糸 井 |
飯島奈美さんの『LIFE』っていう本も、
そうなんですけど、
この通りに調理してくださいね
っていうのを、
暗記してたら、料理上手になれるんですね。
でも、暗記してなくても、
いちいち本開けばいいじゃないか、
っていうのが、いまのやり方だと思って。 |
北 折 |
ええ。 |
糸 井 |
何回つくっても忘れちゃうんだよね
って言って、
また、シミの付いた本を出してくるっていうので、
本と自分とセットで
料理上手になればいいじゃないかって。 |
北 折 |
そうですね。 |
糸 井 |
それがぼくのいまの考え方なんですけど、
それ、北折さんもどうもそうですね。 |
北 折 |
はい。思いっきりそれをやると、
体に染みさせることができると思います。
なんとなく、レシピを見るとき、
大半の人は、順番と分量だけを──。 |
糸 井 |
見ようとする。 |
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|
北 折 |
ええ。
特に分量を見ようとするんですけども、
それこそ、味の好みの問題で、
いろんな人がいろんな味を好きだったり
とかしますよね。 |
糸 井 |
うん。 |
北 折 |
それよりも、何よりも食材に
こういう熱の加わり方をすると
こういう食感になるっていうことが
だんだん、体に染みれば、分量は適当でも
よくなってきますので。
このタイミングで入れて、このぐらいの火で、
このぐらいの時間やれば、
こうなるってことは、
身に、だんだん染み付いてくる。
その鉄則は、本をちゃんと見ながら
きっちり、やったってことを、
何度か経験した人には、
もうインストールされていく
感じだと思いますので、 |
糸 井 |
ああー。 |
北 折 |
そうすれば、いつまでも
本を見なくてもいいかもしれない。 |
糸 井 |
北折さんが水泳が速くなった
その物語とおんなじですね。 |
北 折 |
(笑)そうか、そうだったんですね。 |
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糸 井 |
うん。
つまり、ひ弱な一青年が
動機はまちがってたかもしれないけど、
ああでもない、こうでもないとやりました。
効くものが残って
効かないものは捨てられてって
覚えちゃったら速くなってました、
ってことですもんね。 |
北 折 |
あ、そうか。そうですね。 |
糸 井 |
それ、NHKでやってるってことの
凄みがもう一つあって、
公共放送だって性格があるもんだから、
煽れないわけですよね。
ここのところは、
科学的根拠があるんですか
どうなんですか、って質問されたときに、
公式見解がいつでも述べられるって準備をしながら
体にいいですとか、おいしいですとか、
やんなきゃなんない。
ここの縛りについては、
「ためしてガッテン」は
ものすごく上手に。 |
北 折 |
はい。
これは、逆にぼくたちは、最初っから縛りが
ある程度あったおかげで、
すごく楽だったんですね。 |
糸 井 |
へぇー。 |
北 折 |
そこさえ外さなければ、あとはあばれていい、
っていうふうに、ぼくたちは考えたんですね。
その分、演出面に力を入れることができて、
しんどくても楽しめるんです。
で、そのうちにわかってきたのは、
たぶん、体にいいですよって番組が増えちゃったのは、
テレビを制作する人たちからすると、
それが楽だからやってたことなんですね。 |
糸 井 |
うーん。 |
北 折 |
食いつきがいいっていうのもあったんですけども、
簡単なんですよ。
体にいいって言ってる先生をひとり連れてきて
そのデータをおもしろおかしく紹介すればいい、
っていうのは、ラクなんです。
でもぼくたちは、ものの作り手としては、
簡単すぎて、おもしろくないっていう部分が
あったりするんですね。
で、ぼくたちはその意味でいうと
きちんとしてないといけないっていうような
ことが、最初から求められていたぶん
じゃあ、どこで楽しむかとか、
どこではめるっていうふうに、
計算しようかってことを、
たのしむことができたんですね。 |
糸 井 |
はぁー。 |
北 折 |
縛りがあったことは、
面倒って思われるかもしれないですけども
そんなに面倒でもないですね。
たくさんの学者に会って
ちゃんと話を聞けばいいだけのことですし、
その学者の中の誰が言ってることが、
もっとも信頼できるかっていうようなことを調べるのも、
NHKの人は、もともとそういう取材力が高いですから。 |
糸 井 |
そうですよね。 |
北 折 |
はい。
それは若いディレクターも鍛えられてますので、
もともと、そこは高いとするならば、
そこの縛りの苦しさとかっていうよりは、
その縛りがあったことによる、
こっちの楽しみが増えたっていうことのほうが、
ぼくたちにとっては重要だったです。 |
糸 井 |
自分たちの特性を活かせるわけだ。 |
北 折 |
はい、はい。 |
糸 井 |
NHKならではですよね。 |
北 折 |
はい。
まあNHKの場合、
ちゃんとしてるだけでおもしろくないままのものも
けっこうありますけど。 |
糸 井 |
ぼくは、NHKの人たちを励ましたい
ってやたらに思うのは、そこの部分ですよね。
特にね。
そんだけ、基礎的に鍛えられてる、
その部分っていうのが
いまの民放には、
やっぱり要求されてなくなっちゃって。 |
北 折 |
うーん。 |
糸 井 |
急げとか、一気に上げろとか、熱を上げろとか。
はぁー、そうかぁ。
あ、でもガッテンにも、他の部署から来た人なんかも
どんどん混じるわけだよね。 |
北 折 |
そうですね、はいはい。 |
糸 井 |
そうすると、なおさら、
オレの得意なことだよ、ってことですよね。
急がば回れを知ってるよね。 |
北 折 |
そこは間違いなく、そうですね、はい。 |
糸 井 |
それで、へんなことしちゃったら
急がば回れどころか、1本番組とんじゃうぞ、
みたいなことも、知ってますよね。 |
北 折 |
そうですね。
ガッテンでは番組とんじゃうっていう脅しで
おまえきちんとしろ
っていうふうに言わなくても、
そんなことしてもおもしろくないだろ、
って話で済んじゃうんですよ。 |
糸 井 |
見事だなぁー。
それは、ちょっと、ある種の危機管理ですね。 |
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北 折 |
あ、完全にそうです。
マスコミの現場の人は、何かがうまくいかないようなときに、
ちょっとくらいならねつ造しちゃいたいことも
あると思うんですね。
そのときに、脅しだけだと、
バレないようにと巧妙化するかもしれない。
ぼくたちは、それおもしろくないぞって共有しておけば、
やりたい気持ち自体が生まれないっていう。 |
糸 井 |
いやー、NHKの人しか言えないぐらいですね。
人にもの言うっていうのは、
たいへんなことだよ、
っていうところからスタートしてて。
で、まぁ言い方は悪いけど、
エリートがはじめたことの良さですよね。
たぶんね。 |
北 折 |
うーん。 |
糸 井 |
勉強のできる人を採ってますよね。
やっぱりね。 |
北 折 |
たぶん、それはまぁ、
そういう採用の仕方をしてるでしょうけどね。 |
糸 井 |
それで悪いこともあったかもしれないし、
人はよくそこを言うけど、
そこをオレは苦にならないよっていう人たちが
いっぱいいたっていうのは、
やっぱり、NHKと仕事してて楽なのは
そこですもんね。
そうかぁ。
「おもしろい」ってキーワード
そこに混ぜられるっていうのは、やっぱり
大したもんですね。
もう身になっちゃってるからわかんないでしょ。 |
北 折 |
いやー、でもうちの会社で何か問題があったときに
どれくらいたいへんな目にあうかは
身にしみてわかってますから。 |
糸 井 |
うーん。
はぁー。
ぼくは料理は、
煮物が好きなんですよ。
煮物って、難しくないんですね。
一所懸命やればできる。
理屈として、ひとつだけ覚えてたのが
冷えるときに味が染みるっていう。
そのことをいつも考えながら
黒豆を煮たり、置いとけばいいんだよ、
って言って、
ずーっとそれを繰り返していくんだけど、
この知識1個で、そうとう役に立つんですね。 |
北 折 |
そうですね。 |
糸 井 |
で、さっきの仕事の仕方もそうで、
冷めていくときの、チェックの段階が
一番身に染みるんだっていうふうに、
煮豆の要領で、わかるんですね。 |
北 折 |
うーん。なんか高度な話になってますねぇ。 |
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糸 井 |
で、北折さんの話、全部
さっきの水曜の話じゃないですけど、
チェックの段階が、一番ガポガポ稼いでますね。 |
北 折 |
あ、それはそうですね(笑)。
ほとんど、それでできてるようなもんですね。 |
糸 井 |
ほんとですね。
プランニングして、アクションして、チェックして、
って、3つ段階があるんだけど、
チェックのところってさぼっても、
仕事になるんで、ついやっちゃうんですけど、
実は、チェックのときに味が染み込むっていう。 |
北 折 |
そうですね。 |
糸 井 |
それだね。 |
北 折 |
はい。
ちょっと加熱して開かせて
ゆっくり閉じるころに、
しゅーっと入る感じですね。 |
糸 井 |
そうですね。 |
北 折 |
素早くシュッと閉じると入りませんから。
ゆっくり閉じるときに、入る感じですね。 |
糸 井 |
そうですねぇ。
いや、勉強になったなぁ。
自分が無意識でやってることと、
北折さんがずーっと考えてやってきてることと、
重なる部分がいっぱいあったんで、
今度、料理の本、もうちょっと真剣に読んで
これは、オレ思ってたことだ
っていうの、もっと探してみます。
いやー、ありがとうございます。 |
北 折 |
はい、こちらこそ、ありがとうございます。 |
(次回、最終回!) |
2010-06-07-MON |