ほぼ日に載るものとしては、
ちょっとめずらしい対談をご紹介します。
コロナウィルス感染症に関する
緊急事態宣言発令前の2020年2月、
「あらゆる変化と挑戦にコミットする」
をミッションに掲げる広告会社
The Breakthrough Company GOの
若き代表・三浦崇宏さんが、
糸井重里に会いに来てくださいました。
「広告」という共通点はあっても、
年齢、スタンス、選ぶ表現など、
ずいぶん違いの多いふたり。
もし会ったら、どんな話になるんだろう?
そんな思いからおこなわれた対談は、
三浦さんが持ち前の熱い口調で
糸井に広告や会社の話を聞いていく、
元気なおしゃべりになりました。
- 三浦
- はじめまして、三浦です。
今日はお会いできてめちゃくちゃうれしくて。
- 糸井
- よろしくお願いします。
- 田中
(ほぼ日)
- 対談依頼のご連絡をさせていただいた
ほぼ日の田中です。
お受けいただき、ありがとうございました。
- 三浦
- 丁寧なご連絡をありがとうございました。
すごく気分のいい連絡でした。
- 糸井
- (冗談めかして)ええーっ?(笑)
- 田中
(ほぼ日)
- そんなに言っていただくと、
申し訳ない感じです。
- 糸井
- この対談は、田中が企画して
はじまったことなんで、
最初に田中が話したらどう?
- 田中
(ほぼ日)
- そうですね、こういうスタートは初めてで
ちょっと緊張しますけど。
編集部の田中と申します。
もともとぼくが三浦さんのツイッターや
『新R25』の記事などを
読ませていただいていて、
攻め気味のスタンスがすごくおもしろいなあ、
と思っていたんです。
そして、よく読んでいくと、
一見かなり攻め気味に見えるけれど、
実はけっこう慎重に、誠実な発信を
しようとされている印象があったんですね。
あと「仲間」や「友情」といったことが
大好きな感じとか、
わからないことはわからないと言う感じとか、
「実はすごくいい人なんじゃないか」
という気がして。
- 三浦
- ありがとうございます。
- 田中
(ほぼ日)
- あと、ほぼ日ブックスの
『調理場という戦場』を
おすすめの本にあげていたりもして。
それで
「意外とほぼ日に登場いただけたり
しないかな?」と思ったんです。
三浦さんがふだん対談されている方は
ほぼ日には登場しないような方が多いし、
糸井さんは糸井さんで、
広告の世界の方との対談は、いま、
ほとんどされてない気がするんですけど。
- 三浦
- ぼく、「ド広告」なんですよ(笑)。
ほんとにもう。
「あきれるくらい広告屋だな」って
よく言われるんです。
- 糸井
- 知ってる(笑)。
- 田中
(ほぼ日)
- そういった、会うイメージのない
おふたりの対談が「ほぼ日」にあったら、
自分が読みたいなと思って。
三浦さんはちょうど
「言語化力─言葉にできれば人生は変わる」という
言葉をテーマにした初の著書を
出されると聞いたというのもあって。
- 糸井
- それで企画したわけだね。
- 田中
(ほぼ日)
- そうなんです。
だから今日は、ぼくが大変うれしいです。
- 糸井
- うれしいんだからさ(笑)。
- 三浦
- ありがとうございます。
ぼくもすごくうれしいです。
いや、でもほんとに、
いまの話のようなメールをいただいて。
これまでもらった対談依頼のなかでも、
特にうれしかったです。
- 田中
(ほぼ日)
- いえ、ありがとうございました。
- 三浦
- ぼく、プロレスラーでいうところの
ヒール(悪役)を意識してるところが
ちょっとあるんですね。
ヒールって「実はいいやつ」とか
言われるじゃないですか。
- 糸井
- そういう「役」だもんね。
- 三浦
- そうなんですよ、蝶野正洋みたいな。
そういう部分を言葉にしていただいたのが、
すごくうれしくて。
あと感動したのが、田中さんのメールが
そのまま「ほぼ日」の文体だったんです。
ぼくは企業のブランディングの専門家として、
スタッフの方のメールひとつにまで
ブランドが生きてることに、
けっこう感動してました。
- 糸井
- 言うことないね。
- 田中
(ほぼ日)
- 褒められすぎですね。
- 三浦
- いえ。ほんとに。
- 糸井
- 特に教えてるわけじゃないんだけどね。
博報堂のとき、社内のメールは
そういう感じじゃなかったですか?
- 三浦
- もっと淡々としてましたね。
人数が多いからしょうがないんですけど。
- 糸井
- 会社ってそうですよね。
- 三浦
- だけど理想的には会社って、
そういったすみずみまで
人格がいきわたってるべきだと思うし、
うちの会社もそうしたいんです。
ほぼ日はいま、何人くらいですか?
- 糸井
- アルバイトの人を入れなければ、
100人ぐらいかな。
- 三浦
- うちが今年30人になるんです。
「GO」という名前の、
広告やPRを中心に新しいことをやる
会社なんですけど。
実は今日、嫌な発表をしたんです。
博報堂時代にどうしても好きになれない
制度があって、それが
「休みをとらないと給料下げる」
というものなんですけど。
みんな仕事大好きなんで、
強制的に「休めよ!」っていう。
「イチローに素振りするなって
言うやついるかよ‥‥」
とか思ってたんですけど、
今朝から弊社も導入しました(笑)。
シブーい気持ちになりましたけどね。
- 糸井
- 30人いたら、そうですよね。
言っても休まないから、
ルールにするしかないんだよね。
- 三浦
- そうなんです。
だけど仕事はくるし、
ぼくはぼくで「これくらい稼げ」という
言い方をしてしまうし。
「ああ、俺がやってるのは会社なんだな」
って、このところ痛感してます。
- 糸井
- まあ、偽金づくりをしているわけじゃないから、
そういうものかなって思うしかないよね。
- 三浦
- もともとぼく自身、
スタートアップとかテクノロジーとか、
SNSとかグローバルがどうとか、
アジェンダ、サステナビリティ‥‥
あらゆる変化のこの時代に、
クリエイターの集まりは何をすべきか考えて、
大きすぎる電通・博報堂ではできないような
自分たちが良いと心から思う会社を
やってみようと思って、独立したんです。
それで、
「俺たちがうまくいけば
マネしたらいいじゃん、失敗したら笑ってくれ」
って古巣に啖呵(たんか)切って
会社を辞めたんですけど、
「意外に同じようなことしはじめたな」
と思ってますね(笑)。
だからぼく「ほぼ日」が
糸井さんの思想のまま上場したことに、
興味があるんです。
「すごいなあ」と思って、今日は来ました。
- 糸井
- よくやれましたよね。
自分でもそう思います。
- 三浦
- 世界中で、クリエイターなのに、
気がついたら企業やってる人って、
きっとそんなに多くないじゃないですか。
- 糸井
- もともとやりたかった人なら
いたかもしれないけどね。
ぼくはそういうつもりじゃなく生きてたんで。
- 三浦
- しかも糸井さんがされてるのは、
「ほぼ日」というチームですよね。
偉大な先輩がただと、
秋元康さんとか、佐藤可士和さんとか、
みなさん「天才」として、
個体で存在されてますよね。
ぼくがよく口にする言葉に
「天才は一人で
市場の1000倍の金を稼ぐからすごい。
だけど革命家は市場にいる人全員の稼ぎを
10倍にする」。
というものがあるんです。
ぼくは自分が天才じゃないんで、
自然と後者の道を考えるようになったんですけど、
糸井さんって天才の道も選べたのに、
こっちの道を選んでるのが、すげーなって。
- 糸井
- 言葉の圧がすごい(笑)。
いまの「天才」という言葉は、
「フリー」ってことだと思うんだけど。
ぼくはフリーの道って結局、
「自分が頂点に立って、
自分の手足みたいなものを増やしていく」
しかない気がしたんです。
40代はじめぐらいの頃に。
そして、ひとつハッキリ言えたのが、
自分がこのさき一人でやっていったら、
どこかで「先生と呼ばれる業者になる」のが
目に見えてたんです。
- 三浦
- 先生と呼ばれる業者。
- 糸井
- そう、そのかたちでも、
たのしめてやれるならいいと思うんだけど、
自分はそういうことをしたくて
やってきたわけじゃないから。
ぼくの場合は「誰からも止められない」とか、
「理に適ってないけどやりたいことをやる」
みたいなことが残ってないと、
仕事がおもしろく思えないんで。
- 三浦
- ああ。
- 糸井
- もちろんフリーでも、小さい規模であれば、
無理せずにやりたいことをやれると思うんです。
一人でやるマラソンランナーみたいな
仕事なら、それはあるんだけど。
だけど、野球とかサッカーとか、
やりたいじゃないですか。
- 三浦
- わかります、なんでですかね。
そのほうがやっぱり、
やってるときたのしいですね。
- 糸井
- 「おまえがいたからだよ」のほうが、
「俺すごいだろ」より、
うれしさがあるんですよね。
- 三浦
- 「ハイタッチしたい」みたいな気持ち、
あります。
- 糸井
- ありますよね。
だからぼくはあるときから、
「ちっちゃくてもいいから、
チームプレーで仕事をしていく」
と変えたんです。
チームならお互いに助け合えるし、
「一人じゃ突破できない限界も、
チームでエンジン回していけば
できるかもね」と思うようになって。
- 三浦
- はいはいはい。
- 糸井
- 重要なのは
「自分がいつでもやりたいことを、
ちゃんと持ってる人でありたかった」
という部分なんです。
その結果としての、いまなんです。
- 三浦
- でも、そうしていったら100人ですもんね。
ここまで大きくなるって、
何がきっかけですか?
- 糸井
- ほかに道はなかったからですよ。
「ほかの道をとってたら」の先に、
ちょっと哀れな自分が見えるわけです。
「それは絶対になりたくないな」と思うから。
- 三浦
- つまり糸井さんは
「いちばんしんどいけど、
いちばんカッコいい道」を
選んだってことですか?
- 糸井
- しんどくもないし、カッコよくもないよ。
カッコわるくないほうを選んでるだけで。
- 三浦
- 糸井さん、おそらく
「生きろ。」って100回書けば、
大富豪になってたはずなのに(笑)。
- 糸井
- どうでしょうかね。
実際には100回書いても、たかが知れてますよね。
- 三浦
- まあ、そうですね(笑)。
- 糸井
- しかもそれだと、それだけしか生まないんです。
ほんとは「生きろ。」が
コロコロコロコロ転がって、
「いろんな人がその映画を見ました」
とかのほうが、うれしいじゃないですか。
『トトロ』って実は、出たばかりのときは
大ヒットしてないんですよ。
だけど、いつまでたっても
子どもが生まれるとみんなが見ますよね。
それが生み出したものって、
お金じゃなく、ものすごいものですよね。
それってもう、稼ぎとか以上に
ずっとおもしろいじゃないですか。
- 三浦
- そうですね、わかります。
(つづきます)
2020-06-17-WED
対談内で登場する、
GO三浦崇宏さんの最初の本
『言語化力』
三浦崇宏 著
(2020年、SBクリエイティブ)
GOの三浦さんが、これまで考えたり
学んだりしてきた
「言葉をうまく使うための方法」を、
自らのエピソードをたっぷり交えつつ
紹介している一冊です。
ただ、メインは方法論でありつつも、
あちこちに見え隠れする
三浦さんのキャラクターが
魅力的な本でもあります。
熱くて、押しが強めで、夢いっぱい。
乱暴さと繊細さの両方が感じられます。
途中途中で「名言」として紹介される
さまざまな言葉には、
歴史的な偉人のものもありますが、
三浦さんが敬愛する
日本人ラッパーの歌詞があったり、
元恋人のセリフが混じっていたり‥‥。
メインテーマ「だけじゃない」部分まで
おもしろい本で、この感じが好きな人は
確実にいると思います。
ピンときたら、ぜひ読んでみてください。
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN