第4回 「放し飼い」のススメ。

糸井
以前、どこかのインタビューで
出口さん、
「仕事は人生の3割でいい」と言ってました。
出口
ぼく、本当に怠け者で‥‥。
目標を決めないと「やる気」が出ないんです。

たとえば
ロンドンでどんな仕事をやっていたかと言えば、
調査やら何やら、
さまざまあるんですが、メインは「金貸し」で。
糸井
ほう。
出口
100億単位でお金を貸すという仕事だったので
わかりやすい目標を立てて
「1年で、1000億円くらいは貸し出そう」と。

別にノルマがあったわけじゃないんですが。
糸井
予算はあったんですか?
出口
予算はありましたが、目標がない。

きちんと収益は出さないといけないんですが
危ないところに貸すわけにもいかない。
だから、金貸しの「目標」はなかったんです。
糸井
なるほど。
出口
収益をたくさん上げることよりも、
1件も潰れないことが評価される世界でした。

でも、ぼく個人としては、
目標を立てたほうが、がんばれたんですよね。
もともとが「怠け者」なので。
糸井
ええ。‥‥そのことを強調しますね(笑)。
出口
いや、本当に「怠け者」なんです。

ロンドンへ赴任となって
心から「いいなあ!」と思ったことがあって、
それは、朝早く会社へ行くと、
日本の上司から
「報告が少ない」とか文句がくるんですが、
朝、遅めに出社すると
時間的に東京のみんなは帰宅しているので、
電話がかかってこない(笑)。
一同
(笑)
出口
そんなわけで、
「朝ごはんを食べながらのミーティング」は
積極的に入れてました。
糸井
その「法則」に気付いたんですね(笑)。
出口
怠け者のサボりタイプなんで、
そういうことには、すぐ気が付くんです。
糸井
では、サボる気満々の出口さんを
「ロンドンに行かせよう」と思った上司って
どういう考えだったんでしょうね。

しかも「トップとして」行ったわけですよね。
出口
自分のことは
自分が、いちばんわからないんですよね。

つまりぼくは、自分のことを
「真面目にちゃんと仕事をする社員だ」と
思っていたんです、一応。
糸井
あ‥‥そうですか(笑)。
出口
ところが、上司や周囲の人間に言わせると
「あいつは放し飼いしかない」と。

放し飼いにしておいたら、それなりに取ってくる。
変にマネージしても言うこと聞かへん、と。
糸井
マネジメント「外」?(笑)
出口
何か、そう言われていたらしいんですよ。
あとから聞くと。
糸井
自覚はなかったんですね(笑)。
出口
ええ、一所懸命やってるつもりでしたから。

だから、金融制度改革で保険業法改正が
一段落したときに、
「どこか、行きたいところはあるか」と
上司に聞かれて、
「外国へ行ってみたい」と言ったんです。
糸井
じゃあ、自己申告でもあったんですか。
出口
東京でも「放し飼い」だったわけですから
ロンドンでも
同じようにやるだろうと思ったんでしょう。
糸井
監督する側からしたら、
「すぐそばにいる放し飼い」のほうが
気になりますもんね。

ロンドンなら見なくて済むっていうか(笑)。
出口
うん、そうかもしれない(笑)。
糸井
それで「放し飼い」を薦めてるんですか?
出口
基本的にはそうなんですけど、
でも、人にはいろんなタイプがあるので。
糸井
ほう。
出口
ぼくは、ほとんどの人は
自由でいられるほうを好むだろうと思うんで、
何をやるべきか、
何をやってほしいかさえはっきり言っとけば、
ふつうに動ける人は
「放し飼い」にしたほうがいいと思います。

でも、入社1年目じゃ無理ですよね。
糸井
そうでしょうね。新入社員というヒナドリを
「勝手にやれ」って、放しちゃうのは‥‥。
出口
食べられたりしちゃいますよ。
糸井
食べられる!(笑)

いや、まことにそうだと思います。
ヘビみたいなやつが来たら、丸飲みですよね。
出口
自分できちんとエサが取れるようになったら、
「放し飼い」のほうが
人は、幸せなんじゃないかなあと思います。
糸井
どのくらいで「放し飼い」にできますか?
出口
早熟な人もいますから一概には言えませんが
ふつうの人が「10年」はたらいたら
自分の得意分野で、
それなりに
動けるようになるんじゃないでしょうか。
糸井
ぼくは、いちばんはじめに勤めた会社で
すでに放し飼いになってて、
「それは約束がちがう」と思ったんです。
出口
ほう。
糸井
「こうこうこういう会社が、
 コピーライターを求めている」というので
まだ教室に通ってたんですが
入社試験を受けたら、
その会社に、就職が決まっちゃったんですね。

面接で「明日から来られる?」って聞くから
「はい」って答えたら、
そのコピーライターの先輩が、
「ぼくは今日をもってこの会社を辞めるんで、
 あとはよろしく頼むね」と。
出口
すごいですね(笑)。
糸井
まったくの「経験ゼロ」なんですよ?
出口
なかなか経験できることじゃないです。
糸井
いま思えば、ものすごいことなんですけど
自分としては
「それは約束がちがうじゃないか」と。
出口
で、どうされたんですか。
糸井
なにせ、あれこれ考えるヒマもないんで、
悩むことは、なかったです。
仕事は「コピーを書くこと」だったし。

あれはまだ、20歳のころでした。
出口
おもしろいです。
糸井
ぼくは大学を中退してますから、
20歳でもう、はたらいてたんですよね。

まだ若くて生意気な子どもだったので
「コピーなんてものは
 そんなに簡単に出るもんじゃないぜ」
くらいのことを思ってました。
出口
ええ。
糸井
もちろん、
簡単に出てくるものでもないんですけど
「いいコピーが浮かぶのを待つ」
という建前で、喫茶店に行ったりして。
出口
へえ。
糸井
そういう、本当にイヤな子どもでした。
出口
それが、糸井さんの20歳のころ。
糸井
ただの、生意気なハタチに過ぎないやつ、
だったんです。
<つづきます>
2015-02-26-THU

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この連載のタイトルにも
「何でもできる50歳」とありますが、
本書の副題には
「『無敵の50代』になるための仕事と人生の基本」
とつけられています。
目次からいくつか拾ってみると
「50代ほど起業に向いた年齢はない」
「40代になったら得意分野を捨てる」
「仕事は楽しさで決まる」
‥‥などなど、
今回の対談で話されていることが
いっそう深く、詳しく語られています。
いま40代の人も、これから40代になる人も
「50歳は人生の真ん中」という
出口さんの言葉に希望を感じ、
同時に、やる気を掻き立てられるはず。
本連載を「副音声」のようにして読んだら
いっそう、おもしろいと思います。

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