その2 裸の手の中には、     頭と心が入っています。
アンリ シンプルであるってこと、
それは簡単なようで難しいです。
しかも、勇気がいることですよね。
糸井 シンプルっていうのは、
“裸”っていうことに近いような気がして。
アンリ Bravo!
勇気を持って、裸になる!
糸井 うん。
アンリ そして、裸になっても、保守的にはならない。
糸井 うんうん。
アンリ 勇気を持って、裸になるっていうことは、
重要なことです。
糸井 うん。
アンリ 怖がらずに裸になるっていうことは、
武器を持たないということじゃないかと思います。
糸井 えっ‥‥それね、なんと、
昨日の12時ぐらいにぼくが
ツイッターに書いたんですよ。
びっくりした。
ふみこ
さん
ツイッター?!(笑)
糸井 こう書いたんですよ。
「自分や自分の仲間を守るために、
 武器を持つ人が増えていくと、
 それだけ危険が増えていく。
 だけど、お風呂場とか、
 みんなの集まる大浴場には、
 裸の人しかいない。
 なのに平和になる。
 それがなんかすごく大事なことのような
 気がする」って。
おんなじこと言ってるでしょう。
アンリ Certo, certo, certo.(たしかに、たしかに。)
糸井 裸って思い出したのも、
それを書いたせいかもしれないんだけど。
アンリ 他の考え、他のちがいを認める
っていうことは、すごいことですよね。
糸井 うん。なんて言うんだろう。
強くなるとか、人を守るとかっていうと、
必ず武器をつくろうとするんだけど、
武器を作ろうとするよりは、
大浴場を作る、というか。
ぼくは、いま、急に
大浴場主義って言い出したんだけど(笑)。
ローマに、あるじゃない。
ふみこ
さん
ありますね(笑)。
糸井 つながってるんですよ。
一同 (笑)
糸井 アンリさんに会ったら急に、
あ、この人、裸だ! って思ったんですよ。
裸の練習をするってことを
人々はずーっとやってきたんですよね。
おサルでも川のところに集まって水浴びしたり、
むかしから、
大勢集まって裸になるってことをね、
ずーっとやってきた。
それってすごい重要な知恵じゃないかな。
ここ土楽の福森雅武さんもそうですよね。
裸にどんどん近づいていって、
裸になり方を、人に見せつけていくみたいな。
そういうことをしてますよね。
アンリ この革素材、クオイオ・イングレーゼは、
たしかに裸の素材ですよね。
あと、“手”も裸ですよね。
糸井 はい、はい!
アンリ その裸の手の中には、
頭と心が入っています。
そうじゃないと、手は動かせない。
その手で折り曲げる、手で革を揉む、
そうすることによって、その革に命を吹き込む。
それが合体したものなんです。
糸井 うん。
アンリ 物作りをしてる人たちっていうのは、
ぼくもそうですけど、
福森さんですとか、
自分の手を加えた物っていうのは、
愛情が入ってなければできないですよね。
物ではなくても、何かを作る人、
っていう人は、やっぱり愛情、
自分の感情がないと、できない。
で、その後に、使われる人と
作った本人との間に、
見えないふたりの対話、会話っていうものが、
生まれていくんではないですか。
糸井 たぶん、何千年前の人が作っても
おんなじように作るわけですよね。
アンリ ほんとにそうです。
手縫いですから、
テクニックはもう千年前と変りないですよね。
それが受け継がれてるんですよね。
考古学者の人が見つけた何千年前のものを
参考にしても、
やっぱりおなじ縫い方だと思います。
糸井 アンリさんは、いま、
頭の中で考えてることって、
いっぱいあるんですか。
アンリ いっぱいあります!
まず、自分の健康ということ。
何かを作るってことは、
ぼくが生きていくために
必要なエネルギーです。
手を動かして、
革を折って縫えるということは、
ぼくは世界一、宇宙でいちばん、
幸せな人間だと思っているんですよ。
糸井 止められるもんかと。
もし、なにかの理由で
「やめときなさい」と言われたら
どうなるんだろう?
奥さんとしては、どうですか?
ふみこ
さん
(笑)たぶん、死んじゃうと思う。
糸井 ああー!
ふみこ
さん
たぶん、死んじゃうと思う。
たぶん。
糸井 いまの言い方を聞いてると、
ほんとうにそうかもしれないね。
ぼくは、アンリがしゃべるときって
何を言ってるかわからないのに、
思わずうなずくんですよ。
出てるものが、わかる。
ふみこ
さん
心が通じ合うっていうのは
そういうことかもしれないですね。
糸井 自分でね、インチキだなぁ、
イタリア語、わかってないのにって
気がつくときがあるんですよ(笑)。
アンリ すごく光栄なことですよ。
糸井 今日、ここに来て、どうですか?
アンリ まず──信じられない場所です。
こういうのを見ると
また何か作らなきゃっていう、
そういう製作意欲が湧きます。
もちろん、陶器もそうですし、
この建物であったり素材であったり、
場所であったり、すべて。
そして、家族で、こうやって
お料理をしてるのを見ること!
ぼくは糸井さんより先に到着したので
台所を拝見していたんです。
そこで福森さんが包丁を研いでいたんですね。
その研ぎ方が、無の状態でした。
そういうのを見ることが、
ぼくにとって、勉強で。
糸井 アンリさん、ものすごく興奮してますね。
ふみこ
さん
そう。
もう興奮だらけですね。
着いた途端に。
いえ、着く前からね。
シモーネ 別世界ですね。
糸井 食べる物、そこらの山に
摘みに行ったりするんですよ。
おもしろいでしょ。
アンリ Si, Si, Si...
福森さんも360度、
アンテナにしているかたですよね。
糸井 そうですね。
アンリ こういう自然っていうのは、
メッセージが届くんです。
糸井 うん。
アンリ 日本の文化、日本人っていうのは、
もちろん、進化してるんだけども、
進化と同時に、繊細な部分というのが、
一緒に合わさってますよね。

(つづきます)
2010-09-02-THU
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN