- 糸井
- 出口さんとぼくは同い年で、
60代で、こうしてはじめてお会いしましたが
その機会は
これまでもあったかもしれないんです。
共通の知り合いが、何人かいますから。
- 出口
- そうですね。
- 糸井
- そのうちのひとりが
コピーライターの小野田隆雄さんという人で
ぼくの先輩なんです。
ずっと資生堂のコピーを書いていた
エースみたいな人で、
実家がお寺さんなんですけど、
人がよくて、頭がよくて、人当たりがいい。
- 出口
- でも、頑固ですよ(笑)。
- 糸井
- ええ、頑固ですね(笑)。
小野田さんは
ぼくや出口さんより歳が上なんですけど、
出口さんのことを
「先生」みたいに思っていたそうですね。
- 出口
- いや、それは何かの間違いだと思います。
- 糸井
- でも、小野田さんは
そう、うれしそうにおっしゃっていて、
ぼくはそのとき
出口さんの本を読んだばっかりでした。
出口さんがお話されたことを
小野田さんがまとめて
『仕事に効く 教養としての「世界史」』
という本にしたんです。
- 出口
- はい、そのとおりです。
- 糸井
- 読みながら
「これ、誰の仕事だろう?」と思っていたら
小野田さんだとわかって、びっくりしました。
なにか「鉛筆の向きがきれい」というかなあ、
編集者の手つきとちがうんですよね。
- 出口
- なるほど。
- 糸井
- じつに、みごとでした。
読みやすくて、中身がぜんぶ伝わる本で。
しかも
小野田さんのあとがきもあるんですよね。
- 出口
- 小野田さんには、
ライフネット生命の「マニフェスト」も
書いていただいたんです。
- 一同
- へぇー‥‥。
- 糸井
- (乗組員に向かって)すごいでしょ?
- 出口
- 会社の名前も、
小野田さんがつけてくださいました。
ぼく、気がつかなかったんですけど、
「ライフネット」って、
「あいうえお」で、できてるんです。
- 糸井
- つまり‥‥。
- 出口
- 「ライフネット」の母音が
「あいうえお」になっているんです。
小野田さんは
「発音しやすいから
コマーシャルやったら必ず覚えるよ」って。
もう、ぼくのほうこそ
「小野田先生」と、お呼びしたいくらいです。
- 糸井
- ぼくは小野田さんの側の人間なんで、
「出口先生」と呼びたい気持ちが、わかるんです。
つまり、企業のマニフェストをつくるなんて
もう、たくさんの取材をしたはずで、
それを短い文章にするまでに
樽からこぼれるような
ものすごい分量のワインがあるわけですよね。
で、それを、とうとうと話す出口さんを見て、
「先生」だと思ったんだと思います。
- 出口
- いやいや、もう、逆だと思います。
- 糸井
- 両方が、みごとに尊敬し合ってるなあ(笑)。
とにかく、
小野田さんが嬉々として仕事をなさってる。
そのことが、すばらしいです。
- 出口
- 本当に、果報者だと思います。
- 糸井
- コピーライターの仕事というのは
道を歩いてる誰かさんに
突然、話しかけても大丈夫な言葉をつかう、
そういう仕事なんです。
一方で『生命保険入門』をお書きになった
出口さんは、
たとえ、すぐには理解されなくても
「今、わかってることを書く」ってことを
やった方ですから、
そこには「段差」があるはずなんですけど、
みごとに「平ら」ですものね。
- 出口
- そう言われるのは恥ずかしいですけど‥‥
ありがとうございます。
本と言えば、ちょっと脱線しますけど
『知ろうとすること。』は、
今年(2014年)、ぼくが読んだ本の中でも
ナンバーワンじゃないかなと。
- 糸井
- 出口さんにそう言ってもらえるなんて
このまま死んでしまいたい(笑)。
- 一同
- (笑)
- 出口
- 「間違ったデータを元に発言する人には、
誠実に、
ゆるぎない態度で、真実を言い続ける」
というところが、心の琴線に触れました。
薄い本ですけど、
1000ページ分の価値があると思います。
- 糸井
- あの部分って
理系じゃないぼくには、言い切れないんですね。
でも、理系の人たちって、ハッキリさせないと
「本当のこと」があやふやになっちゃう。
- 出口
- なるほど。
- 糸井
- 非常に穏やかな早野先生のベースにある、
逆のことを言っている人でさえも
「そこは、認めるはずだ」というあの信じ方は、
美しいなあと思います。
- 出口
- しかも、ただ単に「気持ち」だけじゃなくて
ロジックや考え方も
いっしょに盛り上げていくところが、すごい。
「ものを知るとは、こういうことだなあ」と、
気持ちの上でも
ロジックの上でも腹落ちする、と言いますか。
- 糸井
- 早野先生が、そういう人だったんです。
なにしろ
直接、やり取りするようになったきっかけは
「ホットケーキ」ですから。
- 出口
- えっ?
- 糸井
- 神田にあった万惣フルーツパーラーって店の
ホットケーキは
外はカリッと、中がフワッとしていて
そのまま食べてよし、
次にバターをつけて食べてよし、
最後にメープルシロップをかけてもうまいと、
合計で3回楽しめるんです。
むかしからぼくは、その店のホットケーキが
ホットケーキ界で
いちばんおいしいと思っていたんですが、
お店がなくなっちゃうことを
早野先生のツイートで、知ったんですよ。
そのときに、はじめて直につながったんです。
- 出口
- そうでしたか(笑)。
- 糸井
- 理科系なんだけど心は文科系、なんです。
なにせ、歌舞伎で「授業」ができちゃうくらいの
知識があったりもしますから。
- 出口
- ぼくも、わずかにですけど接点がありまして、
以前、東大で
総長室のアドバイザーの仕事をしていたとき、
たまたま
早野先生に相談しに行ったことがあるんです。
- 糸井
- へえ、ほんとですか。
- 出口
- 不勉強なもので「先生、何されてるんですか」
とお聞きしたら
CERN(セルン)でお仕事をされてる、と。
ちょうどそのとき、ダン・ブラウンの‥‥。
- 糸井
- 『天使と悪魔』。
- 出口
- そう、あの本を読んでいたので
「あれ、本当の話なんですか」とお訊きしたら
「フィクションですよ」って。
お話が、とにかくおもしろかったので
とある勉強会で、講師にも来ていただいて。
- 糸井
- そうだったんですか。
- 出口
- 震災のときも、
早野先生のツイートを、ずっと追ってました。
いろんなことが混乱していて、
何をどう判断したらいいかわからなかった。
でも、小さいとはいえ、
社員60人のベンチャーのトップですから。
- 糸井
- ええ。
- 出口
- あのとき、早野先生が
きちんと数値に基づいた話をしてくださったので
これを見る限り、東京は大丈夫だ、
平常どおり仕事をしようと、決めることができた。
- 糸井
- そういう人、いっぱいいらっしゃいますよね。
ぼくだって、そうですもの。
当の早野さんは、何ひとつ余計なこと言わず。
- 出口
- たんたんとデータだけを‥‥ね。
だから、すごく気持ちが落ち着いたんです。
<つづきます>
2015-03-02-MON