「はだか」の作品。 アンリ・ベグランさん、福森雅武さんと、 伊賀の「土楽」で。
 
その5 星を眺めて     ぼーっとしてるやつがおったとしても。
ふみこ
さん
アンリが、福森さんの包丁を研いでる姿に
感動してました。
もう包丁と一体化してた、って。
福森 あー、そう。
三浦 福森さんのここの場所がいいよっていうのは
いろんな人から、聞いてたんですよ。
福森 だけど、商売とちゃうからね。
三浦 ですからここだけは自分にとって
特別な場所としておいてあって、
糸井さんから誘っていただくまで
行かんとこうと思って。
福森 はははは。
三浦 今回は、ぼくがずっと前からつきあってる
アンリと一緒やって言うから、
ぜひにと参加させていただきました。
もうぼくにとってはね、
自分の中でほんとに尊敬するふたりなんですよ。
そのふたりが、組んで物を作ってるんやから、
もう、ほんとうれしくて。
福森 はははは。
糸井 この集まり方はちょっとなかったですね。
思いついてよかったですね。
三浦 いやー、うれしかった。
これはうれしい。
ふみこ
さん
アンリもほんとに陶器が好きで、
一度は作ってみたい、
いじってみたいって常々言っています。
今回こういう機会を与えてくださって、
もう、ほんとにすごい興奮しています。
糸井 福森さんがいなければ
こういうことはできないです。
焼物でも、いまじゃどこでも
工場みたいなもんでしょ。
ここは、生活の中にあるんですよね。
ふみこ
さん
さっき、工房を見学させていただいて、
アンリが、土楽のみなさんを
このままうちに
持って返りたいぐらいって。
糸井 このまま(笑)?!
三浦 そんなにイタリアの「ものづくり」の事情が
深刻って知らなかったです。
ふみこ
さん
深刻ですよ。
三浦 ちょっと夢の国のイメージがあったけど。
ふみこ
さん
かなり深刻ですね。
手づくり離れ、みたいな。
糸井 市場がないから、
食っていくのが心配なんですよね。
ふみこ
さん
そう。
だから、大量生産の方にいっちゃう。
糸井 どんどん売れて人気があれば、
手づくりのもの、やりたいですよね。
三浦 アンリさんの工房で働いてる人は?
ふみこ
さん
悲しいかな、どうしても、やっぱり。
なんていうんだろう。
価値観がちょっと‥‥。
そのことで、アンリがけっこう苦しんでいます。
おなじレールを走ってもらいたいっていうのが
あるじゃないですか。
でも、やっぱりね。
個人の生活が、もちろんありますから。
糸井さんは、
福森さんの作陶のようすを
見られたことは?
糸井 ないんです。
記録映像で見てるだけ。
福森さんはいつも料理人(笑)。
福森 わたしはひと月に1回だけ、
教室持ってるんですよ。
糸井 そんなことしてらっしゃるんですか!
福森 名古屋に持ってるんですけど、
ある時は寿司屋を呼んで、
自分で作った物にこう、乗せてもらう。
そしたらみんな喜んでねぇ。
そういう教室なんだ。
ふみこ
さん
いいですねぇ。
糸井 いいに決まってますよ。
何名ぐらいですか。
福森 24、5名おりますかねぇ。
三浦 いいなぁ。
糸井 そこでろくろを回すんですか。
福森 ろくろ回したりね、手でしたりね、
わたしはね、できない人は無理するな、
膝でやれといいます。
粘土をこうしてね、
膝でこうしたらね(押し当てて形にする)、
お皿になるんですよ。
これが縄文とか、もともとの基本だから、
立派な物を作る必要ない。
それの方がいい。
あなたがいっぱい手をかけすぎると、
あなたの業が全部出てますって言って(笑)。
だから、作るの、ほんとに楽しんでもらったら
いいと思ってますから。
いわゆる陶器屋さんの作ったもんはね、
そんなおもしろいもんないですから。
三浦さんは、中村さんのところ(*)、
何年ぐらいおられたの。

*京都の数寄屋大工棟梁の中村外二さんのこと。
三浦 ぼくは、先代の親方の
最後の3年半です。
ほんとに、ごくわずかなんですけど、
すごく意味がありました。
福森 先代、いい顔されてたもんねぇ。
三浦 はい。最後の数ヶ月は
ずっと病院におられたから、
月に一回ぐらいかろうじて工場を
回られるぐらいだったんですよ。
しかし、おられることで
もう緊張感がちがうんですよね。
糸井 そういうのってあるんでしょうねぇ。
福森さん、自分のこと考えませんか。
自分がいなくなったときのこと。
福森 ええ?
潰れるでしょう。
わっはっは。
ふみこ
さん
そんな簡単におっしゃらないでください。
糸井 いろんな思い、ありますよね。
アンリさんだってそうですよね。
アンリがいなくなったときに、
あの工場が、どうなるのか。
ふみこ
さん
そうですねぇ。
福森 だけどねぇ、
なにか一所懸命やる人が出てきてくれたら、
いいなというだけの話でね。
糸井 歴史って、混血して、続きますよね。
そばにいる人以上に、
他の人が、ちがう何かを作りますよね。
そうなる期待はありますよね。
福森 やっぱり文化に厚みが増していくからね。
糸井 もしかしたら、土楽が
革の工房になってるかも。
一同 (笑)
福森 いや、なんでもいいんですよ。
糸井 わかります、わかります。
福森 なんでもええやん、もう。
星を眺めてぼーっとしてるやつがおったとかね。
なんでもいいからね。
糸井 それも土楽ですよね。
福森 うん。

(つづきます)
2010-09-07-TUE
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN