33の悩み、33の答え。

読者から寄せられた
数百の悩みや疑問から「33」を選びました。
そして、それらの悩みや疑問に、
33人の「はたらく人」が答えてくれました。
6月9日(火)から
毎日ひとりずつ、答えをアップしていきます。

Q019

なやみ

お金のためにはたらいています。ダメでしょうか?

(42歳・ウェブデザイナー)

いい仕事をしたいとか、誰かによろこんでほしいとか、そりゃあ少しは思います。でも、正直なところ「お金のため」にはたらいています。別にかっこいいことでもないし、なんとなく大きな声で言いにくくて、あんまり人に言ったことはないのですが、ダメでしょうか。

こたえ

ぜんぜんダメじゃないですよ。
漫画も、チリ紙交換も、熱湯風呂も、
お金を稼ぐためにやってきました。

こたえた人蛭子能収さん(漫画家)

蛭子
ぜんぜんダメじゃないですよ。
俺は、いつでも
「お金のためにはたらいてる」と思ってるんです。
──
おお。
蛭子
だって、
お金がなかったら死んじゃうじゃないですか。
──
生活が成り立たなくなるという意味では、
そうですね。
蛭子
だから俺は、お金を稼ぐために仕事してますよ。

その場合、仕事は、どんなものでもいいんです。
とにかく自分が、
あの、ちょっとでも楽できて、
なるべく給料の多い仕事を……。
──
なるほど(笑)。

蛭子さんは、来た仕事はめったに断らないと
聞いたことがあります。
蛭子
そうですね。
バンジージャンプ以外は断ったことないです。
──
ああ、バンジージャンプはNGですか。
死んじゃうかもしれないですもんね、万が一の場合。
蛭子
生命とお金とどっちって考えると、
やっぱり生命のほうが大事だからね。
──
じゃあ、熱湯風呂とかのお仕事は
キツかったんじゃないですか。

お金はもらえるとしても。
蛭子
そうですね。
あのころは「素人の時代」とかって言われて、
テレビに出て。

ダチョウ倶楽部さんとかと一緒に、
いろいろやらされて。
あの時代は、ちょっと厳しかったなあ。
──
じゃあ、蛭子さんの場合は、
とにかく「死なないためにお金を稼いでいる」と。
蛭子
そうですね。
──
そのために「お金がなくてはならない」と。

でも、そういうことを蛭子さんほど
ハッキリ言う人って、あんまりいないと思うんです。
この相談者さんも、おっしゃってますが。
蛭子
えっ、そうですか? みんなそうなんじゃないの?
──
本心ではそうでも、
そこまでハッキリ言わないというか……。

今のようなお考えは、わりと昔から、一貫して?
蛭子
そうですね……あの、
子どものころの話なんですけど、
大晦日の日に「トントン」って、
近所のおじさんが来たんですよ。
──
大晦日に。
蛭子
そう、その人がね、
「明日はお正月なのにお金がないから、
このコートを買ってください」
って言うんですよ。

そこらじゅうの家をまわって、みんなに断られて、
で、うちにも来たみたい。
──
ええ。
蛭子
コートって言ったって、汚いし、ボロボロなんです。

でも、うちだってすごい貧乏だったし、
どうすんのかなって思って見てたら、
やっぱり、かわいそうに、買わなかったんです。
──
なかなか買えないですよね、それは。
蛭子
そしたら、そのおじさん、
次の日に死んじゃったんです。自分で。
──
えっ……そうなんですか。
蛭子
そういうことがあったから。
お金を持っとかないと死んじゃうんだなって。
──
その体験は……蛭子さんのお考えに、
かなりの影響を与えていそうですね。
蛭子
だから、ちゃんと仕事をやったのに、
お金をくれない人も、たまにいるんですよ。

そういう人に、ものすごい腹が立つんです。
──
そりゃあ、そうですよ。もちろんです。
蛭子
だけど、ぜんぜん言い切れなくてね。

なんでお金くれないんですかって言い切れずに、
心のなかでブツブツ文句言って。
それで、たまに漫画のなかで、
包丁とかで
「ブスッ!」とか復讐したりしてるんです。
──
ああ、蛭子さんの漫画で刺されてるのは、
お金を払ってくれなかった人なんですね(笑)。

でも、蛭子さん
『ガロ』にも描かれてましたよね。
原稿料ゼロで有名な。
蛭子
あそこは、みんなもらえなかったんだよね。
──
載るだけでうれしかったということですか。
蛭子
そう。そうなんだけど、ずっとタダだったんです。
辞めるその日まで、タダだった。
──
そういうコンセプトの雑誌ですものね。
原稿料タダだけど、
好きなように描いていいという。

当時は、どういう思いだったんですか?
蛭子
いやあ、漫画を手渡すときも
「今日も、お金もらえないのかな」って(笑)。

ま……わかってたけど、
少しはくれてもいいのにと思ってました。
でも、漫画を描きながら、
いろんな仕事をやってたからね。
お金は、まあ、そっちでもらえればいいのかなあと。
──
たしか、ダスキンさんとかにお勤めでしたよね。
蛭子
そうそう。あとは、チリ紙交換とか。
──
あ、チリ紙交換もやってらっしゃったんですか。
蛭子
チリ紙交換は、よかったですよ。

自分の思いどおりに動けて、
お金もけっこう入ってきて。
雨が降ったら、うれしいんですよ。
──
うれしい?
蛭子
そう、重たくなるから。

新聞の重さで、もらえるお金がちがったんですよ。
わざと濡らしていく人もいたくらい。
──
あれ、看板屋さんだったのは……。
蛭子
その前かな。高校のあとだから。
──
グラフィックデザイナーになりたかったんですよね。
蛭子
横尾忠則さんにあこがれていたんです。

でも、高校の先生から「ここはどうだ」って
紹介されたのが、看板屋さんだったんです。
──
そうやって最終的に
漫画家としてデビューされるわけですが、
でも漫画家の道こそ、
お金になりにくいんじゃないかと思うんですけど。
蛭子
もともとは映画監督になりたくて
シナリオセンターに通ってたんです。

でも、友だちができなくて、ひとりも。
映画というのは、
みんなで協力しあってつくるものじゃないですか。
だから、友だちがいなくても、
ひとりでもできる漫画家になろうかなと思ったんです。
──
テレビには、
どういった経緯で出るようになったんですか。
蛭子
柄本明さん。柄本さんが、ご自身の劇団の
「東京乾電池」のポスターを描いてよって。

それで、芝居にも出たんです。それがきっかけ。
ぼくの漫画を読んでくれていたみたい。
──
じゃあ、その延長上に
『いつも誰かに恋してるッ』の
「宮沢りえさんのお父さん役」があるんですか。
蛭子
テレビはギャラがいいから、うれしかったんですよ。
──
でも、いきなり「宮沢りえさんのお父さん役です」
というオファーが来て、
よくお引き受けになりましたね。
蛭子
オレにはできないと思ったんですけど、
仕事が来たうれしさのほう大きくて。

やっぱり、お金がなかったから。
とにかく「100円でも多いほうがいい」と思って
生きてきたんですよ。
──
ドラマなんか出たら一気に有名人ですよね。

それで「父親にしたい有名人」の第1位に
選ばれたりとか。
蛭子
でも、そのあと熱湯コマーシャルに出るようになって
「父親にしたくない有名人の第1位」になりました。
──
極端だなあ(笑)。

テレビのおかげで、
漫画もたくさん売れたんじゃないですか。
蛭子
いやあ、テレビに出はじめたら、
一気に漫画が売れなくなったって。

包丁振り回したりするグロい漫画の作者が
こんなおじさんだったから
「えっ?」と思われて、
ぜんぜん売れなくなったって。
出版社の人が言ってました。
──
蛭子さんの感覚として
「お金をもらううれしさ」って、
どういう感じでしょう。

たとえば、おいしいものが食べられるとか……
ただ「お金を眺めている」だけじゃ、
別におもしろくもないじゃないですか。
蛭子
眺めとくだけで、おもしろいですよ。
うれしいです。

お金をもらったときの「1枚、2枚」って
数えていくときが、本当にうれしいんですよ。
──
お金というものじたいがお好きなんですね。
蛭子
お金じたいが好きだと思う。
──
じゃあ、これからのキャッシュレス社会とか、
さみしいですね。
スマホで「ピッ」で、お買い物できちゃうという。
蛭子
あ、何とかペイのね。俺、正直苦手かも。
──
お金を貯めるのも好きなんですか。
蛭子
いやあ、貯金はあんまりないんですよ。

そんなに物も買わないんですけど……この腕時計も、
ダスキンを辞めるときに
退職祝いでもらったのを、もう40年以上してるし。
──
すごい物持ちの良さ! 
じゃあ、何にお金を使ってるんですか。
蛭子
食べ物か、旅行か、競艇かな。

でも、競艇には遊びで行ってるんじゃないんです。
あれは、お金を増やしに行ってるんです。
──
つまり、ボートも「仕事」であると。
来た仕事ではないけど、みずからに課した仕事。
蛭子
そうですね。結果的にお金は減ってるんだけど。
──
あ、減っちゃってる。そうですか(笑)。

では、本日のお話をまとめますと、
つまり「死なないために重要」ということなんですね。
蛭子さんにとって、お金とは。
蛭子
そうですね。
ポケットにいくらか入ってないと不安になるし、
入っていれば安心ですから。

死なないように生きるのが、ぼくの目標なんです。
──
お金のためにはたらいて、何がおかしいと。
蛭子
ぜんぜんおかしくないですよ。
【2020年3月25日 渋谷区宇田川町にて】

このコンテンツは、
ほんとうは‥‥‥‥。

今回の展覧会のメインの展示となる
「33の悩み、33の答え。」
は、「答え」の「エッセンス」を抽出し、
会場(PARCO MUSEUM TOKYO)の
壁や床を埋め尽くすように
展示しようと思っていました。
(画像は、途中段階のデザインです)

照明もちょっと薄暗くして、
33の悩みと答えでいっぱいの森の中を
自由に歩きまわったり、
どっちだろうって
さまよったりしていただいたあと、
最後は、
明るい光に満ちた「森の外」へ出ていく、
そんな空間をつくろうと思ってました。

そして、このページでお読みいただいた
インタビュー全文を、
展覧会の公式図録に掲載しようか‥‥と。
PARCO MUSEUM TOKYOでの開催は
中止とはなりましたが、
展覧会の公式図録は、現在、製作中です。

書籍なので一般の書店にも流通しますが、
ほぼ日ストアでは、
特別なケースに入った「特別版」を
限定受注販売いたします。
8月上旬の出荷で、
ただいま、こちらのページ
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和田ラヂヲ先生による描きおろし
「はたらく4コマ漫画」も収録してます!
どうぞ、おたのしみに。