HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

フタバスズキリュウ研究の第一人者、恐竜博士のたまきちゃん。

ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.2 ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.2

ある分野を深く、深く研究する人がいます。
その人たちは「研究者」と呼ばれ、
おどろくべき知識量と、なみはずれた集中力と、
こどものような好奇心をもって、
現実と想像の世界を自由に行き来します。
流行にまどわされず、批判をおそれず、
毎日たくさんのことを考えつづける研究者たち。
ほぼ日サイエンスフェローの早野龍五は、
そんな研究者たちのことを敬意をこめて
「オタクですよ(笑)」といいます。
世界中のユニークな研究者と早野の対談から、
そのマニアックで突きぬけた世界を、
たっぷり、じっくりご紹介していきます。

佐藤たまき先生ってどんな人?

第3回 恐竜少女が「恐竜博士」
になるまで。

早野

先生がお生まれになったとき、
日本にはフタバスズキリュウどころか、
恐竜の研究者すら、
ほとんどいなかったわけですよね。

佐藤

そうですね、はい。

早野

そういう状況で、
なぜ古生物学者になろうと思ったんですか。

佐藤

子どものときから、
ずっと恐竜が好きだったんです。
もうそれだけで、
ここまで来たって感じなんです。

早野

恐竜好きになったきっかけは?

佐藤

ふつうの子といっしょで、
たぶん図鑑を見たんだと思います。
私、幼稚園のときから
「将来は恐竜博士になる!」って、
まわりに宣言してたみたいです。

乗組員A

え、幼稚園で!

早野

その決意がゆらぐことは?

佐藤

一度もなかったです。

乗組員A

ひゃー、すごい‥‥。

早野

ただ、当時の日本に、
恐竜を勉強できるところって
なかったわけですよね。

佐藤

なかったですね。

早野

そういう状況で
東京大学に入られてますが、
学部はどちらですか。

佐藤

理学部の「地学科」です。
地学科の中に「地質鉱物」と「地理」があって、
私は「地質鉱物」に進みました。

早野

なぜそこを?

佐藤

理学部に入った理由は、
古生物学は理系の学問で
「理学部の地学の人がやる」
ということは知っていたので、
それで理学部を目指しました。

でも、実際に東大に入ってみると、
たしかに地学科に古生物を
研究する先生はいらっしゃいましたが、
恐竜のような「脊椎動物化石」を
研究されてる方はいなかったんです。
そのことは大学に入ってから知りました。

早野

あ、入ってから‥‥。

佐藤

はい。それで東大の先生に相談したら、
国内だと恐竜研究は難しいから
「外国で勉強しなさい」といわれて、
それで大学院の修士過程で
オハイオ州にあるシンシナティ大学に
留学することにしたんです。

早野

なぜその大学に?

佐藤

首長竜というのは「鰭竜類(きりゅうるい)」
というグループなんですが、
その大学のある町の市立博物館に、
鰭竜類を研究する先生がいたからです。

早野

ということは、
そのときすでに首長竜に興味があった?
恐竜じゃなくて?

佐藤

学部の卒業論文のときに、
東大でずっと眠ったままの
北海道の首長竜の標本を研究したんです。

ちょうど卒論をどうしようというときに、
先生から「恐竜はないけど、
東大に首長竜の標本ならあるよ」といわれて、
「じゃあ、首長竜でいいです」って(笑)。

早野

あぁ、なるほど。
その卒論の続きを留学先でやろうと。

佐藤

そのとおりです。
もっとちゃんと研究したくて、
その標本を持ってアメリカに留学しました。

早野

修士はアメリカですが、
博士はまた別のところみたいですね。

佐藤

博士課程はカナダのカルガリー大学です。
カルガリーからちょっと離れたところに、
「ロイヤル・ティレル古生物学博物館」という、
恐竜で有名な博物館があります。
そこに海棲爬虫類を研究する
有名な研究者がいて、
その方のところで研究しました。

早野

そこでも首長竜の研究を?

佐藤

はい。カナダの首長竜です。
製本したものがどこかに‥‥。
あぁ、ありました、これです。

早野

これはまた分厚い本ですね。
ちょっと拝見いたします。

乗組員A

先生、ひとつ質問してもいいですか。

佐藤

はい。

乗組員A

先生がおっしゃる
「化石を研究してました」の「研究」とは、
具体的にはどういう作業なんでしょうか。
どうもイメージがわかなくて‥‥。

佐藤

あぁ、そうですよね。
私の主な仕事は「分類」や「記載」と
呼ばれるものです。

例えば、ある地層から
首長竜の化石が出てきたとしたら、
全身がほぼそろった大物もいれば、
それこそ背骨が1個だけだったり、
いろんなパターンがあります。
なので、まずは見つかった化石を、
とにかく「みる」ことからはじめます。

乗組員A

「みる」というのは、つまり‥‥。

佐藤

観察ですね。化石をとにかく観察する。
もし全身がそろっているなら、
骨の形をひとつずつ調べながら
「ここの骨がこういう形なので新種です」とか
「どこどこで見つかった〇〇と同種です」とか、
そういうのを分類して、
ひたすら記載していきます。

乗組員A

じゃあ「これは新種かも」というときは、
いままで発見された化石と比較して、
どれにも当てはまらないことを証明して‥‥
という流れでしょうか?

佐藤

基本的にはそうですね。
これまでのものと比べて、
学術的にどういう化石かを
示すことが仕事になります。

早野

ここのページを見ると、
標本となる骨の特徴を
ひとつひとつチェックされてますね。

佐藤

ここでは
「〇〇骨に前方突起がある、ない」とか
「△△骨に穴がある、ない」とか、
200個以上の特徴をすべてあらいだして、
どれとどれが近い種になるのか、
みたいなことをデータで示しています。

乗組員A

すごい数のチェック項目ですね。

乗組員B

なんという途方もない作業を‥‥。

早野

じゃあ、フタバスズキリュウとの出会いは、
この研究のあとですか?

佐藤

フタバスズキリュウの研究に
関わるようになったのが
2003年の2月からなので、
この論文を出してすぐだったと思います。

早野

そもそも30年以上前に
見つかったフタバスズキリュウを、
なぜ先生が研究することに
なったんでしょうか?

佐藤

それはお誘いをいただいたからです。

早野

お誘いがあった? それはどこから?

(つづきます)

佐藤たまき先生の著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』、好評発売中です。 佐藤たまき先生の著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』、好評発売中です。
幼稚園に通うころから
「将来は恐竜博士になる」と宣言していた
佐藤たまき先生。
著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』には、
恐竜で遊んでいた子供時代のエピソードから、
フタバスズキリュウの
名付け親になるまでの奮闘の日々が、
素直なことばで綴られています。

決して平坦ではない
フタバスズキリュウの記載論文への道。
それでも佐藤先生は、
自分の「好き」を見失うことなく、
まわりへの感謝を忘れることなく、
たくさんの困難を乗り越えていきます。
恐竜好きの人はもちろんですが、
なにかの夢に向かって努力し続ける人にも、
ぜひおすすめしたい一冊です。

さらに、もうひとつ。
本対談で使用した恐竜のイラストは、
この本のカバー装画と挿絵を担当された
動物画家のかわさきしゅんいち先生から、
特別にお借りしたものです。
緻密な描写でありながら、
ちょっと愛嬌のあるかわさき先生のイラストにも、
ぜひ注目してみてくださいね。

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フタバスズキリュウ
もうひとつの物語

著者 佐藤たまき
絵  かわさきしゅんいち
出版 ブックマン社
定価 1700 円(税別)