ほぼ日刊イトイ新聞
富士丸のとこに行きました。

第6回 昔飼ってた犬の話(糸井重里編)。


穴澤 糸井さんは犬は?
糸井 僕は小さいときに
半端にコリーの雑種を
飼ったことがありますね‥‥
コリーを飼いたいと言ったら、
知り合いの家にいるらしいといって
もらってもらったんだけど、
結局世話しきれなくなって、
赤城山の家でもらってくれるといって、
そこに行っちゃったんです。
穴澤 それからずっと、じゃ、
犬を飼ってなかった?
糸井 それからもう一匹いますけど、
それはあまり家庭が
うまくいってないときに
飼ってたりするから、
犬が不幸になりますね。
そういう痛い部分は
やっぱりずーっと抱えちゃうもので。
穴澤 そうですよね。

糸井

山崎浩一さんのエッセーで、
別れた女の子と一緒に住んでたときに
飼ってた犬の話があって。
いいエッセーなんですよ。
その愛が見捨てられていくのと
犬が見捨てられていくのとが
もうまったく一緒で、
やっぱり犬って
関係を示すみたいなところが
ありますから、その意味では、
飼える資格が出るまでに
ちょっと俺は時間かかるなと思って。

穴澤 その三河犬はテツといって、
僕はテツが死んだところは
見てないんです。
テツは親の離婚によって‥‥
糸井 ああ‥‥
穴澤 僕が母のほうに
ついてくことになったんです。
で、実家にテツがいたんですけど、
1年後か何かに
親父が親権の裁判で勝ったのかな、
僕、子どもだったから
わからなかったんですけど、
親父がオカンとこに迎えに来て。
で、僕も帰りたかったんです。
でも、帰ると、
テツがいなかったんです。
なんでいないのかって詰め寄ると、
僕があまりにも仲がよかったので、
見ててつらいと。親父が。
テツは立派な犬だったんで
ほしいと言ってた人に
もう譲ってしまったと言われて、
もう‥‥。

糸井 いや、必ずね、
人と人とのあいだにある
空気そのものが犬の形をするんですよ。
穴澤 今はもう大人なので‥‥、
あのときのそういう感覚が
なくなったので、
富士丸を飼えてますけど。
糸井 癒えないですよね、長いこと。
穴澤 自分に対する責めがありますもんね。
糸井 そうですね、そうですね。
‥‥そうですね。
穴澤 けっこうそういうのがあって
富士丸を飼った部分も
あったんです。
糸井 やり直しの意味みたいなのが
ありますよね。
穴澤 うん。今度は絶対最後までって。

糸井 やっぱりそうなんだ。
今はだからブイヨンを
ちゃんと飼えてるってこと自体が、
僕にとっては
もうものすごく嬉しいんですよ。
穴澤 ああ、そうですよね。そうそうそう。
糸井 前の犬の分まで
ちゃんとしようみたいな。
穴澤 そうなんですよね。
でも、もう目に見えてるのは、
富士丸が死んでしまうときに
「もう犬なんか飼うんじゃなかった」
とまた思うんだろうなというのは‥‥。
だから、分散させるために
もう1匹飼おうかなとかね(笑)、
思ったりするんですけど‥‥
糸井 それよく言われますね。
穴澤 でも、いやいや、
そうじゃないんじゃないのかって
いうのもありますし。
富士丸をわが子のように
愛しているんですけど、
明らかに時間が‥‥
短いじゃないですか。
糸井 そうなんですよねえ。
穴澤 だって僕より先に死ぬわけで、
親不孝もね、ひどい話ですよ。

糸井 そうなんですよねえ。
いや、だからそこで
分散させるようにとか
テクを使っちゃ
きっとダメなんじゃないかな?
穴澤 そうなんですよね。
もう受け止めるしかないですよね。
糸井 テクはねえ、ダメなんですよ、
きっと。
穴澤 でも、こいつらは多分
死ぬこととかそういう概念がないので、
多分犬っていうのは
犬の時間を過ごしてるわけですから、
こっちの時間で何事でも
計ってしまうと、
なんか切なくなるんですけど、
まあ普通に幸せにさせてあげれば
いいのかな。
糸井 だから、半分以上遊びとして
擬人化させてる部分はあるんだけど、
どこかで犬は犬なんだというのを
理性として‥‥
穴澤 そう、持っておかないと。
糸井 しょっちゅう戻っていけないと
ダメですよね、きっと。
俺もだから、それはけっこう
気をつけてますね。だからさっきの、
こっちに慕ってくるということを
人間と同じに言ってるけど、
実はそれが犬ってものを生かすための、
生きるための方便なんだとか、
それは半分メモしながら
かわいがらないと、
痛すぎますよね(笑)。

穴澤 そうなんですよね。
もう擬人化、というか、
たまに人にしか
見えなくなるときが
あるじゃないですか。
糸井 見えない、うん。
穴澤 で、もう‥‥けっこう、
しょっちゅう戻りますよ、
「いかん、いかん。いかん、いかん」
と。例えば本当に
おいしいもの食べてて、
横に座ったらあげたいんだけど、
「いや、いかん、いかん」と。
糸井 それが、僕を抑えておく、
けっこう、すべてですね。
人間の食べるものを
あげないっていうのは、
ものすごく守ってるんですよ。
それが守れなくなったら
俺はどこまでも危ないなと思って、
互いのために──
富士丸もそうですよね。
穴澤 種が違うのでね、やっぱり。
糸井 ‥‥そうか、何か微妙なこう、
今までの犬への気持ちが
全部今の犬に入ってんだなあ。
そうなんだなあ。
穴澤 やっぱりね、そうでしょうね。
糸井 再再婚みたいなもんだよね、
今がきっと。
穴澤 そうですね。
糸井 そうか。そのへんがなんか
愛情なんだろうな、感じてる。
ただかわいいじゃないんだよね。
自分が入ってんですよね。
穴澤 そうですよね。
今度こそちゃんとしないとって。

<続きます>
2007-02-15-THU
前へ 戻る 次へ
富士丸な日々 書籍『富士丸な日々』
“狭い部屋でこんなデカイ犬を飼ってしまった
 自分が悪いのだ。でも、飼ってしまった以上、
 これからもお前の面倒だけはちゃんと見て行くよ‥‥。”
30キロの巨漢犬と1DKでの同居の日々をつづった
人気ブログが単行本化されました。
富士丸の映像満載の「癒しのDVD」も付録でついています。
発売中 1200円(税込)
KKベストセラーズ
DVD富士丸な日々 DVD『富士丸な日々/アナザーストーリー・アナザーデイズ』
「富士丸な旅」「富士丸な一日」
「富士丸な休日」のドキュメンタリー3編のほか、
ミュージックビデオ「モフモフの唄」「富士丸チャチャチャ」
その他特典映像を収録!
2007年2月15日発売 2310円(税込)67分
シンフォレスト
ひとりと一匹 富士丸と俺のしあわせの距離 書籍『ひとりと一匹 富士丸と俺のしあわせの距離』
“東京で暮らす俺のもとにやってきた一匹の雑種犬。
 ひとりで寂しさに耐えるほうがよっぽどいい、
 と思っていた俺に絶対的な愛の意味について、
 お前は教えてくれた──”
「富士丸な日々」の穴澤賢さんによる、
初の書き下ろしエッセイ集です。
2007年2月22日発売 1470円(税込)
アーティストハウス
メールをおくる ホームへ 友達に知らせる