福森 |
(料理を手に、台所から登場)
ようこそ、ようこそいらっしゃいました。 |
糸井 |
きょうは、
似たような境遇の人たちを会わせる会です。
こちらのシモーネさんは通訳で、
日本語が完全にわかります。 |
福森 |
そうなんですか。 |
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糸井 |
アンリさんは革の職人さんです。
三浦さんは、ぼくの京都の家を造ってくれた人で、
なおかつアンリさんのお店の
さまざまな内装とか、
やっていらっしゃるかたです。 |
福森 |
乾杯しましょう。 |
一同 |
かんぱーい! |
糸井 |
イタリア語では? |
アンリ |
cin cin! |
糸井 |
じゃあいただきまーす。
福森さんって、やってきたことは、
全部盗んだことばっかりだと
ご本人、おっしゃるんですよ。 |
一同 |
(笑) |
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糸井 |
すっぽん屋さんに
陶器を届けるところから始まって、
しょっちゅう通って
調理方法を盗んだんですよね。 |
福森 |
生きたすっぽんをどうさばくかっていうのを
知りたいと思ったんですが、
わたしは習うのが嫌なんですよ(笑)。
それで台所から上がってね、
じっと見てたりね。 |
糸井 |
お花も習ってないんですよね。 |
福森 |
お花はね、誰からも盗んでもおりません。
これはもう家元です。
はははは。 |
三浦 |
家元ですか。
そうですか。 |
福森 |
これはそこにいっぱい生えてる
蒲の穂(ガマノホ)っていうのを、
朝摘んで、活けたんです。 |
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糸井 |
これ、単色なのに色を感じますね。 |
アンリ |
またお邪魔して、
いろいろ勉強したいです。 |
糸井 |
ろくろ、回しますか。 |
福森 |
じゃあ、わたしは革を習おうかな(笑)。 |
ふみこ
さん |
ほんとに、アンリは
ろくろにすごい興味を持ってて、
いつかは作ってみたいっていうふうに
言っているんですよ。 |
糸井 |
アンリさんは、すっごい有名な
イタリアのサッカーの選手だったんですよ。
サッカーから革にいったんです。 |
アンリ |
昔のことですけど。 |
糸井 |
写真とか見るとすごいですよ。 |
福森 |
小林秀雄さんが言ってたんですけどね、
文章を書くのも、スポーツ神経だって。
その勘が行き渡らなかったら、文章にならない。
それの元はそういうもんだ、と。 |
糸井 |
最終的に筋肉で表現するんですからね。 |
福森 |
飲んでくださいよ。 |
シモーネ |
ありがとうございます。
ほんとはね、たくさん飲みたいんですけど、
お昼ですし。 |
福森 |
昼間だからおいしいんですよ。
お昼から夜まで、ずーっと飲むんです。 |
シモーネ |
わかりました(笑)。 |
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糸井 |
事実ですよね。 |
福森 |
はははは。
このあいだ、博多、唐津、
寿司屋以外行かないという旅行をして。
おもしろかったですよ。
そういうのを、「遊行」(ゆぎょう)と
名づけたんです。
もう最後のほう、修行になりました(笑)。 |
糸井 |
なんのいわれもなく行ってるんですか。
ただ行きたくて行った? |
福森 |
そうです。 |
糸井 |
ああ、いいなぁ。 |
福森 |
一緒に行きましょうよ。
玄界灘の魚の最高のところを知ってますから。
また東京とちょっとちがうおいしさです。
みんなで行きましょう。 |
糸井 |
いいですねぇ。 |
ふみこ
さん |
アンリもお寿司大好きなんですよ。 |
糸井 |
アンリさん、日本にほんとに合ってるね。 |
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ふみこ
さん |
日本食が一番好きなんですよ。
だから、週に3、4回は絶対、日本食。 |
糸井 |
アンリさんは、
福森さんの土鍋を
イタリアで使われてますからね。 |
福森 |
ほう!
はははは。 |
ふみこ
さん |
ステーキ焼くのに、
ちょっと勇気がいるんですけど。 |
福森 |
いやいや。
パエリアもやってください。 |
ふみこ
さん |
お米は、炊いています。
お米、おいしいです。 |
福森 |
なんだっけ、チーズとこう‥‥。 |
ふみこ
さん |
リゾットですね。
それもまだ怖くてできない。
10回ぐらい使わせていただいたんですけど。 |
福森 |
もう大丈夫ですよ。
わたしそのリゾットが好きでね、
よくやるんです。 |
ふみこ
さん |
土鍋を直火で焚いて、
大丈夫なんですね。 |
福森 |
大丈夫。 |
ふみこ
さん |
わたしもやってみます。 |
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糸井 |
買った人からも、
使っていくうちに入る
貫入のことを心配だというメールを
いただくんですけれど、
大丈夫なんですよって。 |
福森 |
あれが歴史だからね。
貫入が入ったら、
その土鍋は、あなたの歴史ですよ。 |
ふみこ
さん |
アンリのバッグも
傷がついたらどうするんですか、
っていうような質問をいただきます。
福森さんとおなじなんですよ。
傷がついてもそれがあなたの歴史で、
それぞれの使い方によって変わる。
色が濃くなるのも歴史で、
傷が付くのも歴史で、
手垢も歴史です。
おなじですよね、
手で作る物っていうのはね。 |
福森 |
だけどそれがね、
わかってくれる人があんまりいない。 |
糸井 |
大量生産品の時代には
わからないんですよね。
それをわかるお客をつくるのが
ぼくらの仕事なんです。 |
ふみこ
さん |
ええ、ええ。 |
福森 |
さあ飲みましょうよ、飲みましょう(笑)。
なかったらないようにある、
あったらあるようにある(笑)。
わたしのとこはそれですから。
もうあるだけしかないんだから。 |
糸井 |
いつか福森さんに器のこと、
こういうことですよっていうの、
教わりたいなぁと思うんだけど、
こうして、いつも食って終わちゃうんです。
(つづきます) |