糸井 | ただ勝つだけじゃなくて、 品格とか、品質を感じさせる原さんの野球。 それは、いち社会人として、 「ああ、これは学びたいな」と 思わせるものだったんですけど、 その前提になっているのは、やっぱり、 藤田(元司)さんの野球なんじゃないかな、 と思うんです。 |
原 | ああ、はい。 |
糸井 | もう何度も言ってることですが、 藤田さんはプロ野球のチームの監督でありながら 「勝つより大事なことがある」って おっしゃったんですよね。 「勝つ」っていうのは、もう、 スポーツをやるときの大前提です。 でも、藤田さんは当たり前のように、 それよりも大事なことがあるんだ、って。 その姿勢は、日本シリーズの大事な場面で、 強く抗議をして、さっと引き下がって、 その後、なにも言わなかった原さんと、 やっぱり通じるものがあると思うんです。 |
原 | そうですね。 それで、いま思い出したのはですね、 ナゴヤ球場で藤田監督が抗議したときのことです。 そのときは、一度、「ホームラン」と ジャッジされたのに判定が覆って ファウルになったんですよ。 |
糸井 | ほー。 |
原 | 糸井さんもおわかりかと思いますけど、 一度「ホームラン」とジャッジされた判定が 覆るというのは、本来、考えられないんですよ。 |
糸井 | そうですね。 |
原 | そのとき、線審を務めていたのは、 審判員として大ベテランの 福井さんという方でした。 (1991年6月29日、ナゴヤ球場、中日巨人戦。 |
糸井 | 藤田監督は、どうされたんですか。 |
原 | まず抗議しました。 なにしろ、はっきりと一度「ホームラン」と ジャッジされているのに、 抗議で「ファウル」に覆ったんですから。 |
糸井 | なるほど。 |
原 | それこそ最初は、試合を放棄するくらいの勢いで 食い下がってました。 しかし、福井さんが明らかに誤審だったと 自分の間違いを認めたときに、 藤田監督は潔く「わかった」と。 |
糸井 | ああーー。 |
原 | それがほんとにホームランじゃなかった、 ということに対して、すごく納得されていた。 納得というか‥‥納得はしてないんですよ、 試合のなかで一度判定されたわけですから。 |
糸井 | でも、矛を収めたわけですね。 |
原 | そう、収めたんです。 その意味でいうと、ぼくが抗議したケースとは、 事実の方向性が逆なんですけどね。 実際に正しいジャッジに覆ったんですから。 |
糸井 | そうですね(笑)。 |
原 | しかし、やっぱり、その、 「チームを動かした」というのかな、 抗議したときも、その収め方についても、 選手全員が納得できたんです。 そういった意味においては、 ほんとうに見事でしたね。 監督というのは、こういうすごさを 持ってなきゃいけないんだなと思いました。 |
糸井 | 原さんは、それを選手として 見てらっしゃったわけですね。 |
原 | ええ。 |
糸井 | その試合だけでなく、 抗議とか、乱闘とか、さまざまな場面を 何度も経験されたと思います。 で、そういうときに どういう態度をとるかというのは、 監督によってさまざまですよね。 |
原 | そうですね。ですから、もう、 いろんな監督のいろんな対応を 見るだけで勉強になるというか。 実際、ぼくが試合のなかで、 審判団の人たちと話をするときは、 あのナゴヤ球場での藤田監督の姿、 あのときの光景というのが、 自分の根底にあると思いますね。 |
糸井 | つまり、藤田さんをはじめとする 巨人の長い歴史が、原さんのなかに、 やっぱり伝わってるってことですね。 |
原 | ええ、それはもう、そうだと思います。 |
糸井 | ひょっとしたら、 藤田さんのなかには川上さんの姿が 伝わってるかも知れないし。 |
原 | ああ、そうですね。 |
糸井 | 同じように、去年の日本シリーズの あの試合を体験した巨人の選手たちは、 ベンチから飛び出して行って抗議した原さんと、 我慢して引き下がって、 ある種の品格を守った原さんを見ている。 それが自分のなかに残って、 いつか指導者になったときには 態度として表れるんでしょうね。 |
原 | そうですね。 まぁ、同じような状況であっても、 どういうふうに振る舞うかというのは、 その人の自由にしていいと思うんですが、 まぁ、どこかに記憶としては残るような、 そういう場面ではありましたね。 |
糸井 | そう思います。 たんに、ひとつのプレイ、 ひとつのジャッジに留まらないというか。 その意味でいえば、あのときの態度というのは、 楽天にもすばらしいプレゼントになってると思う。 あそこでごねて、あの判定に 必要以上の注目が集まってしまったら、 あんなことして勝った、みたいな話になりますから。 だから、楽天の優勝に対して、 敗れたものから贈る拍手と同じものが、 あそこで引き下がる原さんの態度に すでに入っていたとぼくは思うんです、 それをね、今日はぜひ伝えようと思っていて。 |
原 | いや、ありがたいですし、うれしいです。 そういう、なんていうか、内面の部分をね、 機会をいただいて、ぼくもこうやって 話すことができましたし。 |
糸井 | ああ、こういう機会でもないと ずっと黙ってることになりますものね。 |
原 | うん。ですから、巨人ファンのなかにも 「なんだあいつは」って思ってた人もいたでしょうし。 「あっけねぇ、さっぱりした野郎だな」っていう、 そういう見方する人もいておかしくないですし。 |
糸井 | ああ(笑)。 |
原 | でも、ほんとうの内面というのは、 やっぱり、見ているだけではわからない。 あの、日本シリーズの戦いのなかで、 どういう心理でいるかというのは。 |
糸井 | 一年間戦った集大成のような試合ですからね。 |
原 | そうです、そうです。 ですから、ああいうときは、なんていうか、 ギリギリの状態だからこそ、 その人の「性(しょう)」が出るというか。 |
糸井 | 「性」が出ますねぇ(笑)。 |
原 | 出ますね(笑)。 |
糸井 | そして、その、ギリギリの状況のなかで 表れる「性」というのは、 見ている選手にかならず響くと思うなぁ。 で、ぼくは、原さんのあの態度を見て、 このチームのファンでよかったと思いましたね。 そう思った人、いっぱいいるんじゃないかな。 |
原 | いやぁ‥‥そうですか。 |
糸井 | いや、でも、この話ができてよかったです。 |
原 | はい。 |
2014-04-01-TUE | ||