その8 NHKと、視聴率。

糸 井 視聴率については、
どうお考えになってるんですか。
北 折 NHKに入って思ったんですけど、
視聴率を狙いにいくっていうことが、
あまりにうちの会社になさすぎて、
びっくりしたんですね。
糸 井 はい。
北 折 けれどもたまたま入局したときに入った番組は、
すごく視聴率を狙っていた番組だったんですよ。
それは、夕方6時の番組で
昔、「600こちら情報部」って
あったじゃないですか。
あの番組が、
お兄さんとお姉さんが変わったりして、
だんだんこう、下がっていって、
「どんなモンダイQテレビ」ってのに変わったんですよ。
で、それが、まったく低い数字しか
とれない番組になってしまったときに、
3%の番組を1年で15%取れる番組にしよう、
っていう方針で始まった、
NHKの中では画期的な番組に
たまたま新人のときに入れたんですね。
糸 井 へぇー。
北 折 で、そこで、数字は狙いに行っていいんだ、
ってことが、よくわかったんですけど、
そこから離れたら、
やっぱり数字を狙ってる人たちが
ほとんどいない世界だったんですね。
逆に言うと、NHKは、視聴率ゼロを
目指さなきゃいけない番組があるんだ、
みたいに、えらそうに言う人もいたくらいで。
全然理屈がずれてるんですけど。
そんな会社だったので、
すごく、自分の中で、
おかしいなと思っていました。
で、ぼくがつくる番組だけは、
たくさんの人に見てもらって、
たくさんの人によろこんでもらいたい。
他の人とはちがって、
ぼくだけはそうです、って。
 
糸 井 それは、宣言もするんですか。
北 折 しました。
糸 井 スタッフに?
北 折 スタッフにもしましたし。
糸 井 上司もいるわけでしょ。
北 折 上司にはあんまり言わなかったですけど。
‥‥いや、エライ人とぶつかるのは、
きらいではなかったので、
ちょっとはしてました、ですね。
あ、あと、局内で何回か講演はしてます。
「NHK的ダメ番組が生まれるワケ」みたいなタイトルで。
番組をどうやってつくったら
視聴率が上がるかっていうのは、
実はあんまり難しいことではないと
ぼくは考えてるんですね。
それは、なぜか、って言ったら
とりあえず見始めた人を
最後までキープしていけば、グラフは絶対まっすぐで、
そこに途中から誰かがくれば、上に上がる。
──っていう、当たり前のことを考えればいい。
糸 井 あぁ。
北 折 ってことは、
見始めた人が、途中から
じゃあねっていって、
ピッて、こうチャネルを変えていなくなっちゃう、
ってことさえ防げれば、
視聴率は高くキープできるはずっていう、
当たり前のことを
もっと考えた方がいいじゃないのと。
糸 井 それは、でも、大発見ですね。
北 折 はい。
それで、ガッテンをつくってきたら、
ガッテンのグラフは、
もう10何年、毎週必ず右肩上がりなんですね。
それができるようになってきて、
だんだん、NHKの中でも、
ここ10年ちょっとぐらいですかね。
視聴率を取るってことは重要だってことが、
わかるようになってきたかなーと。
糸 井 うんうん。
北 折 なので、ぼくは、もう視聴率は
たくさん取るってことを狙って当たり前。
糸 井 つまり、お客さんがかわいいと思ったわけで、
そのかわいいお客さんには
もっといっぱいいてほしいわけですね。
北 折 単純にそういう話です。
糸 井 その通りですね。
で、ノウハウについて
もっとへんなこといくらでも言えるんだけど、
さっき言った原則が、一番清潔ですよね。
北 折 はい。
糸 井 つまり、流行ってるものを呼んでくれば
視聴率が上がると、
みんなが、本気で思ってますよね。
だから、出版社で言えば、
売れる作家と仲良くなることが、
ベストセラーを出すことだと思ってるし、
テレビ局は人気のあるタレントを連れてくると、
視聴率が上がると思ってるし、
じつは、逆に言えば
それが視聴率を上げないコツですよね。
そんだけ、みんなが言ってるってことは。
北 折 あぁ。
糸 井 旅の例がすごく合ってるなぁ、
北折さんの話は。
旅してるときに、ここでオレ帰るね
って言われなければ、
手をつないでいけるわけだし、
新しいスタッフとの仕事は、
さっきまで自転車で行ってたのが、
車に乗ってきなよって言ったら
車に乗れるってことだし。
そういう地理的な道のりをすごく感じますね。
もともとそういう人だったのかな。
 
北 折 どうでしょう(笑)。
まったくわかんないです。
糸 井 ぜんぜん関係ないですか。
なに部ですか。
学校のとき。
北 折 水泳部と、演劇部だったです。
演劇部をやってたときに、
これも話すと長い話‥‥、
というほど、長くもないんですけど。
観 客 (笑)。
北 折 ぼくたちが、高校とか大学ぐらいのとき、
愛知県で演劇をやってる人たちっていうのは、
一部の教育関係者からすると、
こいつらはなにかよからぬことを
くわだててるんじゃないかっていうふうに
思われてたんですね。
糸 井 あー、はい。
観 客 (ざわざわ‥‥)
北 折 ほんとにそうなんですよ。
その当時、三高禁っていうルールがあって
中学のときの友達でも、
別々の高校に進んだら、
3つの高校の生徒が日曜日に喫茶店で会うだけで、
処罰の対象だっていうんです。
 
糸 井 愛知県の教育ですね。
うん。
北 折 なんか準備してるんじゃないかみたいなところがあって。
そういう中で、演劇はおもしろいからやりたい、
というふうに単純に思ってたんですけど、
そうすると、実際「おまえらアカの残党だろう」
と言って、露骨にぼくたちの活動を
つぶしにかかる人たちっていうのが、
当時はいらっしゃったんですよ。
糸 井 ほうー。
北 折 そのときに、もし
趣味で演劇をやりたかったら、
演劇をやり続ける環境を
自分たちでつくらなければいけない
ということを思ったんですね。
糸 井 うーん。
北 折 ですから、もし、ガッテンのお客さんを
大事にし続けたければ、
ガッテンを見続けてくれるお客さんをつくって
つぶされないようにしとかなきゃいけない
っていうのも、同じようにあったんですね。
それは、そういう学生時代に思ったことが、
何かつながってるとしたら、
そういうことがあるかもしれない。
糸 井 じっとしてたら、やっていけなくなるんだよ
ってことですね。
北 折 そうですね。
糸 井 自分が変化したり、動いたりしないと、
つまり、逃げ回りながら
劇団やってるみたいなことですよね。
北 折 そうですね。
だから、堂々とガッテンをやっていてもいい環境を
NHKから与えられ続けなければいけないので、
数字は取って当たり前だったりもします。
そのことと、
お客さんがかわいくてしょうがない、っていうのは、
狙ってることがおんなじでいけるわけですから。
糸 井 ああ。
北 折 だったら、数字取りゃいいじゃんって話ですね。
糸 井 ああー。
はぁ、はぁ。
そのあたりの、自分が考えていることが
ずーっと、一貫して
整理できてますよね。
北 折 そうですか(笑)。
昔からぼんやり思ってたんですかねえ。
 
糸 井 だれか、話し相手みたいなのはいるんですか。
北 折 水曜日の打ち上げのときには、
必ずそういうディープな話に
なっていきますね。
ただ飲んで楽しいっていうよりは、
ディレクターをはめるためにやってるから、
っていうのありますけど。
糸 井 はい。
北 折 そのディレクターの持ってるものを、
ぼくも知りたいし、
そのディレクターからすると、
普通は4年ぐらいで、
誰しも転勤するNHKなのに
15年もここにいる人から何かを取りたい、
っていうのも。
糸 井 15年もいる人は、たしかに珍しいね。
(つづきます!)
2010-06-01-TUE
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