第6回 小野田先生と、早野先生。

糸井
出口さんとぼくは同い年で、
60代で、こうしてはじめてお会いしましたが
その機会は
これまでもあったかもしれないんです。

共通の知り合いが、何人かいますから。
出口
そうですね。
糸井
そのうちのひとりが
コピーライターの小野田隆雄さんという人で
ぼくの先輩なんです。

ずっと資生堂のコピーを書いていた
エースみたいな人で、
実家がお寺さんなんですけど、
人がよくて、頭がよくて、人当たりがいい。
出口
でも、頑固ですよ(笑)。
糸井
ええ、頑固ですね(笑)。

小野田さんは
ぼくや出口さんより歳が上なんですけど、
出口さんのことを
「先生」みたいに思っていたそうですね。
出口
いや、それは何かの間違いだと思います。
糸井
でも、小野田さんは
そう、うれしそうにおっしゃっていて、
ぼくはそのとき
出口さんの本を読んだばっかりでした。

出口さんがお話されたことを
小野田さんがまとめて
仕事に効く 教養としての「世界史」
という本にしたんです。
出口
はい、そのとおりです。
糸井
読みながら
「これ、誰の仕事だろう?」と思っていたら
小野田さんだとわかって、びっくりしました。

なにか「鉛筆の向きがきれい」というかなあ、
編集者の手つきとちがうんですよね。
出口
なるほど。
糸井
じつに、みごとでした。
読みやすくて、中身がぜんぶ伝わる本で。

しかも
小野田さんのあとがきもあるんですよね。
出口
小野田さんには、
ライフネット生命の「マニフェスト」も
書いていただいたんです。
一同
へぇー‥‥。
糸井
(乗組員に向かって)すごいでしょ?
出口
会社の名前も、
小野田さんがつけてくださいました。

ぼく、気がつかなかったんですけど、
「ライフネット」って、
「あいうえお」で、できてるんです。
糸井
つまり‥‥。
出口
「ライフネット」の母音が
「あいうえお」になっているんです。

小野田さんは
「発音しやすいから
 コマーシャルやったら必ず覚えるよ」って。

もう、ぼくのほうこそ
「小野田先生」と、お呼びしたいくらいです。
糸井
ぼくは小野田さんの側の人間なんで、
「出口先生」と呼びたい気持ちが、わかるんです。

つまり、企業のマニフェストをつくるなんて
もう、たくさんの取材をしたはずで、
それを短い文章にするまでに
樽からこぼれるような
ものすごい分量のワインがあるわけですよね。

で、それを、とうとうと話す出口さんを見て、
「先生」だと思ったんだと思います。
出口
いやいや、もう、逆だと思います。
糸井
両方が、みごとに尊敬し合ってるなあ(笑)。

とにかく、
小野田さんが嬉々として仕事をなさってる。
そのことが、すばらしいです。
出口
本当に、果報者だと思います。
糸井
コピーライターの仕事というのは
道を歩いてる誰かさんに
突然、話しかけても大丈夫な言葉をつかう、
そういう仕事なんです。

一方で『生命保険入門』をお書きになった
出口さんは、
たとえ、すぐには理解されなくても
「今、わかってることを書く」ってことを
やった方ですから、
そこには「段差」があるはずなんですけど、
みごとに「平ら」ですものね。
出口
そう言われるのは恥ずかしいですけど‥‥
ありがとうございます。

本と言えば、ちょっと脱線しますけど
知ろうとすること。』は、
今年(2014年)、ぼくが読んだ本の中でも
ナンバーワンじゃないかなと。
糸井
出口さんにそう言ってもらえるなんて
このまま死んでしまいたい(笑)。
一同
(笑)
出口
「間違ったデータを元に発言する人には、
 誠実に、
 ゆるぎない態度で、真実を言い続ける」
というところが、心の琴線に触れました。

薄い本ですけど、
1000ページ分の価値があると思います。
糸井
あの部分って
理系じゃないぼくには、言い切れないんですね。

でも、理系の人たちって、ハッキリさせないと
「本当のこと」があやふやになっちゃう。
出口
なるほど。
糸井
非常に穏やかな早野先生のベースにある、
逆のことを言っている人でさえも
「そこは、認めるはずだ」というあの信じ方は、
美しいなあと思います。
出口
しかも、ただ単に「気持ち」だけじゃなくて
ロジックや考え方も
いっしょに盛り上げていくところが、すごい。

「ものを知るとは、こういうことだなあ」と、
気持ちの上でも
ロジックの上でも腹落ちする、と言いますか。
糸井
早野先生が、そういう人だったんです。

なにしろ
直接、やり取りするようになったきっかけは
「ホットケーキ」ですから。
出口
えっ?
糸井
神田にあった万惣フルーツパーラーって店の
ホットケーキは
外はカリッと、中がフワッとしていて
そのまま食べてよし、
次にバターをつけて食べてよし、
最後にメープルシロップをかけてもうまいと、
合計で3回楽しめるんです。

むかしからぼくは、その店のホットケーキが
ホットケーキ界で
いちばんおいしいと思っていたんですが、
お店がなくなっちゃうことを
早野先生のツイートで、知ったんですよ。

そのときに、はじめて直につながったんです。
出口
そうでしたか(笑)。
糸井
理科系なんだけど心は文科系、なんです。

なにせ、歌舞伎で「授業」ができちゃうくらいの
知識があったりもしますから。
出口
ぼくも、わずかにですけど接点がありまして、
以前、東大で
総長室のアドバイザーの仕事をしていたとき、
たまたま
早野先生に相談しに行ったことがあるんです。
糸井
へえ、ほんとですか。
出口
不勉強なもので「先生、何されてるんですか」
とお聞きしたら
CERN(セルン)でお仕事をされてる、と。

ちょうどそのとき、ダン・ブラウンの‥‥。
糸井
『天使と悪魔』。
出口
そう、あの本を読んでいたので
「あれ、本当の話なんですか」とお訊きしたら
「フィクションですよ」って。

お話が、とにかくおもしろかったので
とある勉強会で、講師にも来ていただいて。
糸井
そうだったんですか。
出口
震災のときも、
早野先生のツイートを、ずっと追ってました。

いろんなことが混乱していて、
何をどう判断したらいいかわからなかった。
でも、小さいとはいえ、
社員60人のベンチャーのトップですから。
糸井
ええ。
出口
あのとき、早野先生が
きちんと数値に基づいた話をしてくださったので
これを見る限り、東京は大丈夫だ、
平常どおり仕事をしようと、決めることができた。
糸井
そういう人、いっぱいいらっしゃいますよね。
ぼくだって、そうですもの。

当の早野さんは、何ひとつ余計なこと言わず。
出口
たんたんとデータだけを‥‥ね。
だから、すごく気持ちが落ち着いたんです。
<つづきます>
2015-03-02-MON

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この連載のタイトルにも
「何でもできる50歳」とありますが、
本書の副題には
「『無敵の50代』になるための仕事と人生の基本」
とつけられています。
目次からいくつか拾ってみると
「50代ほど起業に向いた年齢はない」
「40代になったら得意分野を捨てる」
「仕事は楽しさで決まる」
‥‥などなど、
今回の対談で話されていることが
いっそう深く、詳しく語られています。
いま40代の人も、これから40代になる人も
「50歳は人生の真ん中」という
出口さんの言葉に希望を感じ、
同時に、やる気を掻き立てられるはず。
本連載を「副音声」のようにして読んだら
いっそう、おもしろいと思います。

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