<不定期連載>料理研究家・藤井恵さんと考えるおかあさん、ちゃんとごはん食べてる?
<不定期連載>料理研究家・藤井恵さんと考えるおかあさん、ちゃんとごはん食べてる?
いっしょに考える人 料理研究家 藤井恵さん

藤井恵(ふじい・めぐみ)

料理研究家。
女子栄養大学栄養学部卒業。
大学在学中よりテレビ番組の
料理アシスタントを務める。
大学卒業と同時に22歳で結婚、
25歳で長女、29歳で次女を出産。
5年間専業主婦、子育てに専念し、
30歳でテレビのフードコーディネーターとして復帰。
以来、雑誌や書籍、テレビなどの各種メディア、
講演会などで活躍。
現在、日本テレビの『キューピー3分クッキング』の
レギュラー講師を務める。

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歳を取ると、油っこいものを好まなくなったり、
肉よりも魚のほうが口に合うようになる、
などと言われますが、
身近な年配の方々をよくよく観察してみると、
意外とお肉好きのひとも多いですし、
和食だけでなく、フレンチ、イタリアン、中華、
なんでもおいしそうに
召し上がってる方も少なくありません。

わたしの母も、その例外ではなく、
「なにか食べたいものある?」と尋ねると、
満面のニコニコ顔とともに、
「カレーかな? あとギョウザ!」
なんて、小さな子供みたいな
返事が返ってくることが、よくあります。

また、なぜかたびたび、
リクエストに登場するのが『ちらし寿司』です。


▲目からも食欲をそそるように、
彩りを意識して盛り付けます。


▲酢飯に混ぜる具材は、ごぼう、れんこん、にんじん
干ししいたけ、油揚げ。薄味に煮て、
切りごまを混ぜ、精進仕立てに。


▲ 卵焼き、絹さやをのせて、
あとはいくらを散りばめれば、でき上がりです。
この日の母は、庭に自生しているみつばと豆腐のお吸いもの、
みつばのお浸しを用意して待っていてくれて、
夫と娘たち、母と5人でおいしく、楽しくいただきました。

そういえば、今さらながらに気がついたのですが、
ぎょうざやカレー、ちらし寿司にしても、
いずれにせよ、ひとりでつくって、ひとりで食べる、
というような料理ではないのですよね。
「こんなものが食べたいと思えるくらい、元気でよかったわ」
くらいに、のんきに考えていましたが、
繰り返しリクエストに登場するこの3つは、
母にとって、家族との楽しい思い出と結びつく、
幸せな時代を象徴するメニュー、
ということなのかもしれません。
そう思うと、なんだか胸がキュンとしたりして‥‥。

どんなに体によくても、
おいしい、楽しいと思えなければ、
当然、食も進まなくなるわけで、
このあたりが思案のしどころ、
わたしの腕の見せどころです。

とはいえ、今、ちょっと悩ましいのが、
デリバリーの段取りです。
うちの母は、幸いにして
そんなに遠くで暮らしているわけではないので、
おかずを届けるときは、大きな袋をぶら下げて、
電車やバスに乗り、てくてく向かいます。
それでも、往復にはそれなりの時間がかかりますし、
いろいろと積もる話もあったりして、
ちょっと長居をすると、
結局、1日がかりになってしまいます。

都合さえ合えば、わたしだけでなく、
夫や娘といっしょに訪ねることもあり、
そんなときは、やはりにぎやかで
母も喜んでくれるのですが、
家族もみな、仕事や学校がありますし、
休日といえども、それぞれに予定があるので、
こういうお楽しみも、
そうしょっちゅうというわけにはいきません。

本当は、毎日でも、
おかずを届けてあげたいし、
話を聴いてあげたい。
ただおかずを届けるため、ということであれば、
宅配便という手もなくはないのですが、
それもなんだか、ズルをしているような‥‥。

母だって、たぶん淋しいんです。

ですから、わたしも時間の許す限りは
できるだけ足を運びたいとは思っているのですが、
実際は、持っていくおかずをつくるための
時間をひねり出すのも、やっとこさです。

以前は、我が家で食べる分から
少しずつ取り分けたりもしていましたが、
家族にとっては人気メニューでも、
母の好物であるとも限らず、
また、持ち運びに適したおかずばかりでもないですし、
暑い時期などには、
傷みやすいものを避けるなど注意も必要。
いろいろ考えていると、
この方法は、どうしても限界があります。

となると、母に合ったものを
最初からつくるのが一番よいのですが、
1~2品ならともかく、
たとえば1週間、
飽きずに食べられるくらいの、バリエーションを、
と思うと、これもまたハードルが高くなります。

そんなわけで、わたしが届けたデリバリーおかずの
ストックがつきると(あるいは飽きる、もしくは忘れると)、
母は最近、コンビニでお総菜を買うこともあるようです。
わたしとしては、心中複雑なところでもあるのですが、
(そのあたりは、お察しください)
母に言わせれば
「あら、わりとおいしいし、
いろいろ迷いながら選ぶのも、楽しいのよねぇ」
だそうで、案外ケロリとしたもの。
それはたぶん、手軽さに頼っているということだけではなく、
アレコレと迷い、自由に選べることがうれしい、
ということも、ありそうです。

母がなにを食べたいか、
わたしもよく判っていませんでしたが、
母自身も、
「なにが食べたい?」と聞かれても、
うまく答えられないようです。

そういえばこのパターン、
どこかで見覚え、聞き覚えがあると思ったら、
ホラ、あれ!

朝、出がけの旦那様に
「今晩、なに食べたい?」
と、たずねてみたら、
「べつに、なんでもいいよぉ」
なんていわれてプンプン、という
再現ドラマなどによく出てくる、
あのシーンです。

でもコレって、こちらは、
相手の意見を尊重しているつもりでも、
実は、自分が考えることを放棄している、
という一面もあるわけで、
よく考えたら、そんなことを急にいわれても、
とっさに「今夜は絶対◯◯が食べたい!」、
なんて思いつかないですよね。

まして、体を動かしたり、
近所を出歩くことすら、
あまりない母であれば、
「あぁもう、おなかがペコペコ~」
なんていうこともないでしょうし、
たぶん手近なものを適当に食べて
お腹を満たすことができれば、
別に不満もないのだと思います。

逆にいえば、その『適当に済ませて』いるあたりが、
こちらにしてみれば
一番の心配のタネだったりするわけですが、
じゃあ、本当になにも食べたいものがないかといえば、
必ずしもそうでもないような気もします。

「そういえば、あんなものが食べたかった」
と、思い出してくれさえすれば、
案外、いろいろ出てくるんじゃないかしら、
と考えて、思いついたのが、
名づけて『単語帳式メニュー作戦!』。

要は、食べたいものを
リアルに想像できればいいわけですから、
まずは、レストランのように
メニューの一覧をつくってみようと思いました。
しかし、アレもコレもと、ずらずら並んでいても、
読み流されてしまいそう。
それならと考えついたのが『単語帳形式』です。
つまり、学生時代、英単語を覚えるのに使った、
リングで綴じてある、あの単語帳です。
一枚一枚に、料理名を書いて渡し、
時間があるときに、食べたいものを
いくつかチェックしておいてもらえば、
そのリクエストに応える形で、
こちらもアレコレ迷うことなく、
安心して準備ができますし、
母も、過不足なく好きなものが食べられるはず!

ついでに、文字だけでは
料理のイメージが湧きにくいかもしれないので、
つくった料理をポラロイドカメラで
バシバシ撮って、添えることにしました。
う~ん、これは我ながら名案?

さて、その結果はいかに‥‥。

(次回に続きます)

●メールをご紹介します。(編集部より)

引き続き、たくさんのメールをいただいています。
厚くお礼を申し上げます。
藤井恵さんからのお返事とともに、
いくつかご紹介いたします。

お姑さん、82才。
1人暮らしで、私(ヨメ47才)の家から、
車で2時間ほど、離れて暮らしています。
小さな畑でたくさん野菜を作って食べている姑。
ひと月に1度帰ったときは、
美味しいぬか漬けや、おひたし、煮物などなど、
たくさん食べさせてくれます。
とはいえ、高齢の姑さんに
いつまでも頼りっきりというわけにもいかないと思いつつ、
野菜料理のノウハウはどうみても、姑さんが上手で、
それ以外で、どんなものなら
食べてもらえるか分からないし、と思っていたのですが‥‥。

そこで!
お正月、思い切って、血の滴るような
ローストビーフを持っていったら、
パクパク、パクパク!
年越し蕎麦も、ていねいに出汁を引いて、汁を作り、
鰊蕎麦にしたら、汁まで残さずペロリ!
「ローストビーフは初めてだけど、美味しい。
牛肉が柔らかく、お刺身感覚でいただけた。
蕎麦は、1人だと市販のツユで済ませるけど、
出汁の味はやっぱり美味しい。鰊蕎麦も初めて食べた!」
と、お褒めの言葉をいただきました。
つまり、普段食べたことのないものでも全然オッケーだし、
普段、面倒で手を抜いているものを、
他人がやってくれると嬉しい、
ということだったのだと思います。
お料理って、時代ごとに流行りがあるし、
自分が食べたいものも変わっていくけれど、
女性(おばあさん)は、
いくつになっても、新しい美味しいものは
食べてみたい、と思っているのでは、と思いました。
(K.S.)

もともと食に興味がある方は、
自分でつくることを存分に楽しみつつ、
誰かに作ってもらう料理に対しても、
新たな発見に心を躍らせながら、
感謝の気持ちで向き合うことができるのかもしれませんね。
いつまでも、新しい味にわくわくできる人生って素敵。
わたしも、そんなふうに年を重ねていけたらと思います。

85歳の母と52歳の私は、共にひとり暮らし。
電車と徒歩で約30分の道のりを、
毎週土曜日、1週間分の食糧と日常品の買い出し、
その日のご飯づくり、
話し相手の役割を果たすために通っています。
はじめは母が私に『母の味』を
振る舞ってくれる週末でしたが、
いつの頃からか、それは母が食べたいご飯を
私が作る週末となりました。
一緒にスーパーの食材を眺めて買い出し。
お台所まわりの拭き掃除をしながらご飯を作るという、
土曜日のたった半日のことですが、
母にも私にも今となっては重要なサイクルです。

とはいえ出来るところは自分でやってもらうことも重要。
だから私はあえて、ひじきや切り干し大根、煮付け
といった母の作れるものは一切作らず、
むしろ作って作って、とおねだり。
そして私が作るのは、母がもう絶対に作らない
揚げ物、中華、ニッポンの洋食等の主菜です。
お互いに自分だけのためならば
作らないものを作り、一緒に食べます。

また「これがあれば新しい発見をしてくれそう」
と思えば勝手に取り込みます。
エキストラヴァージンオリーブオイルや外国産の岩塩、
自分では取らないだしのパックがあれば勝手にお裾分け。
季節の果物でジャムを作り、お裾分けすれば
朝のパンが進むようです。
少し贅沢な調味料、そして季節の恵みは強い味方です。

でも‥‥それよりなにより
『たまにはひとりではない食卓』。
これがいちばんの御馳走なのかも。
一緒に食べると「私より食べてるかも!!」まさしく、です。
普段は呑まないお酒を、
週末の一緒の食卓の時だけ、たしなむ母。
必ず乾杯してからいただきます。

『おかあさん、ちゃんとごはん食べてる?』
恵さんのこの言葉に共感する人は
私ばかりではないでしょう。
私も元気な母と一緒に美味しい食卓を囲む時間が
少しでも長く続くように、そんな願いを込めて
お付き合いさせていただきたく思います!
(ふじいみきこ)

いっしょに台所に立ち、
食卓を囲んで、母娘で仲良く乾杯をされている、
微笑ましい情景が目に浮かぶようです。
親が元気なうちは、むやみに食を押しつけるのではなく、
いっしょに楽しむことの大切さを、改めて感じました。

うちは、高齢の両親と私、娘51歳と3人同居です。
食事の支度はもっぱら母がしておりました。
昨年辺りから、腰の具合が悪くて長く立っていられないのと、
物忘れがひどくなってきたからなのか、
食事の内容が単調になってきました。
で、今年から出来るだけ私が作ることにしました。

好き嫌いがないのはいいのですが、
常備菜のつもりで、
3日くらいは大丈夫と思い作り置きしていても、
一度で食べてしまうという事があまりに多く、
結局、昼はお弁当スタイルに切り替えました。
そうすると、適量を食べてくれるようで安心しました。

そのうち、母が入院し、
父の食事は、昼はお弁当、夜の主菜はお皿にラップ、
副菜はタッパ、汁物はお鍋で用意するようにしました。
父、母ともに、味がしっかりしていないと
満足しないので困りものです。
ただ、甘味に関しては、
料理にさつま芋を少し入れると満足するので、
さつま芋を使用する機会が増えました。

藤井さんの連載が、タイミング良く始まりましたので
参考にさせていただき、母の介護、続けたいと思います。
あっ、一昨日 母は退院しました。
連載楽しみにしています。
(bluestar)

ご両親共に、一度にたくさん召し上がるんですね。
そういえば、わたしの夫の祖母も、
「おまんじゅうを10個置いておくと一度に食べてしまう」、
と、義母もそれを心配していました。
でも90歳を過ぎた今も、すこぶる元気なおばあちゃんで、
やはり食欲は、生きる原動力とも感じます。
食欲と健康、うまくバランスが取れると良いですね。

ご心配なく。
毎日ちゃんと食べています。82歳です。
一人暮らし。
いろいろ、おおざっぱなところもありますが、
やっぱり、お人さまの作ったものよりも、
自分で作ったものが一番おいしい。
残ったら明日食べるからいいや、と罪悪感?もありませんし。
そこのところを押さえて、量は二人分を目安に作ります。
突然、娘がやってきて
「今日のご飯なあに」と言われても慌てない。
きっちり、それなりのものを食べさせて帰らせます。
こんな調子ですから、
いっこうに娘の料理の味になじめないのかもしれませんね。
食はたしかに細くなりました。一日だいたい二食です。
ここ十年の体重はプラスマイナス1kg前後で、
今は45kgです。
(シナモン)

[藤井さんより]
自分自身の食事の仕度を無理せずに、
自分のペースで続けることの大切さを感じました。
しっかりとした料理の段取り、
残りものの案配まで、きちんと配慮できる
頭の中の整理整頓、
そして過不足のない体重維持。
これもお人柄のたまものでしょうか。
本当に頭が下がります。

『おかあさん』ではなく、
『おばあちゃん』ですが、心配です。
おばあちゃんは、84歳になりました。
徳島で一人暮らしをしています。
畑をぼちぼちやっていて、元気ではありますが、
やっぱりだんだんと、体の調子の悪いところが出てきて、
夏や冬は、たいてい
テレビのお守りをしているそうです(本人談)。
叔母が2人、それぞれ嫁いで徳島に住んでいるので、
たまに食材や、できあいのものを
買って持っていったりしてくれていて、
近所の方も、釣った魚や、
なんやかやを届けてくれるようです。
でも、やっぱり、なかなか自分で料理、
というのが難しいようです。
仏さんにごはんをお供えするのが日課なので、
白ごはんは炊いているようですが。
ごはんだけじゃなぁ‥‥。
家に行くと、いつも、冷蔵庫にいっぱい牛乳や豆腐や卵が
(食べきれないくらい)入っています、
買い物が趣味の叔母が、たくさん買ってきてくれるのです。
「こんなに食べきらんもん」とのこと。そりゃそうだ。
昔は土間だったため、床が低い台所は、汚れもたまりやすく、
冷蔵庫もとても汚い…衛生面がこれまた心配です。
私も、子どもが生まれた今は、
年に一回、お正月にしか行ってあげられません。
もっと近くにいて、
一緒に食卓を囲むことができたら、と思います。
大好きなおばあちゃんなので、
元気に長生きしてほしいと、願うばかりです。
(ゆうこ)

[藤井さんより]
たとえ離れて暮らしていても、
年に一度、お正月にしか顔を見られなくても、
お祖母様にとっては、
いろいろと心配りをしてくれるお孫さんの存在は、
きっと、心のよりどころのひとつに
なっておられると思います。
叔母様方や近所の方のように、
近くでこまめにケアできる方と、
遠くから俯瞰できる立場の方、
両方からうまくサポートして差し上げられるといいですね。


いただいたメールを、全部ご紹介できないのが、
とても残念でならないのですが、
すべて一通一通、じっくり読ませていただいています。
『高齢になった親のための食事』という点では、
もちろん、みなさん共通していますが、
ご家族ごとに、こんなにも多彩なケースがあるのかと、
改めて驚くとともに、ひとつひとつのメールに込められた、
その真摯な思いに心が洗われ、
ずぅっとモヤモヤとしていた私の気持ちの中で、
なにかが少しずつ、変わり始めているような気がしています。
ありがとうございます。

メールは引き続き、募集しています。
ぜひ、あなたの思いも聞かせてください。

藤井恵さんによる
「おかあさん、ちゃんとごはん食べてる?」は
今回でひとまずおしまいです。
お読みくださったみなさん、
本当にありがとうございました。
よろしければ、ぜひ感想のメールをお送りください。
藤井さんにお届けいたします)