ほぼ日に載るものとしては、
ちょっとめずらしい対談をご紹介します。
コロナウィルス感染症に関する
緊急事態宣言発令前の2020年2月、
「あらゆる変化と挑戦にコミットする」
をミッションに掲げる広告会社
The Breakthrough Company GOの
若き代表・三浦崇宏さんが、
糸井重里に会いに来てくださいました。
「広告」という共通点はあっても、
年齢、スタンス、選ぶ表現など、
ずいぶん違いの多いふたり。
もし会ったら、どんな話になるんだろう?
そんな思いからおこなわれた対談は、
三浦さんが持ち前の熱い口調で
糸井に広告や会社の話を聞いていく、
元気なおしゃべりになりました。
- 三浦
- いまぼく、出したばかりの自分の本
(「言語化力─言葉にできれば人生は変わる」)を
売りたくて必死なんです。
売れなかったら恥ずかしいなと思って。
だから、めちゃめちゃいろんな人に
会いに行くし、
トークイベントにもどんどん出るし。
これまでだったら恥ずかしくて
言えなかったんですけど、
テレビのディレクターの方に会ったら、
自分から「出してください!」とか
言うようになったんですよ。
- 糸井
- 意気込みはすごいけど、それ、
本はちょっと別じゃないかなあ‥‥。
- 三浦
- そうですか。
- 糸井
- 本って特殊だと思うんです。
もともと読む習慣がなかった人が
本を買うのって、そうとう難しいんですよね。
本がものすごく売れるのって
「そこを乗り越えられて」
「なおかつ事件化する」という
ふたつがないと、難しい気がするんです。
しかも、そのふたつが
けっこう矛盾するんですよ。
だから本については、
自分が出したかったものを出せれば
それで済んでるんじゃないかな‥‥。
ぼくはそう思いますね。
売ってみせなくてもいいんじゃないかなあ。
- 三浦
- ぼく、もうほんとに臆病で、
ずーっとなにかに怯えてて。
本が売れなかったら恥ずかしいなと思うし、
担当した商品が売れなかったら辛いし、
会社もうまくいかなかったら
ヤバいなと思うし。
- 糸井
- いや、思いますよ、そりゃ(笑)。
みんなそう思ってると思うよ。
ぼくだってそうですよ。
- 三浦
- 思いますか。
糸井さんとか思わないんじゃないですか?
- 糸井
- いや、思わずにできることなんて
何もないですよ。
ただ、意識的にそれを思わないように
もっていくべきだよね。
「ダメになるはずがない」って思ったほうが
フルスイングできるから。
心配しすぎていると、できないわけで。
- 三浦
- そうですね。
「自分がやってることが正しい」とか、
「勝てる」と思ってるときのほうが
話も手足も伸びがいいですね。
- 糸井
- ぜんぜん違いますよね。
- 三浦
- ただぼく、自分が本好きなんで、
「自分の本が世界最高の本ではない」
ってことがわかってるんです。
これはけっこう、苦しいものがありますね。
似たような時間で読める、
似たような棚に並ぶ本よりは、
いい本にできたと思うんですけど
「世界最高の本ではない」
という自覚のなか、がんばってますね。
- 糸井
- 「世界最高の本」って、
iPhoneをつくった人の話とかなら
みんな読みたがりますよね。
そういうスケールの話だと思うんです。
- 三浦
- つまり結局、
「おまえは誰なんだ」
「おまえが何をしてきたんだ」に
立ち返らざるをえないというか。
- 糸井
- うん。そこと並行してるものだから、
もしそんなに売れたとしたら、
なにか別の要素もあったんだと思うよ。
難しいんですよ、本って。
他のものとは
ぜんぜん違う気がするんですよね。
- 三浦
- ええ。
- 糸井
- ファッションに近い気もするんです。
良さをきちんと説明できるからといって
買うわけじゃないし、
「誰が着てたから」みたいなところもあるし、
勢いにもすごく影響されるし。
Aの店で買うか、Bの店で買うかなんて、
もう説明のしようがなくて。
だからやっぱり本だけの力というよりは、
三浦さん自体が売れていくことと
並行していくんじゃないかと思いますね。
- 三浦
- つまり「歌は世につれ世は歌につれ」
じゃないですけど。
ぼくがもうちょっと注目される
って言ったらあれですけど、
「おまえ自身がどうなんだ」
ってことですよね。
- 糸井
- うん、ぼくはそう思いますね。
- 三浦
- でも、ほぼ日手帳って、
めっちゃ売れてるじゃないですか。
やっぱりそこだと思ってて。
ヒット商品があるからこその、
糸井さんや「ほぼ日」の
説得力ってあると思うんです。
- 糸井
- いや、ほんとにうちはもう、
すごく下手だと思います。
「泥棒を捕まえてから縄をなう」
みたいなことばっかりを
繰り返してきた会社ですから。
- 三浦
- いや、そんなことは‥‥そうですか?
- 糸井
- 「計画性」という部分が、
ものすごく薄いんです。
おもしろそうだから、という理由で
一部に力をすごく注いじゃったりするし。
やっていることに喜んでくれている人がいる、
という感覚はあるんですけど。
うまくいっているように
見えている部分も、
「完璧に計算通りにいきました」
みたいなことは、ぜんぜんないと思います。
- 三浦
- でも、もしかしたら会社ってみんな
そうなのかもしれないですね。
- 糸井
- ほんとはそうなのかもね。
「こういうつもりで」と思ってやったことは
うまくいかないんだけど、
たまたま違うところでヒョイと門が開いたりとか。
- 三浦
- いま、いろんな大企業の社長とかも、
もしかしたらそういうことを
言ってるかもしれないなと思いました。
- 糸井
- 単純に、ユニクロの柳井さんは
「1勝9敗」とか言ってますよね。
- 三浦
- 言ってますねえ、そうですね。
- 糸井
- あれ、言いたくてしょうがないんだと
思うんですよ。
ほんとのことだから言ってるんじゃない?
やっぱりみんな、
ほんとのことを言いたいんだと思うよ。
- 三浦
- 自分のことさえ思いどおりにできない人間が、
いろんな人を集めてやるのが会社だから、
思いどおりになるわけないんでしょうね。
だから、ぼくからしたら「ほぼ日」は
すべてうまくいってるように見えるけど、
やってる糸井さんからしたら
そうじゃないんでしょうし。
糸井さんから見たら、ほかの会社も
うまくいってるように見えるけど‥‥。
- 糸井
- それはそれで「悩ましい」とかね。
- 三浦
- みんな思ってるんでしょうねえ。
- 糸井
- と思うけど。
あと、周りは「どうなの?」とか
けっこう言うじゃないですか。
たとえば車屋さんなら車屋さんで、
お客さんたちは
「ええー! この車どうなの?」とか
自由に言いますよね。
そういう環境がありながら、
みんなそれぞれ自分たちの専門の仕事を
やってるわけだから、
そこをかいくぐりながらやってる人たちは
みんな偉いよね。
- 三浦
- ということは糸井さんでさえ、
コピーを書くときは
「どうなの?」という目にさらされて、
不安になりながらやってきた
ということですか?
- 糸井
- ぼくはコピーは無自覚だから、
あまりドキドキはしないんです。
「絶対できる」と思ってやってたから。
それはどうしてなんだろう。
- 三浦
- 「ほんとのことだけ言う」って
決めてたからですか?
- 糸井
- 植物を育てる人って、
育てるときに「枯れる」とは
思わないじゃないですか。
球根がちょっと時期外れであろうが、
「難しいかもね」とか言いながら、
ぜったい花が咲くと思って手入れしますよね。
それと似てるんじゃないのかな。
ダメになる可能性もなくはないけど、
それはそれで
「どうダメだったか」を考え直して
きちんと対応すれば、
取り返しがつくと思うんだよ。
コピーを書くって、たぶん
その程度のことなんです。
クリエイティブディレクションも含めて。
「これがもしぜんぶダメになったら」とかも、
考えないはずはないけど、
「そうなったらこういう二の矢三の矢があるな」
とは思いますよね。
- 三浦
- そういう意味では、
気楽な仕事ではありますね。
- 糸井
- サドンデスですからね。
「取り返しがつかない」には
なかなかならないですよね。
もっとつまらないミスのほうが
取り返しがつかない気がします。
「値段を間違った」とか。
そっちのほうが痛いですよね。
- 三浦
- 「仕入れが間に合わなかった」
みたいなことにはならないですからね、
ぼくらの仕事。
- 糸井
- 仕入れも大丈夫だったりしますね。
うち、たまに間に合わないことが
あったりするけど(笑)。
それはそれでなんとかしたりね。
- 三浦
- やっぱりみんな、うまくいかないこともありつつ、
それぞれなりにやってるんですね。
- 糸井
- そうだよ。
そんなにうまくいくもんじゃないよ。
だから「運よく」。
‥‥「運よく」って(笑)。
- 三浦
- 糸井さんは、運、いいですか?
- 糸井
- 運っていう目で見たら、いいんじゃないかな。
「ちょうど来たよ」ばっかりだから。
実はもうすぐ引っ越すんですけど、
「このあたりに行こうかな」と思ってたら、
まさにちょうどいい場所があったんですよ。
神田なんですけど。
- 三浦
- あ、神田ですか。
どうしてですか?
- 糸井
- ちゃんと人がいて、商いをしてる町だから。
本の町だし、楽器の町だし、食べ物の町だし。
いいことばっかりだなと思って。
少なくとも、お昼の選択肢が増えてたのしくなるし。
- 三浦
- いいですね。
こんなこと言うのもなんですけど、
青山ってクリエイティブの会社が
多いじゃないですか。
ぼく、自分が青山にオフィスを構えるのが
ぜったい嫌だったんです(笑)。
- 糸井
- そうなんだ(笑)。
- 三浦
- 六本木にこだわったんですよ。
ちょっと下品な感じがするとか、
血と金のニオイがする場所に構えたくて。
- 糸井
- 「ギャング映画」みたいになりたかった?
- 三浦
- はい(笑)。
「ギャング感」「マフィア感」
意識してますね。大好きで。
(つづきます)
2020-06-21-SUN
対談内で登場する、
GO三浦崇宏さんの最初の本
『言語化力』
三浦崇宏 著
(2020年、SBクリエイティブ)
GOの三浦さんが、これまで考えたり
学んだりしてきた
「言葉をうまく使うための方法」を、
自らのエピソードをたっぷり交えつつ
紹介している一冊です。
ただ、メインは方法論でありつつも、
あちこちに見え隠れする
三浦さんのキャラクターが
魅力的な本でもあります。
熱くて、押しが強めで、夢いっぱい。
乱暴さと繊細さの両方が感じられます。
途中途中で「名言」として紹介される
さまざまな言葉には、
歴史的な偉人のものもありますが、
三浦さんが敬愛する
日本人ラッパーの歌詞があったり、
元恋人のセリフが混じっていたり‥‥。
メインテーマ「だけじゃない」部分まで
おもしろい本で、この感じが好きな人は
確実にいると思います。
ピンときたら、ぜひ読んでみてください。
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN