|
|
穴澤 | 糸井さんは犬は? |
糸井 | 僕は小さいときに 半端にコリーの雑種を 飼ったことがありますね‥‥ コリーを飼いたいと言ったら、 知り合いの家にいるらしいといって もらってもらったんだけど、 結局世話しきれなくなって、 赤城山の家でもらってくれるといって、 そこに行っちゃったんです。 |
穴澤 | それからずっと、じゃ、 犬を飼ってなかった? |
糸井 | それからもう一匹いますけど、 それはあまり家庭が うまくいってないときに 飼ってたりするから、 犬が不幸になりますね。 そういう痛い部分は やっぱりずーっと抱えちゃうもので。 |
穴澤 | そうですよね。 |
糸井 | 山崎浩一さんのエッセーで、 |
穴澤 | その三河犬はテツといって、 僕はテツが死んだところは 見てないんです。 テツは親の離婚によって‥‥ |
糸井 | ああ‥‥ |
穴澤 | 僕が母のほうに ついてくことになったんです。 で、実家にテツがいたんですけど、 1年後か何かに 親父が親権の裁判で勝ったのかな、 僕、子どもだったから わからなかったんですけど、 親父がオカンとこに迎えに来て。 で、僕も帰りたかったんです。 でも、帰ると、 テツがいなかったんです。 なんでいないのかって詰め寄ると、 僕があまりにも仲がよかったので、 見ててつらいと。親父が。 テツは立派な犬だったんで ほしいと言ってた人に もう譲ってしまったと言われて、 もう‥‥。 |
糸井 | いや、必ずね、 人と人とのあいだにある 空気そのものが犬の形をするんですよ。 |
穴澤 | 今はもう大人なので‥‥、 あのときのそういう感覚が なくなったので、 富士丸を飼えてますけど。 |
糸井 | 癒えないですよね、長いこと。 |
穴澤 | 自分に対する責めがありますもんね。 |
糸井 | そうですね、そうですね。 ‥‥そうですね。 |
穴澤 | けっこうそういうのがあって 富士丸を飼った部分も あったんです。 |
糸井 | やり直しの意味みたいなのが ありますよね。 |
穴澤 | うん。今度は絶対最後までって。 |
糸井 | やっぱりそうなんだ。 今はだからブイヨンを ちゃんと飼えてるってこと自体が、 僕にとっては もうものすごく嬉しいんですよ。 |
穴澤 | ああ、そうですよね。そうそうそう。 |
糸井 | 前の犬の分まで ちゃんとしようみたいな。 |
穴澤 | そうなんですよね。 でも、もう目に見えてるのは、 富士丸が死んでしまうときに 「もう犬なんか飼うんじゃなかった」 とまた思うんだろうなというのは‥‥。 だから、分散させるために もう1匹飼おうかなとかね(笑)、 思ったりするんですけど‥‥ |
糸井 | それよく言われますね。 |
穴澤 | でも、いやいや、 そうじゃないんじゃないのかって いうのもありますし。 富士丸をわが子のように 愛しているんですけど、 明らかに時間が‥‥ 短いじゃないですか。 |
糸井 | そうなんですよねえ。 |
穴澤 | だって僕より先に死ぬわけで、 親不孝もね、ひどい話ですよ。 |
糸井 | そうなんですよねえ。 いや、だからそこで 分散させるようにとか テクを使っちゃ きっとダメなんじゃないかな? |
穴澤 | そうなんですよね。 もう受け止めるしかないですよね。 |
糸井 | テクはねえ、ダメなんですよ、 きっと。 |
穴澤 | でも、こいつらは多分 死ぬこととかそういう概念がないので、 多分犬っていうのは 犬の時間を過ごしてるわけですから、 こっちの時間で何事でも 計ってしまうと、 なんか切なくなるんですけど、 まあ普通に幸せにさせてあげれば いいのかな。 |
糸井 | だから、半分以上遊びとして 擬人化させてる部分はあるんだけど、 どこかで犬は犬なんだというのを 理性として‥‥ |
穴澤 | そう、持っておかないと。 |
糸井 | しょっちゅう戻っていけないと ダメですよね、きっと。 俺もだから、それはけっこう 気をつけてますね。だからさっきの、 こっちに慕ってくるということを 人間と同じに言ってるけど、 実はそれが犬ってものを生かすための、 生きるための方便なんだとか、 それは半分メモしながら かわいがらないと、 痛すぎますよね(笑)。 |
穴澤 | そうなんですよね。 もう擬人化、というか、 たまに人にしか 見えなくなるときが あるじゃないですか。 |
糸井 | 見えない、うん。 |
穴澤 | で、もう‥‥けっこう、 しょっちゅう戻りますよ、 「いかん、いかん。いかん、いかん」 と。例えば本当に おいしいもの食べてて、 横に座ったらあげたいんだけど、 「いや、いかん、いかん」と。 |
糸井 | それが、僕を抑えておく、 けっこう、すべてですね。 人間の食べるものを あげないっていうのは、 ものすごく守ってるんですよ。 それが守れなくなったら 俺はどこまでも危ないなと思って、 互いのために── 富士丸もそうですよね。 |
穴澤 | 種が違うのでね、やっぱり。 |
糸井 | ‥‥そうか、何か微妙なこう、 今までの犬への気持ちが 全部今の犬に入ってんだなあ。 そうなんだなあ。 |
穴澤 | やっぱりね、そうでしょうね。 |
糸井 | 再再婚みたいなもんだよね、 今がきっと。 |
穴澤 | そうですね。 |
糸井 | そうか。そのへんがなんか 愛情なんだろうな、感じてる。 ただかわいいじゃないんだよね。 自分が入ってんですよね。 |
穴澤 | そうですよね。 今度こそちゃんとしないとって。 |
<続きます> | |
2007-02-15-THU |