すごいお母さん、 EUの大統領に会う   香川県丸亀市に 尾崎美恵さんという女性が住んでいます。 ごくふつうの主婦として家を守り、 ごくふつうに3人のお子さんを 育てていましたが、 ある日、たった一人で四国の文化を ヨーロッパに紹介する活動をはじめます。 その行動力はすさまじく、 なんと「EUの大統領」にまで会ってしまいました。 いったい、どんな方なんでしょう。 同じく丸亀市出身の「ほぼ日」藤田が 会いに行きました。
第8回:やるかやらないか
ーー 尾崎さんの活動が広がっていくなかで
協力してくださる方も
ずいぶん増えたんじゃないでしょうか。
尾崎 そうですね。
「これをしたらこれができる」と
計算してやってきたんじゃなくて、
必死にいろんなところを駆けまわっていたら
だんだんネットワークができてきた、という感じです。

ーー ナンパも、見事に活かされましたし(笑)。
尾崎 あの方と高松駅で出会ったときは、
パリの家に泊めてもらったり
イベントを手伝ってもらったりなんて
全く想像してなかったんですけどね。
なんだか自分が蒔いていた種が
ちょっとずつ実になって
知らず知らず枝から落ちてくるような感じです。
ブロガー招へいツアーにしても、
「何月何日から欧州人が来るので、
 ご協力をお願いします」と言ったら、
通訳を手伝ってくれる人や、
車の手配を手伝ってくれる人がいて、
すごく助かっているんです。
ただ、それでも、プランを組んだり
宿や食事を無料にしていただいたりという交渉は
私が一人でするしかありません。
1回無料にしてくださったからといって、
2回目も、というわけにはいかないですから。
改めて企画書を持って行って、
相手に納得していただく。

ーー それは大変ですね!
また一から協賛企業を探されるんですか。
尾崎 そうです。毎回、一からなんです。
だから、フランス語の非常勤講師の仕事を
しているとき以外は、
新しい企画に追われています。
1週間とか2週間のイベントをするのにも
準備に1年間かかります。
企画を立てて、
後はひたすらお願いまわりをしているんですけど、
その中で、ネットワークがどんどん広がるのを感じます。
四国に招いたフランスのブロガーたちが
次のジャパンエキスポのときに
パリで宿を提供してくれたり、
ブースを手伝ってくれたり‥‥。


▲広がるネットワーク。遍路仲間たちと。
ーー 本当にひとつひとつが
つながっていっているんですね。
岡山大学に行かれたとき、
もっとさかのぼると、
フランス語を勉強していたときと
状況がずいぶん変わったのではないでしょうか。
尾崎 そうですね、
3人の子どもと主人しかいないところにいたのに、
幼稚園にフランス人がいて、
ほんのちょっとドアがひらいて、
で、そこからまた大学院に行って
またドアがひらいて‥‥。
だから、どんどんドアを
ひらいていっている感じです。

ーー ドアをひらいている。
尾崎 最初から何かを目指して
やっているわけではないんです。
目の前にドアがあって、それをあけると、
「あぁ、この人が待っていてくれたのか」
みたいな。
やっぱり自分の「思い」というのがあって、
直球で投げられることさえできれば
キャリアも肩書も経験もいらないんだなと。

ーー お話をうかがっていると、
本当に何でもできるんだなって
思えてきます。
「こんな年になっちゃったし、遅いし」とか
「家庭に入ったら再就職なんかできない」
という声をよく聞きますけど、
そんなことないんだなぁって。
尾崎 ええ。そうですよ。
私みたいな、ひとりの主婦が
こんなことをしているということは、つまり
これは誰でもできるっていうことなんです。
私だって、妻とか嫁とか母とかを全部はずして
一体自分は何なんだと考えてみると
本当は何もないわけです。
「どうしたらいいんだろう」と考えるのをやめて、
とにかく人に会いに行って、
「こうしたいんだ、ああしたいんだ」と言ったら
道がひらけてくるんですね、不思議と。
ーー 動くことで、道がひらけてくる。
尾崎 はい。
できないんじゃなくて
‥‥やるかやらないかという感じです。

ーー これからも、
どんどん広がっていきそうですね。
尾崎 そうですね。
今までやってきたことは
わりと泥沼を這っているような
作業が多かったんですけど、
ようやく自分自身が満足感を得られるような仕事が
これからできるかも、と思っています。
たとえば今は、パリで
四国の映画を上映する企画を考えています。

ーー 映画ですか?
尾崎 ええ、あの鉄ちゃんのクロードさんは、
日本映画にも詳しく、パリなどの映画館で
月1回、日本映画の自主上映会を開催しているんです。
そこで四国の映画を上映できないかという話が
持ち上がっているんです。
といっても、こっちも、むこうも
お金がないですし、
版権もいろんな会社が持っているわけです。
ダメになるかもしれませんけど、
とりあえず前向きにやっています。

ーー すごくおもしろそうですね。
きっと尾崎さんのことだから、
単に「上映会」だけにはせず、
同時にいろんなことをなさるんでしょうね。
尾崎 ええ、もちろんです。
これ以外にも『ZOOM JAPON 四国特集号』など
四国のPR企画を考えています。
実現するかどうか、楽しみにしていてください。

ーー ものすごく楽しみです。
今日は本当にありがとうございました。


(おわりーー尾崎さんの活動は、まだまだつづきます)
<取材を終えて>

四国夢中人の活動について
熱く語ってくださった尾崎さん。
取材の合間に、魔法のようなスピードで
瀬戸内のごちそうを作ってくださったんです。
たくさんの料理を一瞬にしてテーブルに並べ
「おなかすいたでしょう、どうぞ」と
気遣ってくださる、その表情は
すっかりふつうの「やさしいお母さん」。
もう、ただただ尊敬です。
尾崎さん、ありがとうございました!

 
2014-06-27-FRI

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