藤井亮の豪勢なアイディア。 藤井亮の豪勢なアイディア。
「石田三成CM」や「ミッツ・カールくん」など、
一度観たら頭から離れないアニメーションを
たくさん手がけている映像作家の藤井亮さん。
広告の世界から飛び出した藤井さんに、
糸井重里が映像のお仕事をお願いしました。

藤子・F・不二雄ミュージアムだけで観られる
短編映像『セイカイはのび太?』が上映中です。

糸井と藤井さんが作る『ドラえもん』の世界には
藤子先生を尊敬する気持ちが込められていて、
ふしぎとおもしろが混じり合っていました。

この映像がどうやって生まれたのか、
藤井さんの人となりとともに紹介します。

担当は「ほぼ日」の平野です。
(2)藤子先生が真ん中にいる。
──
プロデューサーとしての糸井重里から
藤井さんに動画制作をお願いしたとき、
どんな依頼内容だったんですか。
藤井
「藤子・F・不二雄先生の
人となりがわかるような映像」
という依頼でしたね。
糸井さんのはじめのイメージとしては、
藤子先生が真ん中にいて、
そのまわりに藤子先生のキャラクターが
たのしそうに見ているような、
そういう読後感みたいなものを作ってほしい、
という話をしていただきました。
これがクリエイティブディレクションになっていて、
そういう世界観を目指せればいいんだ、
という指針としてすごく役に立ったんです。
写真
──
ゴールになる景色を
みんなで共有できていたんですね。
藤井
ただ、映像を作りながらも
声はどうしようかなって迷ってました。
普通にアニメの『ドラえもん』の声優さんに
お願いしようかなと思っていたら、
糸井さんが「落語家さんとかいいんじゃない?」
というアイディアをくれたんです。
──
それで春風亭昇太さんが
漫画を読んでいるような映像になったんですね。
制作途中の動画を拝見したのですが、
まだ昇太さんの声が入っていない
仮のバージョンだったので、
完成版と比べた時の嬉しさが段違いでした。
藤井
映像の半分は音でできているから、
音を入れるまで、ずっとハラハラするんです。
どんなに頑張ってアニメーションを作っても
画だけじゃ50点のままなので。
――
『ドラえもん』の絵は、
アニメの絵や他の漫画家さんではなく、
原作漫画の絵が動いている感じが
にぎやかでいいなと思いました。
写真
藤井
藤子ミュージアムさんから
特に言われてはいなかったんですけど、
ぼくが原作漫画を好きなのもあって、
自分が見たい絵と考えると、
やっぱり漫画の絵だなと思っていました。
ようわからんやつが描いた
『ドラえもん』のキャラよりは、
ちゃんとした『ドラえもん』の絵柄で
なるべく動かしてあげたかったんです。
──
漫画の『ドラえもん』は、
子どもの頃に読んでいたんですか?
藤井
そうですね。
もちろん『ドラえもん』も好きですし、
漫画なら『モジャ公』もすごい好きです。
『モジャ公』って話は短いんですけど、
めちゃくちゃおもしろいんですよ。
たぶんハリウッドが実写化したら、
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』
みたいになりそうな漫画だと思うんですよね。
というかいつか自分が映画化したいと思ってます。
いまなら愛蔵版の一冊にまとまってるんで、
よかったらぜひ読んでみてください。
──
『セイカイはのび太?』の、
漫画のコマを読み進めるようなアニメーションは、
どうやって制作しているのでしょうか。
動画についてまったくの素人なので、
すぐに理解できなくて。
藤井
もともとは漫画を1コマずつ描いていて、
そこにスネ夫の動きとか、
1個ずつ描いたものを並べて、
最後に同時に動かしている感じです。
キャラクターを描く時には、
原作漫画の1コマをベースにして、
表情とか動きを変えていく作業をしていました。
完全にオリジナルで描いちゃうと
微妙な違いが目立つようになっちゃうんで、
ひとつ、この表情で描こうって決めて、
その前後を埋めるように描きました。
写真
──
困った時には原作に立ち返って。
藤井
原作漫画には
ものすごくたくさんの付箋を貼って、
原作ベースで作っていました。
──
たしかに『ドラえもん』の表情や姿勢って、
定番の絵がありそうですもんね。
ストーリー展開は基本的に同じですし。
藤井
『水戸黄門』とか『こち亀』もそうですけど、
お決まりの展開があるので、
大きなフレームは守りつつ、
なにかできないかなって考えたんです。
──
先生にガミガミ怒られている
定番のシーンからはじまったり
空き地にみんなが集まっていたり。
藤井
こういうシーンも空間を表現したかったので、
3Dで奥行きを作っています。
背景を用意して、コマの枠があって、
そこに入っていくような感じで制作しました。
セットを作って、
そこに登場人物を配置する作りだと
おもしろいかなと思ってやってみたら、
約4分の動画の書き出しに
5時間もかかっちゃったんですよ。
──
ドラマや映画の撮影みたいに
スタジオにセットが組まれていて、
そこでキャラクターが演じている感じですね。
そのセットの中で自由に動いて、
吹き出しもポンっと出てきて。
あの、セリフは困りませんでしたか?
ファンの多い作品なだけに
「ドラえもんはこんなこと言わないだろう」
という怖さもありそうですが。
藤井
セリフに関してはちょっと、
いまだに合っているかどうか自信がないです。
ただ『ドラえもん』を延々とくり返し読んで、
『ドラえもん』感を
なるべく掴んでから書くようにしました。
──
藤子・F・不二雄ミュージアムさんに納品して、
セリフや絵に対する戻しはありましたか?
藤井
言い方の「てにをは」で
修正が入るのかなと思っていたんですけど、
そこは大丈夫だったようです。
原作寄りのブラックなセリフは
ちょっと削るようになったぐらいですね。
『ドラえもん』の原作って、
アニメよりすこし意地悪だったりして、
そのニュアンスは外すことになりました。
──
この動画では「セイ貝」という
原作にはないひみつ道具も作っていますよね。
「タイムマシン」とか「もしもボックス」といった
定番の道具でも藤子先生を登場させるのは
できそうな気もするのですが、
あえてまったく新しい道具にしたのはなぜですか。
藤井
ひみつ道具は、だいぶ苦労しました。
でも、ミュージアムでしか観られないのであれば、
ここならではの映像を作りたいって思ったんです。
しかし定番のひみつ道具ってすごく強いので、
あの切れ味は別格ですね。
一度だけ登場するひみつ道具のポジションで。
写真
──
完成した動画を観たときに、
「あれ、この話は原作にあったのかな?」
というふうに思ったんですが、
まったくない話なんですね。
この動画では「セイ貝」っていう、
クイズに答えたらその人が出てくる
ひみつ道具が登場しますよね。
ヒントにした道具はあったのかなって。
藤井
完全にオリジナルの話ですね。
話の組み立て方としては、
「子どものころ、僕は『のび太』でした」という
藤子先生の言葉を説明するために考えました。
そこで、のび太のことを言っているのに
藤子先生になってしまう構造ができないかなって。
だとしたら、クイズでのび太だと思った答えが
じつは藤子先生だったという話にしなきゃなと。
そこでクイズを出すひみつ道具を探しましたが、
ちょうどいいのが見つからなかった。
じゃあクイズの正解が飛び出すような
ひみつ道具を考えよう、という流れです。
写真
──
そうか、その順序なんですね。
藤井
まずは言わなきゃいけないことがあって、
それを藤子・F・不二雄ミュージアムなら
どう言うか考えていくっていう流れは、
ある意味、広告と同じ作り方ですね。
(つづきます)
2020-09-04-FRI
『セイカイはのび太?』は、
藤子・F・不二雄ミュージアムの
Fシアターにて上映中!
糸井重里がプロデュースし、
藤井亮さんが監督・企画・アニメーションを手がけた
オリジナル短編映像『セイカイはのび太?』を、
藤子・F・不二雄ミュージアムの
Fシアターにて上映しています。

藤子先生を尊敬する気持ちと、
たっぷりのアイディアを詰め込んだ4分間の映像を
200インチのスクリーンで堪能できます。
落語家の春風亭昇太さんによる
コミカルな語り口もどうぞおたのしみに。

ひみつ道具「セイ貝」から出てくるのは誰かな?
まんがのコマ読みに合わせた映像の動きにも注目です。



この映像のプロデューサー、
糸井重里のコメント
藤子・F・不二雄ミュージアムを訪れて、
最初に椅子に座る場所が「Fシアター」でしょう。

そこで、いったい何が見せられるのか?
こんなにワクワクドキドキする難問は、
ちょっとないですよね?
「ふつうのふりして、ふつうじゃない?」
そんな世界をお見せしますよ。



語りをつとめた
春風亭昇太さんのコメント
「これはそれぞれの役の声優さんに頼めば
いいんじゃないですか?」
って言ったんですよ…でもそうじゃないそうです。

頼まれたのは一つ
「昇太さんが漫画読んでいる時に、
頭の中に浮かんでいる声の感じで読んで下さい」
でした。
つまりこれはアフレコではないんです。

僕はあくまでもガイドみたいなもので、
皆さんが漫画読んでたあの頃を想像しながら見て下さい。
これは、皆さんの頭の中で完成させる作品です。



試写会で映像をご覧になった
吉本ばななさんのコメント
観てるあいだ、
ずーっとニコニコして幸せでした。
きっと創るのに
膨大な時間かかったんだろうなあ。

ただただ感謝です!





藤子・F・不二雄ミュージアムでは
「ドラえもん50周年展」を開催中!
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50周年を記念した展示を
川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアムで開催中。

1階の展示室では、
特別展示「藤子・F・不二雄とドラえもん」。
※2021年1月31日まで(予定)

50年の歩みを貴重な原画と共にご紹介しています。

そして2階の展示室Ⅱでは、
『ドラえもん』の「生活ギャグ」に焦点を当てた、
「ドラえもん50周年展第2期後期 
ゲラゲラ笑える話/ゾ~ッとするこわい話」を開催。
※2020年11月9日まで

子どもの目線を大切にした藤子・F・不二雄先生の描くお話は、
時を経た今でも多くのファンに愛されています。
はらっぱにシアター、カフェやショップ、どこでも
『ドラえもん』はじめ藤子・F・不二雄先生の
キャラクターに会えますよ。

ミュージアムは現在、完全日時指定入館制なので、
混み合うことなくゆっくりとご覧いただけます。



9月2日よりミュージアムショップ限定の
ほぼ日手帳weeksも販売中!