約した裏には、
イタリアのフェデレーションの弱気が見え隠れします。
つまり、もしも2年後のW杯南アフリカ大会で
アズーリが負けた場合、
当たり前に監督の選択への批判が出るでしょうから、
その時に
「我々は、ユヴェントスを率いても、
アズーリを率いても
勝利の実績のある監督を採用したまでだ」
と言って批判を逃れるつもりなのではないかと‥‥。
ただし、リッピはしばらく仕事をしていなかったので、
過去はともかく、将来のことは見えない部分もあります。
イタリアサッカー界の不正試合スキャンダルの一連を
「カルチョーポリ」と言いますが、
リッピの息子ダヴィデがその酷い話に巻き込まれ、
チームを犯罪に関与させる片棒をかついだということで、
告訴され、裁判になっていましたから。
(2年間のブランクの最初のころは、リッピ自身も、
自分が表舞台から身を引いたのは
正しい判断だったと言っています。)
ダヴィデ・リッピは、まだ調べられていますが、
父親のマルチェッロは、
もう失業し続けてもいられないということで、
アズーリの監督に戻ることを承知したのです。
じつは彼は、
レアル・マドリードかチェルシーの引き合いを
待っていたのですが、
お呼びは一向にかかりませんでした。
いずれにせよ、華やかな存在とは言え
「ひとりの失業者」にとって、
世界チャンピオンであるアズーリの監督の座は、
やはり素晴らしい再就職先でしょう。 |