- 糸井
- 以前、どこかのインタビューで
出口さん、
「仕事は人生の3割でいい」と言ってました。
- 出口
- ぼく、本当に怠け者で‥‥。
目標を決めないと「やる気」が出ないんです。
たとえば
ロンドンでどんな仕事をやっていたかと言えば、
調査やら何やら、
さまざまあるんですが、メインは「金貸し」で。
- 糸井
- ほう。
- 出口
- 100億単位でお金を貸すという仕事だったので
わかりやすい目標を立てて
「1年で、1000億円くらいは貸し出そう」と。
別にノルマがあったわけじゃないんですが。
- 糸井
- 予算はあったんですか?
- 出口
- 予算はありましたが、目標がない。
きちんと収益は出さないといけないんですが
危ないところに貸すわけにもいかない。
だから、金貸しの「目標」はなかったんです。
- 糸井
- なるほど。
- 出口
- 収益をたくさん上げることよりも、
1件も潰れないことが評価される世界でした。
でも、ぼく個人としては、
目標を立てたほうが、がんばれたんですよね。
もともとが「怠け者」なので。
- 糸井
- ええ。‥‥そのことを強調しますね(笑)。
- 出口
- いや、本当に「怠け者」なんです。
ロンドンへ赴任となって
心から「いいなあ!」と思ったことがあって、
それは、朝早く会社へ行くと、
日本の上司から
「報告が少ない」とか文句がくるんですが、
朝、遅めに出社すると
時間的に東京のみんなは帰宅しているので、
電話がかかってこない(笑)。
- 一同
- (笑)
- 出口
- そんなわけで、
「朝ごはんを食べながらのミーティング」は
積極的に入れてました。
- 糸井
- その「法則」に気付いたんですね(笑)。
- 出口
- 怠け者のサボりタイプなんで、
そういうことには、すぐ気が付くんです。
- 糸井
- では、サボる気満々の出口さんを
「ロンドンに行かせよう」と思った上司って
どういう考えだったんでしょうね。
しかも「トップとして」行ったわけですよね。
- 出口
- 自分のことは
自分が、いちばんわからないんですよね。
つまりぼくは、自分のことを
「真面目にちゃんと仕事をする社員だ」と
思っていたんです、一応。
- 糸井
- あ‥‥そうですか(笑)。
- 出口
- ところが、上司や周囲の人間に言わせると
「あいつは放し飼いしかない」と。
放し飼いにしておいたら、それなりに取ってくる。
変にマネージしても言うこと聞かへん、と。
- 糸井
- マネジメント「外」?(笑)
- 出口
- 何か、そう言われていたらしいんですよ。
あとから聞くと。
- 糸井
- 自覚はなかったんですね(笑)。
- 出口
- ええ、一所懸命やってるつもりでしたから。
だから、金融制度改革で保険業法改正が
一段落したときに、
「どこか、行きたいところはあるか」と
上司に聞かれて、
「外国へ行ってみたい」と言ったんです。
- 糸井
- じゃあ、自己申告でもあったんですか。
- 出口
- 東京でも「放し飼い」だったわけですから
ロンドンでも
同じようにやるだろうと思ったんでしょう。
- 糸井
- 監督する側からしたら、
「すぐそばにいる放し飼い」のほうが
気になりますもんね。
ロンドンなら見なくて済むっていうか(笑)。
- 出口
- うん、そうかもしれない(笑)。
- 糸井
- それで「放し飼い」を薦めてるんですか?
- 出口
- 基本的にはそうなんですけど、
でも、人にはいろんなタイプがあるので。
- 糸井
- ほう。
- 出口
- ぼくは、ほとんどの人は
自由でいられるほうを好むだろうと思うんで、
何をやるべきか、
何をやってほしいかさえはっきり言っとけば、
ふつうに動ける人は
「放し飼い」にしたほうがいいと思います。
でも、入社1年目じゃ無理ですよね。
- 糸井
- そうでしょうね。新入社員というヒナドリを
「勝手にやれ」って、放しちゃうのは‥‥。
- 出口
- 食べられたりしちゃいますよ。
- 糸井
- 食べられる!(笑)
いや、まことにそうだと思います。
ヘビみたいなやつが来たら、丸飲みですよね。
- 出口
- 自分できちんとエサが取れるようになったら、
「放し飼い」のほうが
人は、幸せなんじゃないかなあと思います。
- 糸井
- どのくらいで「放し飼い」にできますか?
- 出口
- 早熟な人もいますから一概には言えませんが
ふつうの人が「10年」はたらいたら
自分の得意分野で、
それなりに
動けるようになるんじゃないでしょうか。
- 糸井
- ぼくは、いちばんはじめに勤めた会社で
すでに放し飼いになってて、
「それは約束がちがう」と思ったんです。
- 出口
- ほう。
- 糸井
- 「こうこうこういう会社が、
コピーライターを求めている」というので
まだ教室に通ってたんですが
入社試験を受けたら、
その会社に、就職が決まっちゃったんですね。
面接で「明日から来られる?」って聞くから
「はい」って答えたら、
そのコピーライターの先輩が、
「ぼくは今日をもってこの会社を辞めるんで、
あとはよろしく頼むね」と。
- 出口
- すごいですね(笑)。
- 糸井
- まったくの「経験ゼロ」なんですよ?
- 出口
- なかなか経験できることじゃないです。
- 糸井
- いま思えば、ものすごいことなんですけど
自分としては
「それは約束がちがうじゃないか」と。
- 出口
- で、どうされたんですか。
- 糸井
- なにせ、あれこれ考えるヒマもないんで、
悩むことは、なかったです。
仕事は「コピーを書くこと」だったし。
あれはまだ、20歳のころでした。
- 出口
- おもしろいです。
- 糸井
- ぼくは大学を中退してますから、
20歳でもう、はたらいてたんですよね。
まだ若くて生意気な子どもだったので
「コピーなんてものは
そんなに簡単に出るもんじゃないぜ」
くらいのことを思ってました。
- 出口
- ええ。
- 糸井
- もちろん、
簡単に出てくるものでもないんですけど
「いいコピーが浮かぶのを待つ」
という建前で、喫茶店に行ったりして。
- 出口
- へえ。
- 糸井
- そういう、本当にイヤな子どもでした。
- 出口
- それが、糸井さんの20歳のころ。
- 糸井
- ただの、生意気なハタチに過ぎないやつ、
だったんです。
<つづきます>
2015-02-26-THU