歳を取ると、油っこいものを好まなくなったり、
肉よりも魚のほうが口に合うようになる、
などと言われますが、
身近な年配の方々をよくよく観察してみると、
意外とお肉好きのひとも多いですし、
和食だけでなく、フレンチ、イタリアン、中華、
なんでもおいしそうに
召し上がってる方も少なくありません。
わたしの母も、その例外ではなく、
「なにか食べたいものある?」と尋ねると、
満面のニコニコ顔とともに、
「カレーかな? あとギョウザ!」
なんて、小さな子供みたいな
返事が返ってくることが、よくあります。
また、なぜかたびたび、
リクエストに登場するのが『ちらし寿司』です。
彩りを意識して盛り付けます。
干ししいたけ、油揚げ。薄味に煮て、
切りごまを混ぜ、精進仕立てに。
あとはいくらを散りばめれば、でき上がりです。
この日の母は、庭に自生しているみつばと豆腐のお吸いもの、
みつばのお浸しを用意して待っていてくれて、
夫と娘たち、母と5人でおいしく、楽しくいただきました。
そういえば、今さらながらに気がついたのですが、
ぎょうざやカレー、ちらし寿司にしても、
いずれにせよ、ひとりでつくって、ひとりで食べる、
というような料理ではないのですよね。
「こんなものが食べたいと思えるくらい、元気でよかったわ」
くらいに、のんきに考えていましたが、
繰り返しリクエストに登場するこの3つは、
母にとって、家族との楽しい思い出と結びつく、
幸せな時代を象徴するメニュー、
ということなのかもしれません。
そう思うと、なんだか胸がキュンとしたりして‥‥。
どんなに体によくても、
おいしい、楽しいと思えなければ、
当然、食も進まなくなるわけで、
このあたりが思案のしどころ、
わたしの腕の見せどころです。
とはいえ、今、ちょっと悩ましいのが、
デリバリーの段取りです。
うちの母は、幸いにして
そんなに遠くで暮らしているわけではないので、
おかずを届けるときは、大きな袋をぶら下げて、
電車やバスに乗り、てくてく向かいます。
それでも、往復にはそれなりの時間がかかりますし、
いろいろと積もる話もあったりして、
ちょっと長居をすると、
結局、1日がかりになってしまいます。
都合さえ合えば、わたしだけでなく、
夫や娘といっしょに訪ねることもあり、
そんなときは、やはりにぎやかで
母も喜んでくれるのですが、
家族もみな、仕事や学校がありますし、
休日といえども、それぞれに予定があるので、
こういうお楽しみも、
そうしょっちゅうというわけにはいきません。
本当は、毎日でも、
おかずを届けてあげたいし、
話を聴いてあげたい。
ただおかずを届けるため、ということであれば、
宅配便という手もなくはないのですが、
それもなんだか、ズルをしているような‥‥。
母だって、たぶん淋しいんです。
ですから、わたしも時間の許す限りは
できるだけ足を運びたいとは思っているのですが、
実際は、持っていくおかずをつくるための
時間をひねり出すのも、やっとこさです。
以前は、我が家で食べる分から
少しずつ取り分けたりもしていましたが、
家族にとっては人気メニューでも、
母の好物であるとも限らず、
また、持ち運びに適したおかずばかりでもないですし、
暑い時期などには、
傷みやすいものを避けるなど注意も必要。
いろいろ考えていると、
この方法は、どうしても限界があります。
となると、母に合ったものを
最初からつくるのが一番よいのですが、
1~2品ならともかく、
たとえば1週間、
飽きずに食べられるくらいの、バリエーションを、
と思うと、これもまたハードルが高くなります。
そんなわけで、わたしが届けたデリバリーおかずの
ストックがつきると(あるいは飽きる、もしくは忘れると)、
母は最近、コンビニでお総菜を買うこともあるようです。
わたしとしては、心中複雑なところでもあるのですが、
(そのあたりは、お察しください)
母に言わせれば
「あら、わりとおいしいし、
いろいろ迷いながら選ぶのも、楽しいのよねぇ」
だそうで、案外ケロリとしたもの。
それはたぶん、手軽さに頼っているということだけではなく、
アレコレと迷い、自由に選べることがうれしい、
ということも、ありそうです。
母がなにを食べたいか、
わたしもよく判っていませんでしたが、
母自身も、
「なにが食べたい?」と聞かれても、
うまく答えられないようです。
そういえばこのパターン、
どこかで見覚え、聞き覚えがあると思ったら、
ホラ、あれ!
朝、出がけの旦那様に
「今晩、なに食べたい?」
と、たずねてみたら、
「べつに、なんでもいいよぉ」
なんていわれてプンプン、という
再現ドラマなどによく出てくる、
あのシーンです。
でもコレって、こちらは、
相手の意見を尊重しているつもりでも、
実は、自分が考えることを放棄している、
という一面もあるわけで、
よく考えたら、そんなことを急にいわれても、
とっさに「今夜は絶対◯◯が食べたい!」、
なんて思いつかないですよね。
まして、体を動かしたり、
近所を出歩くことすら、
あまりない母であれば、
「あぁもう、おなかがペコペコ~」
なんていうこともないでしょうし、
たぶん手近なものを適当に食べて
お腹を満たすことができれば、
別に不満もないのだと思います。
逆にいえば、その『適当に済ませて』いるあたりが、
こちらにしてみれば
一番の心配のタネだったりするわけですが、
じゃあ、本当になにも食べたいものがないかといえば、
必ずしもそうでもないような気もします。
「そういえば、あんなものが食べたかった」
と、思い出してくれさえすれば、
案外、いろいろ出てくるんじゃないかしら、
と考えて、思いついたのが、
名づけて『単語帳式メニュー作戦!』。
要は、食べたいものを
リアルに想像できればいいわけですから、
まずは、レストランのように
メニューの一覧をつくってみようと思いました。
しかし、アレもコレもと、ずらずら並んでいても、
読み流されてしまいそう。
それならと考えついたのが『単語帳形式』です。
つまり、学生時代、英単語を覚えるのに使った、
リングで綴じてある、あの単語帳です。
一枚一枚に、料理名を書いて渡し、
時間があるときに、食べたいものを
いくつかチェックしておいてもらえば、
そのリクエストに応える形で、
こちらもアレコレ迷うことなく、
安心して準備ができますし、
母も、過不足なく好きなものが食べられるはず!
ついでに、文字だけでは
料理のイメージが湧きにくいかもしれないので、
つくった料理をポラロイドカメラで
バシバシ撮って、添えることにしました。
う~ん、これは我ながら名案?
さて、その結果はいかに‥‥。
(次回に続きます)