作家はまじめに「プロポーズ」したけど、
編集者は、いちどは断った。
一冊のギャグ漫画本が生まれるにあたり、
漫画家と編集者との間に、
どのようなやり取りが交わされたのか?
読者の側にはわからない、
一冊の本の裏側の「真剣勝負」について、
当人同士に語っていただきました。
もちろん、ここで紹介するのは、
ひとりの漫画家とひとりの編集者による、
ひとつの「場合」。
旗の台の街を歩きながら、
断片的に交わされた会話を繋ぎあわせて、
全3回として、おとどけします。
担当は、「ほぼ日」編集者の奥野です。
藤岡さん、こんばんは。
ナナロク社の村井です。
どたばたとしているうちに、メール、遅くなりました。
さて、先日お話をした、
「夏がとまらない」についてですが、
次のように考えています。
見たことがないのに見たことがあるように感じる、
はじめて見るのに、思い出すような感覚を覚えるもの。
そして、おかしみを感じられるもの。
これが、私が『「夏がとまらない」といったもの』
について、言えることです。
藤岡さんの作品は、いわゆる「あるある」ではなく、
むしろ、そんな人たち「いない」のですが、
それを、「あるある」のように描いているところも、
おもしろいと思っています。
ただ、より、藤岡さんの独自性を強める方法として、
季節の風情や、懐かしさや、優しさ、
そういったようなものを感じられる作品を、
読みたいと思います。
ここからは、書いていて難しくなるのですが、
読んで意味がとらえにくくても、
それは、藤岡さんのせいではないので、
気にせず読んでください。
とりあえず、書きます。
私は、笑いに逃げない笑いで笑えるものが、読みたいです。
すでに、多くの芸人さんや喜劇作者さんによって、
笑いの類型はたくさん出ております。
それにより、受け手も、かなり訓練されてしまっています。
良い面もあるのですが、あるていどの「型」で、
笑いとして受容してしまうことが、あるかと思います。
なんとなくこうすると不条理の笑いになるな、とか、
ここは多少乱暴に終えても大丈夫だな、とか。
つまり、笑いをつくるうえで、笑いに逃げ込める要素は、
今は、とても多いように思うのです。
そんななかで、藤岡さんの作品を読むと、
心の中から何かが反応してくる、何かを思い出すといった、
「笑い」をつきぬけた何か(それは笑いなのですが)を、
見てみたいと思っています。
そのような意味で
私にとって「夏がとまらない」は、よい作品でした。
まあ、つらつら書きました。
意を尽くせませんが、このまま送ります。
創作のご武運をお祈りしております!!!
村井光男
(つづきます)
2017-12-07-THU
どういう人が、この本を愛するのだろう。
つねに新鮮な笑いを求める
飽くなきギャグ漫画好きは、もちろんだ。
担当編集者の村井光男氏のように、
そこここに秘められた
詩情や文学性を愛でる向きもあるだろう。
大喜利選手には悔しい一冊かもしれない。
そんなある日のこと、前回お伝えした
『夏がとまらない』に
大量の「ドッグイア」をつくっていた
小学2年生女子が、本の余白に、
オリジナルの1ページ漫画を描き込んでいた。
持ち主(=私)の目をぬすんで。
『夏がとまらない』の作品形式を、
そっくりそのまま、マネをして。
内容は、とくにおもしろいものではない。
すごいなと思うのは、
ふつうの小2女子をここまで虜にする作品力。
おそるべし、藤岡拓太郎の世界。
(藤岡さんご自身にお伝えすると
2コマ目の頬の赤みが消えていて‥‥など
他愛のない子どもの落書きに、
真剣に向き合っておられました。いい人!)
ギャグ漫画家。
1989年5月31日大阪生まれ、大阪在住。
2014年から、TwitterやInstagramで
1ページ漫画や短編漫画を発表。
笑いと映画とラジオと大相撲が好き。
2017年9月、
1ページ漫画をまとめた初の単行本
『藤岡拓太郎作品集 夏がとまらない』
(ナナロク社)を刊行。
ホームページは、こちら。
1976年東京都生まれ。
株式会社ナナロク社代表取締役。
新卒で出版社に就職するも3年で解雇となり、
成り行きで設立した個人出版社も2年で頓挫。
その後、
復職した出版社が倒産したのをきっかけに、
2008年、ナナロク社を設立。
谷川俊太郎詩集『あたしとあなた』、
川島小鳥写真集『未来ちゃん』など、
これまでに約60冊を刊行。
近刊に木下龍也、岡野大嗣の共著歌集
『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』、
森栄喜写真集『Family Regained』がある。
ナナロク社のホームページはこちら。