糸井 |
でも、今までの鉄道模型のお話って、
今日、ぼくが原さんと話したかったテーマに
けっこう重なるところがあるんです。 |
原 |
そうですか。 |
糸井 |
原さんの鉄道模型って、
オーストリアに1人、スイスに1人、
イタリアに1人‥‥という単位の職人さんが
作っているわけですよね。 |
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原 |
ええ。 |
糸井 |
ぼくは今、そのあたりのことに、
すごく興味がある。
つまり、
「少ない人数でやる」ということと、
「小さい規模でつくる」ということ。 |
原 |
ほう‥‥。 |
糸井 |
たったひとつの価値を作り出したとしたら、
それは「芸術」ですよね。
同じものを100個作ったら「作品」くらいになる。
1000個作ったら、まあ「大事なもの」くらい?
でも、テクノロジーが発達して
モノを大量生産できるようになっていったら、
みんな、そっちへ向かっていった。 |
原 |
おもしろくも何ともないよね。 |
糸井 |
そう、そうなんです。おもしろくない。
ですから‥‥とつぜん本筋に切り込みますけど、
原さん、焼き海苔はお好きですか? |
原 |
焼き海苔? ええ、まぁ(笑)。 |
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糸井 |
最近、「ほぼ日」で「30枚で4500円」の
「海大臣」という海苔を、販売したんです。 |
原 |
ええ。 |
糸井 |
ご存知かどうか、わかりませんけれども、
そういう種類の海苔って、
買う人がいないと、作ることができない。
逆に言うと、高級海苔の代金を出してくれる
「具体的なだれか」がいるから
海苔屋さんも作れる、という需給の関係です。 |
原 |
なるほど。 |
糸井 |
しかも、自然相手の商売ですから、
毎年毎年、同じクオリティのものが、
同じ量だけ作れる保証はない。
ようするに、
「できるかどうか、わかんないですけど、
できるだけ、がんばります」
「じゃ、待ってるよ」という仕事なんですよ。 |
原 |
うん、うん。 |
糸井 |
この関係を「商売」として成り立たせることって、
今まで、
きちんと考えられてこなかったと思うんです。
少なくとも、ぼくは考えてこなかったし、
世のなかでも
「高いにしても、数じたいが少ないし、
あんまり儲からないだろう」って理由で
おしまいになっていた。 |
原 |
そうですね。 |
糸井 |
だから、そのあたりのところを
どう考えたらいいのか、
原さんのご意見を伺ってみたかったんです。
だって、鉄道模型の技術者が
「オーストリアに1人、スイスに1人、
イタリアに1人」‥‥って原さんが言うとき、
その3人の職人さんは
「食べていける」ってことじゃないですか。 |
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原 |
そういう仕事を
ビジネスの文脈で「どう考えるか」は
たしかに興味深いですよね。
でも、それに対しての答えには
やっぱり、文化の問題が関わってくると思う。 |
糸井 |
こう言ったら、何なんですけれど、
たぶんそのへんが、
原さんの「おもしろい」ところなんですよね。
つまり、ベンチャーキャピタリストという
現代を象徴するような職業なのに、
ビジネス的な用語の前に、
好奇心というか、興味というか‥‥
文化的なことばが出てくるんですよね、常に。 |
原 |
わたしの父は、
鉄道模型に時間もお金もエネルギーも、
すべて、注いできたんです。 |
糸井 |
ええ、しかもどれも、膨大な(笑)。 |
原 |
鉄道模型って、興味のない人からすると
財産的に無価値な「オモチャ」ですから、
「同じ投資をするなら、こんな機関車の代わりに
絵でも集めてたらよかったのに」なんて、
よくね、言われるんですよ。 |
糸井 |
儲かったのに‥‥ってことですよね。 |
原 |
でもね、やっぱり、そういうことじゃない。
鉄道模型に対する父の姿からは
「好きなことを徹底的にやること」の大切さを
学ぶことができたと思ってるんです。
そういう経験からすると、
ここをショートカットすれば最短距離だとか、
こうしたら、簡単に儲かるなんて考えかたで
仕事をやっても‥‥
あんまり、いいことはないだろうなって思う。 |
糸井 |
そう思いますか。 |
原 |
だから、ベンチャーキャピタリストとして
「会社をつくる」という仕事も、
「お金儲けの手段」として取り組んだことは
いちどもないんですよ、ほんとに。 |
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糸井 |
ほう。 |
原 |
きれいごとを言っているわけではなくて、
それよりも、
わたしが「あったらいいな」と思う技術を
実現させたい。
そして、そういう情熱で取り組んだほうが、
結果として、
ビジネス的にも、うまくいくんですよね。 |
糸井 |
情熱を動機にしてるんですね。 |
原 |
そう、それが大切だなって、思ってます。
‥‥むかしはね、旧国鉄であれ、私鉄であれ、
鉄道会社の社屋には、
鉄道模型を展示するスペースがあったんですよ。 |
糸井 |
ええ。 |
原 |
ところが、だんだん顧みられなくなって、
今じゃあ、ほとんど「倉庫の肥やし」。 |
糸井 |
うん。 |
原 |
鉄道模型のような文化的なもの、
言いかえれば
儲からないもの、お金を生み出さないものは
見向きもされなくなってゆく。 |
糸井 |
うちの海苔の構造とも通じますね。 |
原 |
鉄道模型に関して言うなら、
わたしは、お金にならない「文化」を残したい。
ものすごく、時間もお金もかかるんだけれども
財産的に無価値かもしれないもの。
それが「鉄道模型」という文化ですけれど、
でもね、そんなところにこそ、
文化の「本物」があると思っているんです。 |
糸井 |
うん、うん。 |
原 |
糸井さんの海苔にも通じるかもしれませんね。 |
糸井 |
なるほど‥‥。
海苔が「おいしい」というのも、
ひとつの「文化」ですからね。 |
原 |
そうですよね。 |
糸井 |
だから、ぜんぶで650個のリベットを
1個1個打つんだって話も、
なんだか、うらやましく聞いてました。
だって、本物の文化の話じゃないですか。 |
原 |
うん。 |
糸井 |
そう思うと、ぼくにとっての海苔というのは、
原さんにとっての「鉄道模型」というか、
「身体が要求している何か」なんでしょうね。 |
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<続きます!>
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