ほぼ日に載るものとしては、
ちょっとめずらしい対談をご紹介します。
コロナウィルス感染症に関する
緊急事態宣言発令前の2020年2月、
「あらゆる変化と挑戦にコミットする」
をミッションに掲げる広告会社
The Breakthrough Company GOの
若き代表・三浦崇宏さんが、
糸井重里に会いに来てくださいました。
「広告」という共通点はあっても、
年齢、スタンス、選ぶ表現など、
ずいぶん違いの多いふたり。
もし会ったら、どんな話になるんだろう?
そんな思いからおこなわれた対談は、
三浦さんが持ち前の熱い口調で
糸井に広告や会社の話を聞いていく、
元気なおしゃべりになりました。
- 糸井
- 三浦さんが、自分の会社に対して
「大丈夫」と思えている
根拠は何ですか?
- 三浦
- たぶんぼくは、自分の立場が
中立だからだと思うんです。
- 糸井
- 中立。
- 三浦
- 糸井さんが広告をされていたときも
きっとそうだと思うんですけど、
いまのうちの会社、
最先端のスタートアップから大きい会社から、
さまざまなかたが、ものすごく真剣な相談を
しに来てくれているんです。
真剣な相談って、やっぱりそのなかに
「ほんとのこと」があるんです。
そして当然、A社の悩みは
B社の解答だったりすることが
たくさんあるんです。
A社にとっては悩みだが、
B社にとっての答えだし、
C社のヒントだったりする。
そういうことかがいま、
ぼくらの会社に集まってるので。
だから、いろんな業態の会社と
一斉にやりとりして、
そのすべてと真剣にやりあうことで、
バランスをとれている感じがします。
これで
「GOはA社のいうことを全部聞きます」
と言った瞬間、
すべてがガラガラっと崩れちゃうというか。
- 糸井
- 港町みたいなものですかね。
- 三浦
- ああ、そうかもしれないです。
- 糸井
- 神戸とか、昔の堺とか。
「ギャング感」を交えて言うなら、
自動車を荷揚げする人もいれば、
麻薬を持ってくる人もいれば、
そこで両方が出会う機会もあるし、みたいな。
- 三浦
- そうですね(笑)。
ぼくらのGOは、
広告会社でありPR会社であり
マーケティング会社なんですけど、
本質的には
「変化と挑戦を支援します」
とだけ言っているので、
「変わりたい」という人しか来ないんです。
「別に変わりたくないんです」
というクライアントさんには、
「それなら大手の広告代理店がいいですよ」
と紹介もしますし。
そのあたりをすごく見極めるようにしています。
だからいま、ぼくがあちこちのメディアに
出させてもらったりしてますけど、
もしそれを見て
「注目されてそうだからここに頼んどこう」
みたいにやってくる人がいたら、
「あ、そういう感じでもないんですよね」
って返すと思います。
「本気で変えたいですか?」は、
いつでも問うようにしていて、
常にそういう人たちと
一緒にやるようにしていて。
そしていま、そういう本気の積み荷が
たくさんそろってきてるんで、
ギャング映画っぽく言えば
「じゃあ、阿片いります?」とか(笑)、
「これ、たまたまちょっと
残ってるんですけど、持って帰ります?」
みたいなことができてる気がしますね。
- 糸井
- 実はぼく、ちょうどここのところ、
ずーっとギャング映画に凝ってるんです。
おもしろくて。
- 三浦
- あ、ギャング映画(笑)。
そうですか。
- 糸井
- 久しぶりに観るきっかけになったのが、
NETFLIXでやってる
『ピーキー・ブラインダーズ』っていう
イギリスのギャング映画のシリーズなんです。
2013年ぐらいからやってて、
もう第5シーズンまできてるんですけど、
おもしろいんですよ。
みんなおしゃれな服着てるけど、
地面が舗装されてないから泥だらけなんです。
そこでジプシー出身の
ギャングたちがどうのし上がっていくか。
そういう話ですね。
殺す、殺される。
暴力をふるう、ふるわない‥‥。
そういうことをぜんぶ含みながら、
ギャングたちが、
なんとか生き延びる方法を考えてるわけです。
それって、ある枠のなかで
「この問題をどう解く?」って
言われてるのとは違って、
「うわー、追い詰められた。もうダメだ!」
ってことだらけで。
そのときギャングたちが、
人殺しまで含めて答えを模索して
生き残っていくんですけど、
その「なんでもあり」の感じに
すごく刺激を受けるんです。
- 三浦
- 「何をしてもいいんだったら、
あんた、どうすんだ?」っていう。
- 糸井
- そう。むかし『仁義なき戦い』を見たときも
そうだったんですけど、
それをもっとしつこくやってる感じで、
おもしろいなあと思って。
「なんでもありだったら、どうすんの?」
って、もともと人間は
そういうものだったはずなんです。
だけど、いつのまにかすべてが
科挙の試験を受ける集団の中で
答えを出すようになってる気もしてて。
- 三浦
- ああ、おもしろいですね。
そして『仁義なき戦い』はその系統だけど、
同じギャング映画でも
『アウトレイジ』はまた違うんですよね。
数学みたいな映画だから。
- 糸井
- そうそうそう。ほんと、そう。
『アウトレイジ』は違うよね。
ニヒルですよね。
- 三浦
- ほんとにあれ、たけしさんの数学的な
「Aのタマをとると、二次関数的に
Bに仁義を切らなきゃいけないが、
結果Cが死ぬ」みたいな。
- 糸井
- それをすごく暴力を粗末に扱って
成り立たせてるゲームですよね。
あと、ことばを悪くしたり。
だから「何が起こるかわからない」
というよりは、
「こうして、こうして、こうしたら」
という玉突き。
- 三浦
- 「その論理って、君、理解できる?」
っていう映画ですよね、あれは。
- 糸井
- そうね。でもいまのぼくには
「ちょっと風が吹いたおかげで
こうなっちゃった」
みたいなのがおもしろいんです。
『ピーキー・ブラインダーズ』には
そこがあるんですよ。
7シーズンまであるらしいから、
まだまだおもしろいんだろうけど。
それを見終わったら、
今度はコロンビアの麻薬の‥‥。
- 三浦
- 『ナルコス』。
- 糸井
- そう、あれを見はじめたんです。
またそういう話じゃないですか。
つまり、プロレスですよね。
「プロレスってここまであるんだ」も、
表現の拡張であり。
それがまた、どんどんルールが増えて、
「たくさんのルールを見たり扱ったり
できる人がエリート」
と思われるような時代にもう一回、
「いや、両方まざってるのが社会じゃない?」
と思い出させてくれるというか。
- 三浦
- はいはいはい。
- 糸井
- そういう表現を見ながら、
ぼくは最近いい年をして、
「自分ももっと暴れたい」
とか思いはじめて(笑)。
- 三浦
- すごい失礼ですけど、ぼく、
糸井さんや秋元さんが暴れてる姿を見ながら、
「自分たちはまだまだ暴れかたが足りないな」
と思うんです。
ぼく、うちの会社の連中に対しては、
企画のときに毎回
「なんでもいいからタブーを破れ」
って言うんですね。
例えば、
「コピーライターをあえて大学生にしてみた」
でもいい、
「新聞広告でマンガを作って、
悪役として実在する三浦を登場させて
みんなイラッとさせよう」
でもいい、
「渋谷の街中に生理用品をバーンと貼る」
とかでも、なんでもいいんですけど。
企画でも、チーム構成でもなんでもいいから、
「なにかひとつタブーを破れ」って。
そういうことがなければいい仕事にならないと
ぼくは思うんです。
それで、毎回言うんですけど。
でもいまは、糸井さんとかのほうが
破ってるなって気がします(笑)。
でも自分たちもこれからもっと、
そのあたりを強くしていきたいと
思ってますね。
(つづきます)
2020-06-22-MON
対談内で登場する、
GO三浦崇宏さんの最初の本
『言語化力』
三浦崇宏 著
(2020年、SBクリエイティブ)
GOの三浦さんが、これまで考えたり
学んだりしてきた
「言葉をうまく使うための方法」を、
自らのエピソードをたっぷり交えつつ
紹介している一冊です。
ただ、メインは方法論でありつつも、
あちこちに見え隠れする
三浦さんのキャラクターが
魅力的な本でもあります。
熱くて、押しが強めで、夢いっぱい。
乱暴さと繊細さの両方が感じられます。
途中途中で「名言」として紹介される
さまざまな言葉には、
歴史的な偉人のものもありますが、
三浦さんが敬愛する
日本人ラッパーの歌詞があったり、
元恋人のセリフが混じっていたり‥‥。
メインテーマ「だけじゃない」部分まで
おもしろい本で、この感じが好きな人は
確実にいると思います。
ピンときたら、ぜひ読んでみてください。
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN