めずらしく、広告の話。GO三浦崇宏さんと糸井重里。
ほぼ日に載るものとしては、
ちょっとめずらしい対談をご紹介します。

コロナウィルス感染症に関する
緊急事態宣言発令前の2020年2月、
「あらゆる変化と挑戦にコミットする」
をミッションに掲げる広告会社
The Breakthrough Company GOの
若き代表・三浦崇宏さんが、
糸井重里に会いに来てくださいました。
「広告」という共通点はあっても、
年齢、スタンス、選ぶ表現など、
ずいぶん違いの多いふたり。

もし会ったら、どんな話になるんだろう?
そんな思いからおこなわれた対談は、
三浦さんが持ち前の熱い口調で
糸井に広告や会社の話を聞いていく、
元気なおしゃべりになりました。
02 花火の思い出は永遠。
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三浦
ぼくいま36歳なんですけど、
博報堂で10年働いて、辞めて3年たつんです。
ただ、ほんとに広告が好きで、
自分は広告しかできないと思ってるんですね。



漫画を作ったり、洋服のブランドを作ったりとか、
新しいアプローチをすることも多いので、
「三浦のやってることは広告じゃない」と
言われることもあります。
でもぼくとしては、
ぜんぶ広告のつもりでやってるんです。



それで、今日すごく聞きたかったのが、
糸井さんが「広告をやりきった」と思って、
事業にレバーを切り替えたときって、
どんな気持ちだったんでしょうか、
ってことなんです。
糸井
「広告って何を意味してるのかな?」って
考えたんじゃないですかね。



つまり「広告が大好きです」って人は
けっこういるんだけど、
それは、広告の技法とかを考えることが
好きなんだと思うんです。



世間に大きな展示ボードがあるわけです。
昔だと「4大メディア」とかだったんだけど。
三浦
昔だったらそうですね。
テレビ、新聞、雑誌、ラジオ。
糸井
うん、テレビCMがあったり、
新聞広告があったり。
ポスターは制限が少ないように見えるから、
「ここなら思いっきりやれるんだよ」
ってものが集まったり。



みんな、その展示ボードを使って、
表現をしたかったり、
自分の発想をぶつけてみたかったり
するわけです。
三浦
はい。
糸井
野球の外野手が、フェンスをよじ登って
ホームランをとる練習をしますよね。



それって、主義主張があるんじゃなくて
「フェンスよじのぼって
ホームランとるって、いいよね」
ってことですよね。
スカッと気持ちいいことをしたいという。
三浦
圧倒的な何かを見せつけたい気持ち。
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糸井
うん。わりとそういう人が、
広告屋になるんだと思うんです。
三浦
ただ「何かを見せつけたい」って
思ってるうちは、
見せつけられなかったりしませんか?
ぼくはそこが広告の
面白いところだとも思ってて。



広告作りって、最初は野心とか
ちょっと下品な欲みたいなものから
はじまるけれど、
一回そこを捨てて、
「全部お客さんのため」みたいな
虚心坦懐になってはじめて、
結果として自分の野心や下品さを満たせる
プロセスがあると、
ぼくは勝手に思ってるんですけど。
糸井
うーん、野心や下品さというより、
「歌いたい」んじゃない? 
ぼくはそんな気がしますね。
「カラオケの順番を俺にくれ」みたいな。



次の曲をじっと探している人が、
自分のほうを向いて
「おおー!」と拍手するのを見たいという。
いわば「愛されたい」んじゃないの?



そこで
「愛される機会をもっとどんどん増やそう」
って思ったら、野心になる。
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三浦
ぼく、博報堂にいる間ずっと、
「三浦は殺気を消したらもっとよくなる」
って言われてたんです。
だけど結局消せないまま、いまに至ってて。
糸井
そこはたぶん、若い人全員が思う
「自分はまだ認められてないんじゃないか」
ってことじゃないかなあ。



おおもとの愛され方の問題じゃないですかね。



「表現」って、それまでのところで
愛され方がちょっと足りなかった人が
やるんじゃないの? 
ぼくなんかはそう思うけどね。
三浦
ああー。
糸井
満ち足りた時代を過ごした人特有の
上品さってあるじゃないですか。



そういう人って、お化粧が下手であろうが、
ファッションセンスがひとつダサかろうが、
べつにいいんだよね。
三浦
ニコニコしてられますよね。
糸井
だけど、そうならずに
「表現をしなきゃ気持ちがおさまらない」
というのは、
赤ん坊が泣き叫ぶようなところが
あると思うんです。



「表現」って、上品なことじゃないんで。



品のいいことじゃないけど、
なかなか抜けられない。
そういうものだと思いますね。
三浦
やってて楽しいですもんね。
糸井
うん、みんなが「そういうゲーム」として
やってる時代には、
勝ったり負けたりもあって、
純粋におもしろくやれるんだと思うんですけど。
三浦
でも糸井さんが広告の世界にいたときって、
めっちゃ勝ってたわけですよね。



それはどこかで
「人の金でやることじゃないな」
と思ったってことですか?
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糸井
「人の金」とか「人の金じゃない」とかは
実はなんにも思ってなかったです。
結局、現場を動かすのって金じゃないから。



金という要素はありますよ。
だけど、たとえばタレントさんがいて
「本人が嫌だって言ってます」というときには
「いくら積めば出ますか?」
という話にはならないじゃないですか。



むしろ、自分やみんなが、
「やりたいと思えるかどうか」。



商店街のちいさな祭もあれば、
ねぶたみたいな大きな祭もあるけど、
規模に関わらず、
そのつど嬉しさがあるわけです。
三浦
ええ、ええ。
糸井
そして「こういうことやらない?」って
声をかけて、みんなで何かをやるのって、
自分が主人公かどうかとか、
お金がどこから出ていようが関係なく、
みんなで野球をやるような嬉しさがあるんです。



「こうなるといいよね、おもしろいよね」
っていう、
夢というよりはビジョンに近い。
「誰もやったことないだろうな」も
気持ちいいし。



そして、実際やっていくとなると、
何が起こるか、どう転がっていくか、
どんな野次が来るかとかも想像しますけど、
そのぜんぶが自分の環境になるんです。



そんなふうに自分の環境を広げたり、
そこにあるものを丁寧に撫でてみたりしたくて、
みんながやってるような気がするんですよ。
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三浦
たしかに広告を作るとき
「お客さんの視点」も
「ユーザーの視点」も、
「世の中からどう見えるかの視点」も必要だし、
そのいろんな視点を想像しながら
自分のなかに取り込むのがおもしろくて
やってる部分、あります。
糸井
あと広告を作るのって、
花火師みたいなものじゃないかな、
とも思うんですよ。



長岡の花火大会で
すっごくでっかい花火が上がったら、
みんなの胸にドーンときますよね。



あれ、ぜんぶ提供スポンサーがいるわけです。
「次はなんとか鉄工所~」とか
言いながらやるわけで。



そこで、お客さんが
「よかったー」「来てよかったね」って
言ってくれるかどうかが大事みたいな。



むかしから、広告と花火って、
すごく近いなあと思うんです。
その思い出は、永遠じゃない?
三浦
そうですね、そう。
消えますけどね。



消えものだけど、その時代その時代の
刹那(せつな)だからこそ、
ある意味、歴史的な価値があるというか。



「2020年の正月に出た広告」というのは、
やっぱり
「2020年の正月にしか出なかった広告」
ですからね。



‥‥ってことは逆にいうと、
2100年になっても
「2020年のもの」として永遠に残る。
糸井
そうですね。
三浦
広告の仕事のそういったところが
ぼくにはすごく誇らしく、
「いまっぽいもの」「いましか効かないもの」
になるように考えながら
毎回作るようにしているんですけど。



「いましか効かないものを作ったら、
結果、誰かの心にはずっと残るだろう」
とか思ってて。



極端な話、ほんとにみんなの心に
残るようなものを作れたら、
MoMAに展示されるようなことだって
あると思うんです。
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(つづきます)
2020-06-18-THU
対談内で登場する、
GO三浦崇宏さんの最初の本
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『言語化力』

三浦崇宏 著

(2020年、SBクリエイティブ)



GOの三浦さんが、これまで考えたり
学んだりしてきた
「言葉をうまく使うための方法」を、
自らのエピソードをたっぷり交えつつ
紹介している一冊です。



ただ、メインは方法論でありつつも、
あちこちに見え隠れする
三浦さんのキャラクターが
魅力的な本でもあります。



熱くて、押しが強めで、夢いっぱい。
乱暴さと繊細さの両方が感じられます。
途中途中で「名言」として紹介される
さまざまな言葉には、
歴史的な偉人のものもありますが、
三浦さんが敬愛する
日本人ラッパーの歌詞があったり、
元恋人のセリフが混じっていたり‥‥。



メインテーマ「だけじゃない」部分まで
おもしろい本で、この感じが好きな人は
確実にいると思います。
ピンときたら、ぜひ読んでみてください。