その7 き×たまの位置みたいなこと。

糸 井 ぼくは、テレビ出身の人間じゃないんで
職人のおもしろさみたいなものに、
スケベ心で突っ込んでいっちゃう
自分がいるんですね。
もうひとつは、突っ込んでいっちゃう自分に対して
それは、おまえ全部むだ足になっちゃうぞ、
って言いたい自分もいるんですよ。
その両方の行ったり来たりで、
きっとぼくなりにやってるんですけど、
北折さんは、職人芸の部分っていうのは、
黙ってひとりでやってて、
実験をいつもやってるんじゃないですか。
北 折 はい。
実験やってますね。
糸 井 そこが、職人部分なんですかね。
北 折 うーん。
どうなんですかね。
そんなに意識していたかって言うと、
たぶん、ちがう‥‥
わかりませんね。
どっちにしても、
自分がつい動いてしまってる
理由っていうのは、
さっき話に出た
お客さんがかわいくて
仕方がないっていうことです。
それが一番ぼくを動かしてる
エネルギーなんですね。
糸 井 ああー。
北 折 で、どんな卑怯な手を使ってでも、
はめてあげたいっていうくらいにも思ってるんですね。
姑息な手段を取るのも、全然いとわない。
糸 井 うん。
北 折 まぁ、それがあたってるかあたってないかは
わかりませんけども、実験しながら
いつも、いろんな技を仕掛けたいっていうのは、
とても、思ってますね。
糸 井 うんうん。
 
北 折 ちっちゃいことで言うと
『死なないぞダイエット』、
糸井さんがこのタイトルがじゃまくさい
って書いてくれたのが、
ぼくはものすごく、褒め言葉だと思って。
糸 井 いや、わかります、わかります。
北 折 この、タイトルは、
気に入ってつけたタイトルではない。
なにか、引っ掛かりがあって嫌な言葉で、
だけども、
一回見てしまった以上なんかちょっと
心のどこかには引っかかるって言葉ないだろうか、
って探してつけた言葉で、
イメージで言うと、ですね。
「振り込め詐欺」なんですよ。
糸 井 ああー。
北 折 いま、「振り込め詐欺」って
あたり前のタームとして、
もう染み込んでますけど、
はじめて聞いたときって、みんな、
ものすごい違和感がありましたよね。
糸 井 ああ。
北 折 あれ、「振り込め」っていう命令形に
名詞が直接くっついてる気持ちの悪さだし、
日本語のルールにない言葉だったんだと思うんです。
それと、まったくおなじイメージで
糸 井 ああー。
北 折 「死なないぞ」っていう、
間投詞っていうんですか、
に、直接名詞がくっつくという
気持ちの悪さっていうのを
狙ってみたりとかも、ぼくの中では実験です。
糸 井 あと、著者じゃなくて、
読んでる側に、
主体がありますよね。
「死なないぞ」って言ってるのは、
読んでる人のほうですから。
北 折 はい。
そういう、なんか‥‥。
糸 井 気持ちの悪さね。
北 折 気持ちの悪さ、違和感っていうのも、
ガッテンでよく使っています。
違和感があると、やっぱり、
引っ掛かりがあって、
「ん?」って思うから、
「あー、そういうことなわけね」
っていうのが、後で来る。
そういうのは、ほんとにしょっちゅう
使ってることですね。
すんなり伝えるより、よく心に届くんで。
 
糸 井 違和感っていうのは、ぼくもよく言いますね。
違和感って、疑問の手前にあるもので、
反対してるわけでもなければ、
疑問を持ってるわけでもないんだけど、
‥‥・なんか、ちょっと。
北 折 なんか、居心地の悪い感じの。
糸 井 うん、合わないんだよねっていう。
金玉の位置みたいなことですよね。
北 折 金‥‥・(笑)。
糸 井 つい、言ってしまいました。
あのー、そうなんですよ。
観 客 (笑)。
 
北 折 ははは。
糸 井 違和感か。
ぼくは、違和感から、
おそるおそるいろんなこと言い出して、
話が展開していくってケースはよくあります。
いや、悪いって言ってるんじゃないんだけど、
そのまんまだと、そのまんまで、
世の中の仕組みとおんなじになっちゃう、
っていうときに、
世の中の仕組みに合わせるっていうの、
オレは下手だから、
そこで勝てる気がしないんですよ。
っていうのが、ぼくの一番の違和感です。
北折さん、いま、他のディレクターにも
どんどん、どんどん、仕事を任せてるでしょう。
北 折 はい。
糸 井 そうすると、ルーティンワークと言いますか、
例えばその、いま流行りの
重要なことを字幕で出すか、
出さないか、みたいな。
北 折 はい。
糸 井 そんなところで、これ出したほうが得ですよね
って言ったら、使っちゃうっていうときに、
はたしてほんとうに得なんだろうか、
っていう違和感がありますよね。
それを、黙って静かにルーティンにしていったり、
考える場所をどんどん少なくしていくと、
少なくして、おまえら元気になるんだったら
それはそれで、けっこうなことだけども、
お客さんは退屈だぞ、って気持ちがある。
うまくいってる仕事に対しては
とくに、すぐ、邪魔したくなるんですよ。
北 折 うん。
糸 井 おんなじ話ですよね。
北 折 おんなじだと思いますね。
糸 井 違和感なんですよねぇ。
それ、落ち着かないですよね。
北 折 落ち着かないです(笑)。
そして、違和感をつくり続けるのも、
とても、つらい仕事です(笑)。
糸 井 つまり、おさまっちゃうたびに、
疑うわけだから。
北 折 うーん。
糸 井 違和感っていう言葉そのものも、
オレ、けっこう使うようにしてますね。
問題は違和感だよっていうのを。
空気薄いぞだとかね。
お客さん、みんな、笑ってくれてるけど、
飛び上がってよろこんでたようなおいしさは、
味わってくれてないぞとか。
北 折 ああー。
糸 井 最初にやったときには、
笑いながら「おもしろかったです!」
って言ったのに、
いまだったら、落ち着いて、
「おもしろいですね」。
それは、そっちにあえて
行ったんじゃなければ、ダメだよね。
それから、あえて落ち着かせたって場合には、
いまでも笑いながら、
「おもしろいです!」って
言ってくれる人がいるっていうの、
かえって邪魔ですよね。
北 折 ああー。そうかも。
糸 井 落ち着かせたくて、他の方に、
シフトしたいんですから。
北 折 うーん。
糸 井 その、いちいちを違和感にしてないと
いけないんで。
それは、自分の位置みたいなもの、
ほんとに微妙なところで、
バランス取ってないと、
感じられないですね。
北 折 うーん。
糸 井 これ、社内の事情なんですけど。
ぼく、数字苦手なんです。
なのに数字見ながらしゃべるっていうとき、
その通りなんだけど、
心が一致しないときがあるんです。
そういうときは違和感を申し立てて、
めんどくさくするんですよ。話を。
そうすると、答えは出ないけど、
もういっこ第三の道があるかもしれない、
また、今日も出ませんでしたねって
終わるんですけどね。
 
(つづきます!)
2010-05-31-MON
まえへ このコンテンツのトップへ つぎへ