とんでもない、原丈人さん。 次の時代のヒントは、この人のなかに?  第2部 「コンピュータ以上に便利な道具」と 「新しい株式市場」をつくるという話

第4回 XVDもスピルリナもPUCもみんな「持たざる者の武器」だ

糸井 何語でしゃべってもオッケー、
あらゆる言語を訳せる機械があったら‥‥いいなぁ。
でしょう?

もちろん、翻訳というのは、
PUCの機能のなかのひとつですけどね。
糸井 コミュニケーションのための道具、というのは、
メールとか、テレビ電話とか?
そういったものをイメージしてもらえれば、
遠くないでしょうね。

でも、PUCの大きな特徴は、
今のコンピュータとは比べものにならないくらい
操作性にすぐれているということ。

ようするに、われわれって
コンピュータに、自分を合わせてるじゃないですか。
糸井 ああ‥‥起動ボタンを押してから
あんなにも、じぃーっとおとなしく待ってる道具って、
他にないもんね、よく考えてみると。
それに、突然「フリーズ」したりとか
文章を書いてたらソフトが「落ちちゃった」りとか、
そんな家電、他にないでしょ?

ふだん、われわれは、
使ってる途中に不具合を起こすような製品を
不良品と呼んでいるんです。
糸井 そういわれてみれば。
だから、今のコンピュータは
とうてい「使いやすい」とはいえません。

でも、わたしの考える「PUC」は、ちがう。

今のコンピュータみたいに
設定や操作、メンテナンスが面倒じゃなくて、
電話やテレビみたいに
直感的に、かんたんに扱うことのできる、
コミュニケーションの道具。

使ってることを意識しないくらいな、ね。
糸井 へぇ‥‥。
まだ、どんなかたちになるのかもわからないし、
試行錯誤の段階なんですけれど、
近いうちに、完全なものにしたいと思ってます。
糸井 超えるべきハードルが、まだあるんですね。
われわれ人間と同じような自由度を備えて
ものごとに対処できるよう、
データを再定義する必要があるでしょうね。

それって、「かたち」や「色」を認識できる
「オブジェクト指向データベース」のさらに先の世界。
糸井 じゃあ、また、そういう勉強をしてる人を
探し出してきて‥‥?
うん、資金を出して
いま、研究を進めてもらっているんです。

1995年から5年くらいかけて
世界中をまわって‥‥
とうとう、1999年の12月に見つけたんですけどね。
糸井 どこにいたんですか。
イスラエル。
糸井 こんどはそんなところに。‥‥はぁ(笑)。
なんだか発掘してるみたいだね。
糸井 まさしく(笑)。
で、シリコンバレーに移り住んでもらって、
7年間、研究開発をやってもらったんですけど、
できそうなんです、もうちょっとで。
糸井 もうちょっと?
基礎的な第1段階は、ほぼできあがってる。
糸井 じゃ、ほんとにできるんだ?
できる‥‥できると思う。
糸井 すごいなぁ!
もちろん、できない可能性だってあります。

ありますけれど、
わたしは、わたしのためにやってるから。
糸井 その動機は、強いですよね。
たとえば、わたしが70歳くらいになって、
英語なんか忘れちゃったとしても、
日本語さえ、ふつうにしゃべれれば‥‥。

その、ちっちゃなわたしの道具が、
わたしの話す日本語を、
英語にも、フランス語にも、ドイツ語にも、
イヌイット語にも、
リアルタイムでキレイに訳してくれるんだ。
糸井 ほんと、うれしそうに話しますね。
これを、世界中のみんなが持ったら?

国際会議の場でも、
「どんな言葉でしゃべってもけっこう、
 この道具さえ持ってれば、
 何語から何語へでも翻訳できます」と、
そういうことが、実現できるんですよ。
糸井 うん。
外国語を翻訳することの難しさからくる
いろんな誤解や、
コミュニケーションの難しさからくる
もどかしさを、
取り除くための技術を実現したいんです。
糸井 暮らしのなかのやりとりとはちがうから、
こころにフィットするかどうか、
さっきの言葉でいうと
「届く」かどうかはわからないけど、
限りなく近いところまでは、いくでしょうね。
いくと思います。
少なくとも「わかる」ところまでは。

とくに、論理的にやりあう議論なら、
かなり微妙なニュアンスまで伝えられるはず。
糸井 ‥‥今まで、原さんの話をうかがってきて
おもしろいなと思うのは、
だいたい「弱い立場の武器」になる仕事を
やってらっしゃるじゃないですか。
ああ、そうですかね。
糸井 その「すごい翻訳機」だって、
おもに「非英語圏」の人が国際的な場に
参加するための道具でしょう。
今は、参加したくてもできないからね。
英語がしゃべれなければ。
糸井 前回、お話を聞かせてくださった
最先端の映像技術の「XVD」も、
バングラデシュの「遠隔医療・遠隔教育」に
役立てるわけですよね。
うん。
糸井 原さんが関係しているNGO「BRAC」の
マイクロクレジットなんか、もう典型ですし、
アフリカの「スピルリナ」だって、そう。

ぜんぶ「持たざる者の武器」じゃないですか。
ああ、なるほど、「持たざる者」のね‥‥。

その視点は、わたしがずっと考えてきた問題に
つながってるかもしれないな。
糸井 というと?
つまり「会社は誰のものか」って問題。
糸井 ああ‥‥以前、
岩井克人さんの著書(『会社はだれのものか』)でも
そのことについて、対談されてましたよね。
もっと言うと
決して「会社は株主のものじゃない」ってこと。
糸井 うん。
ごぞんじのように、
今、主流なのはアメリカ型の考えかたです。
糸井 ようするに、株主資本主義ですね。
「会社は株主のものだ」と言ってしまうのは、
経済学の理論としても、いちばんわかりやすいし、
それゆえに「声が大きい」んです。
糸井 でも、原さんは、そうは思わないわけですね。
会社というものは、
人材や、テクノロジーなどの資産を用いて
思いっきり稼ぎ、
その儲けを使って従業員、社員に報いたうえで、
何らかのかたちで
社会に貢献するのが、使命だと思うんです。
糸井 それを「誰のものか」ということで言うと?
そこではたらく従業員のものでもあり、
お客さんのものでもあり、
取引先や仕入先のものでもあり、
それが属する地域社会のものでもある。
糸井 なるほど、多層なんですね。
そして、それらとまったく同列に、
という意味でなら、
長期的に株式を持ち続けてくれる
株主のもので「も」あると、言えるでしょう。

<続きます!>

2008-09-11-THU

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(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN