33の悩み、33の答え。

読者から寄せられた
数百の悩みや疑問から「33」を選びました。
そして、それらの悩みや疑問に、
33人の「はたらく人」が答えてくれました。
6月9日(火)から
毎日ひとりずつ、答えをアップしていきます。

Q032

なやみ

はたらくとは、何でしょうか。

(23歳・大学生)

はたらくとは、何でしょうか。幸福を求める手段ですか? 現在、就活生です。周囲には、はたらきたくない人もいれば、はたらきたい人もいます。「はたらく」を通して、誰かに何かをしてあげている人もいれば、ただただ「ライスワーク」をするだけの人もいます。結局、わたしは「はたらく」という言葉を、どう使えばいいのでしょうか?

こたえ

よろこぶことと、
よろこばれることの重なる場所で、
ぼくは、はたらきたいです。

こたえた人糸井重里(ほぼ日刊イトイ新聞)

──
かなり「大きな」質問なのですが。
糸井
うん。やっぱり「よろこぶこと」と
「よろこばれること」の重なる場所にいたいなあと
思うんです。ぼく自身はね。
──
ああ、なるほど。
糸井
つまり「ギャングだって、はたらいている」
わけじゃないですか。極端に言えば。
──
そうですね、一生懸命に‥‥
文字通り生命のかかった「仕事」も
ありそうですし(笑)。
糸井
おじいさんやおばあさんから
「オレオレ詐欺」でお金を引き出してる人も
「はたらいている」んだと思うんですよ。
──
ええ、本人としては。
糸井
それらしいパンフレットをつくったり、
まめに電話をかけたりして。

でも、
その「仕事」が「人のよろこびを奪う」から、
ぼくらはそれを
「はたらく」って認めたくないんです。
──
そうですね。
糸井
世の中のほとんどの仕事は
「まちがってない」んだけど、
なかには、そうやって
「まちがってる」と言わざるを得ない
「はたらく」がある。

はたらくって何ですか、と聞かれたとき、
そのあたりに、
ひとつのヒントがあるんじゃないかなあ。
──
ええと、つまり‥‥。
糸井
人の自由を奪ったり、
人の生命をおびやかしたり‥‥
というのは論外だけど、
きっと
「人が人であることを邪魔する」ような「仕事」も、
ことによっては
「よろこべない仕事」として、
どこかで成り立っているかもしれないですよね。
──
はい。
糸井
かと思えば、子どもたちから
「嫌だ、痛い痛いキライ」って言われる
歯医者さんは、実際には、
たくさんの人から「よろこばれている」わけです。

他方で、誰かを脅してお金を巻き上げている人は、
同じように「嫌だ、キライ」と思われていて、
かつ、誰からもよろこばれていない。
──
そう考えると、いろいろ複雑‥‥。
糸井
つまり、あらゆる職業は平等だ、
どんな仕事も蔑まれてはいけないって言うけど、
そこの「基準」には、
生きてる人の数だけ微妙なちがいあるんですよ。
──
なるほど。
糸井
その上で、ぼくは、できれば
「人によろこんでもらえるような仕事がしたい」
と思って、
はたらいてきたんだと思います。

人がよろこんでくれることで、自分もよろこぶ。
その往復運動で成り立つような仕事がしたい。
そんなふうに、やってきたんだと思うんです。
──
「はたらく」とは、
「よろこぶ」と「よろこばれる」の重なるところに
あるもの。
糸井
同時に、人がよろこぶことを考えたり、
思いついたりする人が
「成功」するんだとも思ってます。

とくにチームではたらくにあたっては、
そこを鍛えていく必要がある。
うちの会社にあてはめて考えても、
やっぱり、重要なところはそこじゃないですか。
──
糸井さんは、いつくらいから、
いまみたいな考えを持っていたんですか。
糸井
以前は「ぜんぶ、いいんだ」って思おうとしてた。
「泥棒」まで含めて。
──
泥棒。あ、吉本(隆明)さん、ですか。
糸井
実際には、吉本さんが人に言われた言葉なんだよね。

若いころ、失業中かなんかに、
母校の東工大で、
どこかいい就職口はないかみたいなことを、
しゃべっていたら‥‥。
──
ええ。
糸井
教授だか助手だか、
そのへんにいた知り合いの大人に
「食べられなかったら、
人のものを盗って食ったっていいんだぜ」
と言われたらしい。

若き吉本さんは、
その言葉に「ハッとした」んだって。
──
吉本さんと糸井さんの共著
『悪人正機』の冒頭に出てくるお話ですよね。
糸井
食えなければ泥棒したっていいんだよ‥‥ってさ、
もちろん「泥棒は悪い」んだけど、
そう簡単に決めちゃうことにくらべて、
ずいぶん「人間が生きる」ということ全体への
「敬意」があると思うんだ。

たぶん、吉本さんも、
そんなふうに感じたんじゃないかなあ。
──
それで「ハッ!」とされたんですね。
糸井
生きるために、食うために、
「あっちで余ってるものを、こっちへ持ってくる」
というか‥‥。

決して肯定はできないんだけど、
「ギリギリのところで生きていくって、
そういうことだよ」と言われたら
「そうかもしれない」とも思うし。
──
そうですね、はい。
糸井
それまでぼくは
「泥棒は、いけません」ということを
簡単に決めすぎていたなあ、と。

これ、言いかたが難しくて、
もちろん「泥棒」はダメだよ。
でも、あらゆる「ルール」とは、
時代時代の状況に合わせたものでしかない
とも言えるわけで。
──
未来永劫、絶対とは言い切れないもの。
糸井
うん、どんな時代、どんな状況においても
「絶対に、絶対!」なことなんかないって、
そういうふうにも取れる。

で、ぼくは、その考えそのものについては
「うん、そうだよ」と、いまでも思ってます。
──
「絶対に、絶対!」と決めた途端に
「自分の頭で考えない」ことになりますね。
糸井
だから、人って「なりたい自分に、なる」んだよね。
──
なりたい自分に、なる‥‥。
糸井
あんなふうに生きたい‥‥と思っている人のように、
人は、なっていく。

つまり
「泥棒してうまいことやって、がっぽりもうけて、
左団扇で‥‥」という人物に憧れていたら、
そういう人になるんじゃないかな。
なろうとする‥‥というか。
──
どういう自分になるかは、
みんな自分で決めている、と。
糸井
反対に「泥棒になんか絶対になりたくない」
と思っている人は、きっと、
本当に困っても人のものを盗らないんだろうね。

そこには、
その人の経験とか環境とか価値観とかが
関係している。そういう、
たくさんのタテ糸・ヨコ糸が織りなされた結果、
「その人」は、いまそこにいるわけでしょ。
──
はい。
糸井
だから一概には言えないんだけど、
できれば「よろこぶこと」と「よろこばれること」が
重なるところに
「自分の仕事があるといいなあ」って。

で、それはきっと
多くの人が思っていることじゃないかなあ。
ぼくだけじゃなくてね。
──
よろこぶことと、よろこばれること。

その「重なり」のかたちも、
時代によって変わっていくんでしょうね。
糸井
そのことを、考え続けるんだと思います。

いま、
真夏の炎天下で道路工事をしている人のなかに、
外国の方が混じっていますよね。
──
はい。ほんの何年か前でも、
いまほど見なかった気がします。
糸井
社会を成り立たせるために必要で、
みんなの役にも立っているけど、
「なり手」のいなくなっている仕事。

それを、海外から‥‥多くは海外の貧しい国から
お金を稼ぎにきている人たちが、
どんどん担うようになってるんですよね。
──
はい。
糸井
で、そういう「人の嫌がる仕事」って、
他よりお金が稼げるようになっていかなければ、
この先「なり手」がいなくなっちゃうと思うんだ。
──
ああ、そうですね。たしかに。
糸井
でも、そういう「人の嫌がる仕事」に
高い給料を払えるようになってはじめて、
本当の意味で
「生産性の高い社会」が実現したと
言えるんじゃないかな。

そういう未来を想像してはたらきたいなと、
ぼく自身は思ってます。
──
人の嫌がる仕事に、
多くのお金を払うことのできる社会。
糸井
それは「ありうる未来」だと思うし、
一部では、はじまっているとも思います。

最新のコンピュータを駆使して、
すごい仕事をする頭のいい人の価値って、
認められやすいじゃないですか。
──
ええ。
糸井
でも、同じように
「誰でもできるんだけど、誰もやりたくない仕事をする人」
の価値を認められる社会こそ、
本当の「豊かな社会」だって気がするなあ。
──
なるほど。
糸井
そんなことを考えながら、
ぼくはいま、「はたらいて」ますけどね。

こんなことでいいかな?
【2020年4月2日 外苑前にて】

このコンテンツは、
ほんとうは‥‥‥‥。

今回の展覧会のメインの展示となる
「33の悩み、33の答え。」
は、「答え」の「エッセンス」を抽出し、
会場(PARCO MUSEUM TOKYO)の
壁や床を埋め尽くすように
展示しようと思っていました。
(画像は、途中段階のデザインです)

照明もちょっと薄暗くして、
33の悩みと答えでいっぱいの森の中を
自由に歩きまわったり、
どっちだろうって
さまよったりしていただいたあと、
最後は、
明るい光に満ちた「森の外」へ出ていく、
そんな空間をつくろうと思ってました。

そして、このページでお読みいただいた
インタビュー全文を、
展覧会の公式図録に掲載しようか‥‥と。
PARCO MUSEUM TOKYOでの開催は
中止とはなりましたが、
展覧会の公式図録は、現在、製作中です。

書籍なので一般の書店にも流通しますが、
ほぼ日ストアでは、
特別なケースに入った「特別版」を
限定受注販売いたします。
8月上旬の出荷で、
ただいま、こちらのページ
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和田ラヂヲ先生による描きおろし
「はたらく4コマ漫画」も収録してます!
どうぞ、おたのしみに。