第7回 @東京 支援の「ラストワンマイル」

西條 先ほどもお話ししたのですが、
いま「ふんばろう東日本企業連合」という
社会企業連合を組んでいて‥‥。
糸井 ええ。
西條 現地の行政には
国からのお金は落ちてくるんですけど、
なかなか
「事業」を立てられないんです。

で、その溝を埋められないかと思って。
糸井 たとえば、どういう仕事が?
西條 今、パソナさんと日建学院さんとで
進めているのは、
たとえば、建築関係であれば
CADという構造計算の図面を引く資格とか
宅建の資格とか、
国のお金を使って取れるようにして。

地元企業さんが、
そうして資格を取った人を採用すると、
1年間、
その給料は国から落ちる予算から出るので
お金がかからない。

つまり、無償で有資格者を雇えるんです。
糸井 なるほど。
西條 当人からすれば
座学で給料をもらいながら資格をとり、
地元企業に就職して、
OJT(On-the-Job Training)で技術を磨いて、
そのまま気にいってもらえたら
そこに就職できる。

で、難しければ他の会社を紹介する、
といった流れです。
糸井 やはり、今後は「雇用の創出」だと。
西條 はい、これは
被災された方々の支援であり、
地元企業の支援にもなる、
まさに
糸井さんのおっしゃる
「義足論」的な支援のかたちになると
思っています。

やはり、国からのお金を
どう効果的に使っていくかということが
大事な時期に入ってきてるんで。
糸井 いいですね。
西條 自治体ごとにニーズが違うと思うので、
医療、福祉、介護、教育と
コンテンツもいろいろ考えていて、
もういくつかの自治体からは
オファーをいただいて動いているところです。

自治体関係のかたは、
ぜひ、就労支援のホームページ
のぞいてみていただきたいです。
糸井 もう実際の動きになってるんだ。
西條 あと、現地の中小企業のための補助金も
落ちてはいるんですが、
肝心の現地の人が「知らない」んです。
糸井 ‥‥そうなんだ。
西條 なんとなくそういうのがあるらしい、と
知っていたとしても
雲をつかむような感じがして、
「申請してみよう」という気にならない。
糸井 うーん、わかる気もする。
西條 ですから、国のほうでも
「予算をつける」だけじゃなく、
「いっしょに
 書類作成もお手伝いしますよ」と
親身になってサポートしてくれる仕組みと
セットで提供しないと
うまく機能しないんだと思います。
糸井 初期のころ、西條さんたちが、
現地で必要な物資を歩いて調査してきて
ホームページに載せたように。
西條 そこの「ラストワンマイル」が
つながるかどうかで、
「0」と「1」くらい、違ってくると思うんです。

他の自治体から派遣するだとか、
民間の書類作成のボランティアを募集する‥‥
などでもいいと思うので、
行政に携わる人は、
そこを本気で考えてほしいですね。

それだけで、状況はだいぶ好転するはずです。
糸井 西條さんたちのミシンプロジェクトで、
第一回目の生徒さんに
第二回目の先生になってもらうって話、
あったじゃないですか。
西條 ええ‥‥先生やってるときのほうが、
圧倒的に生き生きするんです。
糸井 それって、やっぱり「誇り」の問題だなぁと
思うんだけど、
そのへんのことについては
やっぱり「人間理解」をベースにしてますよね。
西條 ええ、そうですね。
糸井 人間というのは何なんだろう‥‥という、
大げさに言えば、哲学。

だって、食って、寝て、ひりだしてれば、
それで人間かといったら、
たぶん‥‥そうじゃないでしょう?
西條 はい。
糸井 いま、この段階で
西條さんたちが重要視している「雇用」も
そういう部分、
つまり「人間らしさ」や「誇り」「自己尊厳」に
関わることですから。
西條 はい。
糸井 「貧しいなりに十分」って言いかたもあるけど、
「最低限」という言葉だってある。

あの‥‥よく例に出すんですけど、
終戦前後のころ、
化粧品の会社に勤めていた吉本隆明さんが
上の人にはナイショで
石鹸をつくって、
みんなでわけていたんですって。
西條 へぇー‥‥。
糸井 つまり、食べ物がまともにないときでさえ、
女の人は石鹸をほしがったんですよ。
西條 なるほど。
糸井 かほどさように、
「おしゃれ」や「お楽しみ」あってこその
人間なんだ‥‥という理解です。
西條 うん、うん。
糸井

為政者って、そこを忘れちゃいがちですから。

とくに、今みたいなときには
憲兵みたいな人が
目を光らせて「それは贅沢だ!」なんて
言い出しかねないですから。

西條 やはり「モノだけもらい続ける」ことだと、
バランスを欠きますよね、当然。

逆に「萎えて」しまうと思うんです。
糸井 うん。
西條 自分たちのほうから、はたらきかける。

ここまで「ふんばろう」をやってきて
あらためて思うのは
支援する側であれ、支援される側であれ、
人間の根本的な欲求って
「自分の生きたいように、生きたい」
だと思うんです。
糸井 うん、うん。
西條 漁師さんなら、もういちど海に出たいし、
農家のかたなら、
もういちど、野菜を育てたい。

つまり、自分が今までやってきたことを
復興に活かしたいと思ってるんです。

それこそ、
糸井さんのおっしゃる「誇り」かなぁと。
糸井 だから「閾値(いきち)」じゃないけど、
「最低限、
 ここから上くらいのクオリティがなければ
 だれも喜ばないぞ」
ということを、
支援する側も持つべき時期だと思います。
西條 ええ。
糸井 この前ね、八木澤商店の河野通洋社長と
話してるときに、
陸前高田の人たちを集めて、
バスで福島に行くプランを考えついたんです。

常磐ハワイアンセンターに
フラダンスを見に行くツアーなんですけど。
西條 おお。
糸井 なんか言い出しにくかったんだけど
言ってみたら「いいですねぇ!」と。

で、なんで言いにくかったかっていうと、
お金のかかる話だから。

でも「ありますよ、そんなの!」って
言われちゃって‥‥
あの人、自分も踊るくらいのつもりで。
西條 ははははは(笑)。
糸井 まわりに
「今度、ハワイアンセンターに
 踊りに行くんだよ」
とかって言ってたらしいですけど
それはちがいますんで。
会場 (笑)
西條 ぼくらのところでも、被災した人たちが
現地のボランティアで動いてくれてますけど、
概して「元気」ですよね、みなさん。
<つづきます>
2012-02-27-MON