糸井 |
改めての感想なんですけど、原さんにとって
「考古学」と「スタンフォード」って
すっごく、大きな影響を与えていますよね。 |
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原 |
そうですね。
今のわたしの仕事や考えかたのベースとなるくらい、
深く関わっていますよね。 |
糸井 |
ああ‥‥あと、忘れちゃいけない。
「原信太郎さん」と
「鉄道模型」というのもあった(笑)。 |
原 |
ええ、まぁ(笑)、そういう意味でしたら、
「語学」というのも、
昔から、ひとつのテーマではありましたね。 |
糸井 |
えーと、もしかして、原さんは
「英語くらいしゃべれなきゃダメだろ」って
思ってらっしゃる派‥‥ですか? |
原 |
いや、これがまた、ヘタくそでね。 |
糸井 |
え、意外。 |
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原 |
むしろ、世界中のみーんなが、
日本語でしゃべればいいのにと思ってる。 |
糸井 |
えっと、ふだん、ほとんど海外にいて、
「英語ばかり」でしょうに‥‥。 |
原 |
はい。 |
糸井 |
英語しゃべれなきゃダメだぞって
言わないんですね!? |
原 |
言いません。
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糸井 |
ああ、よかったー‥‥(笑)。 |
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原 |
以前、世界銀行の総裁をやったような人と、
英語で議論したことがあって。
そのとき彼は、わたしの主張に対して
二重否定、三重否定のような
英語のテクニックを使って、反論してきたんです。 |
糸井 |
そりゃ、ずるい。 |
原 |
だから、そのときに、言ったんです。
あなたは母国語だからいいけれど、
わたしは、
あなたのために外国語で話してるんだ、と。 |
糸井 |
うん。 |
原 |
あなたは、母国語でやってるじゃないか。
わたしは、思うにまかせない外国語で、
しかも、あなたの国の問題について議論している。
それだけでもタイヘンなのに、
これ以上、話を複雑にしないでくれと。
もし、もっと複雑な話をしたいんだったら
日本語じゃなきゃイヤだと言って、
その場から、帰ってきちゃったんですよね。 |
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糸井 |
ああ、やりそうですねぇ(笑)。 |
原 |
そしたら彼、ビックリしちゃったみたいで。
英語以外の言語で議論してくれだなんて、
言われたことなかったんですよ、きっと。 |
糸井 |
しかもそういうときの原さんって、
ほんと真剣に言うんでしょうね。
あの‥‥まるで怒ってるみたいに(笑)。 |
原 |
「世界共通語としての英語」を使うのはいいけど、
「母国語としての英語」を使うのはフェアじゃない。 |
糸井 |
ああ‥‥ルールがちがいますもんね。 |
原 |
でも、ビックリしつつも、わたしの言うことを
「なるほど」と、わかってくれたみたいで。
‥‥まあ、そのへんは一流でしたけどね。 |
糸井 |
つくづく、おもしろいなぁ。 |
原 |
フランスにアルザス・ローレンヌ地方ってあるでしょ。
行ったことあります? |
糸井 |
‥‥はぁ、ないですけど。 |
原 |
そこに住んでいる人たちというのは、
普仏戦争、第一次・第二次世界大戦のたびに、
自分の住んでいるところが
ドイツ領になったり、フランス領になったりしたんです。 |
糸井 |
ええと‥‥はい。 |
原 |
そのたびに、学校の授業をはじめ、教育言語が
ドイツ語になったり
フランス語になったりするもんですから、
「両方が母国語」みたいな人がいるんですって。 |
糸井 |
へぇー、そうなんですか。 |
原 |
‥‥というふうに、聞いていたんですけど、
実際に行って確かめてみたら
そういう人たちでも、
やっぱり母国語は、どっちかみたいなんですよね。 |
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糸井 |
なんでだかわかりませんけど、
ちょっとホッとする話ですね。 |
原 |
ノーベル賞を穫ったドイツ人の医者で、
アルベルト・シュバイツァーって人がいましたが、
彼もアルザス地方の生まれで、
ドイツ語とフランス語で本を書いてる。 |
糸井 |
ほう。 |
原 |
わたし、子供のころ彼に憧れて、
著書はほとんどぜんぶ読みましたが、
そのなかに、フランス語でものを書くときと、
ドイツ語でものを書くときとでは、
発想や思考法がちがうんだって話が
出ていたように思います。
自分の母国語は、やっぱりドイツ語。
ドイツ語で書いたものを、フランス語に訳したら
自分の文章とはちがってくるって。 |
糸井 |
それ‥‥感覚的には、わかる気がします。 |
原 |
だから、ようするに何が言いたいかというと、
やっぱり「言葉」というのは、
話す人たちの文化を伝えるんだと思うんです。 |
糸井 |
うん、本当にこころから発した気持ちって、
外国の単語と文法に乗っけても
なんだか「届く」ような気がしませんもの。 |
原 |
そう、そうなんです。 |
糸井 |
日本人にとっての
うたごころ、みたいなものというか‥‥。 |
原 |
うん、そう、まさにそう。
まさにそう‥‥なんだけれども、
わたしは、
その「届かない言葉」というものを
届かないまでも、最低限「わかる」ようにしたい。 |
糸井 |
え? |
原 |
たとえば、日本語で「赤い」という概念を
英語に訳すのは、簡単ですよね。 |
糸井 |
あ、それならぼくにもわかる。
答えは「レッド」です! ‥‥って(笑)。 |
原 |
それじゃ「つぼみ」という言葉を
ドイツ語に訳したら? |
糸井 |
‥‥。 |
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原 |
クノスペンと言うんですけれど、
この他にも、いくつかあるらしいんですよ。
同じように、イヌイットのあいだでは
「雪」を指す単語が100以上もあるそうです。
日本人にとっては、
さらさら雪も、べたつく雪も、大粒の雪も
みな「雪」でくくれるでしょうが、
イヌイットにとっては、ぜんぶ異なります。
でも、今のコンピュータの能力では、
イヌイットの「雪」を
フレキシブルに訳し分けることなんて、まずムリ。 |
糸井 |
ムリそうですね。 |
原 |
でもわたしは、そういう技術を実現したいんです。
そして、何語でしゃべっても大丈夫で、
何語にも変換してくれるような道具をつくりたい。 |
糸井 |
そんなの、できるんですか? |
原 |
できる。
パーベイシブ・ユビキタス・コミュニケーションズという
テクノロジーを使えば、できると思う。 |
糸井 |
えっと、すいません、今のもう1回。 |
原 |
パーベイシブ・ユビキタス・コミュニケーションズ。
略して「PUC」。
使っていることを感じさせず(パーベイシブ)、
あらゆる場所に遍在し(ユビキタス)、
利用できるコミュニケーション機能のことです。 |
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糸井 |
‥‥はぁ。 |
原 |
わたしが独自に考えだしたコンセプトなんですけど、
これが「コンピュータの次の時代」を担うと思ってる。
<続きます!>
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