藤井亮の豪勢なアイディア。 藤井亮の豪勢なアイディア。
「石田三成CM」や「ミッツ・カールくん」など、
一度観たら頭から離れないアニメーションを
たくさん手がけている映像作家の藤井亮さん。
広告の世界から飛び出した藤井さんに、
糸井重里が映像のお仕事をお願いしました。

藤子・F・不二雄ミュージアムだけで観られる
短編映像『セイカイはのび太?』が上映中です。

糸井と藤井さんが作る『ドラえもん』の世界には
藤子先生を尊敬する気持ちが込められていて、
ふしぎとおもしろが混じり合っていました。

この映像がどうやって生まれたのか、
藤井さんの人となりとともに紹介します。

担当は「ほぼ日」の平野です。
(3)おもしろをマジメに作る。
──
藤井さんの過去のお仕事を拝見していると、
クライアントがいる仕事でも
かなり自由に作っているように見えます。
たとえば『石田三成のCM』
やりたい放題にさえ見えますが、
自ら提案して作ったものではないですよね?
藤井
「石田三成」は滋賀県のPRが目的の仕事で、
いわゆるコンペ形式でしたね。
ああ見えて、企画書はマジメなんですよ。
もともと石田三成はちょっと嫌われ者だったので、
悪いイメージを変えて、かつ広く伝えるには
テレビCMが一番いいでしょうという提案です。
そこで、カタくて融通のきかない、
取っつきにくいイメージの人を、
より親しみやすくするという点を伝えるために、
滋賀のローカルCM風にしましょうと。
全部に理屈があって、説明をしました。
「おもしろCMやりましょうよ!」
みたいな話は、全然していなくて、
むしろ、低いテンションで淡々としゃべるぐらい。
──
ローカルCMの雰囲気を逆手に取るのは、
藤井さんの得意分野ですよね。
藤井
ひと昔前のローカルCM風の映像って
潤沢な予算がなくても作りやすいんです。
ナイキみたいなCMだったら
たくさんの予算がないと作れないですけど、
ローカルCM風で作れば
低予算でもおもしろく表現できます。

あとは、単純に子どもの頃に観て
脳に刷り込まれたものから
離れられないのかもしれません。
ぼくの作っているものの根本の材料はどれも、
二十歳くらいまでに経験してきたもので、
それをやりくりして作っているような感覚はあります。

ぼくは愛知出身なんですが、
子供の頃に観ていたローカルCMなんて、
むしろ全然好きじゃなかったし、
もっとカッコいいものを作りたいなと思って
広告代理店に入ったんだと思うんですけど。
写真
──
関西電通にいらっしゃったから、
生粋の大阪人なんだと思ってました。
藤井
愛知の高校から武蔵美を出て、
電通も東京本社の入社試験を経て
大阪へ配属になったんです。
今でこそ大阪に住んでますけど、
それまでは大阪との縁もなかったし、
むしろ大阪って怖いぐらいに思ってたぐらいで。
そこからもう17年ぐらいですかね。
──
今ではもうすっかり
大阪の人になっているんですか?
藤井
いや、それが全然。
関西弁も全然うつらないですし。
大阪の人としゃべったら、
関西弁っぽくしゃべれるんですけど、
相手に引っ張ってもらえないと全然しゃべれません。
もう10年以上大阪にいますが、
大阪ってちょっと大きな村社会というか、
大阪第一なところがありますよね。
ぼくがおもしろいCMを作っても、
「関西人やないのに、なかなかおもろいな」
みたいな感じで言われたりするし。
写真
──
「おもろいこと」といえば、
やっぱり大阪が上なんでしょうね。
藤井
「世界でいちばんおもろい
大阪にいるから作れるんちゃうか」
みたいな感じですよ(笑)。
──
長く所属していた電通関西の社風は、
きっと関係していますよね。
藤井
あの環境はすごく勉強になりました。
電通関西っていうのは、
東京の電通と比べたら小規模ですが、
いわゆる金鳥組というグループがあって、
「おもしろCMをやってるところ」
みたいな強みがあったりするので。
──
予算はないんだけれど、
アイディアで解決してやろうと。
藤井
その考え方は今にもつながってます。
たまに東京の仕事をすると
規模感が違っていて、
スタジオにこんな大きいセットを
建てちゃうんだって驚きますね。
──
それは、大学時代に憧れていたような
「カッコいいCM」の舞台なのでは?
藤井
そうですね。
でも、会社員として働くうちに
大きな仕事をしんどく感じることもあって。
嫌ってわけじゃないんですけど、
巨大なセットも誰かがデザインして
誰かが建ててくれるわけだし、
規模が大きくなるほど
自分が作っている感じが
どんどんなくなってくるんですよね。
気づいたら撮影の現場でテーブルに座って、
なんかお菓子食べてるだけみたいな。
──
プランナーという役割は、
撮影中にやることがないんですね。
藤井
プランナーはディレクターと違って、
現場ではあまり発言力がないんです。
「こうしたらおもしろいんじゃない?」
とプランナーのぼくが思いついても、
まずはクリエイティブディレクターを通じて
ディレクターに提案をして、
それでやっと試せるようになるんです。
そこまでいくと打率が下がるわけですよ。
今は独立して、自分だけで作ることもあるので、
ちょっと思ったことをパッとやってみたら、
「よかった」「ダメだった」がすぐわかります。
写真
──
「思いついたんで作ってみました!」
というアイディアも
クライアントに提案できますよね。
広告会社の仕事は何を変えるにしても、
お伺いを立てないといけないでしょうし。
藤井
最近の仕事は、
ふわっとしたフレームで提案して
OKをもらえていることが増えて、
現場でやりたいことを
やらせてもらえています。
──
会社を辞める前からCMプランナーだけでなく、
映像作家としての仕事もされていますよね。
NHKの「オドモTV」だとか、
「ミッツ・カールくん」だとか。
藤井
NHKの仕事はプロデューサーの方が
直接話を持ちかけてくれたので、
今とまったく変わらず、
作品を作るっていうスタンスで
やらせてもらっていました。
「ミッツ・カールくん」はもともと、
「みつかるEテレ」っていうキャッチコピーで
一年間続けて打ち出していたのを、
今年はもっと広めたいというお題でした。
ただ、与えられた枠が5秒しかないんです。
しかも最初と最後の0.5秒は音を入れられないんで、
実質、4秒しかないんですよ。
4秒じゃストーリーもキャッチコピーも入らないから、
「みつかる」自体をキャラクターにするしかない。
そう考えて、ミッツ・カールくんという
キャラクターができました。
──
帰省したときに、小学生の甥っ子姪っ子が、
何回も歌ってました。
「ひとつカール、ふたつカール」って。
藤井
ありがとうございます。
一回でいいから、
たまたま小学生が歌っているところを
見てみたいなあと思うんですよね。
自分の作った歌を誰かが歌っている、
みたいな状況って憧れますが、
そういう経験ってなかなかできなくて。
──
外で口ずさんでくれる歌って、
よほどのヒットソングですもんね。
そういう意味では、
藤子・F・不二雄ミュージアムの映像は、
ミュージアムに行けば
ダイレクトに反応がわかりそうです。
藤井
リアクションをじかに見られるのは
嬉しいですけど、怖さもあります。
作っておきながら、ずっと怖いです。
(つづきます)
2020-09-05-SAT
『セイカイはのび太?』は、
藤子・F・不二雄ミュージアムの
Fシアターにて上映中!
糸井重里がプロデュースし、
藤井亮さんが監督・企画・アニメーションを手がけた
オリジナル短編映像『セイカイはのび太?』を、
藤子・F・不二雄ミュージアムの
Fシアターにて上映しています。

藤子先生を尊敬する気持ちと、
たっぷりのアイディアを詰め込んだ4分間の映像を
200インチのスクリーンで堪能できます。
落語家の春風亭昇太さんによる
コミカルな語り口もどうぞおたのしみに。

ひみつ道具「セイ貝」から出てくるのは誰かな?
まんがのコマ読みに合わせた映像の動きにも注目です。



この映像のプロデューサー、
糸井重里のコメント
藤子・F・不二雄ミュージアムを訪れて、
最初に椅子に座る場所が「Fシアター」でしょう。

そこで、いったい何が見せられるのか?
こんなにワクワクドキドキする難問は、
ちょっとないですよね?
「ふつうのふりして、ふつうじゃない?」
そんな世界をお見せしますよ。



語りをつとめた
春風亭昇太さんのコメント
「これはそれぞれの役の声優さんに頼めば
いいんじゃないですか?」
って言ったんですよ…でもそうじゃないそうです。

頼まれたのは一つ
「昇太さんが漫画読んでいる時に、
頭の中に浮かんでいる声の感じで読んで下さい」
でした。
つまりこれはアフレコではないんです。

僕はあくまでもガイドみたいなもので、
皆さんが漫画読んでたあの頃を想像しながら見て下さい。
これは、皆さんの頭の中で完成させる作品です。



試写会で映像をご覧になった
吉本ばななさんのコメント
観てるあいだ、
ずーっとニコニコして幸せでした。
きっと創るのに
膨大な時間かかったんだろうなあ。

ただただ感謝です!





藤子・F・不二雄ミュージアムでは
「ドラえもん50周年展」を開催中!
写真
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50周年を記念した展示を
川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアムで開催中。

1階の展示室では、
特別展示「藤子・F・不二雄とドラえもん」。
※2021年1月31日まで(予定)

50年の歩みを貴重な原画と共にご紹介しています。

そして2階の展示室Ⅱでは、
『ドラえもん』の「生活ギャグ」に焦点を当てた、
「ドラえもん50周年展第2期後期 
ゲラゲラ笑える話/ゾ~ッとするこわい話」を開催。
※2020年11月9日まで

子どもの目線を大切にした藤子・F・不二雄先生の描くお話は、
時を経た今でも多くのファンに愛されています。
はらっぱにシアター、カフェやショップ、どこでも
『ドラえもん』はじめ藤子・F・不二雄先生の
キャラクターに会えますよ。

ミュージアムは現在、完全日時指定入館制なので、
混み合うことなくゆっくりとご覧いただけます。



9月2日よりミュージアムショップ限定の
ほぼ日手帳weeksも販売中!