犬と猫と人間のはなし。 番外編  NPO法人アーク代表、オリバーさんインタビュー
犬や猫たちの助けにもなる手帳カバー、 「スティックグッドドッグ」の制作も佳境だった 夏の盛りのある日のこと。 ジョージ大阪店でおこなわれた、 動物保護団体「アーク」の里親会におじゃましまして、 代表のエリザベス・オリバーさんに お話をうかがいました。
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エリザベス・オリバーさんが設立し、
現在も代表をつとめるNPO法人アークは、
行き場を失った犬や猫たちを保護し、
大阪の能勢のシェルターでからだと心の傷をいやし、
新しい家族を見つけるという活動をおこなっています。
今回おじゃました「里親会」とは、
アークに保護された犬や猫たちが
新しい家族と出会うための場所。
オープン間もないジョージ大阪店の一角で
おこなわれた里親会の様子を
まずは、写真でご覧ください。
―― 今日の里親会に参加しているワンちゃんたちに
スタッフのみなさんがおやつをあげているのを
拝見していて驚いたんですが、
それぞれ、その子専用の食べ物を用意されているんですね。
オリバー そうですね。
一匹ずつの特別なケアを、できるだけしています。
―― いま、アークのシェルターに保護されている
動物たちの数は、どのくらいなんでしょう。
オリバー 犬が200匹くらい、猫が150匹くらいですね。
一時期は全部で500匹くらいいたことがあるけれど、
スペースの問題もあるし、
あまり数が多すぎると、目が行き届かなくて
かわいそうなことになりますから。
―― 今日、ここに来ている子は、
ミニチュアダックスフント、キャバリアと‥‥
小型の犬が多いですか?
オリバー 最初はアークに来る犬たちも、
雑種の中型犬が多かったんです。
でもここ数年は、小型犬が人気でしょ?
人気の犬種は、ブリーダーがたくさん繁殖させて、
子どもを産めなくなった犬を捨てるんです。
それで最近は、アークに来る犬たちも
小型犬がかなり増えてます。
―― あぁ‥‥。
オリバー 最近も、ダックスなどの小型犬12匹を
ブリーダーから保護しました。
去年の12月には、チワワとダックスで50匹。
1カ月の間にです。
子どもを産めるだけ産んで捨てられた犬たちは、
もう若くはないし、いろんな健康上の問題があります。
たとえば、皮膚病とか乳腺の病気、歯石とか。
それに、筋肉もない。
たぶんブリーダーのところでは、
ほとんどケージに入れられていて、運動不足ですね。
―― なるほど。
オリバー 残念ながら、日本には
ブリーディングのことをちゃんとわかってやっている
ブリーダーはかなり少ないと思います。
趣味でやってるブリーダーというか、
犬を飼っていて、自分で子どもを増やそうと思ったとか、
お金儲けのために流行りの犬種を
手あたり次第に繁殖させるとか、
そういうブリーダーは、
ブリーディングのことをほとんど知らないです。
遺伝病とか、いろいろありますけど、
それらを知らずにやっている。
そもそも、日本にはブリーディングに関して
基準になるものがないんです。
―― 外国には基準があるということですね。
それは、どういった内容なんですか?
たとえばイギリスでは。
オリバー イギリスの場合はね、
まず、2歳になるまでは、子どもを生ませることはできません。
それから、1匹の犬が一生のうちに
子どもを生むのは6回だけ。
そして、子犬は社会化するまで里子にはだせないです。
日本のペットショップには、生後1カ月の子犬もいるでしょう?
でも里親のもとにだすのは、2カ月から3カ月がベストですね。
―― 個人の人が、自分の飼っている犬や猫を
アークに預けるということもありますか?
オリバー あります。
いろんな事情があるでしょう?
飼い主の人が亡くなったとか、
介護施設に入らなきゃいけなくなったとか、
離婚とか、倒産とか、
人の事情はかわりますからね。
外国でも、それはいっしょです。
でも、イギリスの場合でいうと、
自分で飼い続けられなくなっても、シェルターがあるんです。
シェルターがいくつもあるから、
どこかは受け入れることができる。
日本の場合、シェルターがないから、
保健所に連れていくか、捨てるしかない。
犬にとっても人間にとっても、
チャンスはゼロですね。
飼えなくなったらどうする? 日本では。
―― ほんとうに。
オリバー でも最近は、日本でも殺処分される犬や猫の数は
少し減ってるんですよ。
でもまだ‥‥もうちょっと。
がんばらないといけない。
―― 阪神淡路大震災のときも、
飼っていた犬や猫を飼い続けられなくなった
被災した人たちがたくさんいたと聞いています。
そのとき、アークのシェルターで
600匹を超える犬や猫を保護されたとうかがいました。
オリバー あのときは、アークにとっても
一番たいへんなときでした。
90年にアークを設立して、震災が起きたのが95年。
それまで少しずつ、少しずつ大きくなっていたものが、
急に、全部が3倍になったんです。
動物、ボランティア、スタッフ‥‥
動物の数も人間の数も、一気に3倍になりました。
―― そうすると、200匹のキャパのシェルターに
600匹が。
オリバー あのときは特別でしたから、
みんなものすごく、一生懸命にやりました。
何年か経つと、以前と同じに戻りましたね。
シェルターのバランスはすごく大切と思います。
スペースの問題と、世話する人の数と、お金のこと。
そのバランスがくずれたら、悲惨になる。
そうなったら、結局は
動物がかわいそうなことになりますから。

アークには、いまでも毎日相談の電話があります。
朝から晩まで、あるんです。
ほんとは全部助けたい。
でも、全部はできない。
アークには常に順番待ちのリストがあります。
―― 順番待ち。
オリバー もちろん、緊急のケースはあります。
たとえば、直接アークに犬や猫を捨てに来る人がいます。
それから、保健所に入っている犬はリミットがあります。
たとえば、「来週木曜日まで」とか。
この場合、その木曜日までに何とかしないといけないから、
リストの上にいきます。
虐待のケースも、リストの上にいきますね。
でも、そのバランスはすごくむずかしい。
―― そうして保護した犬や猫は、
アークのシェルターでからだと心の傷を癒して‥‥
オリバー 外見の傷はね、治りやすいんです。
でも、心の傷は治りにくい。
彼らがこれまでどういう経験をしてきたか、
わからないことが多いですから。
外国の場合は、
飼い主がシェルターに連れてきますから、
話が聞けるんです。
でも、日本のように捨てられた犬は、
どういう経験をしてきたのかわからない。
たとえば、人をこわがる、
とくに男の人をこわがるとか、かなり多いです。
ほとんどの子が、スタッフにはすぐ慣れます。
でも、誰にでもフレンドリーに、というのは
むずかしい。ちょっと時間がかかりますね。
―― きょう、この里親会に参加している子たちは、
心とからだの傷を克服して
ここに来ることができたんですね。
オリバー そう。こういう経験は、犬たちにとってもいいんです。
シェルターにはたくさんの犬がいますから、
いろんなストレスがあるんですね。
里親が見つかってふつうの家庭に入ったら、
犬たちは変わります。
みんな、ずっとよくなりますよ。
―― 新しい家族を見つけることができれば。
オリバー そう、新しい家族を見つけること。
それがアークの目的ですね。
いまアークにいる犬や猫たちが出ていかないと、
増える一方。
そういうバランスはすごく大事です。
―― 新しい家族、里親にもらわれていくのは、
どのくらいの割合ですか?
オリバー 犬は、毎年220から240匹くらい入ってきて、
リホーム(里親にもらわれること)が、
毎年190から200匹くらい。
猫は、毎年140匹くらい入ってきて、
リホームは100匹ちょっとくらいですね。
アークの場合、犬に比べて猫の里親希望者は多くないので、
引き取れる数も猫のほうが少ないんです。
猫は、野良猫を個人で保護する人もいるし、
世話をする人もいるし、
あえてアークに猫を求めに来る必要がないんですね。
でも犬は、狂犬病予防法でどんどん
殺処分されてしまうので、
野良犬自体の数が減っていますから。

そのほかに、安楽死もあります。
がんとか、治らない病気にかかっている場合で、
犬の場合で、それが毎年50匹くらい。
残念だけど、しかたがないです。
年をとっているとか病気があるとか、
入ってくるのには、差別がないですから。
線引きはしません。
できるだけの治療をして、治らない場合、
苦しみが長くなりそうなら、安楽死を考えます。
―― スタッフの方たちは、
何人ぐらいでやってらっしゃるんですか?
オリバー 大阪のスタッフの数は約30名ですね。
獣医がひとり、看護師が3人。
事務関係の人が5人。
経理とか、イベントとかボランティア担当とか。
あと、修理をするとか、
レスキューや病院に行くときに運ぶ男性が3名。
それから、トリマーがいまはひとり。
犬は、えさをやるとか散歩に行くだけじゃなくて、
全体のこと、ブラッシング、シャンプー、
耳掃除、爪切り、全部しないとね。

東京は事務所だけで、スタッフは4名。
東京にはシェルターがないので、
動物たちはフォスターファミリーに一時預かりしてもらって、
譲渡会を開いて里親を探します。
―― 今回、こちらのジョージさんでおこなわれたような
里親会はひんぱんに開かれているんですか?
オリバー 東京のほうではそういう機会も増えてきましたね。
でも、ジョージは特別。
―― そうですか。
オリバー 動物を売ってないでしょう。
フィロソフィーがすごく好きです。
それから、デザインセンスがすごくいい。
アークにスペースを貸してくれて、
すごくありがたいですね。
―― 里親会や譲渡会に参加する以外にも、
里親になりたい人が申し込む方法はありますか?
オリバー アークのシェルターに来てもらうことが
できます。
事前の調査書がありますからそれを書いてもらって、
あとは面接ですね。
結婚といっしょですから、
できるだけ、家族全員に会いたいんです。
これは商売じゃないですから、
その日、その場に決めなくてもいい。
いっぺん家に帰ってじっくり考えて、
決めてもらってもかまわないんです。
―― これだけたくさんの動物をケアするのに
どれだけお金と人手がかかるかと思うんですが、
アークさんの運営はすべて、
一般からの寄付によってまかなわれていると
うかがいました。
オリバー 100パーセント、個人の寄付です。
―― 人手のほうは、さきほどうかがった専従のスタッフのほかに、
ボランティアのスタッフも常時募集されていますね。
オリバー そうですね。
―― ボランティアのスタッフは、ふだん
何人くらいいらっしゃるんですか?
オリバー 常時30人くらいのボランティアスタッフがいます。
イギリスに「DOG TRUST」という
広い、大きな施設をもつシェルターがあるんです。
全国に17箇所くらいあって、
そこにはボランティアで働く人が400人ほどいます。
年配の人が多いですよ。
60代、70歳くらいの人はまだ元気でしょう。
子どもが大きくなって、時間の余裕もあって。
ほんとはそういう年齢の人が、
一番ボランティアの可能性があると思うんだけど。
―― なるほど。
オリバー イギリスは、ボランティアの歴史は長いですからね。
ほとんどの人はなにかしてる。
子どもの頃は、クリスマスのときが
家族がいちばん集まるときなんです。
わたしの家族、母や親戚は、
近所のひとり暮らしのお年寄りをいつも家に招いてました。
ひとりで過ごすのは寂しいですからね。
―― そういうのはやはり‥‥
オリバー 宗教じゃないと思いますよ(笑)。
わたしは宗教にあまり興味ない。
宗教的なことじゃないかって
よく聞かれるけど、
わたしはぜんぜんそうじゃないです。
―― では最後に。
おそらくインタビューを受けるたびに
何度も聞かれていることだと思いますが、
オリバーさんは、なぜ日本で
アークをはじめられたんですか?
オリバー わたしが日本に来たときは、
ほとんどふつうの外国人と同じです。
英語を教えるとか、そういう仕事でね。
もともとわたしは、小さいときから
動物がすごく好きでした。
子どものときは、馬まで飼ってましたから(笑)。
だから、日本で暮らしはじめるときも、
田舎に農家の家を買って、
また犬や猫を飼おうと思ったんです。
―― はい。
オリバー 最初の犬は、当時、西宮にあった日本動物福祉協会の
救援センターから紹介されたグレイト・ディン。
大きな犬でした。
捨てられた動物の問題は身近にいっぱいありましたから、
なんとかしたいと思ったんです。
保護した猫とか犬とかアヒルとか、
最初は全部自分で、飼ってました。
勤め先の大学に行く前に、えさをやって散歩をして、
少しずつ、友だちとかボランティアで
手伝ってくれる人がでてきましたけど、
もう個人でできる範囲を超えてしまって。
わたしの給料は全部、犬のえさや治療費などで
消えていったんです。
それで少し、ほかの人たちにも協力してもらおうと思って、
個人の活動から団体へと、シフトチェンジしたんです。
そうやってアークがスタートしてから、
同じ考えの人とか、どんどん人が集まってきました。
―― 活動の規模が広がっていったんですね。
オリバー そう。最初はほとんど友だちでしたから、
仕事が終わってから、食事をして、お酒を飲んで。
いまはスタッフはスタッフ。
アークの規模が少し大きくなって
スタッフが増えて、人の管理がむずかしいですね。
自分の役割が変わってきましたから、しかたがない。
それがいちばんむずかしいと思う。
動物の世話は、朝から晩までやってても、それはたのしみ。
でも、人間の問題は‥‥どこでもいっしょよね?(笑)
―― そうかもしれません(笑)。
オリバー わたしは、小さい頃から
不自由したことはありませんでした。
お金持ちなわけじゃない。
でも、車を欲しいと思えば買うことができるし、家もある。
ぜいたくは好きじゃないですから、じゅうぶんです。
だから、社会に返す。
受け取るだけじゃなくて社会に返すことは
大事だと思う。

もちろん、人間のことについても、
いっぱい問題があります。
アフリカとかインドとか、貧しい国の子どもたちの問題も、
いろいろあるでしょう。わかっている。
でも、全部はできない。
わたしは、動物が好きで、
動物のことはよくわかるから、
彼らのかわりに声を出すんです。
みんな、すっごくかわいいですからね。
  ※「スティックグッドドッグ」のカバーは完売いたしました。
 次回は、2月1日から販売予定です。
 
アークさんからのお知らせ。   「FreePets(愛称:ふりぺ)」で、署名を募っています。

「FreePets(愛称:ふりぺ)」とは、
「ペットと呼ばれる動物たちの生命を考える会」で、
もともとはtwitter上の会話から始まった有志の会です。

その「ふりぺ」の中で、
2011年の動物愛護法改正見直しに向けての、
FreePetsならではの改正案を作成し、
国や関係省庁に請願する署名活動に関するページを
オープンしています。
ひとりでも多くの方に目を通していただければ幸いです。

以下のバナーから、ぜひご覧ください。

 
2010-12-17-FRI
イラスト:紙野夏紀
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