- 糸井
- 出口さんは、40代のときに
ほとんどの本を捨てたということですけど、
読書家である出口さんが
今でも「本」に対して恩を感じているのは、
すごく感じるんです。
- 出口
- ええ、恩人です。
- 糸井
- でも、本をお読みになって得た知見を
みんなに伝えてますから、
それって
本に対しても「恩返し」してますよね。
- 出口
- そうなんでしょうか。
- 糸井
- 出口さんは、記憶力がいいんですけど
ぼくは、本当に記憶力がわるいんです。
本を読んでも、中身を忘れちゃうんです。
「よかった」くらいしか憶えていない。
- 出口
- いやいや、それで十分だと思いますよ。
ぼくだって、本当におもしろい本は
「めちゃめちゃおもしろかった」くらいしか、
憶えてませんから。
- 糸井
- そうですか。
- 出口
- かえって、
つまらないのに名著とされている本のほうが
「何で、これが?」とか考えながら読むので
妙に内容を覚えていたりします(笑)。
- 糸井
- なるほど(笑)。
今日のお話、
キーワードはいろいろ出てきましたけど
ひとつ挙げるとすれば
「楽」とか「おもしろい」ですよね。
- 出口
- 死ぬ直前、意識がなくなる前に
「あんなこと、やっとけばよかったよなあ」
と後悔するのはイヤなので
「悔いなし遺産なし」とかアホなことを
言ってるんですけど、
やっぱり、やりたいことはやっといたほうが
絶対に、おもしろいと思います。
- 糸井
- 楽しいことをしている時間は短いって
よく言いますけど、
極論すると「ゼロ」に近づくと思うんです。
- 出口
- なるほど。
- 糸井
- 3日くらい、ずっと一緒にいたのに、
「キミといる時間は本当にあっという間だった」
という場合の「キミ」は
本当に「最高のキミ」だったんだと思うんです。
その理屈で言うと、死ぬ直前に
「うわあ、短かった!
俺、生きてなかったような気さえする!」と
言えたら最高ですよね。
- 出口
- それは、すごい境地ですね(笑)。
- 糸井
- たしかに「人生、思えば長かった」とか、
口では言えるんだけど
それは、やっぱり「数えてる」んですよ。
- 出口
- なるほど。
- 糸井
- つまり、数え挙げればいっぱいあるんです。
でも「去年1年、俺、何やったんだろう?」
と思い返すと、
やっぱり「あっという間だった」なんです。
- 出口
- ええ。
- 糸井
- だから、ぼくはぼくなりに
楽しくやってたんだろうなって、思います。
- 出口
- それって、いちばん充実してるのかも。
- 糸井
- 死ぬ前に「俺、生きたっけ?」って(笑)。
- 出口
- そう思えたら、最高なんでしょうね。
- 糸井
- ぼく、むかしからよく言ってるんですけど
若いときのツケの請求書が
40代で、ドカッと一気に来るんですよ。
- 出口
- ああ、そうかもしれません。
- 糸井
- 一回、疲れのピークが来るのも40代。
- 出口
- その意味でも
「ツケをぜんぶまとめて払うタイミング」が
「40代」なのかもしれませんね。
- 糸井
- たしかに借りがあったなあってところから、
請求書がぜんぶ来て
ぜんぶスッキリ払ってゼロになるんだけど
経験だけは残るから、後半も走れる。
すくなくともぼくの40代は、そんなふうでした。
- 出口
- いやあ、わかります。すごく、そう思いますね。
- 糸井
- ‥‥いま、同い年という感じがすごくしました。
- 一同
- (笑)
- 出口
- ぼくが、40代の前半で本をぜんぶ捨てて
ロンドンへ行ったのも、
それまでのツケを払って、
溜まった「しがらみ」のようなものを
一回キレイにしたかったのかも。
- 糸井
- 今日のお話って、大きく、漠然とは
「のびのびしたい」ってことじゃないですか。
- 出口
- ええ。
- 糸井
- 仕事でも、のびのびさせずにやったことって
自分にも他人にも、無理をさせてる。
昨日、ある会社の社長と話をしていたとき、
「社員に向かって
すべてを思うように動かせる社長なんて
世の中にひとりもいないです」
と言ってましたけど
それは、みごとに、その通りだと思います。
社長なんだから
何でもやれるだろうって思われがちだけど。
- 出口
- ええ。それはぜんぜん、ちがいますよね。
よく、会社の「えらい人」が
若いやつを鍛えてやるとか言いますけど。
- 糸井
- ええ。
- 出口
- ぼく、そういう言い方をするような人には
「それを会社でやる前に
家で、自分のパートナーにやってごらん」
と言うことにしてるんです。
だって、そんなことしたら
逃げられちゃうかもしれませんもん。
- 糸井
- ええ、ええ。
- 出口
- あとは「あそびは大事」ってことでしょうか。
- 糸井
- それと「放し飼い」のすすめ、と。
- 出口
- 衣食「楽」足りて礼節を知り、
40代は、ツケを払ってキレイになる時期。
- 糸井
- ゼロになって、もがく時期ですよね。
で、50になると、けっこう何でもできるぞ、と。
- 出口
- そう思います。
- 糸井
- いやあ、とっても、おもしろかったです。
今日は、ありがとうございました。
- 出口
- こちらこそ、楽しかったです。
何を話したか忘れちゃったくらいに(笑)。
<終わります>
2015-03-03-TUE