舞台が立ち上がる前の熱気
「ハムレット」はマラソンのようなもの。
演出家の木村龍之介さんはそう言います。
42.195キロを走ったことがあるかどうか、
その差で人生は違ったものになる。
そんな言い方があるように、
シェイクスピア劇「ハムレット」を
観たことがあるかないかで人生は変わると思う。
そう、言うのです。
いったいカクシンハンの「ハムレット」は、
どんな風に立ち上がるのか。
2月はじめ、都内で行われた初顔合わせと
本稽古前のワークショップを見学してきました。
シェイクスピアは圧倒的な現代劇
「若いカンパニーだからこその
『ハムレット』を作りましょう」
この舞台のために集まった役者さんとスタッフに、
木村さんはまず呼びかけました。
450年前に書かれた戯曲とはいえ、
シェイクスピアが生きていた当時のイギリスは寿命が短く、
舞台にいたのは巨匠というより、若き俳優たち。
だから、臆することなく「圧倒的な現代劇」をやる。
「未知の可能性に満ちた新作」をやるつもりで、
「ハムレット」に取り組むのだ、と。
そして、それぞれ自己紹介のあと、
座ったまま第一幕第一場の台本読みがはじまりました。
- 2人の歩哨、バナードーとフランシスコ登場
- 2人の歩哨、バナードーとフランシスコ登場
- バナードー
- 誰だ。
- フラシスコ
- なに、貴様こそ。動くな、名を名乗れ。
- バナードー
- 国王万歳!
- フランシスコ
- バナードーか。
- バナードー
- そうだ。
- フランシスコ
- よく来てくれた。時間厳守だな。
- バナードー
- ちょうど12時を打ったところだ。帰って休め、
フランシスコ。 - ‥‥
- ‥‥
仮の役を決めて、セリフ読みが進みます。
Who's there?
自由に考えていい。ここは試す場だから。
そう言わんばかりに、岩崎MARK雄大さんが
英語まじりに読みあげます。
ハムレット出演が7回めになる河内大和さんは、
声を発した瞬間に、その場を舞台に変えます。
ときにささやきながら、ときに空を仰ぎ見る姿は、
スポットライトを浴びたかのような輝きを発します。
「演技としてやるのではなく、
人間としてやってみてもらえますか?」
木村さんから時折、指示が飛びます。
「シェイクスピアは人間を書いています。
亡霊が出たら驚くし、父を失えば悲しい。
まず、人間だったらどうだろう、と
考えてみてください」
「ハムレット」は大切な作品
ワークショップの間は試してみる期間だから、
いろんなことをやって、全力で楽しんで欲しい。
そう言う木村さんですが、飛び出すのは、
なかなか抽象的で思索的な注文です。
カクシンハンの旗揚げ公演の演目でもあった
「ハムレット」。
木村さんにとって思い入れの深い、
とても大切な作品です。
それだけに、「闘う魂」のぶつかりあう稽古場は、
真剣勝負の場なのです。
オーケストラでいえばコンサートマスター。
自身の役を演じつつ、
全体の演出イメージを具現化する
河内さんがこう鼓舞します。
「字が多くて文字に踊らされるけれど、
詩だからといって詩にしてしまってはダメ。
読み込んで、読み込んで、自分の感覚で語れば、
必ず人間のことばになる。『つかめた』と思う瞬間がくる。
詩で書かれたものに、自分の血と肉を与える。
そこまでキツい、根気強い作業になる」
でも、「それが楽しいんだ」と、
木村さんは言い添えました。
(つづきます)
2018-2-22-THU