糸井 アンリさん、おひさしぶりです。
今回、「ほぼ日手帳2011」で、
昨年につづいて、革カバーの制作を
引き受けていただき、
ありがとうございました。
アンリ わたしのほうがお礼を言いたいぐらいです。
こうして、おなじプロジェクトを
また今年もやらせていただけるなんて。
こういう出会い、こういう機会に、
ほんとうに感謝しているんです。
糸井 昨年は、おたがい、
ドキドキしながらスタートしたけれど、
こうして、笑顔で会うことができて、
よかったですよね。
しかも、こんな場所でね。
アンリさんの工房が、
イタリアの田舎にあるといっても、
こういうふうな自然の中じゃないものね。
アンリ そう。この、自然の中に埋まる感じに、
あまりにも感激してしまって‥‥。
糸井 その感激って、
サッカー選手がゴールを決めたあとで、
嬉しくて走ったり、倒れたりしてる、
そんなふうなことですか?
アンリ うーん、ゴールを決めた、というよりも、
またゴールをしたい!
という気分が近いかな?
糸井 おおー!
アンリ これから次のゴールに向かって行きたい。
昨年から今年へと「続く」っていうことは、
また新鮮な気持ち、
ピュアな自分に戻れるっていうことでしょう?
なので、もう一回ゴールしたい、
そういう気持ちになっているんです。
糸井 うれしいよねぇ。
去年ぼくらが、
アンリさんと一緒に仕事したい、
と思った気持ちが、
「ほぼ日手帳」のお客さんたちに、
果たして伝わるかどうか、
ぼくらなりに心配だったんです。
だけど、想像以上の
たくさんの人がわかってくれた。
実は去年、欲しかったんだけど、
買えなかった人がたくさんいた。
このことに対して、またやらなきゃならない、
そして、やりたいという気持ち以上に、
やらなかったらたいへんだぞ、って思ったんです。
アンリ 糸井さんよりも、
ぼくの方がもっとびっくりしてます。
そんなに人気があったっていうのは!
ふみこ
さん
実は去年、
アンリは発売日をすごく気にしてて。
発売されてからの動きについても、
「ほぼ日」のかたと
毎日連絡をとっていたんですよ。
そして、とても人気があると知り、
ほんとにアンリは喜んで!
‥‥すごい喜びようだったんですよ。
一同 (笑)
アンリ (みんなの表情を見て)
いま、きみが日本語で何を話してたか、
ぼく、わかったよ。
糸井 わかった?(笑)
今年は、昨年よりももっと
冒険したいという気持ちが、
ぼくらの中にも、おそらくアンリさんにも、
あったんだと思うんだけれど、
新しいことをする前に、
去年とおなじものを
ちゃんと手渡せるようにしよう、
と決めたんです。
名前もふくめて、
ずっと変わらないものにしたかった。
そういう意味では、
アンリの動機が維持できるかな、
おなじのヤダよって言われたら
どうしようかなぁって、
ちょっと心配をしてたんです。
アンリ これの素材はクオイオ・イングレーゼと言って、
「HENRY CUIR」の基礎となる革なんですね。
なので、それを繰り返すってことは、
ぼくにとっては、
ぼくが認められたっていうのとおなじことです。
この素材をわかってくれる、
気に入ってくれるってことは、
ぼくをわかってくれているってことですから。
糸井 “ほんとに”欲しいものと、
“ちょっと”欲しいもののちがいって、
やっぱり、大きくて。
「ほんとに欲しい」っていう人に渡っていくのは、
ぼくらも、やっぱり仕事してて、
とてもうれしいんです。
アンリ ほんとにこの素材が
欲しいと思ってくださるというのは、
日本の文化が、とても繊細で、
とても深いからなんじゃないかと思います。
なぜかっていうと、これって、
革の「生(なま)」に
いちばん、近いものですから。
糸井 うんうん。
アンリ そういう革が好まれるってことを、
ぼくは、もしかしたらわかっていたのかもしれません。
だって、日本の文化っていうのは、
こういうところの自然を見ればわかりますよね。
きょう、あらためて、
あ、自分の考えはあってたんだな、
日本人は、ぼくの物を愛してくれるんだ、
と、理解したと思います。
糸井 そうです!
シモーネさん、このあいだ、一緒に
イタリアの工房に行って、
今日ここでまた一緒になって、
両方につきあってくれたじゃないですか。
シモーネ そうなんです。
糸井 日本にも長くいらっしゃったし、
このプロジェクトを見ていて、
どんな感想を持ちました?
シモーネ まず、うれしかったですね。
アンリさんが、
日本でこういうプロジェクトができて、
ほんとにすごくハッピーです。
糸井 日本人に伝わるっていうことは、
シモーネさんも思った?
シモーネ はい!
イタリア人にこういうよさが、
わからないこともないんですけど、
というか、わたしもイタリア人ですけど(笑)。
糸井 アンリって「なに人」なんだろうね(笑)。
ふみこ
さん
アンリ人(笑)?
一同 (笑)
糸井 「なに人」とかっていうんじゃないですね。
アンリ (笑)すごく、ぼくにとっていい言葉です。
すごくうれしい言葉、
すごいお褒めの言葉です。
糸井 事実だもの。
アンリ ほんとですよ。
ぼくがいつも大切にしてるのは、
新しい出会いとかいろんなものとの出会いに
先入観を入れないことなんです。
ぼくとちがうことを思ってる人、
ぼくが好きなものとちがうものが好きな人、
たくさん、いますよね。
糸井 うん。
アンリ そのちがいっていうのは、ぼくにとって、
必ずしもマイナスにはならなくて、プラスになる。
ちがいがわかるっていうことは、
自分を高めてくれ、
自分を豊かにしてくれるものだと思っていますから。
糸井 それはもう、ぼくとおんなじ考えです!
とても似てる、共通してる。
うーん、そういうことか、
なんかすっと溶け込めたというか、
話ができるなぁと思ったのは、
そこがおなじだからですね。
アンリ Si, si, si...(そう、そう、そう)
価値観がおんなじだと、
とても親しみを感じますね。
糸井 うん。
アンリ たぶん、純粋さということが
たいせつな気がしますね。
例えば、ある場所に子どもたちがいるとします。
それは黒人だったり、アジア人だったり、
いろんな子たちがいる、
彼らは、そのちがいを、頭で考えなくて、
もう心の中でわかってるから、全部受け止めます。
好きとか嫌いとか、っていうよりも、
純粋さっていうものが、
すべてに勝ってしまうんです。
すべての感情に勝つ、
そんな、子どものピュアさのようなものが、
ぼくたちにはあるんじゃないのか。
糸井 うんうん。
色がちがうだとか、
背丈がちがうっていうのは、
ちがっておもしろいことなんですね。
とても、おもしろいぞ!
って思う、で、仲良くできる、
それは、アンリさんを見てるとそう思いますね。
アンリ はい、そうですね。

(つづきます)
2010-09-01-WED
   
 
その1 “ほんとに”欲しいものと、
    “ちょっと”欲しいもののちがい。
2010-09-01-WED
その2 裸の手の中には、
    頭と心が入っています。
2010-09-02-THU
その3 料理をつくらなくなった
    イタリアの若者たち。
2010-09-03-FRI
その4 もし傷がついても、
    それがあなたの歴史です。
2010-09-06-MON
その5 星を眺めて
    ぼーっとしてるやつがおったとしても。
2010-09-07-TUE
その6 からっぽになったらなったでいい。
    いつもいっぱいでなくってもいい。
2010-09-08-WED
その7 守ったってしょうがないよ。
    わたしはわたしの一代目。
2010-09-09-THU
その8 抱きしめたかったら、
    抱きしめたらいいんだよ。
2010-09-10-FRI
その9 Io penso che,
    年齢なんてただの数字です。
2010-09-13-MON
その10 ほら吹きと忍者と、王様と。
     ぼくたちはみんな裸で生きている。
2010-09-14-TUE
 
     
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN