2019年3月1日。
期せずしてちょっと特別な日に、
写真家の幡野広志さんにとって
はじめてとなる写真集が
ほぼ日から発売されることになりました。
しずかな海辺に佇む、
かつて生きていた建造物たちを捉えた
「海上遺跡」。
狩猟を通じて、生きることの意味を問う
「いただきます、ごちそうさま。」。
そして息子・優くんとの日々を記録した
「優しい写真」。
幡野さんの代表作ともいえる三作を、
年代順に収録しました。
タイトルは、『写真集』。
今回この『写真集』という名の写真集の発売を前に、
幡野広志さんが糸井重里と対談しました。
写真とはなにか、被写体とはなにか、
表現するとは、そして生きるとはどういうことか。
おふたりが写真を正面から語る、めずらしい機会。
構成はぼく、ライターの
古賀史健が担当しました。
どうぞおたのしみください。
(c) Hiroshi Hatano
- 糸井
- ちょっと離れた話に
聞こえるかもしれないけれど、
幡野さんと出合って、
こうしてお話しさせてもらっていると、
ぼくは戦争のことを考えるんです。
戦争ってぼくら、
知識としては知っていても、
触れていないじゃないですか。
- 幡野
- そうですね。
- 糸井
- 吉本隆明さんなんて
まさにそうだったんだけれど、
戦後文学のひとたちはみんな
「友だちは死んだのに、おれは生きている」
っていう事実とどう折り合いをつけるかに
その後の人生をぜんぶ使っているところがあって。
- 幡野
- ああ。ぼくも取材したんですけど、
震災で家族や友人を亡くされた方々にも、
同じことをおっしゃる方はいます。
「なんでじぶんは生きているんだろう」って。
- 糸井
- 一方でぼくらが、
どれくらい切実なものとして
死について考えているかというと。
- 幡野
- 考えないですよね。
若いひとが亡くなるっていう状況がないと、
なかなか考えないと思います。
- 糸井
- そうなんですよね。
関係性のなかでしか、考えられない。
命のことって、
じぶんひとりで完結する話じゃないんです。
- 幡野
- それでいうと去年の年末、
肺炎になって緊急入院したんです。
けっこう危なかった肺炎で、
医者から40%の確率で死ぬと言われて。
- 糸井
- でかいですよね。
- 幡野
- 病院に行ったのが夜だったんです。
ぼくの様子をおかしいと思った妻が、
無理やり連れていってくれたんですけど、
もし朝まで家にいたら危なかったと。
そのうえで、40%だと。
- 糸井
- だって40%といえば、
野球でいうと4割バッターですよ。
- 幡野
- そっか、
野球ファンじゃなくてよかったな(笑)。
ぼくは、降水確率で考えたんですよ。
40%の曇り空だったら
意外と大丈夫かなって(笑)。
- 糸井
- 降る、降る、それ降ります(笑)。
- 幡野
- でも、病気になって以来、
ずっと死を覚悟していたつもりだったのに、
こうやって突然告げられると、
やっぱり死にたくなかったんですよ。
「いまはまだ、ちょっと」って。
- 糸井
- それはそうですよ。
やりたいこともいっぱい見つけちゃったし、
この1年ではきっと、
病気を持ちながらもここまでできる、
という自信もできたでしょうし。
- 幡野
- 経験してみないと
わかんなかったですね。
- 糸井
- そこ、ぼくも考えたことがあって、
たとえば余命50年ですって言われても、
あまり意味がないじゃないですか。
- 幡野
- まあ、「なげえな」で終わりですよね(笑)。
余命であって余命でないというか。
- 糸井
- 一方で短すぎるとショックだし。
何年くらいだったらショックもなくて、
おもしろくなるんだろうね。
- 幡野
- うーん!
それはねえ、考えるんです。
3か月って言われたらショックというか、
もう「よく立ってんな、お前」のレベルですよね。
余命1年だったらぼく、
なにもしていなかったかもしれないです。
- 糸井
- そうかもしれない。
- 幡野
- もしも1年未満だったら、
自暴自棄になっていた可能性はありますね。
実際、そういう方にお会いしたこともあるんですよ。
あまり詳しくはお話しできませんけど、
それこそ全財産を使い果たしちゃったとか。
- 糸井
- お会いしたっていうのは、ご存命なんですよね。
- 幡野
- そうですね。
けっきょく宣告された余命を大幅に過ぎて、
けれどもお金は使い果たしていて。
- 糸井
- むずかしいよねえ。
- 幡野
- だからある程度、
やっぱり5年くらいがいいんじゃないですかねえ。
- 糸井
- あっ、それぼくも思ったんです。
じぶんだったら5年じゃないかって。
幡野さんが3年っていう数字を前にして、
操縦桿をぐぐーっと上げて、
じぶんという飛行機をこれだけ操縦できたのは、
やっぱり幡野さんの力あってのことで、
ぼくにはむずかしいと思ったんですね。
- 幡野
- いや、余命宣告って、
なかなか受け入れられるものじゃないですよ。
宣告を受けたけれど、信じないまま、
ずっと続く前提で闘病されている方も多いですし。
- 糸井
- だけど、
受け入れてしまったら、
その先こんだけおもしろくなるんだぞ、
という姿も、幡野さんに見せてもらえて。
つまり、じぶんがなにをやりたいのか、
本気になって考えるわけじゃないですか。
- 幡野
- 考えます。
つまらないことに、時間使えないです。
- 糸井
- でも、その気持ちが10年続くかというと、
それもちょっとぼくには無理だと思うんです。
- 幡野
- あまり遠すぎても。
(c) Hiroshi Hatano
- 糸井
- だから5年というのは、
ぼくにちょうどいいですね。
- 幡野
- ぼくも、余命3年と言われていますけど、
できれば5年というのを目標にしているんです。
やっぱり、子どもの年齢で考えるので、
5年あれば息子が小学生にあがる。
じぶんが40歳になる。
そこまでいけたら、それでいいかなって。
- 糸井
- 5年あれば、
じぶんなりの満足を味わえますよね。
- 幡野
- 味わえると思います。
死ぬことを考えない時間も、
わりとあるでしょうし。
- 糸井
- ぼくは、このまえ70歳になったんだけれど、
そうだな、75歳ってある意味悔いはないね。
- 幡野
- ちょっと、うらやましいですもん(笑)
- 糸井
- ごめんなさいね(笑)
- 幡野
- 75年生きるって、すごいですよね。
うん、あらためてすごい。
- 糸井
- なんだかねえ。
うとうとしていた時間が長すぎたって
気持ちはあるんですけどね。
まあ、そういう時間もいいのかな。
・・・・もう、写真集とぜんぜん関係ない(笑)。
- ――
- ぜひ、このまま続けてください(笑)。
- 糸井
- いやあ、
ぼくは幡野さんが現れてくれるまで、
こういう話をできるひとがいなかったんです。
- 幡野
- いなかったですか。
- 糸井
- いたとしても、
遠くから想像でしゃべっている人間同士だから、
「自分がその場に立たないとわからない」
のひと言で終わっちゃうんですよ。
「お前だって、その立場になったら変わるよ」
と言われたら、もう闇のなかじゃないですか。
- 幡野
- そうか、そうですよね。
- 糸井
- だからねえ、
これは幡野さんに会えたからこそ思うんだけれど、
ぼくが将来同じように宣告を受けたり、
そういう病気になったりしたら、
なんとかじぶんを伝えようとするだろうなあ。
それはもう、ぼくの仕事でさえあると思う。
- 幡野
- 伝えたいですよね。
- 糸井
- もったいなさすぎるんですよね、
物語に組み込まれて、愛のひと言でまとめられて、
命の尊さみたいなことを言われるのは。
- 幡野
- ぼくだって、よほど注意しないと
このままだったら感動ポルノで消費されるので。
- 糸井
- そうそう。
- 幡野
- わざわざ海外に行ったり、
周囲の反対を押し切ってでも
やりたいことをやっているのは、それもあって。
まわりにいるひとたちの声はみんな、
「寝てなさい」「休んでなさい」になるんです。
禁止のことばしか言わないんです。
- 糸井
- そうなりますよね。
- 幡野
- でも、周囲がゼロリスク志向になって
本人のやりたいことを奪っている状況って、
患者をいちばん死に近づけていると思うんですよ。
生きることを否定しているようなものですから。
- 糸井
- そのとおりだと思う。
会社だって、同じですから。
リスクをとらせない会社からは、
クリエイティブなんか生まれっこないですよ。
- 幡野
- 実際、海外に行くと
どんなに疲れても「行ってよかった」と思いますし。
- 糸井
- そういうことをさ、
当事者である幡野さんが言ってくれるのは、
ものすごい数のひとたちの救いになっていますよ。
ぼくが救われているもの。
- 幡野
- みなさん思っているはずなのに、
なかなか言えない環境にあるんでしょうね。
- 糸井
- もう、ぼくはいろんなひとに言いたいね。
「ごちゃごちゃ言うな、幡野を見ろ!」って(笑)。
- 幡野
- (笑)。
- 糸井
- うん、また会いましょう。
前回話していた本も、
ずいぶん進んでいるそうだし。
- 幡野
- はい、よろしくお願いします。
(おわります。
最後まで読んでいただき、
ありがとうございました。)
2019-02-24-SUN
幡野広志さんのはじめての写真集
写真集
書名:写真集
著者:幡野広志
発行:ほぼ日
定価:本体2700円+税(配送手数料別)
ISBN:978-4-86501-379-5
発売日:3月1日(金)
※TOBICHI東京およびTOBICHI京都にて、
2月23日(土)から先行発売します。
※ほぼ日ブックスを取り扱っている全国の書店や
Amazonや楽天といった、
大手のネットサイトにも流通いたします。
取り扱い書店に関しては、
こちらからご確認ください。
余命3年とされる多発性骨髄腫、
血液ガンの一種であることを公表した写真家、
幡野広志さんのはじめての『写真集』です。
今日までの幡野さんの代表作である「海上遺跡」、
「いただきます、ごちそうさま。」、
「優しい写真」の三作品を収録しています。
ほぼ日ストア、TOBICHIの購入特典は
「小さい優くんの写真集」。
はじめての「写真集」、先行発売。
幡野広志
写真集の写真展。
2月23日(土)〜3月10日(日)
TOBICHI東京・京都 同時開催
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN