ほぼ日に載るものとしては、
ちょっとめずらしい対談をご紹介します。
コロナウィルス感染症に関する
緊急事態宣言発令前の2020年2月、
「あらゆる変化と挑戦にコミットする」
をミッションに掲げる広告会社
The Breakthrough Company GOの
若き代表・三浦崇宏さんが、
糸井重里に会いに来てくださいました。
「広告」という共通点はあっても、
年齢、スタンス、選ぶ表現など、
ずいぶん違いの多いふたり。
もし会ったら、どんな話になるんだろう?
そんな思いからおこなわれた対談は、
三浦さんが持ち前の熱い口調で
糸井に広告や会社の話を聞いていく、
元気なおしゃべりになりました。
- 糸井
- ただ、いま三浦さんが口にした
「広告の歴史的な価値」みたいな話って、
ぼくらがやってたときは、
そんなに考える必要がなかった
気がするんですよね。
三浦さんとかの時代の人たちは、
「広告って何だろう?」とか
「社会にどんな関係が作れるだろう?」とか、
そのあたりを考えざるを得ないから、
一所懸命考えつつ、
やってる気がするんですけど。
- 三浦
- そうですよねえ。
ぼく、クリエイターの世代論って
苦手だったんですけど、あるんですよね。
- 糸井
- あるよ、やっぱり。
環境の種類が違うんだもん。
いまは「明日誰かが噂をしてる」ってだけで、
状況が変わるわけだから。
そんなのがあるのとないのとでは
大違いですよ。
- 三浦
- 糸井さんって、いまおいくつですか?
- 糸井
- 今、71です。
- 三浦
- 秋元康さんが66歳で、見城徹さんが69歳。
60代、70代の人って、いちばん元気ですよね。
- 糸井
- いや、それはわかんないよ。
- 三浦
- いや、自分でも思うんですけど、
ぼくらって理屈っぽいんですよ。
「未来はどんな状況になるか」
「明日どんな噂が巻き起こるか」
といったことを常にすごく気にしてますし、
「オーストラリアでは火事が起きてるし、
地球の気温は上がってるし、
少女が革命を起こそうとしている」
みたいなことを、
ものすごく考えながら作っちゃうんです。
だけどオーバーエイジ枠の先輩がたって、
ある意味、そのあたりを
いったん脇に置いて作れるというか。
ほんとに好きなものを作ることへの
抵抗がない感じがします。
- 糸井
- いやいやいや、
考えてないわけじゃないんだけど。
- 三浦
- もちろん、もちろん。
- 糸井
- ただ、いまはどこか、
自分にはどうしようもできない話まで
答案用紙が配られてるようなところが
ありますよね。
いつでも全員に対して
「この問題、君はどう思いますか?」って。
- 三浦
- ひっきりなしに問いかけられますよね。
- 糸井
- それで「正解は3番です」「いや2番です」
「ブー、違います」
「そこまでしか考えてないのか」とかって、
常に問われている気がして。
昔はその答案用紙って、それぞれが自分で
無理やり作ってた気がするんです。
でもいまは、いろんな人やメディアが
どんどん配りますよね。
ある意味、全員が
試験地獄のなかにいるような‥‥。
- 三浦
- そうなんですよね。
「これ答える必要あるのかな?」
と思うこと、ありますね。
「ここは議論を戦わせなくても
いいだろう」
ということも当然ありますし。
- 糸井
- そうですよね。
- 三浦
- ただぼくは、自分が言葉に対して
それなりに時間を割いてきた人間として、
いい答案を作りたい気持ちがあるんです。
「問題作成者が思う以上の答えを
出してみたい」とも思うし。
だから
「しっかり答えなきゃ」
という気持ちと、
「なんで毎回こんなことに
‥‥バカヤロー!(笑)」
って気持ちと、両方あります。
- 糸井
- 別の話になるかもしれないけど、
ぼくはほぼ日に移行するとき、
「頼まれる仕事をぜんぶ、
自分から頼む仕事にしよう」
と決めたんです。
それが自分にとっては
ひとつの転換点だったと思うんだけど。
- 三浦
- あ、おもしろいですね。
- 糸井
- 頼まれごとって、基本的に
「相手が得すること」なんです。
それはキャンディのメーカーでも、
電話会社でも同じ。
相手が、相手にとっての
「こうなるといいな」を頼むわけですよね。
- 三浦
- そうですね。
- 糸井
- そのとき相手がどうして
ぼくのところに来るかというと、
「この人なら答えを出せるかもしれない」
と思って来てくれるわけです。
ありがたいことだと思うし、
売れっ子芸者って、自慢ですから。
だから若いうちはみんな、それを誇りにして
ヒラヒラ踊ってるわけです。
声をかけられることを
「それだけ要請されてる」みたいに感じて、
「どっちが忙しいか」とか
無意識の自慢をしあったりして。
- 三浦
- 声をかけられるって、
気分がいいですもんね。
- 糸井
- でも、頼まれ仕事って、
ぜんぶがぜんぶ、自分がやりたくて
やるようなことではないわけです。
基本は「相手が得すること」ですから。
だからこれを逆に
「自分が頼むとしたら?」
という視点で考えてみると
いいなと思ったわけです。
- 三浦
- はいはいはい。
- 糸井
- たとえば野球をやるとき、
ピッチャーやキャッチャーに
「おまえに来てほしいんだよ」
と頼むのは、
「自分が得すること」ですよね。
そういう自分がお願いしたことって、
逃げられないじゃないですか。
そして、お願いしたぶん、
精いっぱいやらないと失礼じゃないですか。
- 三浦
- そうですね。
- 糸井
- だから、ぜんぶの頼まれ話を
「自分が頼むこと」に変換してみると、
考えやすくなるんです。
依頼されたとき、
自分が「お願いしてでもやりたい」と
思えることだけやって、思えないことはやらない。
そうやると、健全な仕事だけ残るんです。
- 三浦
- ああー。そうか。
- 糸井
- だから、この三浦さんの本も、
「本を出しませんか?」と声をかけてきた
ソフトバンク出版のかたは、
出すことで得があったわけです。
だから依頼があった。
でもそれ、逆に考えてみたらどうだろう?
「自分はこういう本が作りたいけど、
ソフトバンク出版さん、お願いできますか」
って問題を置き換えて考えてみる。
そんなふうに、
「頼まれたらぜんぶうれしい」じゃなくて、
ぜんぶこちらからのお願いに転換して
考えてみると、やるべきかどうかがわかる。
- 三浦
- 実はこの本、まさにそういう経緯で
できているんです。
ソフトバンクさんから
「本出しませんか」と話があったときに、
ぼくのほうから、
「こういう企画ならやりたいです」
と話させていただいて、この形になったんです。
- 糸井
- そのかたちだと、うまくいきやすいよね。
- 三浦
- あとぼく、いまの糸井さんの言葉に
すごいヤラれてて。
いまの話って、論理的には、
よく言われる
「仕事はオーナーシップが大事だ」
という話と同じだと思うんです。
だけど、糸井さんの
「頼まれた仕事をぜんぶ
頼む仕事に変えてみよう」
という言い方だと、
言葉を手づかみにできますよね。
「そうすれば、自分も相手も本気になるし、
お互いもっと得だ」っていう。
いま、手づかみにできる言い方に
換えてましたね。
- 糸井
- それは、変換してるんじゃなくて、
違うとこから持ってきてるんです。
「仕事はオーナーシップが大事だ」
という言葉って、
ぼくはいま初めて聞いたけど、
その言い方だと、
「どっちでもいいけどそっちがいい」
みたいな話じゃない?
ぼくは自分のこととして、
「断るかやるかしかない」
という話だから、
そこに「俺」がかかってるんです。
- 三浦
- たしかにそうですね。
そこに「俺」がいるかどうか。
- 糸井
- 方針のようなものとしての
「行動はイニシアチブをとってやるべきだ」
には、「俺」がいないんです。
評論家のスタンスというか。
ぼくのは監督的な発想なんですね。
そうやって得た言葉って、
自分のなかから出てきたものだから、
ちゃんと説明もできるし、
あとでそんなに考えが
変にずれたりもしないんです。
(つづきます)
2020-06-19-FRI
対談内で登場する、
GO三浦崇宏さんの最初の本
『言語化力』
三浦崇宏 著
(2020年、SBクリエイティブ)
GOの三浦さんが、これまで考えたり
学んだりしてきた
「言葉をうまく使うための方法」を、
自らのエピソードをたっぷり交えつつ
紹介している一冊です。
ただ、メインは方法論でありつつも、
あちこちに見え隠れする
三浦さんのキャラクターが
魅力的な本でもあります。
熱くて、押しが強めで、夢いっぱい。
乱暴さと繊細さの両方が感じられます。
途中途中で「名言」として紹介される
さまざまな言葉には、
歴史的な偉人のものもありますが、
三浦さんが敬愛する
日本人ラッパーの歌詞があったり、
元恋人のセリフが混じっていたり‥‥。
メインテーマ「だけじゃない」部分まで
おもしろい本で、この感じが好きな人は
確実にいると思います。
ピンときたら、ぜひ読んでみてください。
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN