その12 落とし穴にはまってもらうための道案内。

北 折 よくね、ぼくたちの中では、
「落とし穴理論」って言ってるんですけど、
思いっきりガッテン、ガッテンしてもらうことは、
ぼくたちの用意した落とし穴に
はまってもらったっていう考え方なんですね。
糸 井 はい。
北 折 落とし穴をつくったときには、
やっぱり、ここを歩いてる人に
この穴にはまってもらうために
どうしたらいいかっていうのは、
やっぱり、穴から逆算して、こう。
糸 井 通行止めをつくるわけだ。
北 折 はいはいはい。
あっちへ行っちゃわないようにするために
どうしたらいいかっていうことです。
ここに穴があるから、
それができるわけですから。
そういうふうに考えて、やってます。
糸 井 「はじめてのおつかい」とおんなじですね。
北 折 ああー(笑)。
 
糸 井 テレビ屋さんのひとつの
こう、一所懸命やってるといく方法。
はじめてのおつかいの男の子や、女の子が
あっち行ったり、こっち行ったりしちゃ
困るんですよね。
北 折 うんうん。
糸 井 で、行かせないようにする。
出前のなんかを持った人がいたり。
北 折 おまわりさんみたいな人がいたり。
糸 井 事故が起こらないように、っていうためにも、
記録するためにも、いるんですね。
だから、あれもだから、言わば
観察者が実験に関わってるわけですよね。
いまのお話も、まったくそうで。
観察者と実験者の関係をどういうふうに見ていくか、
っていうことは、たぶん、
この先、ぼくが、ひとりで考えることですね。
で、こんど会ったときに、
あれ、わかった、わかったって
報告できたらいいんですよね。
北 折 いいですねぇ。
糸 井 そうかぁ。
お客がいなかったら成り立たないものですよね。
北 折 そうです。
完全にそうですね。
ですから、ぼくら、ゲストの人に
ものすごく助けられてるんです。
糸 井 ゲストが先に穴に落っこったり。
北 折 はいはい。
糸 井 あっちは、行かないぞ、って言ってみたり。
北 折 山瀬さんとか、頭が良すぎて、
そのー、ちゃんと途中で迷いながら
こっちのルートにはまっていくっていうような役割だ、
っていうことは、よくご存知なんですけども、
間違えて、穴そのもののことを
先に言っちゃったりとかしないかってことを、
すごいいつもあの人は、
ビビりながら発言してるんですね。
糸 井 そうですね。
そういえば、そうですね。
「ふしぎ発見」の黒柳さんに近いものですね。
 
北 折 (笑)。
つみれっていうテーマのとき、
ほかのゲストは、めったにつくらないです、だったのに、
山瀬まみは、わたしはものすごくつくってます、
わたしのやつはおいしいです、
わたしの場合は、こうやってつくりますって
言ったときに、
あ、もしかして、これ、自分
今日のガッテンの結論言っちゃったかな?
って、番組の冒頭で、
もう、すごい不安になるんですね。
観 客 (笑)。
糸 井 うん。
北 折 で、それはほぼ正解で、
こっちも軽くあちゃーって思うんですけど、
でも最後には、それよりも、こっちは
もうちょびっとワンランクアップ、
の方法を提示できることがわかってる。
それでも志の輔さんも小野アナウンサーも
ちょびっとだけ慌てるんですけども。
糸 井 (笑)。
北 折 そういうときは、ぼくたちが、動じないで
スタジオで普通にしているのを見て、
志の輔さんも小野アナも、動じないでいいんだと。
糸 井 ほっとするわけだ。
北 折 山瀬まみだけは、ドキドキ、ドキドキしながら。
観 客 (笑)。
糸 井 ということは、
北折さんたちの態度みたいなものも
全部番組に影響しますよね。
北 折 影響してます。
糸 井 映ってないけどね。
北 折 ぼくらが慌ててるかどうか、
っていうのは、けっこう。
糸 井 はぁー。
それはバラエティー番組とかで、
笑いを先導するために
スタッフが大きい声で笑ったりして、
温度を上げる側にばっかり、
連れて行っちゃうじゃないですか。
で、それによって
逆に笑ってくれたからって信用できない、
っていう、演者が生まれちゃってますよね。
それの逆ですね。
北 折 逆かもしれないですね。
糸 井 戦いながら。
北 折 (笑)。
糸 井 さっきの旅ですよね。
一緒に鬼が出るか蛇が出るかのほうに。
北 折 ええ、ぼくらも出演者も戦ってますね。
 
糸 井 ここは、ここはちょっとテレビ論だね。
でも、死なないぞダイエットの
本のつくりかたもおんなじですもんね。
北 折 あ、そうかも。
はいはい。
糸 井 つまり、死なないぞダイエットそのものが
ダイエットさせてくれるわけではありません、
って、途中に一回出てくる言葉があるんですけど、
自分から言っちゃってるのは、
あれ、そろそろこれ言わないと、
お客さんが帰っちゃうかもしれないと
思っているわけですよね。
北 折 そうですね、はい。
糸 井 じゃあ、なんで読む必然性があるんだろう、
って思わせる、あのあたりの、あうんの呼吸は
テレビ屋さんですよね。
これ、30分で読む本じゃないのはたしかだけど、
気持ち的には、1時間のコースをこう
歩んで行ってる感じがするんですよね。
で、あいだに、それはさておき
みたいに、ポテトチップの話を書いてみたり
なんか、トピックスみたいなのを、
ちょっ、ちょっと入れて
ここからはなだらかに帰りましょうっていう。
帰り道は速いんだよ。
北 折 そうですね。
糸 井 そうだ、そうだ。
 
北 折 だれかのブログで、著者のかたには申し訳ないけど、
本屋でまるごと1冊読んでしまいました、
って書いてあって、あれはうれしかったですね。
あ、本屋で読まないでもらいたいんですけど(笑)。
糸 井 いや、そうできてますもんね。
ぼくは、読み終わった本を
年代の中年の友だちに、
オレ読み終わったやつだけど、
いま、アマゾンで売り切れてるからあげるよって言って、
あげっちゃったんですよ。
だけど、あげちゃったけど、
またもう一回買ったんです。
でも他の料理本とはちがうんですよ。
料理の本とかね、なんだろう、
知ってるけど、忘れてるんですよ。
それから実践するために、
思い出さなきゃならないことが
いっぱいあるんですよね。
さっきのチャーハンの話も、
オレ読んでるはずだから
そうそう、卵、卵、
って思い出すんだけど、
ひとりで、えーっとね、なんだっけ、
って言っちゃうんですよ。
あれを、オレが読み込んでて、覚えてて、
家事に口出すと‥‥
北 折 (笑)。
糸 井 うちの家庭は崩壊すると思うんです。
そのことについて、みんなにも言ったんだけど、
旦那がね、これはこうやるといいんだよ
とか言い出したら、なんか、やですよね。
北 折 はははは。
糸 井 で、奥さんもたぶん、あれ見てて
あ、忘れちゃったって
言ってると思うんですよ。
そのあたりのことを、どう?
北 折 うーん。
うちのお客さんのメインの層は
だいたい、50代以上で、60以降。
60歳っていうのが、
一番メインなんですね。
定年しちゃった旦那が
片付けとかは全部おまえがやってくれ、
その代わり、料理はオレがつくる、
っていうようになるような人が
まるまる食いついてくれるといいな、
っていうのは、最近思ってます。
糸 井 まさしくオレだよ。
観 客 (笑)。
糸 井 その会話もうすでにありましたよ。
「あなたがつくるんだったらいいけど」
その一言ですよね。
用意もするし、手伝うけど、と。
北 折 口だけ出されるのは
一番むかっ腹が立つでしょうね(笑)。
糸 井 腹が立ちますよね。
だから、ぼくも、家事については
オレがやるわけじゃないんだから、
口出さないようにしようって、
いろんな我慢をしてますよ。
北 折 (笑)。
糸 井 じゃあ、そうか、
忘れちゃうぐらいのことを
想定してるんですね、きっとね。
北 折 それはまぁ、そうですね。
ぼくたちの目標として使ってる言葉に
「知る喜びよりわかる喜び」というのがあるんですけど、
わかってさえもらえば全部覚えなくてもいいんですね。
昔は、ぼくたちは、
番組しか方法がなかったんですけども、
そのあとに、ホームページというものができて。
糸 井 そうか。
北 折 あとまた、そこに、雑誌ができてきて、
また、料理のものだけを集めたムック本
のようなものとかもできてきて、
かなりカバーできてるんです。
でも、それでも何かが足りないような気がしたので、
ぼくが書いてるような感じですね。
糸 井 そうかぁ。
とても、伝えたいってことは、
やっぱり、単行本出てると
熱意が伝わりますよね。
北 折 (笑)。
(つづきます!)
2010-06-06-SUN
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