第2回「安心の話」は、あたりまえ。

藤田
おもしろいなと思ったのが、
「全員めでたく大成功!」ではなくて、
失敗例もあったというのが‥‥。
糸井
いいでしょう?
藤田
しかも、それが糸井さんだったという(笑)。
糸井
あれはねえ、がっかりしましたよ。

まだ、陽当りや水のことを
よくわかってなかったんだよなあ。
藤田
はじめてのことですものね。
糸井
キットには、
ちゃんとしたものがついていると思うけど、
ぼくらは
苗を「牛乳パック」で育ててたんです。

で、ぼく、それを見たときに
「もうちょっと、何かないの?」みたいな。
藤田
あはは、なるほど(笑)。
糸井
つまり「カッコつけたい」わけで、
そういう自分の気持ちも、おかしかった。

だって、10月の刈り取りのとき、
新品のカマを持って屋上に登ったときは、
うれしかったもんなあ。
──
わざわざ買いに行きましたからね、
近所の「Olympic」へ(笑)。
糸井
そして「みんなで食べよう!」って言って
収穫祭もやったんですよ。

福島の味噌やら漬けものやらを買って並べて、
とれた米を炊いて、一口ずつ食べて。
あのときも、うれしかったし、おいしかった。
藤田
いいですね。
糸井
今回のキットには
放射性物質検査で「不検出」の種と土が
入っているんですが、
昨年、ぼくらも栽培につかった種と土も
同じですよね。
藤田
ええ、そうですね。
糸井
そういう種と土でつくってるわけだから
できあがったお米から
放射性物質が検出されないことは
当然わかってたんですけど、
ある意味、そのことをたしかめるために
できたお米を検査にかけたんです。
藤田
茨城大学の高妻孝光先生、ですよね。
糸井
かなり徹底的な検査をしてもらって
あたりまえのように
「不検出」だったわけですけど、
でも、育てているときって
そのことから頭が離れていたんです。

ある意味
「安心の話は、あたりまえ」だった。
藤田
なるほど。
糸井
それよりなにより、
本当に、お米ができるかできないか‥‥。
藤田
うん(笑)。
糸井
自分たちのお米は、
おいしいのか、おいしくないのか(笑)。
粒は、はたして、
ぷっくりしてるのか、痩せてるのか‥‥。

そういうことばっかり、話してたんです。
藤田
はい。
糸井
これこそ「安心安全の話だ」と思いました。

キットの説明文には
どういう検査をして不検出だったのかって
とうぜん書きますけど、
そこは、
当たり前のことを当たり前ですよって
言ってるだけなんで‥‥。
藤田
はい。
糸井
それより、ぼくらにとって魅力的だったのは
「やっぱりプロのつくった米粒は
 ぷっくり丸いよね」
「自分たちのつくったお米は
 ちょっと痩せ気味だけど、やっぱりうまいな!」
とか(笑)、そんな話だったんです。
藤田
そういうお話が聞けて、うれしいです。

で、いま、ふと思い出したんですけど、
以前、私の「機械自慢」を糸井さんに‥‥。
糸井
はい、はい。
「いかに俺のトラクターがすごいか」と(笑)。
藤田
でもいま、糸井さんが嬉々として
「カマを買って、うれしかったー」って
言ってるのを聞いて、
「ああ、わかってもらえた!」と(笑)。
糸井
いやあ、ハサミだって刈れるんでしょうけど、
ぼくらは、カマがあってよかったです(笑)。
藤田
機械や道具って、たのしくてしかたなくて。
糸井
やっぱり、そうなんでしょうね。
藤田
私たちの地区には
「学校田(がっこうでん)」と言いまして、
子どもたちに
田んぼの管理をしてもらってるんですけど、
田植えは手で植えてもらって
稲刈りのときは、カマで刈ってたんですね。
糸井
ええ。
藤田
で、あるときから田植え機に乗せてみたら
子どもら、メチャクチャ喜んじゃって。
糸井
あー‥‥わかる気がする。
藤田
5年生と6年生の限定でやってるんですよ。

そうすると、
1年生から4年生までが、
みんな「乗りたい乗りたい乗りたい」って。
糸井
ヘリコプターみたいだね(笑)。
藤田
本当に、そうなんです。
糸井
でも‥‥そうか。

その「手で苗を植える」っていうのが大変で
「農家はキツい」って言って
べんりですごい田植え機を発明したのに
教育の場面では「手で」って決めつけるのは
おかしいのかもしれないね。
藤田
そうですね、ええ。

まあ、私も冷静になって考えると、
「3反歩の田んぼを
 40分で耕作できるんだぜ」とか自慢してて
「それって、なんの意味があるんだ?」
とは、思うんですが(笑)。
糸井
藤田さん、トラクターの爆音の中で、
ご自分の好きなロックの音楽を聴きながら
シャウトしてるんですよね?
藤田
はい。時速「3キロ」くらいなんですけど。
糸井
いいなあ(笑)。
藤田
ものすごいハイテンポの曲を聴きながら
ノリノリなんだけど、
実際は時速3キロでしか動いてない(笑)。
糸井
最高(笑)。
藤田
でも、そういう話が魅力的なんだなあって、
やっぱり、思いますね。
糸井
うん、うん。おもしろいです。
そういうの、もっと聞きたい。

<つづきます>

2015-03-25-WED

copyright HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN