糸井 | でも、ひとくちに野球といっても、 ほんとうにいろんなものの積み重ねで できているんだなと思いますね。 |
原 | そうですね。 やっぱり、人間がやってることですから。 |
糸井 | 人間がやってることですからね。 たとえば第2戦のあの内野安打にしても、 藤田選手が一塁にヘッドスライディングしてる。 そこからはじまってますからね。 |
原 | ええ、そうですね。 |
糸井 | あの必死さがやっぱり、 審判の両手を開かせてしまった。 だから、メンタルというよりは、 なんというか、「魂の話」ですよね。 |
原 | あのワンプレーで、 これだけ長く話ができるというのも(笑)。 |
糸井 | そうですねぇ(笑)。 |
原 | やっぱり、いろんなことが積み重なってる。 |
糸井 | さらに言えば、去年の日本シリーズの あの独特の雰囲気は、やっぱり、 東日本大震災と無関係じゃないと思います。 |
原 | うん。 |
糸井 | 少なくともぼくはそう思って見てました。 東北の震災がなかったら、 あの雰囲気、あの流れにはならなかったと思う。 それは、いいとか悪いとかじゃなく。 |
原 | うーん、そうですね。 |
糸井 | そういう、特別な流れがありましたね。 だから、2013年に起こった、 ひとつの大きな流れの象徴として 1冊、本が書けるような、 そんな日本シリーズだった思います。 |
原 | そうですねぇ‥‥。 あの、ぼくは日本シリーズというものを 何度も戦っていて、 勝った負けたっていうのは、 そのたびにあるわけですけど、 今回、惜しくも敗れた日本シリーズに関しては、 不思議と、悔しさというものとはまた違う、 満足感というものがあるんですね。 |
糸井 | ああ、はい。 |
原 | 悔しさももちろんあるんですけど、 満足感というか、相手に対して 心より拍手が送れたんですね。 |
糸井 | わかります。 |
原 | これはですね、不思議でしたねぇ。 |
糸井 | うん。 |
原 | 表彰式のときも、心から拍手できました。 |
糸井 | 観ていたぼくもそうでしたよ。 それはおそらく、原さんだけじゃなく、 ファンも、選手の人たちも そうだったんじゃないでしょうか。 なんだろう、悔しいですけど、 悔しいということばを超えたなにか、 まさしく、藤田さんの 「勝つより大事なことがある」じゃないですけど。 |
原 | そうですねぇ。 まぁ、やっぱり、震災復興のシンボルということも そういった流れのなかには、あったと思います。 |
糸井 | あったと思いますね。 |
原 | そういうことも含めて、 いちばん根底のところにあるのは、 仙台の楽天ファンの方々です。 昨年の日本シリーズというのは、 仙台からはじまりました。 そのとき、球場を埋めたファンのみなさんが 非常にフェアだったんです。 |
糸井 | ああー。 |
原 | まぁ、数の面からいえば、 客席の8割が楽天ファンです。 ジャイアンツのファンは2割くらいだったでしょう。 しかし、我々を汚く野次ったり、 妙にくさしたりするようなことは、 まったくなかったです。 非常にフェアなファンだった。 そのことも手伝ってると思います。 そういった状況のなかで、まぁ、死力を尽くし、 3勝4敗で、シリーズは終わった。 日本シリーズ連覇はならなかったという、 この現実はありましたけれども、 しかし、なんとも、感動的な雰囲気を感じ、 ぼくは拍手を送りましたね。 |
糸井 | ぼくは、最後の第7戦を、気仙沼で、 市役所のみなさんといっしょに観てたんです。 |
原 | ほー。 |
糸井 | これは、なかなか微妙な観戦でしたよ。 当然、ぼくはジャイアンツファンという立場で、 みんなもそれは知ってますからね。 「糸井さんジャイアンツファンだから」って、 まぁ、お客さんであるぼくに対して、 多少は気をつかってるんだけど、 楽天に勝ってほしいに決まってるんですよね。 そういう状況でいっしょに観ることになって、 お互いに、ちょっと遠慮しながら、 お互いのチームを心から応援してるわけですよ。 |
原 | おー(笑)。 |
糸井 | でも、なんていうんだろう、 やさしいんですよ、やっぱり。 東北の人たちって、もともとは ジャイアンツファンだった人が多いんですよ。 |
原 | ああ、そうですね。 |
糸井 | でも、自分たちに希望を見せてくれるっていうのは、 やっぱり、楽天が勝つことなんで、 「弱かった俺たちが、勝った」という文脈においても、 心から応援しているんですよ。 その意味ではジャイアンツも 卑怯なことしてもらったら困るし、 手を抜いてもらっちゃ困るし、 なにより、強くなかったら困る。 で、そのうえで、勝ちたい。 |
原 | うん。 |
糸井 | ぼくらは、そういう楽天ファン、 東北の人たちの気持ちも知ってるけど、 でも、やっぱりジャイアンツに勝ってほしい。 そういう状況で観てましたからね、 なんて言うんだろう、 どこと戦うときよりも、仲よくケンカしてましたね。 |
原 | (笑) |
糸井 | それはきっと球場で観ている人も そうだったんじゃないでしょうかね。 |
原 | そうですね。 だから、いろんな見方があったんですよね。 感じ方っていうかね。 |
糸井 | そうですねぇ。 |
原 | だから、例年にない注目の度合いでしたよね。 |
糸井 | ほんとです。 |
原 | 3勝3敗になったときにはね、 ほんと、「いざ、決戦!」だった。 |
糸井 | そうでしたねぇ。 そういう意味では、はじめてジャイアンツが、 全国の敵役になったんですよ。 |
原 | ああーーー。 |
糸井 | たんにアンチが多いっていうことじゃなく、 生粋のジャイアンツファン以外は、 ぜんぶが楽天を応援する っていう流れになったんですよね。 |
原 | そういうことですねぇ。 それでしみじみ思ったことですが、 ぼく、不思議とですね、 「なぜ日本シリーズ負けたんだ!」って、 一回も野次られませんでした。 |
糸井 | あーー、そうですか(笑)。 つまり、ジャイアンツファンの人も‥‥。 |
原 | 悔しいというところを超えたんでしょう。 「なんで負けたんだ、ジャイアンツ」って、 もちろん思ってる人はいるでしょうけど、 いつもの日本シリーズなら、もっともっと。 |
糸井 | 言われますよね、言われます、言われます。 |
原 | 昨年の日本シリーズに関しては、 ひと言も、ひとりにも、言われたことないです。 |
糸井 | はぁー‥‥。 |
原 | これは不思議なことで。 いや、その悔しさというのは、 もちろんあったんですけどね、 負けたあと、なんか、 妙な心理状態になった記憶がありますね。 そして、誰にも文句は言われなかった。 まぁ、慰めのことばというか、 ぼくに対する感想で一番多かったのは、 「今年はそういう流れだから、しょうがないよね」。 |
糸井 | わかります(笑)。 |
原 | なんなんだろう、その流れというのは(笑)。 まあ、そういうような、 抽象的なことばだったんだけど、 「しょうがないよね」って 伝えてくれる人が多かったです。 |
糸井 | いろんなことが積み重なってますからね。 震災ももちろんそうだし、 思えば、球界の再編で、 仙台に球団ができたこともそうですよ。 そういうことがすべて影響している。 そして、その前の年に、ジャイアンツが、 5冠に輝くほど強かったっていうのも やっぱり影響してますよ。 前の年、やっとのことで初優勝した、 みたいなチームじゃ、敵役として不十分ですから。 |
原 | ははははは。 |
糸井 | だから、あの日本シリーズというのは、 これまでにも歴史に残るような すばらしいシリーズがありますけど、 ひとつ、刻まれるべき、 語り継がれるべきシリーズだったと思います。 |
2014-04-02-WED | ||