- 糸井
- 素人であること、不器用であることが
「イノベーション」には重要なんだという
お話の流れからすると、
出口さんのように
保険の業界を知り尽くした人が
新しい保険の会社を立ち上げるってときには、
それまでの知識なり経験なりを
いったん捨てないとダメだということですか?
- 出口
- ある意味では、そうかもしれませんね。
ぼく、日本生命を辞めるときに、
『生命保険入門』という「遺書」を書きまして、
それで「死んだ」気になっちゃったので、
それまで集めた文献や資料は、
ぜんぶ、会社の後輩にあげてしまったんです。
つまり、生命保険に関するものは
きれいさっぱり、自分の周囲からなくなって。
- 糸井
- つまり、リセットボタンを押したと。
- 出口
- ところが、ライフネット生命をつくるときに
困っちゃったんですよ。
たとえば「商品の約款」からして手元にない。
- 糸井
- あげちゃったから(笑)。
- 出口
- 仕方なく、近所の郵便局へ行って
「保険商品の約款をください」と。
- 糸井
- おもしろいです(笑)。
- 出口
- でも「入らないとあげない」と言われたので
保険業界の友人に電話をして
「ごめん、約款を送ってくれないか」とか、
そういうところから、はじめました。
もういちど、ゼロから積み上げたんです。
- 糸井
- つまり、文字どおり「捨てた」んですね。
心の話じゃなく、具体的に(笑)。
- 出口
- ぼく、本が大好きなんですけど‥‥。
- 糸井
- ええ、存じ上げています(笑)。
- 出口
- 狭い社宅に住んでいたとき、
階段の上のほうにまで積み重ねていた本が
落ちてきたんですよ。
どうして、自分の家のなかで
こんな危ない目に遭わなければならないのか。
よくよく考えたら、
「本が、いっぱいあるからだ」と。
- 糸井
- 「そうか!」と(笑)。
- 出口
- そのとき、ロンドン勤務の内辞が出たので
「いいタイミングだ」と思って、
持っていた本、ぜんぶ売っちゃったんです。
- 糸井
- ぼくも、ひと部屋にあった本をぜんぶ、
捨てたことがあります。
何だろう、あの爽快感みたいなものは。
- 出口
- でも、やっぱり人間ができてないんで‥‥。
- 糸井
- また「やっちゃう」んですよね。
- 出口
- そう、やっぱりあれだけは‥‥と思う本を
古本屋で買い直したりして。
そうしたら、2割ぐらい高くなっていて、
悲しかったりして‥‥。
- 糸井
- ちなみに、それでも売らなかった本って、
何かありましたか?
- 出口
- シェークスピアと『よりぬきサザエさん』と
『いじわるばあさん』ですかね。
- 糸井
- すごい! とくにうしろの2冊(笑)。
- 出口
- 『よりぬきサザエさん』と
『いじわるばあさん』は
おもしろいですから、大好きなんですよ。
- 一同
- (笑)
- 出口
- シェークスピアについては、
演劇が好きで、
ロンドンへ行ったら「ぜんぶ観よう」って
決めていたので。
演劇を観る前に読み返したほうが
わかりやすいと思ったんです、内容が。
- 糸井
- それ、何歳ぐらいのときですか?
- 出口
- 43歳か44歳くらい、ですかね。
- 糸井
- まさしく「40代」のときの話ですね。
ぼくが43歳のときって
さかんに「釣り」ばっかりやってる時期で
「人生の後半戦に入った」
というイメージが強くあったんです。
- 出口
- ええ。
- 糸井
- 出口さんがロンドンに赴任されたときって、
「人生を折りたたんだら
ここらへんで、真んなかくらいだなあ」
という意識はありましたか。
- 出口
- それは、あったと思います。
ただ、海外勤務ははじめてだったので
怠け者なりに
「ちょっとは、がんばらなアカンなあ」
という気持ちが強かったです。
- 糸井
- うれしいという気持ちですか?
- 出口
- そうですね、それはありましたね。
もちろん緊張感もありましたけど、
6割7割は
海外に暮らすというワクワクした気持ち。
- 糸井
- なるほど。
- 出口
- しかも、ロンドンでは
現地法人の「トップ」だったので‥‥。
- 糸井
- 「演劇見放題」じゃないですか(笑)。
- 一同
- (笑)
- 出口
- ええ(笑)、芝居もオペラも見放題なら
どんなに楽しいだろうって、
ワクワク感のほうが強かった気がします。
<つづきます>
2015-02-25-WED