糸井 |
福森さんの材料の仕入れ方っていうか、
手に入れ方っていうのは
アンリさんに近いくらい、貪欲ですよ。
だから、あの建物でも、
もともとのご自分の家と、
古民家の古材といったものとか、組み合わせてる。
アンリさんが、古いビーズを探すのと同じですよね。 |
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アンリ |
そう、ぼくが伝えたいのは、
おなじ工場で働いてる子たちに、
素材の選び方であったりとか、
物づくりの仕方というのが、
とても大切だということなんです。
イタリアっていうのは職人さんが
多い国ですよね。
けれども、だんだんと、みんな、
職人さん離れしてるんですよね。
だから手づくりの品は減っているし、
職人さんが少なくなってきている。
そのことに対して、
ぼくは、ちょっと信じられない。 |
糸井 |
うん。 |
アンリ |
先進国っていうのは、
やはり大量生産っていうことになってきてる。
ぼくが教えたい、伝えたい、
それが文化だということと、
いっぽうで大量生産がよしとされている、
その平行線が、ジレンマなんです。 |
糸井 |
よくわかります。
ぼくら、作品大賞っていうのを開催したんですが、
例えば、ピカソが描いた絵っていうのは、
アートとして一点だけ、なんですけど、
誰の手に入るものではない。
いっぽうで、大量生産の物がある。
その間に、いっぱいいろんなものがあるのに、
それが、忘れられてる。
誰の手にも入らないアートと、
大量生産品の間にある物を、
ぼくらは「作品」と呼んでいるんです。
ですからアンリさんが作る物も、
福森さんが作る物も、
「作品」じゃないかと思うんですね。
だからぼくたちで
新しい作り手を、探そうとしているんです。 |
アンリ |
進化するってことはね、
生きていくうえで、
絶対重要なことなんだとは思うんです。
ぼくは、進化するってことに反対は絶対しない。
それは通らなきゃいけない道、
なんだけれども、進化する上で、
やはり、いろんな決まりごとがあると思うんです。
そしてその決まりって、人それぞれちがうと思う。
その決まりをリスペクトしないと、
ほんとの進化とは言えないんじゃないだろうか。 |
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糸井 |
ああー! |
アンリ |
自然を敬うこととか。
そういうリスペクトがない進化っていうのは、
あり得ない、本物じゃない。 |
糸井 |
うん。
進化って、前の物を否定しながら
進んでいくんだけど、
全部否定したところには
土台がなくなっちゃうんです。
何が一番大事なのかを
探すことが大事なんでしょうね。 |
アンリ |
Esatto!(そのとおり!)
今日の会話は残念ながら、
イタリア人とはできないですよ。
理解してもらえないと思いますので。 |
糸井 |
そうですか‥‥。 |
アンリ |
シモーネはちょっと特別だから。 |
一同 |
(笑) |
シモーネ |
一般のイタリア人というよりも、
特に、まぁ、イタリアの若者ですよね。
たぶん、お年寄りの方は理解すると思います。
日本人は、昔からの文化を大事にしているので、
そういう話ができるんですよね。 |
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糸井 |
このあいだ、シモーネさんが
イタリア人の若い人はご飯作らないって。 |
ふみこ
さん |
作らないですよ。 |
糸井 |
買ってくるの? |
ふみこ
さん |
買ってきますね。
イメージとしては、
イタリア人ってけっこう
料理を作ると思いますよね。 |
糸井 |
思う、思う。 |
ふみこ
さん |
スーパーマーケットに行くと
よくわかるんですけど、
冷凍食品の長ーい列があるんです。
パスタも冷凍食品のね。
サルティンボッカとかも。
とくに若い人たちが、それを買っています。
イタリア料理って、
時間をかけなくても、
シンプルに、おいしくできるんですけど、
それでも、みんな買っちゃうんですよね。
レンジで3分とかのものを。 |
糸井 |
日本もそうだと思ったけど、
イタリア、もっとすごいみたいね。 |
ふみこ
さん |
ほんとに。
(この一連のやりとりを
アンリさんに通訳中) |
アンリ |
‥‥‥‥。フーム。 |
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糸井 |
この沈黙はなんだ(笑)。 |
ふみこ
さん |
納得してるんですよ。 |
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アンリ |
忘れましょう。 |
糸井 |
ほんとにねぇ。
そうとう深刻ですね。 |
アンリ |
悲しいことですよね。
すごく衝撃的なことかもしれないんですけど、
いま、ぼくはヴィジェヴァノに
工場を持ってますよね。
で、教えたいと思いますよね。
だけど、一人として、たぶん若い子たちは、
教わりたいとは思っていないでしょう。 |
糸井 |
えっ? |
アンリ |
絶対、いない。
どんどんどんどん‥‥。 |
糸井 |
こうなったら、日本人を送り込もうか。 |
シモーネ |
(笑) |
アンリ |
もしぼくが、ね、日本に来よう、
日本で教えたい、日本で受け継ぎたい、
と思ったら、たぶん、みんな‥‥。 |
糸井 |
学びたいひと、いるでしょうね。 |
アンリ |
若い子たちも、
習いたいと思う人が
いっぱいいるんじゃないかと。
そこのちがいがあるっていうふうに、
ぼくはいっつも思う。 |
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糸井 |
古くていい物って、
自然にそこに育って学べる人と、
一回文明を知ってから、
知性で選び取る人と、
2種類になると思うんですよ。
いま、両方の人が混ざってる時期で、
どっちにしても、
自然にそれを学べる環境の人は、
もう、いない。
だから、知的に他のことよりも
大事なこととして、
学び取らなきゃいけない時期に
なったんだと思いますね。 |
アンリ |
日本では、ってことですよね。 |
糸井 |
うん、そうですね。
イタリアのことをぼくは知らなすぎますけど。
でも、ずいぶんちがうみたいだ。 |
ふみこさん |
そうですね。
あまりいないですね。 |
糸井 |
すごいねぇ。
あんな田舎でねぇ。 |
アンリ |
ま、それはイタリアの
社会問題ってことですよね。
社会がそういうメッセージを流さない、
っていうことです。
人間っていうのは、
やっぱり社会の中で生きていくので、
家族から、学校から、そういうようなものから
大事なメッセージが与えられず、
別のメッセージが来るので、
やはり、そういう子どもたちが、
どんどん増えているんだと思います。
こっち方面じゃなくて、別の方面に行くんですね。 |
糸井 |
たぶん、ぼくらだとか、アンリさんだとかが、
無意識に発信してるメッセージっていうのは、
そうじゃない道を、少しずつこう、
なんていうんだろう。
こういうところにも道があるよ、
ということなんだと思うんです。
ぼくらがつくっているのは
そういう場所だと思いますけどね。 |
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アンリ |
まさにそうです。
みなさんは気がついてないかもしれないけれども、
日本の文化っていうのが、血の中にある。
ぼくには、お米の一粒が、
そのシンボルに思えます。 |
糸井 |
ああー! |
アンリ |
お米っていうものが、
日本人の頭の中にある。
それが何かは、ぼくにはわからないんだけど。
たぶん‥‥。 |
糸井 |
うん、伝わっています。 |
アンリ |
お米っていうものが、
日本の繊細な文化のなかに
あるものなんじゃないのかな。 |
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糸井 |
よく分かります。
日本の職人の話にもどるんですが、
福森さんの鍋にしても
アンリさんの作品にしても、
他のものに比べたら扱いがむずかしいし、
なおかつ値段も高い。
だけど、わかって、そこに行きたい人が
まだいっぱい探せばいるっていうのが、
やっぱり、すばらしいことだと思うんですよ。 |
アンリ |
それは、すっごく、とても、
豊かなことですよ。 |
糸井 |
そうですね。
それじゃ、豊かなご飯を食べに行きましょう。 |
アンリ |
えっ、お話、もう終わりですか? |
糸井 |
続きは、ごはんを食べながら!
あちらの、母屋に移動しましょう。
福森さんが、お待ちですよ。
(つづきます) |