第3回 @気仙沼 義足論。

西條 こんど、パソナと日建学院といった
大手の企業と
「ふんばろう東日本企業連合」というのを組んで
就労支援のプロジェクトをはじめたんです。
糸井 ほお‥‥。
西條 企業の営利活動と矛盾しないかたちで
支援のプラットフォームをつくる。

いま確実に雇用があるのは「建築系」なんですが、
そこには「ふんばろう」の
重機免許取得プロジェクトもつなげていけますし、
これからは
いかに持続可能な形にするかが鍵だと思います。
糸井 なるほど。
西條 今は、仕事がないため
若い人が出て行ってしまっているので、
若い人たちを呼び戻せるような
就労支援の形を作っていく必要があると。

そのためには、やはり、
将来的にある程度の規模感を出せる
スキームで
進めなければと思っているんです。
糸井 それは、実感的な部分ですね。
西條 逆に、先ほど見学していただきましたが、
被災地のおばあちゃんたちに
ミシンをお贈りして
将来的に「仕事」につなげてもらおうという
ミシンプロジェクトなどは、
小さいお子さんをお持ちのお母さんや
ご高齢のかたにも
家で仕事をしながら
あるていどの生活費をサポートできるもの。
糸井 楽しそうでしたもんね、みなさん。
西條 やはり「お金」と同時に
「生きがい」の部分が、出てきたらいいなと。
糸井 奥さんたちが元気だと
「はたらき手」たちも元気になるんですよね。
西條 うん、うん。
糸井 被災地の復興についても、
身近に「拍手をしてくれる人たち」が
いるかいないかで、
前へ進めるかどうかが、決まると思う。
西條 なるほど。
糸井 妻が社会参加しようとしている家の旦那って、
概して元気ですから。
西條 ああ、たしかに、そうですね。
糸井 じゃあ今は、国とか企業なんかの方向にも‥‥。
西條 そうですね。

「被災地の復興支援」という目的のもとに
さまざまな企業をつなげる、
ひとつのプラットフォームのような役割を
果たせればいいなと思ってますね。
糸井 その動きには、期待だなぁ。
西條 もちろん、参加企業にはきちんとお金が入り、

持続可能な形の
被災地の復興支援につなげていく。

あくまでも
「地元の企業が地元の人を雇用できる」
ようにするので、
外から企業が入ってくるのと、違うんです。
糸井 うん、うん。
西條 はじめは建築系のプランを組みますが、
現地のニーズにあわせて
医療福祉にも応用できるし、
教育ビジネスにも、応用できますし。
糸井 使い回しできる構造を考えたってことですね。
西條 やっぱり‥‥今、あらためて思うのは
自宅が、会社が、故郷が、
すべて流されて、夢も希望も持てない、
そのことの「大きさ」です。
糸井 うん。
西條 重機プロジェクトを立ち上げた
5月の段階では
ほとんどの人が避難所で暮らしていて‥‥
何もやることがなかった。
糸井 そうでしたね。
西條 そこで、重機の免許を
無料で取得してもらうプロジェクトを
立ち上げたら、
どんな物資よりも
「ビラを受け取った人」の目が
いちばん輝いたんです。
糸井 ああ‥‥。
西條 プロジェクトには、申し込みが殺到しました。

被災地から逃げずに、誇りを持って、
自分の手で
自分たちの町を復興させるんだという希望を
持ってもらうことができたからかなと
思うんですね。
糸井 それは、大きいですよね。
西條 ミシンプロジェクトのときに思ったのも、
「大量生産・効率追求」の
市場主義的なパラダイムに乗ってしまったら
ぜったい勝てない、ということ。
糸井 勝てないし、そのパラダイムに乗ったところで
心から幸せというふうには、ならなさそうだし。
西條 そうそう、そうなんです。
糸井 つまり、どういったプロジェクトであれ、
「誇り」を持つことのできる、
誰かの目を輝やかせるものでありたい‥‥と。
西條 やはりいま、あらためて感じるのは、
「人間」にとって
「仕事」というものがいかに大切か、なんです。
糸井 うん、うん。
西條 「心の支援」が大事と言われてますし、
それはその通りなんですが、
仕事がなければ不安にもなるし、心がすさみます。
糸井 そうですよね。
西條 DVなどの問題は
家庭生活が追いつめられたとき、起きやすい。
糸井 ああ、なるほど。
西條 もちろん、
子どもたちの「学習支援」も大事です。

たとえば、
勉強したくてもできない子どもたちのための
学習支援プロジェクト。

今は、ニッケンアカデミーさんの
映像教材と問題集を
無償提供し、
パソコンも貸与しますというかたちで
学習環境を整える支援も行っています。
糸井 いいですね。
西條 ただ、現地のサポートのスタッフが
足りていなかったり、
まだこれから体制を強化していく必要があるので、
関心のあるかたは
フェイスブックのグループ
に入っていただけると
ありがたいです。
糸井 うん、うん。
西條 とはいえ、
やはり「子」を育てるのは「親」なので。

雇用創出や就労支援によって、
親の状況を整えることは
子どもの根本的な支援につながるんです。
糸井 ‥‥いま「本職の顔」に戻りましたね。

つまり「子ども」って
もともと西條さんの研究対象ですものね。
西條 はい。

じつは「母子間の抱っこの研究」で
博士号を取って
「抱っこの絵本」を出したりしています(笑)。
糸井 そうそう、そうなんですよね。
西條 親がはたらいてる背中を見て子は育ちますし、
仕方ない部分もあるとはいえ、
はたらけるだけの技術や体力があるのに
失業保険があるからと働かないのでは、
子どもの誇りも、育ちにくいと思うんです。
糸井 東北の話をしていると、
期せずして
「誇り」って言葉が出てくるんですよね。

「誇り」とか、「尊厳」とか。
西條 たぶんそれが、大事なことなんでしょうね。

家電プロジェクトのときも
被災地では「一方的に配る」スタイルは
取りませんでした。
糸井 つまり‥‥。
西條 「みなさん、手伝ってください」と。
糸井 なるほど。
西條 直感的に「お客さん」に「サービス」するのは、
ちがうなと思って。

案の定、そう呼びかけると
みなさん喜んで、家電を下ろしてくれるんです。

「ただもらうだけ」より、
ずうっと生き生きしているんですよ。
糸井 うん、うん。
西條 ミシンプロジェクトでも
1回目、受講してくださったかたに
2回目、「先生」になっていただいてるんです。

するとみなさん、受講生だったときより、
「先生」やってるときのほうが、生き生きして。
糸井 誰かの役に立てているから。
西條 はい。

もらってばかりでは
バランスが悪くなりますし。

誰かの役に立つ、頼りにされる‥‥というのは
とても大切なことですから。
糸井 つまり、「生徒が先生になる」やりかただと
「誇り」とか「自己尊厳」を
「リレー」していくことができるんだ。
西條 だから、現地の人にやれることがあるなら
どんどんやってもらうのが自然だし、
そうすることが、
本当の意味での「エンパワーメント」に
つながると思うんです。
糸井 ‥‥ぼくらが、まずは「2年間」と決めて
気仙沼に支社をつくったのも、
「どういうことを、いつまでやるのか」が
わかんなくなるのが、嫌だったから。
西條 なるほど。
糸井 はじめに「2年間」と決めておけば、
「もう少し、いさせてもらおうか」
というのも、
「もうやることないけど、あと3ヶ月かぁ」
というのも、
どっちもありだな、と思ったんです。
西條 うん、うん。
糸井 以前、MIT(マサチューセッツ工科大学)に行ったとき、
「義足」の研究をしてる人がいたんですね。
西條 ええ‥‥義足。
糸井 そう、博士課程に在籍している人だったんですが、
片足を失った教授が
その人の指導教官であり「実験台」だったんです。
西條 へぇー‥‥。
糸井 その教授にいろんな義足をつけてみるんですけど、
ふつうの人より
歩くのが速くなったりしてたのを見たんですよね。
西條 ええ、ええ。
糸井 ‥‥ぼくたちの「在りかた」についても
「義足」という発想で
考えられたらいいなぁと思ったんです。
西條 ああ‥‥。
糸井 歩くのは、あなた。

でも、この「義足」をつけたら
ちょっと速く歩けるようになるかもしれないし、
すこし遠くに行く気になるかもしれない。
西條 うん、いいですね。
糸井 2年経ったら
使えそうなものを残して帰って行くんだけど、
今度、こういう義足つくったんだよーって
また遊びに行ったっていいし。
西條 なるほど‥‥被災地の「義足論」。
糸井 そんなふうに捉えたらいいなじゃないかって。
<次回、東京での公開対談につづきます>
2012-02-21-TUE