めずらしく、広告の話。GO三浦崇宏さんと糸井重里。
ほぼ日に載るものとしては、
ちょっとめずらしい対談をご紹介します。

コロナウィルス感染症に関する
緊急事態宣言発令前の2020年2月、
「あらゆる変化と挑戦にコミットする」
をミッションに掲げる広告会社
The Breakthrough Company GOの
若き代表・三浦崇宏さんが、
糸井重里に会いに来てくださいました。
「広告」という共通点はあっても、
年齢、スタンス、選ぶ表現など、
ずいぶん違いの多いふたり。

もし会ったら、どんな話になるんだろう?
そんな思いからおこなわれた対談は、
三浦さんが持ち前の熱い口調で
糸井に広告や会社の話を聞いていく、
元気なおしゃべりになりました。
04   ほんとのことを言いたい。
写真
三浦
『インターネット的』とか、
糸井さんの本を読ませていただいて
毎回思うことなんですけど、
糸井さんっていつも
ほんとのことを言いますよね。
いつからそうなったんですか?
糸井
いつからかはわからないけど、
「ほんとのことを言わないと苦しい」って
わかったからじゃない?
三浦
ぼく以前、感動したことがあって。
前に博報堂で
コピーライティングの研修を
受けたことがあるんですね。



そのときの課題が
「東京タワーのコピーを書こう」
だったんですけど、
模範解答が糸井さんの
『話すために昇る』
だったんですよ。



これって、超ほんとのことじゃないですか。
もっとキレイな言葉とか、
カッコイイ言葉とか、いくらでも言えるのに。
そして糸井さんの本も、
ほんとのことしか書いてない。
すごいことだと思うんです。
写真
糸井
「ほんとじゃないことを聞いたときに、
不快感がある」
ってことですよね。
三浦
「ウソだろ」とか「何言ってんだ」とか。
糸井
「おまえ、またそういう調子にのる」とかね。
広告の初心者の失敗って、ぜんぶそれですよね。
三浦
「うまいことを言うんじゃなくて、
ほんとのことを言うのが
よきクリエイターである」ということに
人はいつか気づくんですけど、難しいですね。
糸井
もうひとつ付け加えると、
表現には
「うまいことだけど、ほんとのこと」
もありますよね。



それこそシェイクスピアとか、
「そんなもってまわった言い方しなくたって」
ってくらいの、うまいことだらけですよ。



だけどそれは絵筆を持ったり、
ピアノを弾いて作曲をしたりする人たちが、
やってることと同じなんです。



「愛してます」という思いを
ただ「愛してまーす」と言っても、
それだけで終わってしまう。
「愛してます」が揮発しちゃうわけです。



練ったりこねたりしながら、
ほんとのことを言うときもあるんですよね。



何種類かある最上は、
「うまい」と「ほんと」が交じってるもの
なんじゃないかな。



そしてその次が
「ほんとのことを言うこと」だと思いますね。
写真
三浦
そうですね、そうですね。
糸井
あと、ほんとのことって
「これを言ったときにどうなるか」も
セットでついてくるんです。



「俺がなんとかするから言わせて」
もあるし、
「言ったら誰かが傷つくぞ」も
「傷つけると知ってるけど言う」もある。



その状況に対して
「自分はどういう心を持とう」
「行動しよう」「次の言葉を選ぼう」
とかもあって、終わらずに続きますよね。
そういう覚悟が入るんですよ。
三浦
ほんとのことを言うと、
決定的に場面が変わりますよね。
糸井
そういう場合もありますね。



ただ、三浦さんがよく言う
「人脈なんてクソだ」
という言葉があるじゃないですか。
ぼくもまったく同じことを思うんです。



これを言ったときに
「いいぞ、いいぞ」と言う人もいるし、
「何言ってんだ、おまえだって
人脈に支えられてるだろ」とか、
「おれのどこがくだらないんだ」
って言う人とか、いろいろいますよね。



でも三浦さんは、
人を操作する道具に聞こえるときの
「人脈」が嫌いなのであって、
「人と人が友達だったから助けてくれた」は
逆に大好きなんです。



そっちの大好きを守りたいから、
大嫌いなほうをつぶしたかったんですよね。
三浦
はい、まさに。
写真
糸井
‥‥って、そこまで言えるから、
言ってるわけですよね。



そういう準備ができてるときのほうが
ほんとのことを言えるんじゃない?
準備ができてないまま
ほんとのことを言うのは、こどもなんで。
三浦
そのあとの展開とか、
決定的に変わってしまった状況を
どうマネジメントできるかの
意識がないと、
ほんとのことって言えないですもんね。
糸井
そうそう。だから
「反対意見はありませんか?」
って状況で口にされる
「反対意見のための反対意見」って、
胸を打たないんです。
覚悟をともなわないから。



だけど、
「こいつ、いざというときは、
穴が開いちゃったダムに
自分が指突っ込むつもりがあるな」
って言葉なら聞けます。



だから、誰が言うかはけっこう‥‥。
三浦
大事ですよねえ。
糸井
うん。
写真
三浦
広告って昔だと、
「キャッチコピーでほんとのことを言って、
ボディコピーで補足する」
という形式がわりとありましたよね。



(ボディコピー‥‥ポスターなどで
キャッチコピーとは別につけられる、
説明をするような役割の文章)



その場合は
「人脈はクソだ」って
大きく掲げたあとに、
「でも、全部がクソだってわけじゃ
なくてね‥‥」
というボディコピーが
はじまると思うんですけど。
糸井
そうですね。
三浦
ただ、いまの広告の場合は、
そのコンテンツ単体で完結してなくて、
そのあとのSNSでの議論とか、
メディアでのインタビューを通じて、
メインとなる主張に対して
「ボディコピー的に補足していく」
手間が必要だと思ってて。



そうやって丁寧に補足していかないと
事態が悪化する、
複雑な状況という気はします。
糸井
なるほどね。
いまはそれをやるから面倒なんだね。
三浦
だからいまは、ぼくみたいに
広告自体もつくるし、
メディアとの関係をつくる
いわゆる「PR」も両方やるやつのほうが、
うまくいくことが多いのかもなと思いました。
糸井
そういうことを思うと、
三浦さんがそういう必然性を持って
自分の会社を作ってるのがよくわかりますね。



表現のボードが「4大メディア」とかに
限られなくなって、
クリエイティブディレクションの
範囲や分量や地域が、
大きく広がったわけだから。
三浦
そうですね。
「空間から時間になった」感じがします。



作っただけで終わりじゃなくて、
「出したあとにどう状況が転がっていくか」を
時間軸で考えて
クリエイティブディレクションしないと、
うまく届かないんです。
クライアントも幸せにならないし、
生活者も誤解しちゃうっていう。



いま急に
「空間から時間になったんだな」
って思いました。
写真
糸井
そうですね、時間もある。
そこは両方残ってるんじゃないかな。



「空間」ってつまり、
以前はメディアが、動かせない
不動産のようなものだったわけですよね。



それこそテレビのコマーシャルなどは
「画面という枠があってその時間を使う」
というもので。



その状況下で何をするかは、
料理でいえば、
「お皿が決まってた」
ようなものだと思うんです。



でもいまは、お皿を使う必要が
ないかもしれない。
作った料理を
「みんな手を出して」と言って
それぞれの手にのせるかもしれないし、
できたものを見せて、匂いをかがせて
終わりかもしれないし、
あるいは作ったという話を言うだけで
終わりかもしれない。



そういった、お皿を使わない方法まで
使うことができるから、
クリエイティブディレクション以上に、
「発想そのもの」が求められてる
時代になってますよね。
三浦
あ、そうですね。
糸井
三浦さんのこの本を読んで、
そういうことばかりが書かれてたんで、
ぼくは「そういう時代が来たんだな」
と思いました。



そこでお金をどう稼ぐかについては
まだ答えが見えてないんだけど、
代理店としても
「そこをやらないとダメだよな」って
思うようになってるというか。
写真
三浦
だからぼく、会社のメンバーが
これまでのやりかたを
変えるつもりなくやってるときには、
「手持ちの道具で片付けようとするなよ」
とか思うんですよ。



「おまえのセンスとか人格とか思考とか
構え方がいいから採用してるんだけど、
前の職場でのこれまでの時代の
広告のスキルだけで
どうにかしようとするなよ」
みたいなことは、やっぱりありますね。
糸井
それはそうですよね。
慣れた方法のままじゃダメで。



で、新しいやりかたって、
お金のとりようがなかったり、
仲間を説得しようがない場合もあるんだけど、
たぶんまずは、そこまで含めて、
ハズレをいっぱいつくっていかないと
いけないのかなと。
三浦
つまり「たくさん失敗する」とか。
糸井
そういうことですね。
「これはおもしろいけどお金にならないよ」とか、
「少しの人しか集まらないけど、
その少しの人たちから
『あのときにあれがあったね』って
言われてあとで広がるよ」とか、
そういう例がたくさん増えていってはじめて、
時代にあったやりかたが
みんなに見えてくるような気はします。
(つづきます)
2020-06-20-SAT
対談内で登場する、
GO三浦崇宏さんの最初の本
写真
『言語化力』

三浦崇宏 著

(2020年、SBクリエイティブ)



GOの三浦さんが、これまで考えたり
学んだりしてきた
「言葉をうまく使うための方法」を、
自らのエピソードをたっぷり交えつつ
紹介している一冊です。



ただ、メインは方法論でありつつも、
あちこちに見え隠れする
三浦さんのキャラクターが
魅力的な本でもあります。



熱くて、押しが強めで、夢いっぱい。
乱暴さと繊細さの両方が感じられます。
途中途中で「名言」として紹介される
さまざまな言葉には、
歴史的な偉人のものもありますが、
三浦さんが敬愛する
日本人ラッパーの歌詞があったり、
元恋人のセリフが混じっていたり‥‥。



メインテーマ「だけじゃない」部分まで
おもしろい本で、この感じが好きな人は
確実にいると思います。
ピンときたら、ぜひ読んでみてください。