33の悩み、33の答え。

読者から寄せられた
数百の悩みや疑問から「33」を選びました。
そして、それらの悩みや疑問に、
33人の「はたらく人」が答えてくれました。
6月9日(火)から
毎日ひとりずつ、答えをアップしていきます。

Q006

なやみ

仕事を辞めることにしました。
でも、自分に向いていることがわからず、
次に何をしていいかわかりません。

(29歳・人事総務)

今の仕事に就いて7年目ですが、向いていると思ったことがありません。努力はしてきたつもりですが、無理でした。苦手なことをやり続け、職場での自分も嫌いになってきています。そこで転職しようと決めたものの、何が自分に向いているのかわからず、ぐずぐずしています。どうやったら自分の得意なことを見つけ、本当に向いている仕事につけるのでしょうか。

こたえ

向いてない仕事ばっかりやってきました。
でも、その先に、
思いもよらない未来が待っているんです。

こたえた人レ・ロマネスクTOBIさん(歌手/クリエイター)

──
TOBIさんは、サラリーマン時代に、
さまざまなお仕事を経験されてますよね。
片手では足りないくらいの数。
TOBI
両手でも足りないです。
──
おじさま向けフーゾク店の
もぎたて情報紙の三行広告を取る仕事、
お葬式専門の花屋さん、
牛乳しか飲めない下戸の極道さんが
2000万くらい「集金」した帰りに必ず寄る
バーのバーテン、
冷たい地下室で半透明のビニールシートを
50センチ平方の正方形に
えんえんカッティングする不気味な仕事……。
TOBI
とくにおかしなものばかり挙げないでください。
──
で、そのようなお仕事に従事されたあと、
忽然とフランスへ渡り、
レ・ロマネスクとなって帰ってくるわけです。
TOBI
そうですね、変わり果てた姿でね。

渡仏したのは、29歳のときでした。
あ、この人(質問者さん)と同じだ。
そういう歳なんでしょうね、29歳くらいってね。
──
これまで経験してきたお仕事について、
それぞれ
「向いている」とか「向いていない」とかって、
あったんですか。
TOBI
何にもないです、そんなの。

向いているとか向いていないとか
考える余裕もなかったし、
あらためて考えてみれば、
すべてに向いていなかったと思います。
──
あ、そうですか。

じゃ、パリでピンクのレ・ロマネスクとなって、
ようやく「向いている」と。
TOBI
いや、今の仕事だって、
向いているかどうかはわかりません。
──
えっ、マジですか。
TOBI
うん。
とりたてて「向いている」とは言えないと思う。
──
TOBIさんが
レ・ロマネスクに向いてなかったら、
いったい誰が
レ・ロマネスクをやるんですか。
TOBI
誰もやらないでしょうし、
あんな仕事に「自分は向いている」なんて、
ふつう思えます?
──
そう言われましても(笑)。
TOBI
これぞ天職と思ってはじめた仕事じゃないし、
ああいう姿で歌ってくれと
お願いされるから続いているだけなんです。

やってて楽しいかなとは思うけど
「向いている」とは、今でも思わない。
オファーが来なくなった時点で、
すぐに辞めると思います。
──
レ・ロマネスクでさえ、
向いているかどうかわからないなんて。
TOBI
そのくらいでも、けっこう続けられるもんですよ。
──
ああ……でも、そういうものかもしれない。
仕事って。
TOBI
だからね、これは断言してもいいですけど、
だいたいの人に
「向いていること」なんかないと思いますよ。
──
おおお。
TOBI
もっと根本的なことを言ってもいいですか。
──
お願いします。
TOBI
向いていることとか、得意なことなんて、
なくていいんです。
──
根本的!
TOBI
そんなものなくたって、なんとかなります。

少なくとも、ぼくには「得意なこと」はないし、
むしろ、たくさんの「苦手なこと」から
逃げるように生きてきた人間です。
──
その結果、現在の状態へたどり着いた。
TOBI
だから「苦手なこと」が多い人ほど、
「向いている仕事」をしているように
見えるのかもしれないですね。
──
つまり、得意なものなどなくとも
「おそるることなかれ」と。
TOBI
それが、人間のふつうの姿です。
──
この方はすでに転職することは決めていて、
でも
「自分の得意がわからない、
だから、何をしたらいいのかわからない」
とおっしゃっています。
TOBI
何でもいいんじゃないんですかね。

たぶん「得意なもの、ないかな~?」と
むりやり探しても見つからないから、
適当に「苦手なもの」や「嫌いなもの」以外から
選べばいいんじゃないかなあ。
──
なるほど。
TOBI
今の場所で悩んでグズグズしてるより、
よっぽどいいよ。
──
たしかに、そうかもしれない。
TOBI
適当に、というのは、
いろいろと経験してみたらという意味です。

少なくとも、今の状態が
「苦手すぎて、自分が嫌いになりそう」なら、
すぐにでも辞めるべきですよ。
だってそんなの、たいへんじゃない。
──
「すぐに」と言うと。
TOBI
明日にでも。

今晩なんでもいいから暗い曲でもつくって、
すぐYouTubeにアップするべきです。
──
一歩を踏み出すには、
思い切りやスピード感も重要だと。
TOBI
転機って、たぶん、そういうものだと思う。
ボヤボヤしてたら、
スルッと逃げてっちゃう速度でやってくるんです。

ぼくがフランスに行こうって決めたのも、
ほんの「数秒」でしたし。
──
そうやって、えいやと思い切って舵を切れば、
開けてくる可能性もあると。
TOBI
そう思います。向いているかどうかを
いちいち見極めようしていたら、
どっちにも動けなくなると思う。

だから、
向いているかどうかはひとまず置いといて、
興味のあることに手を出してみればいい。
それも、できるだけ「気軽に」ね。
──
出した手を引っ込めたっていいやくらいの
気持ちで。
TOBI
そうです、そうです。

北海道の牧場で
120頭の雌牛の乳搾りをしていた夜はもちろん、
今の仕事をはじめたときでさえ、
まさか将来、
自分がパリコレやフジロックや
ブロードウェイミュージカルに出たり、
カマキリ怪人の役で
特撮ドラマに出演するだなんて、
思ってもみませんでしたから。
──
向いていると思ってなかった仕事の延長線上に、
カマキリ怪人。
TOBI
だからやっぱり、
向いていることなんて、なくていいんですよ。

ぼくに関して言えば
「向いていること」があったら、
ある意味「じゃま」になっていたと思う。
──
もし、TOBIさんが、エクセルが得意だったら……。
TOBI
「自分はエクセルが得意」ということにとらわれて、
エクセルを使えない職業は選んでいなかったと思う。

もちろん、エクセルを使う仕事だって
素晴らしいんですが、
自分のつくった曲を
ベネズエラの高校生が卒業式で歌ってくれたと聞いて
感動することはなかったでしょう。
──
たしかに。
TOBI
思えばぼくは
「向いてないこと」ばっかりやってきた気がします。

でもその先に
「思いもよらない未来」が、待っていたんですよ。
──
なるほど。
TOBI
で、楽しいじゃないですか。そういう人生のほうが。
【2020年2月12日 外苑前にて】

このコンテンツは、
ほんとうは‥‥‥‥。

今回の展覧会のメインの展示となる
「33の悩み、33の答え。」
は、「答え」の「エッセンス」を抽出し、
会場(PARCO MUSEUM TOKYO)の
壁や床を埋め尽くすように
展示しようと思っていました。
(画像は、途中段階のデザインです)

照明もちょっと薄暗くして、
33の悩みと答えでいっぱいの森の中を
自由に歩きまわったり、
どっちだろうって
さまよったりしていただいたあと、
最後は、
明るい光に満ちた「森の外」へ出ていく、
そんな空間をつくろうと思ってました。

そして、このページでお読みいただいた
インタビュー全文を、
展覧会の公式図録に掲載しようか‥‥と。
PARCO MUSEUM TOKYOでの開催は
中止とはなりましたが、
展覧会の公式図録は、現在、製作中です。

書籍なので一般の書店にも流通しますが、
ほぼ日ストアでは、
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限定受注販売いたします。
8月上旬の出荷で、
ただいま、こちらのページ
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和田ラヂヲ先生による描きおろし
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どうぞ、おたのしみに。